第四話
陽菜は変身して、彼方との通話が途切れた駐車場に向かう。
「彼方!!彼方!!」
陽菜は車に乗り込もうとするスーツを着た男の人を見つけて、一旦変身を解除し、制服姿で声をかける。
「ここで私と同じ制服を着た女の子見ませんでしたか?」
スーツの男は不思議そうに答えた。
「ん?如月高の女子生徒?いや、見てないな。そもそもここはうちの会社の駐車場だぞ?君どうやって入ったの。」
このままだと外に摘み出されてしまう。
「ごめんなさい。お父さんがここで働いてて、もう要は済んだので、あの子も帰ったようなので、、、私もすぐ帰ります。」
陽菜はその場から離れて、車の影に隠れて男から身を隠す。
「彼方、どこに行ったのよ、、、」
陽菜は焦りが止まらない。さっきあった反応は今までとは何かが違っていたのだ。
さっきの男が車に乗って出て行ったのを確認して再び彼方の捜索を始めると、彼方の携帯を発見する。
落ちた時の衝撃でケースにヒビが入っているものの本体は無事のようだ。
だが、近くに彼方の姿はない。間違いなくやつらの襲撃にあったのだ。
その時、電話が鳴った。陽菜の携帯からではない。彼方の方だ。
陽菜はその表情された名前に困惑した。
「野上くん?なんであいつが彼方の連絡先をしってるの?」
陽菜は電話にでる。
「"あ、もしもし。野上だけど、今日は、俺なんかを誘ってくれてありがとう。とても美味しかったよ。」
陽菜は言葉を失う。
(な、なに?誘ってくれてありがとう?とても美味しかった?ど、、どういう意味!?)
陽菜にとって学生の男女交際はいかがわしいものでしかない。変な妄想がとまらずパニックになる。
「"野上くん、あなた!彼方に変なことしてないでしょうね!?今日の話は明日学校でたっぷりと聞かせてもらうから!!"」
陽菜は勢いよく電話を切った。
もう一つ彼方に聞きたいことが増えた。何がなんでも今日の出来事を聞き出す。そのためにも一刻も早く探しださなければならない。
「変な男に引っかかってるのはどっちよもう!」
陽菜は再び変身し、周辺に手をかざし始める。するとすぐに手にバチっと電気が流れる。
「ある、、ここに時空の穴の痕跡が!?まさかここに連れて行かれた?」
もはやもう、その可能性しか残っていない。かなり穴は小さくなってしまっている。向こうの様子はよく見えない。
「かなり、不安定な状態の穴だけど、、行くしかないよね。待っててよね彼方!!」
陽菜は光に吸い込まれる。あれだけ用心深い彼方を一瞬にしてとらえるなんて芸道ブゼリアンにはできるはずがない。何か別の勢力でもいるのだろうか。確かめる必要がある。
光の中、陽菜は手を伸ばす。
その頃、自宅にいる人夢はあたふたして、とまどっていた。
「な、なんで赤崎さんが出たんだ?って!やばい、、なんかすげぇ怒ってたな。いや、別に霧ヶ峰さんのことはかわいいと思うけど、俺はその赤崎さんのほうが、、、なんて言えるわけないし!!」
「完全に今俺赤崎さんにとっては親友に手を出した男って状態だよな、、、、何とかしないと。」
どう説明したものか。人夢は明日、学校に行くのがとても憂鬱になった。
カイに連れてこられた向こうの世界で、霧ヶ峰彼方は研究施設の中にいた。
「ようこそ魔法使い。こちら側の世界に。」
その声に反応して、彼方はゆっくりと目を開いた。薄暗い場所だが、その話しかけてきた相手の姿はしっかりと捉えることができた。
「あなたは、、、?くっ!」
彼方の手には手錠がつけられていた。手を動かすたび、シャリシャリと金属が擦れ合う音がする。
この程度、変身状態ならば一撃で砕けるだろう。しかし、今の身体能力はただの女子高生、大人しくその場に座り込む。変身には少し時間がかかってしまう妙な動きをすれば殺されかねない。
白衣の男は、眼鏡をくいっと上に上げた。
「私は、神山昇。この世界では、最も神に近いただの人間だよ。」
その名前を聞いて、彼方は自分の状態がかなり危険だと理解した。
「神山、、、聞いたことあるわ。ブゼリアン達を増やして現実世界を崩壊へ導こうとする研究者。つまり、私たちの敵の大将。」
彼方は神山を睨みつける。
「怖いなぁ。あの魔法使いの女は始末したつもりだが、まさか他にも仲間がいたとはな。」
不気味な笑みを浮かべながら、神山は彼方の顎をそっと持ち上げる。
「私を始末する気?」
「おやおや怖い目つきだねぇ。いつかの魔法使いの、あの女にそっくりだ、、よ!」
神山は足を振り回して、彼方を蹴り飛ばす。彼方はそのままの勢いで転がり、壁に激突する。
「私を拷問するつもり?何をしても何も教えないよーだ。」
近づいてきた神山は彼方の髪に触れ、そして頬をなでる。
