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人は誰もが夢を見る  作者: 輝木吉人
二人の主人公
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第一話

人夢と彼方が二人で硬い握手をしている時、陽菜は鬼崎達と劇の構成やセリフの修正をしていた。


「ここで俺が登場して野上を華麗にぶん殴って、かっこよく吹っ飛ばすってのはどうだ?」

鬼崎が笑いながらセリフの行間に文字を書き足す。

「いいじゃん。」「どうせやるなら派手に飛ばそうぜ。」「やっぱりアクションシーンは本気でやらないとな。」


楽しそうに話し合っている鬼崎達を退屈そうに眺める視線。

「あの、私帰っていいかな。さっきから私抜きでどんどん決まってるし。」

「そういうなよ、赤崎。わかった、お前の意見も聞くよ。」

鬼崎は陽菜の元に赤ペンを転がし、陽菜はそれで原稿にペンを入れる。


「まず、野上くんへの攻撃はあくまでもやる振りにすること。鬼崎くんが殴ったら怪我するかもしれないでしょ。」


「大丈夫だ。ダンボール箱を積んでクッションを用意しとくから。これぐらいしないと悪役の恐ろしさが表現できない。」


鬼崎はペンでばつ印を打とうとする陽菜の手を止める。その手はそのまま陽菜の手を包み込む。


「はぁ、わかった。その代わりデモストレーションはそこにいるあんた達でやること。野上くんが怪我したら全責任をとるのよ。それが条件。」

陽菜は覆いかぶせてくるその手を払い除ける。


「今日はこれくらいでいいでしょ?文化祭まで時間はまだまだあるんだし、今詰めてやる必要はない。台本の編集とか、ちゃんとクラスのみんなに聞いてからするべきよ。」


陽菜が立ち上がって教室を出ようしたところで鬼崎は陽菜の手を取り微笑みかける。


「俺電車だから、途中まで一緒に帰ろうぜ。赤崎。なんかおごるぞ。」

「結構です。」

陽菜はすぐにその手を離して、振り向かずに教室の扉を閉めた。勢いよく閉めた音が教室に響く。

取り残された鬼崎はため息をついてしゃがみ込む。その鬼崎の姿を見て、取り巻きの一人が呟いた。


「お高くとまってるよな赤崎さん。鬼崎の誘いを断るなんて。」

「お前らなあ。赤崎の、俺が惚れた女に悪口を言うんじゃねぇよ。心配しなくても必ず口説いてみせるよ。」



















次の日の放課後、彼方との作戦通り、人夢はチケットを握りしめてぎこちない動きでゆっくりと陽菜の席に向かった。今日も坂上は習い事があるとかで先に帰ったため、からかわれることがないのは好都合だ。

いつも夜に襲ってくる急な眠気が来ることはなく、ただ遠足が楽しみな小学生のようにぱっちり目を開けてなかなか寝付けなかった。しかし、眠気に襲われてぐっすり眠っている時よりは目覚めは何倍もましだ。



人夢が来る前、彼方はヒーローショーの話を切り出した。

「陽菜、落選したショーの件だけどさぁ。」


彼方はそれとなく陽菜に話しかけと、悲しそうに筆記用具を片付け始めた。

「うぅ、彼方そのことには触れないでよ。私の小遣い消したんだんだから。」

「やっぱり大金かけてでも行きたかった?」

「行きたかったよ!もう二度とないかもしれないヒーローショー。私は志望校に落ちて、受験失敗した浪人生の気分だよ。そのくらいショックなのよ!」


そこそこの声量で嘆く陽菜に彼方も苦笑いを浮かべる。想定よりも遥かにダメージが大きかったようだ。

これなら、男子と二人きりだとしてもあのチケットにすがりつくに違いない。

陽菜が嫌なことを思い出してテンションガタ落ちになっているところに一人の生徒が近づいてきた。


「赤崎さん、その、カミルンとジャクティスのヒーローショー行きたかったの?」


陽菜は放課後の教室に残っていたその生徒に顔をあげる。野上人夢。最近度々彼方の話題に登場するクラスメイトの少年。彼方がいうに、あの世界の赤髪の少年と別人のようだ。それさえわかれば彼は一般生徒、普通に委員長としての赤崎陽菜としてせっすればいい。しかし、おそらくあの会話を普通に聞かれていたのだろう。


(やばい、私がカミルンが好きなのがばれた!?)


