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人は誰もが夢を見る  作者: 輝木吉人
二人の主人公
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第五話

「後ろ後ろ!!」

恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながらもじもじする陽菜の後ろに黒い影が襲う。人夢の叫びを聞いて陽菜は即座に横に側転し、攻撃を避ける。攻撃を外したブゼリアンが体制を立て直す前に陽菜はすかさず回し蹴りを決める。ブゼリアンは大きく転がって壁にぶち当たる。


(赤崎さんが今蹴り飛ばしたのは、古くなっていたとはいえあの廃墟の壁をぶち抜くほどの力の怪物だぞ?)

得体の知れない人間離れした怪物をさっきまで怯えていたことが不思議に思うほど、陽菜はいとも簡単に吹っ飛ばしたのだ。女の子の細い華奢な足で。


「野上くん、話は後!!今はとにかく私の後ろに隠れてて!」


陽菜は剣を時空の壁から取り出して正面に構える。

「やっぱり完全にカミルンみたいな動き、赤崎さんは一体...」

人夢にはもう恐怖はなかった。それよりも今の陽菜の姿への疑問があふれる。容姿が完全に陽菜とカミルンを足して割ったような姿をしている。さっきまでヒーローショーを見ていたため間違いない。


「はあぁぁ!!!!」


陽菜の叫び声と共に剣がピカッと光ったかと思うと、一気に黒い影の真ん中から縦に真っ赤な血が噴き出る。体を真っ二つに引き裂かれて、巨体から「ぐがぁぁぁぁ!!!!」という叫び声聞こえる。陽菜はその切れ目からの返り血を1ステップでかわし、光り輝いた剣を時空の穴に消滅させた。その一連があまりにも早く、陽菜は苦戦はおろか汗一つかいてないくらいの作業のように片付けた。


「ほんとにいつまで湧いてくるのよ。本格的に捜査の必要ありね....さて。」


陽菜は変身を解いて首だけを後ろに回してジト目で座り込む人夢を見つめる。人夢はぼんやりと陽菜を見つめていた。


「見た、わよね....?」

「え!!?あ、うん。そのよくわかんないけど。」

「まあ無事でなにより。もうさっき公園で待っててって言ったのに。よりにもよってなんでこんないかにも化け物が出てきそうなところに?」

「鬼崎達が駅前の公園にいたんだよ。学校でのいざこざもあったしさすがにフィギュア持って見つかるのはまずいかなって。」

人夢は立ち上がって、さっきまで自分が逃げ込んでいた廃墟の上を見る。今にも崩れそうなその場所は、かなりの高度があり、まさかあんなところから落ちたなんて信じられなかった。陽菜にキャッチしてもらえなかったら、頭をかち割って死んでいただろう。

「その、とりあえずありがとう赤崎さん。俺何もできなかった。」

「気にしないで。泡吹かずに倒れなかっただけ褒めてあげるよ。」


そこに霧ヶ峰彼方がやってきた。

「おーい。陽菜大丈夫?ってあれ?野上くん。」

「ごめん!!やっちゃった!!」

レーダーの反応が消滅した場所を特定して駆けつけた彼方に陽菜は手を合わせて頭を下げる。

「まさか逃がしたの?」


彼方は人夢に聞こえないように耳打ちでささやいた。


「違うのよ。魔法少女としてやっちゃいけないことをしちゃったのよ!」

「ばか!そんな大きい声だしたら聞こえちゃうでしょ」

陽菜は彼方が口を塞ごうとするするのを払いのけて人夢を指さす。

「野上くんにばれたのよ!変身状態の私を見られたの!!」


彼方がチラリと人夢に目をやると、こくりとうなずいた。


「ばか陽菜!!あれだけロストサイトで姿を隠すように言ってたのは陽菜でしょ!?」

「私、確かに姿を隠してたはずなんだよ。ここに来る前も駅を走り回ってたし野上くん以外にはばれてなんだけど...」

「そんなわけないでしょ。野上くん今から10数えるまで後ろ向いてて絶対にそれまでに振り向いちゃだめだからね。」

彼方は二人から少し離れて人夢に向かって命令した

「え?一体何を..」

「絶対にダメ。だからね?」

人夢はびくびくしながら後ろを向く。


「変身」


彼方の短い声が聞こえたと思った瞬間背後が少し光ったように感じた。

(まさか?霧ヶ峰さんまであの姿に。)


「陽菜。見てなさい師匠に教わったこの技は完璧なんだから。自分の失敗を魔法のせいにしないの。ほら、こんなことしてもばれないばれない。」

彼方はそういって変身した状態でスカートをめくりあげる。

「ちょっと彼方!!野上くんは本当に見えるんだって!!そんな破廉恥なところを見られてもいいの!!?」

「いいから見てなさい。ほらっもうすぐ10秒たつ。」


「もう振り返ってもいい?」

人夢は一様確認をとる。


「彼方。もう知らないよ、野上くんにそんな格好見られても。」

「いいよ。ほら、私は声すら届かないから早く振り向くように言ってよ。ほれほれ。」

彼方は自分の姿が見えないのをいいことに男子の後ろで好き勝手やっている。


「野上くん。振り向いていいよ。」

全く信用しようとしない彼方に少し頭にきた陽菜は冷たく言い放つ。


人夢が振り返るとそこには、クラスの人気者スタイル抜群で人気の美少女が魔法少女姿でスカートの裾を捲り上げて手を振っていた。


思春期真っ只中の人夢には刺激が強すぎた。

「あ、あ、あの。霧ヶ峰さん??これはどういう?」

目のやり場に困った人夢は陽菜の方を見るとやれやれと首を振っていた。

明らかに顔を赤くして動揺している人夢を見て、彼方は恐る恐る口を開ける。

「野上くん、私の声聞こえてる?」

「え?...き...聞こえてます。」

「野上くん、私のこと見えてる?」

「み...見えてます。」

彼方の顔色が青くなる。


しばらくの沈黙の後、彼方の甲高い声と共に人夢は宙をまった。いつかの放課後よりも高く。



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