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人は誰もが夢を見る  作者: 輝木吉人
剣の魔法少女
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第三話

昼休み。

体育から戻ってきた人夢と坂上はぐったりと席に腰掛ける。


「なぁ人夢、なぜこう少し肌寒くなると体育がランニングになるんだよ。五時間目の数学は確実にお眠りタイムだ、、、」


この学校の体育はこの時期毎年このランニングが行われているらしい。

もともと運動が苦手で体力のない人はこの期間を地獄体育期と呼んでいるらしい。


「坂上、お前は俺と違って体力あるし、普通にやっても上位だろ。お前が変に一位にこだわるからだろうが。」


坂上は、ごくごくと水筒を飲み干す。


「あいつに、鬼崎には負けたくないんだよ。謎の価値観で、自分がこのクラスを仕切ってる、クラスの人気者だと勘違いしてる痛いやつだ。あいつに抜かされるのだけは気に入らねぇんだよ。」


人夢には坂上の気持ちもわかった。一人で過ごしたい時に無理に誘ってきたり、いざ話しかけてきても自慢話しかしてこない。


正直言って苦手なタイプだ。


「鬼崎大河、、、ね。確かに何かしらあるとお前に対抗心燃やしてるからな、あいつ。ま、でも俺とは住む世界が違うクラスの人気者だし、興味もないよ。」












ガラガラとドアを開けて、赤崎陽菜は教室へ入り、野上人夢の席に目を移す。いつものように坂上と二人でだらけているのを見て、少し安心した。昨日のことを心配していたが、心は落ち着いたようだと判断した。


陽菜が教室に入り、窓際の人夢の席に近づき、話しかけようとした時にいきなり肩を掴まれた。


「陽菜ちゃん。今から二人で今日の文化祭の会議の打ち合わせしない?」


鬼崎大河。クラスの出し物や経費などを担当する文化祭実行委員になったクラスメイト。確か、前回のホームルームで推薦されて一つ返事で引き受けていた。


「離してくれる?私忙しいから。」


陽菜は素っ気ない態度で振り向かずに言った。


「なになに?他に今から何か用事でもあるの?」


その態度を見ても、鬼崎は陽菜の耳もとまで近づいてきて、微笑んだ。



陽菜は、昨日の事件について人夢に話を聞きたいと思っていた、などと正直に言うわけにもいかない。


そんな世間話をするために断ったとなれば、クラスのみんなの目には文化祭に取り組む姿勢が悪く見える。


陽菜は振り返って言った。


「ちょっと次の授業の予習をしたいから、今度にしてくれる?」


陽菜はすぐにその場から離れ、席に向かう。


後ろから鬼崎は陽菜に向かって提案した。


「じゃあ今日の放課後、南館三階の空き教室に来てくれないか?」


クラスのみんなからの視線が徐々に集まってきて、断るのも印象が悪い。陽菜は少し歯軋りしながらも答えた。


「わかった。放課後ね。」


陽菜はそういうと、自分の席に着いて数学のノートを開いた。














「ほら、ああいうところだよ。あいつの気に入らないところはさぁ。」


二人のやりとりを見ていた坂上は頬に肘をついて言った。今の光景は人夢が見てもあまり気分の良いものではなかった。


「確かに、明らかに赤崎さん嫌がってたからな。でもまぁこんなこと俺にはどうすることもできないし。」


人夢はそう呟いたが、文化祭実行委員の会議が今日あるのは事実でやることがたくさんあることも知っていたが、あの男が赤崎陽菜に近づくのが無性に腹が立っているのは事実だ。


