第六話
「今日はもう暗いし、解散しようか」
なんの罪もないはずの人夢を吹っ飛ばした彼方はそういうと変身を解いた。
「ちょっと待ってくれ!!あの怪物は何なんだ!そんでもって二人のあの姿。どういうことなんだよ。」
「野上くん、ごめん。ものすごく勝手だと思うけど、今日あったこと誰にも言わないでほしいの。私は野上くんのこと信頼してるから、言いふらしたりするとは思わないけど一様お願いしておくね。」
彼方は細い道に向かってもと来た方へと歩き出した。
「赤崎さん。つまり、このことは無関係の人間に話しちゃいけないことってわけだよな。」
「まあ、そうね。私達は今まで誰にも気づかれることなくやってたからね。今回いざ他の人にばれてどう対応していいのか分からないってところかな」
背後の二人の会話を聞いて彼方は立ち止まった。
「野上くん。明日の放課後、陽菜の家に来て。そこで話せるところまで話すから。」
「ちょっと!!なんで私の家なの!?」
「私のお父さんが家に男の子を入れるのを承知するとは思えないからね。しょうがないでしょ。」
「私だって、男の子部屋に入れたことないのに!!」
「陽菜の親御さん平日は遅くまで帰ってこないんでしょ?ならそれでいいじゃない。」
ピーピー文句を言う陽菜を無視して彼方は人夢の手を両手でとり目を見つめる。
「だから、今日はもやもやすると思うけど我慢してね」
「今ここじゃできないのか?」
人夢はすでに諦めのトーンで彼方に問いかける。
「そう、今私達には時間がないの。陽菜、すぐに準備して、仕事に行くよ」
彼方は陽菜の手をを引っ張って歩いて行く。
人夢は自分のもとから離れていく二人を思わず呼び止める。
「行くってどこに!?」
彼方が一度も人夢のほうを振り返らずに答える。
「そうね、街の安全パトロールってところよ。じゃ、また明日ね」
そういうと二人は帰り道を歩き出した。
人夢はそこで追いかけることができなかった。いや追いかける気にもなれなかった。もしかしたら今から彼女たちは今から危険な場所に行くかもしれない。でもそれならなおさら。
「俺が行っても邪魔にしかならないし俺が二人の秘密を知ってしまったのも変な気がかりを与えてしまってる。くそっ。ほんと何やってんだよ俺は」
その後二人と同じ道で駅前に出たが、すでに二人の姿はどこにもなかった。昼食をとってなかった人夢のお腹はぐーっと音を鳴らした。帰りにコンビニでおにぎりを買い、家に帰る途中でかぶりついた。頭の中は依然としてもやもやしたままだ。
家に着いた人夢は手に持っていた紙袋から二体のフィギュアをとりだす。一つは自分が悩んだ末に購入したジャクティスのフィギュア。そして一つは陽菜が置いていったカミルンのフィギュアだ。箱の外からカミルンのフィギュアをぼんやりとながめる、服の色合い、持っていた剣、髪の色まで変身した陽菜にそっくりだ。
人夢はそのフィギュアを紙袋にしまって、ジャクティスの方を開封する。初代ジャクティスを机の下から取り出して机に並べた。昔の製品で古びていて、新しいものと比べてみるとその差は歴然だ。しかし人夢にとっては両方とも憧れの存在で、
「自分の趣味に嘘をつくな...か」
やはりどうしてもすぐに陽菜のことを考えてしまう。
「そういえば明日の放課後、赤崎さんの家か」
普通なら飛び跳ねてその嬉しさに思わずシャドーボクシングを始めてもおかしくないが、そんな気分にはなれなかった。
何をする気分にもなれない人夢はそのままベッドに倒れこんだ。眩しいくらいに部屋の明かりがさす。
しかし人夢の目はゆっくりと閉じてきて、やがてすうすうと寝息をし始めた。
そして、ごにょごにょと呟いた。
「助けに...いかないと」
人夢と別れた後、駅の裏側の森林に入り込んだ二人は姿をかえ、時空の穴の痕跡を探していた。明らかにブゼリアンの足跡だと思われるものを足で消していきながら、奥へと進んでいく。
「やばい、カミルンのフィギュアを何にも言わず置いてきちゃった。悪いことしたなあ。」
「そんなの明日にでも返してもらえばいいじゃない。」
「彼方。そんなに急がないといけないの?もうブゼリアンが向こうからやってくるほどの穴はないと思うけど」
「それが、一瞬大量のブゼリアンの反応があったんだよ。穴の近くに群がるように。」
「でも、ブゼリアンはその一部しか世界をまたぐことができないんでしょ?ただ壁にはじかれることなくここに来れたのがその二体だったってことじゃないの?」
「いや、完全に消失してたの。おそらく何者かが穴に集まっていたブゼリアン達を一掃した。」
自分たち他にそんなことができそうな存在として思い当たるのは一人。
「この前の赤い髪の男の子がやったってことかな」
「その可能性が高いとみてる。もしそうなら事情をききたいしね。それに密集していたってことはそこにあいつらの巣がある。一気に片付けるチャンス。」
赤い髪の男の子。突如として現れた謎の存在。自分達と同じようにブゼリアンに対抗できる力を持っている少年。その謎に迫るチャンスかもしれない。
「てかあの男の子の話になるとなんかにやついてない?ひょっとして恋でもしちゃった?」
にやつく陽菜のほっぺをつねる。
「ふぇ!別にそんなんじゃないけど気になるのよ!」
「現実にあんなに思ってくれてる人がいるっていうのに。もう...あっ!」
彼方は陽菜の肩を叩く。
「あったよ陽菜。もうかなり小さくなってるけど行かざるを得ないね」
「またあの世界に行きっぱなしの可能性があるってことだよね。彼方、私ヒーローショーに夢中で昼食取ってないんだ。もつかなぁ」
彼方はため息をつくとポーチからかんぱんと水を取り出した。
「まだ余分にあるし、今食べてもいいよ。それとここにチョコレートもある。どうせかんぱんなんて味気ないとかいうかもと思ってね。さ、とっとと食べて早く行くよ。」