「そんな事、僕の柄じゃあないさ。解剖だよ。君たち魔法使いの体の仕組みが知りたいんだ。」
触れる手はそのまま華奢な少女の肩から腰へと移動していく。そして、神山は彼方の耳もとでささやく。
「さぁ僕に教えてくれ、その仕組みを隅々まで、、、さぁ。」
その時、突如時空に穴が開き、勢いよく足が飛びだす。その足は神山、ブゼリアン達がいる方向へ吹っ飛ばした。
ブゼリアン達は神山を何とか受け止めた。
「ほんとに男ってのはそう気持ち悪いことを平気でするのよ。覚悟しなさい、、、滅ぼしてあげるから!」
赤崎陽菜はブゼリアンの集団に向かって指を刺す。すると、どよめくブゼリアン達の中から一体の小柄なブゼリアンが出てきた。
「ヒサビサニ、ツヨイヤツ。オレガ、、コロス。」
その人の姿に類似したブゼリアンは赤い目を光らせて少しずつ近づいてきた。歩き方まで人間そっくりだ。
首のあたりに手をあててコキコキと首を鳴らす。
「しゃべるブゼリアン?何か異様で他のやつらより不気味、、、。でも関係ない、私と彼方なら!」
その隙に彼方は変身し、手を締め付けていた手錠を一気に砕いた。
陽菜は、剣に手をかける。
「さぁ、観念して、、、、って彼方!?」
彼方は陽菜をお姫様抱っこ状態で抱え込むと、出口へと一気に走り出した。センサーが反応して閉じられるとた扉を蹴り壊し、外へ出る。
「え、、、彼方!?どうしたのよ!?あんなやつら早く倒さないと!?」
彼方は陽菜の声に耳を貸す間も無く走ってその研究施設から離れ、空が見えると足に力をこめ、一気に翼で飛び立った。
「いや!助けに来たの私の方だよね!?何で私が助け出されたお姫様状態なのよ!」
腕の中でぷんすか言ってる陽菜は、彼方の腕が震えてくことに気づいた。
あの場所から離れながら、彼方は腕の中の陽菜に言った。
「あのしゃべるブゼリアンは私たちの師匠を殺したブゼリアンだよ。私はあのブゼリアンに取り押さえられた。あれの名前はカイ。どうやらこの世界最強のブゼリアンよ。」
「でも、やってみなくちゃ分からないじゃない!!二人ならなんとか、、、」
「ならないよ!!、、、いや、直接戦ったわけじゃないけど、一度取り押さえられて感じたあの恐怖がそう感じさせるの。今は退いて作戦を練ってから行こう。」
ここまで真剣な彼方はいつ以来だろうか、いつも学校でじゃれてくる笑顔の彼方からは想像もつかない、表情をしていた。
「それと、あともう一つ。この世界と現実世界のリンクが完全に切れる時間になっちゃった。」
「わかったよ彼方。次、どこかに時空の穴が開くまでは身を潜めようってことだね。」
彼方はうなずいて、そしてニタニタと笑い出した。この顔の彼方がする次の行動は大抵抱きついてきたり、引っ付いてきたりするときの顔だ。
「今まで運んで、翼の体力がもうないから次は私がお姫様やるー!はい陽菜ぁ抱っこして。」
翼を消し、落下し始めた彼方を陽菜は急いで翼を生やし空中キャッチした。
「分かったから!いきなりスカイダビング決めるんじゃないよ!」
「ごめん陽菜。今から二人でラブラブしたかったんだけど、前見て。」
彼方が指さした先には見たことのないブゼリアン達が空を飛んでいた。
「え!?翼が生えたブゼリアン!?そんなのはじめて見たけど!」
空を飛ぶブゼリアン達は前方から次々と遅いかかってくる。
「私が何とかするから、陽菜は飛行に集中して!サンダーショット!!」
彼方の指先から電撃が放たれて、ブゼリアンに直撃する。まともにくらったブゼリアンは力なく地上に落下していく。
「サンダーショット!サンダーショット!サンダー!ショット!」
彼方は、次々にブゼリアン達を打ち落としていく。
「ぐるぁぁぁぁ!」「ぐしゃぁ!」
ブゼリアン達は仲間がやられても攻撃の手を緩めない。
「陽菜!!翼の魔力全部使ってでも、魔力切れになる前にとっととここから離れて!」
襲いかかるブゼリアンを回避し、打ち落とし、ぐるぐる目が回りそうになるほど回転し、切り抜けていく。
陽菜はフルスロットルで空を飛行し、なんとか空中ブゼリアンゾーンを抜ける。
「やっと抜けたぁぁ!!」
陽菜は完全に息切れしていた。もともと翼での飛行はまだ半人前なのにここまでの速度を出すとなると負担が大きい。
「お疲れ様陽菜。」
彼方がそう言った瞬間。翼が光となり、拡散して消えた。
「あ?」
陽菜の間抜けな声を皮切りに二人はとんでもない高さから落下する。
「「きゃぁぁぁーー!!」」
二人は女の子らしい甲高い声で同時に叫びだした。
二人とも翼の体力はもう残っていない。二人は完全に空中に放り出された。地獄のノーパラシュートスカイダイビングが始まった。