陽菜に断られた鬼崎が坂上のもとに歩いてきた。


「おい坂上。」


「何だよ鬼崎。今俺飯食ってんだけど。」


明らかに冷たい対応をする坂上に対して鬼崎は舌打ちする。


「お前、調子のんなよ?最近、俺のボクシング部の後輩マネージャーにちょっかい出しただろ。」


鬼崎はポケットに手を突っ込んで坂上を睨む。


「知るかよ。向こうから話しかけていきなり、好きです付き合ってくださいって言われたんだよ。しかも俺は他に好きな人がいるんでってすぐ断ったぞ。」


坂上は立ち上がって、鬼崎を睨み返す。


「ちっ。あんなブスから告白されたぐらいで調子乗んなよ。次後輩にちょっかいかけたら許さねぇからな。」


人夢が知る限りあそこまで坂上が感情的に怒るのは、鬼崎に対してだけだろう。


チャイムが鳴って先生が教室に入ってきて鬼崎はもう一度舌打ちするとと自分の席へと戻っていった。











放課後、人夢は一人で教室を出た。坂上はたまに家の用事があると一人でさっさと帰る日があるのだ。


何か部に所属しているわけでもないし、坂上以外にそこまで等しい友人がいない人夢は帰宅することにした。


(ま、今日は久しぶりに結構時間があるし、帰ってゲームでもするか、、、)


そんなことを考えながら階段を降りていると、走って上がってきた鬼崎と軽くぶつかりそうになった。


「おっと悪い野上。また明日な。じゃっ。」


片手に持っていた資料には文化祭という文字が見えていて、今日の出来事を思い出した。


(赤崎さん、大丈夫かな。)


陽菜は委員長で、鬼崎は文化祭実行委員だ。今から文化祭の会議をするのだろう。陽菜は鬼崎との会議をかなり嫌がっていたようだが、自分に何か出来ることがあるわけでもない。


陽菜の困っていた顔がちらつくが、人夢は学校の門を出た。


「あ、野上くん。今帰り?」


そこにいたのは霧ヶ峰彼方。赤崎陽菜の親友でいつも一緒にいるイメージがある。真面目な陽菜に対して楽観的で誰に対しても明るく接する人だ。


彼方は自販機で買ったであろうジュースを片手に門に寄りかかっていた。


「そうだけど、、、、」


彼方は明るく、朝あえば挨拶してくれるがまともに話したことはない。

女子に話しかけられて緊張している人夢は自然と彼方の目から目を離す。


彼方はその仕草を見てニヤッと笑う。


(これはまたわかりやすく緊張してるなぁ、、ちょっとかわいい。まぁ、いきなり誘う形になるけど、陽菜のかわりに私が話聞けばいいか。)


