第六話
彼方は自分の膝に寝ている陽菜の寝顔を我が子を見るように見つめていた。
「普段かっかしてないでこういう純粋な顔しておけばいいのに。」
うっとり笑顔の彼方の頭が揺れ始める。
「眠い、、、そろそろ交代してもらおうかな、、ふぁぁまぶたが重い。」
その時、ズシンズシンと森の方から重い音が聞こえてきた。かなり近い、うとうとしてしばらく音に気づかなかったようだ。
「巨大な生物が近づいて来てるのかも。陽菜起きて!!ねぇってば!」
彼方は陽菜の体を揺する。
「んー。カミルン、、まけるなぁがんばえー。」
魔力を消費し、ぐっすり寝ている陽菜は夢の中で好きなアニメでも見ているのかボソボソと寝言を返す。
まだ陽菜が眠っている間に木々をかき分けるようにして巨大な生物は姿を現した。
「ギャ?ぐしゃしゃしゃ、、、」
3メートルはあるであろう体格で二人を見下ろして、不敵な笑みを見せる生物。
「新種の、ブゼ、、リアン?」
黒い体に赤い目。鋭い足の爪。見た目は完全にブゼリアンだが、今みで見た中で、格段に大きいサイズだ。
「くそ!変身!」
彼方は立ち上がり、光に包まれて、魔法のスーツを見に纏う。
彼方が不意に立ち上がり、陽菜は最高級の寝心地であった膝枕を失い、頭をぶつける。
「いたっ!、、いてて、一体何ぃ、、?」
陽菜が寝ぼけて目を擦っている時には戦闘が始まっていた。
彼方は指を巨大なブゼリアンに向ける。
「サンダーショット!!」
普通のブゼリアンなら一撃で丸焦げになる威力で数発叩き込んだが、巨大なブゼリアンは地面に倒れこそしたものの、大きなダメージにはなっていないようだ。
ズドン!と巨大なブゼリアンが地面に倒れる音が響く。
「彼方!?これは一体、、?って嘘でしょ!?」
陽菜は森の中から通常のブゼリアン達がゾロゾロと出て来ているのを確認する。赤い目が光ってどんどん数を増している。
「陽菜!!変身して、普通のブゼリアンをお願い!」
「わかったこっちは任せて!!」
陽菜は変身し、ブゼリアン達の群れの中へ飛び込んでいく。
彼方は両足を地面にしっかりと固定して、指先に力を集中させる。バチバチ音をたてながらエネルギーを一点に集中する。倒れた巨大なブゼリアンが起き上がろうとしているところを狙い撃つ。
「サンダーショット!!」
彼方が一撃を放った途端に魔力が途切れて、変身が解け、その場に倒れ込む。
最後の力を振り絞った一撃は巨大なブゼリアンの全身に電撃を走らせ、もう一度地面に叩きつけられた。
「グゴォォォ!!」
うめき声をあげながら倒れ込み、かなりのダメージを与えたようだが致命傷とはなっていない。
彼方は地面に這いつくばったまま叫ぶ。
「陽菜!!大丈夫!?」
ブゼリアン達になんとか応戦しながら陽菜は彼方の方を見る。睡眠を取った自分と違って魔力が底を尽き、ただの女子高生となり苦しそうにこちらを見ている。
「正直きついけど、、なんとかするから!!待ってて彼方!」
陽菜は剣を振り回してブゼリアン達との距離を取り、地面に手をかざし、魔力を集める。
「グランドファイヤーー!!」
地面から陽菜を中心に円状に炎が吹き出し、ブゼリアン達を焼き尽くす。
「グシェェエ!!」「グボォォ!」「キシャァ!」
それでもブゼリアン達の数はまだ尽きない。飛び込んで来たブゼリアンが陽菜に殴りかかる。
「しまっ、、‼︎‼︎」
剣を構えて受け止めたが、陽菜の体は勢いよく吹っ飛び彼方の近くまで転がる。陽菜はすぐさま受け身を取って立ち上がり手のひらから炎を放つ。
