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人は誰もが夢を見る  作者: 輝木吉人
二人の主人公
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第四話

人夢は転がるように謎の生物との距離をとる。カミルンのフィギュアもジャクティスのフィギュアも地面に放り出す。


その謎の生物はベンチをたたき割った。あんなの食らえば骨折どころではないだろう。


「くそっ!とにかく逃げないと!」


すぐに後ろの廃墟へと駆け込む。さっき目に留まっていた崩落注意の看板なんて気にしている暇はなかった。昔よく使っていた侵入口にかけられていた布をはらって、その中に逃げ込む。昔は建物として機能しており、よく子供の時にたむろしていたが今はとてもそんな状態ではなかった。野良猫が住み着き、何かがくさったような異臭がしている。人の手が届かず今も放置されているのだろう。

この土地は電車の騒音がひどく買い手が見つからないのだろう。


「あれ?ここにあった階段は...嘘だろ。完全に崩壊してる」


人夢もここに入ったのは遥か昔のことだ。そのため昔のものがそのまま残っているとはかぎらない。

入口を思いきり壊すように強引に入ってきたブゼリアンはキョロキョロと目を動かし、人夢の姿をとらえてべっとりと口からよだれのようなものを垂らす。


人夢はそれを見てダッシュで廃墟の奥に進む。


「この先に非常階段があったはず!」

以前の建物についていたであろう非常階段がなくなっていたり、壊れていた場合、出口を失って行き止まる可能性があるが、他に選択肢はない。


「ぐぎゃあああおお!!」

奇声をあげながらフラフラと色んなものを壊しながら追ってくる。


「まずい....そうだまず携帯で警察に!ってまじかよ!」


ポケットを探るが携帯はどこにもない。おそらくベンチのところで荷物をぶちまけた拍子に落としたのだろう。とにかく距離をとることしか今はできない。現実世界の人夢は無力なのだ。向こうの世界でなら一匹程度一撃で仕留めることができるが、この世界に戻って来てしまえばその存在は無知で非力な少年でしかない。

そもそもこの生物がブゼリアンという生物だとも知らない。噂の黒いUMAだという認識しかない人夢は記憶の中から色んな噂を思い出し、そのたびに変な汗がふきだす。いざこうして出くわしてしまえばどうせデマだと思っていたことも全く笑えない情報である。


蜘蛛の巣を払いのけてなんとか非常階段までたどり着く。かなり動き回ったがまだブゼリアンの姿が後ろに見える。人夢がかいくぐった障害物を、そいつはいとも簡単に力任せに押しのけて進んできているのだ。その手に着いた血はここに住み着いていた小動物のものだろうか。


ポタポタと赤い血が垂れている。


「はあはあ...やばい、ここから上に上がって身を隠そう。」


恐怖からか呼吸が大きく乱れて体力が削られていた人夢には、もうこれ以上逃げ回るスタミナは残っていなかった。コツコツと鉄の階段を駆け上がり、最上階のドアノブに手をかけるが、不幸にもカギがかかっていてびくともしない。


「やばい!やばいやばい!」


下からコツコツと音が聞こえてきて、焦りがとまらない。おそらくここにたどり着くまで10秒もないだろう。

「はあはあ....よし。こうなったら屋上にでるしかないな。」



屋上。ひゅうひゅうと吹く風がより一層冷たく感じる。日も沈みかけ辺りは少し暗くなっていた。そこには隠れられるような場所も降りられそうな場所もない。降りるとすればまっすぐに地面に飛び降りるしか道はない。クッションになりそうな場所もなく完全に行き止まり状態へと突入してしまう。。


「嫌だ....死にたくない。こんなところでなんて...」


「ぐるるる。キシャシャシャ!!!」

人夢が恐れながらも振り向くとすぐそこには丸くて真っ赤な目があった。じりじりと迫ってくる怪物に成す術がない人夢は勇気を出して必死に殴り掛かる。


「こいつっ!!もう逃げねぇぞ!!!」


フルスイングで何かを殴ったのは何年ぶりだろうか。小さい時に友達と些細なことで喧嘩した時も本気では殴っていなかった。もしかしたらこれが、この一撃が生まれてから初めてだったかもしれない。初めてだったかもしれない。


しかしそんな貧弱な攻撃がブゼリアンに通用するはずがない。拳は確かに体のど真ん中に届いているがその巨体はピクリとも動かなかった。

人夢はフラフラと後退する。屋上の端まで下がって危うく落ちそうになる。殴った本人は拳がヒリヒリしてまだ痛みが残るのに対し、目の前の怪物は殴られたことにも気づいてないように見える。


正真正銘の怪物を前に人夢はまた硬直する。声も出ずただ魚のように口をパクパクさせて座り込んだ。

(またか、また俺は動けないのか。)


「クククク...シャシャシャシャァ!!!」

ブゼリアンはその無力な人間を見下ろして笑い始めた。

(助けてくれよジャクティス、助けてくれよ母さん、父さん)


もうその時には死にたくないという気持ちはなかった。ただ無力な自分を助けてほしいと思った。


ドスッ!!


人夢の体にブゼリアンの足がめり込む。上向きになり沈みかけた夕日が見えて、頭が真っ白になる。

(助けてくれよ坂上、助けてくれよ....)

完全に空中に投げ出されて頭から地面へと落ちていく。脳裏に笑顔の少女の姿が映る。

(赤崎さん)


もうだめだと思ったその時、ふわりと体が浮いたように感じた。そしてすぐに人に抱えられていることに気づく。その誰かにゆっくりと地面に寝かせられてぐらつく視界の中、その姿が、背中が映る。赤い髪に赤い服、フリフリのスカート。


「カミルン??いや、あれは...」


「やっと見つけた!さっさと始末してやるから降りてきなさい!!!」

ブゼリアンはドスンと地面に着地して突然現れた何かを不思議そうに見つめる。

人夢はその声を聞いて確信した。ゆっくりと体を起こして声をあげる。

「赤崎さん!!??」

「え!?ちょっと!!!嘘でしょ...なんで見えてるの?確かにロストサイトで姿を隠してたはずなのに!!」


陽菜は突然の呼びかけに驚いて、思わず人夢の方を振り向く。人夢と完全に目が合った。ということはやはり完全に姿が見えているということだ。陽菜はそのことに気づくと恥ずかしそうに少し自分のスカートを伸ばした。


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