彼方はゆっくりと人夢に近づいて、顔を覗き込んでニコリと笑って言った。


「時間あるなら、ちょっとだけ私に付き合ってくれない?」















よくわからないが、特に断る理由もなく言われるがまま彼方についていくと、学校の近くにあるおしゃれな雰囲気の喫茶店に連れて行かれた。



店員さんに案内され、2人で向かい合って座る。ここへ来るまで、彼方は機嫌良さそうにニコニコしていた。まぁ彼女がニコニコしているのはいつものことなのだが。


「その、、今更なんだけど。なんで俺とこんなところに?」


喫茶店なんて普段来ないし、ましてや女子と二人でなんてとにかく落ち着かない。たまらず人夢は話を切り出した。


彼方は笑いながら答えた。


「本当は陽菜と別の予定があったんだけど、鬼崎と文化祭関係で仕事があるって振られちゃってねー。一人で来るのもなんだし、誘ったの。」


「いや、別に俺じゃなくても霧ヶ峰さんなら他に友達を誘えばいいのに。」


店員さんが二人分のコーヒーを机の上に置く。


「カップル限定サービスの無料ショートケーキでございます。」


店員さんはにっこりと笑って二人の前にそれぞれケーキを置いていった。


「ま、こういうこと。野上くんも食べて食べて、無料なんだし。」


彼方はショートケーキを頬張る。それを見て、人夢もショートケーキにフォークを入れた。


「ま、実は私が野上くんと話がしたかった。っていうのもあるんだけどね。」


「俺に?何の話、、かな、、?」


「昨日の授業中に、人夢くん授業中に泣き出したでしょ。あれは何で?何か、悲しいことがあったの?」


彼方の質問に言葉がつまる。自分でも昨日の涙の意味は分からない。


人夢は頭をかきながら答える。


「いや、その自分でもよく、、、」


「如月春。」


彼方は突然ポツリと一人の少女の名前を出した。

その瞬間、人夢の脳裏に笑顔の少女の姿が映る。しかし、顔は不鮮明でよく思い出せない。


人夢は片目に手を当てる。


「山奥で死体が見つかった事件の被害者の女子高生の名前なの。聞き覚えある?」


「わからない、、、どこかで聞いたような気がするけど、ごめん思い出せない。」


変に聞き覚えのある名前ではある。

小学校や幼稚園でそんな名前の子がいたような気もするし、昔読んだ本に出てきたような気もする。


でもニュースを見る前からその名前を知っている気がする。


「あーごめんね?変なこと聞いて。いやぁ事件の場所ってそう遠くもないし、もしかしたら事件のこと何か知ってるのかなぁって思っただけだから。」


彼方はコーヒーに砂糖を入れずに一気に飲み、驚いたようにケーキを頬張る。


「霧ヶ峰さん大丈夫?」


せきこむ彼方を見て人夢は思わず立ち上がる。


「大丈夫大丈夫。ドジっちゃったなぁ。ははは。」


その時、彼方の鞄の中からピピピッピピピッと電子音が鳴った。


人夢は彼方の顔色が変わったことに気づいた。


「ごめん、ちょっと急用!お金おいとくから、二人分のコーヒー代だけ会計お願い!」


彼方は席から立ち上がって勢いよく店を飛び出していった。


「何なんだ?一体。」


人夢は残りのショートケーキを食べ終え、彼方が置いていったお金で会計を済ませた。


「明日、お釣り返さないとな。後、いちおう、、誘ってくれてありがとうって言わないとな、、、。」























喫茶店を飛び出した彼方は陽菜からの電話に出る。店の中でなったのは通常のアラームではない。


魔法少女が使うレーダー。さっき鳴ったのは、時空の穴から出てきたブゼリアンが現れると鳴る緊急メッセージ。


「ここから近い!陽菜はまだ学校だし私が行かないと!」



「チェンジ!!ロストサイト!!」


彼方の姿は光に包まれ消えた。魔法少女に変身して、身を隠す魔法を使ったのだ。これで移動速度は格段に上がる。建物を飛び越え反応のある場所に急行する。


彼方は走って反応があった場所へと向かう。徐々に近づいていくにつれ感じていた嫌な予感はその場所に到着して確信に変わる。



ビルの地下。広い駐車場。ブゼリアンの反応があるのに姿が見えない。


人気のない場所でコツコツと自分の足音だけが響く。


「確かにここに反応があるのに、、、一体どこに?」


あの図体で隠れられる場所があるとも思えない。彼方が周辺を捜索し続けていると電話がなった。


陽菜からだ。


「"今向かってるけど、彼方大丈夫!?"」


「今のところ姿が見えないの!とても強い反応が一つあるのは確かなんだけど、、って、、、え、、?」


突然現れた影に後ろから鼻と口を覆われた。咄嗟に肘を振り下ろし、胴体に叩き込むがびくともしない。


「"私もすぐ向かうから、、、あれ?もしもし?彼方?、、、彼方!?"」


足もとに落ちた携帯から陽菜の声が聞こえるが、彼方は口を押さえられ、声が出ない。魔力を使って抵抗しようとした時にはすでに彼方の意識は遠のいていた。


「睡眠、、、薬、、!?」




彼方はぐったりと力を失い、制御する力もなく変身が解けた。


後ろの影は耳についている小型の通信機に手を当てる。


その影はブゼリアンにしては小型でフォルムは人間に酷似している。


「ホカク、、セイコウ、、。カイ、、モドリマス。」









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