「ファイヤショット‼︎」
連続で射出し、ブゼリアン達を全員何とか倒したかのように見えたがまだその数は減らない。
光る赤い目はまだまだこちらを見つめている。そしてその上、巨大なブゼリアンは彼方の一撃で片目を失っていたが怯むことなく近づいてくる。
「このぉぉっ!!」
陽菜は再びブゼリアン達に剣を片手に立ち向かう。
息が苦しくなり、呼吸がどんどん荒くなる。首をはね、体を切り裂く。突進して来たブゼリアンに剣を飛ばされ、離れた位置に剣がささる。その後、彼方は咄嗟に蹴り飛ばす。
とにかく倒れる彼方に近づくブゼリアンを対処するのが精一杯だった。
しかし、徐々に詰め寄られ、気づけばすぐ後ろには倒れ込んでいる彼方がいた。
「はぁ、、はぁ、、」
魔力も限界に来ている。魔法を使った攻撃は後何発打てるかわからない。ここで陽菜が魔力を使い切れば、女子高生には何ができるわけでもない。二人まとめて殺されるのは確実だ。
「やばい、、、このままじゃ、殺される、、、。」
「陽菜!!しっかりして!前を見て!」
彼方の声は届かない。勝てる未来が見えなくなり、頭の中がパニックになった陽菜には親友の声すら届かない。
巨大なブゼリアンは陽菜の目の前に立っている。
「キシャシャシャ、、、シャ。」
殺される。そう思ったのは、三度目だ。一度目は魔法少女の師匠に助けられた時、二度目は師匠が命を落としてでも助けてくれた時。そして今、師匠はいない。
「やっぱり私は師匠がいないと駄目だったんだよ。」
「陽菜!!しっかりして!まだ諦めちゃ駄目だよ!師匠の言葉を思い出して!」
その言葉を聞いて、陽菜は師匠からのアドバイスを一つ思い出した。
「いい?陽菜、彼方。これから魔法少女になる上でとても大切なことを伝えるから、よく聴いて。」
青い綺麗な髪の毛の女性の笑顔が浮かぶ。
「ーー不可能を可能にするのが魔法、だから魔法を使い、みんなを守るものとして果たさなければならない事、それはねーーー。」
ブゼリアンはもう腕を振り上げている。彼方と陽菜はその腕の影に隠れる。このままでは潰される。
「クシャシャ!!、、、ぐるるるぅぁぁぁぁ!!」
巨大なブゼリアンの手のひらが上から降ってくる。
陽菜は咄嗟に叫んだ。
「「諦めない事!!」」
陽菜の手が光り、エネルギーが盾の形状に変化していく。残りの魔力で紡いだせめてもの抵抗。
「エネルギーシールドォォ!!」
ガキィンと降ってくる手のひらを防いだ音が響くとともにピキピキと音をたて、すぐに崩壊する。
彼方と二人でやって強度を倍にすることで何とか使用してきた魔法。一人で使うとその強度は格段に落ちる。
光が弾けて盾は完全に消滅する。
しかし、陽菜の目は生きていた。立っているだけ、変身を維持するだけで精一杯だ。
でも、この姿でなら、師匠の言う魔法少女なら不可能を可能にできると信じていた。
「よく頑張った。」
人間の声。どこかで聞いたことのある声。
陽菜の目の前には腕を切断され叫ぶブゼリアンの姿が目に映る。
「グギャァ!!」
どさりと切り落とされた腕が陽菜の横に落ちてくる。
「あなたは、、一体!?」
風が吹き、陽菜の髪の毛がサラサラと揺れる。
突如現れた少年の姿は、赤い髪の毛をしていた。剣を携えた冒険者のような服装。
呼びかけられたその少年は左手で陽菜と彼方を庇うように、背中を向けたまま答えた。
「最強の正義のヒーローだ。」
ついに出会った二人。やっとこの作品の味が出せるようになってきました。次回以降の二人の主人公の掛け合いをお楽しみに。