陽菜としては自分のクラスでの立ち位置上少女趣味を曝け出すのには抵抗がある。もう陽菜は真面目で頼りになるイメージが確立されてしまっているのだ。


「いや、その、妹が行きたがってて、、」

陽菜はその状況を打開するべく、冷静にそれっぽい理由を提示し始めた。


「陽菜妹いないじゃん。カミルンが好きなの隠したいからって嘘はダメだよ。」

今回の頼りになる協力者彼方は、いつもとは違って、そこですかさず突っ込みを入れる。

「ちょっと彼方!!内緒だって言ったじゃん!野上くん、私の趣味は絶対内緒だからね!」

陽菜は人夢の胸ぐらを両手で掴んで揺らす


「そんな心配しなくても大丈夫。野上くんはそんなの言いふらしたりなんかしないよ。ねっ?」

彼方は片目を閉じてウィンクして人夢に指示を出す。


その指示を受けて、人夢はゴクリと大きく唾を飲んでから財布からチケットを取り出す。

「もし良かったら、その本当に都合が合えばでいいんだけど、二枚チケットがあるから一緒に行ってくれない?ヒーローショー。」


陽菜は目をまん丸にして人夢が手にするチケットを観察する。


「間違いなく本物!なんで野上くんがこんな代物を?」

陽菜は人夢に詰め寄る。その様子は彼方が人夢にチケットを見せた時と同じ反応だ。それを見て彼方はクスッと笑う。


人夢は陽菜となかなか目を合わせられず、目線をちらちら移動させながら答える。

「俺、実はジャクティスが好きでファンクラブに入ってるんだけど、たまたま当たっただけだけど。一緒に行く人がいなくて……」


陽菜は頭を抱える。

「めちゃくちゃ行きたい…でも、私と野上くんの二人きり?……うーん。それに……私、やらなくちゃいけないことが……」

そこで彼方は陽菜の背中をポンと押す。


「今度の日曜でしょ?せっかくのチャンスだし、行ってきなよ。まぁ仕事は私に任せてさ。」

彼方は笑顔で言った。もし何かあればレーダーに反応が出るし、向こうの世界に干渉しようとしない限りは一人でも大丈夫だろう。


親友のその言葉を受けて陽菜は決意する。

「彼方………。うん、分かった。野上くんが良ければ、ヒーローショー連れてって欲しいな。」


人夢は陽菜のその言葉を聞いて、頭が一気にパンクしそうになった。

「ありがとう!じゃあ今度の日曜日、9時に…駅前で!」


人夢が教室を出ようとすると、入ってくる鬼崎にぶつかりそうになった。

「おっと、悪いな野上。」

「あ、ごめん鬼崎。」


人夢が振り返ると、鬼崎は陽菜に話しかけようとしているようだったため、気になって廊下で聞き耳を立てていた。


「赤崎、今度の日曜日にショッピングモールに行かない?何か奢ってやるぞ。日頃頑張ってる委員長にお礼がしたいんだよ。」

「そんなの必要ないよ。委員長の仕事は私が好きでやってることだから。それに、日曜日は野上くんと予定があるの。」

「野上?そんなやつとどっか行くより楽しいって。まさか、お前ら付き合ってるの?」

「いや、そんなんじゃないけど、先に約束してたんだし、行くのは当然でしょ?」

「俺と行こう赤崎さん。な?」

鬼崎は肩に手を回し、強引に陽菜に詰め寄る。

「ちょ、やめてよ。べたべた勝手にくっつかないでよ!」


人夢はその様子を廊下から眺めていた。

(霧ヶ峰さんは何で見てるだけなんだよ。赤崎さんにあんなことするやつがいたら真っ先に叩きつけるのに。)

彼方は陽菜が嫌がって鬼崎を突き飛ばしてる間も腕を組んで目を瞑っている。

(まさか、俺がここにいるのに気づいて……)


人夢はドアに手をかける。

「それ以上強引にするなら本当に容赦しないわよ!」

中から陽菜の声が聞こえてくるが、なかなか力が入らない。


自分は今鬼崎とは普通に話せる仲だが、もしここで出ていけば今まで通りとは行かないだろう。坂上のように敵視されて何をされるかわかったものではない。

しかし、人夢はドアを開けた。

「逃げるな。」

脳内に自分の声がよぎったのだ。












「野上、丁度いいところに来たな。悪いな。今度の日曜は俺が赤崎と出かける別に彼女ってわけじゃないんだし、いいよな?」

「駄目だ」

「はぁ?」

いつもへらへら愛想笑いの人夢とは別人のような即答に鬼崎は苛立ちを覚える。人夢は陽菜を背後に、続けて言う。


「先に約束したのは俺だし、何よりこれは赤崎さんが決めることだ!鬼崎が強制することじゃない!」

その言葉を聞いて、陽菜は後ろから人夢の腕を取る。


「この際だからはっきり言うけど、私、鬼崎くんには微塵も興味がないわ。それに今回野上くんを誘ったのは私」

陽菜のその真剣な目に鬼崎は圧倒少し圧倒される。文句をつけるのを躊躇わせる威圧。


「分かったよ、今回は野上と楽しんでこいよ。また誘うから、そんときは付き合ってくれよな。」

鬼崎は笑顔で二人の横を通り抜ける。人夢はくっついている陽菜の体にどぎまぎして、鬼崎なんてもう眼中になかった。


「俺、何と言われても...お前のこと諦めないから」

鬼崎は人夢を横目に陽菜の耳もとでささやいた。


出て行く鬼崎に彼方はベーッと舌を出して手でしっしっと追い払い、

密着した二人を見て、ニタニタ笑っていた。


そう陽菜も人夢も自分の咄嗟の行動に困惑して密着したまま顔を真っ赤にしたまま、しばらくその状態でポツンと立っていた。











我に帰った人夢は、陽菜のもとから離れる。陽菜の顔を見ると目線を下げたまま反応がなかった。


「ご、ごめん!出しゃばって!そ、その、楽しみにしてるから!」

人夢は逃げるように教室を出た。




人夢が出ていった後、彼方は陽菜の背中に抱き着いた。

「珍しいね。陽菜がデートの誘いを受けるなんて。まさか、ちょっと気があるとか?」

「違うから!カミルンのためだから!私、そんなに野上くんのこと知らないし。それに、彼方こそ最近野上くんの話が多いと思うけど、何かあったんじゃないの?」

陽菜は彼方をジーっと見つめる。



「いや!別に野上くんとの関係には友達ってこと以外何もないから!」

彼方は昨日の公園のあの恥ずかしい出来事を思い出し、少し微笑んだ。



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