第二話
迫りくるブゼリアンの首を陽、菜と彼方は手にした剣で斬り落とす。
その見た目とは裏腹な強さに驚いているブゼリアン達を次々と斬りつけ、赤い返り血を浴びる。
かわいい服に真っ赤な血が付着しているのを気にも留めず、二人は必死に剣を振るう。
死体の数こそ増えるものの襲い来る敵は一向に減らない。
二人はそれぞれ徐々に押されて、背中を合わせて、深呼吸する。
「どうする陽菜。ここ、かなりでかい巣窟の近くだったのかも!」
彼方はブゼリアンの攻撃を手で受け止め、剣で薙ぎ払う。
「このままじゃ数に押し潰される。かなり負担は大きいけど、あの合体技で全滅させるよ!!」
「了解!」
二人は翼を生やし高く飛び上がり、羽を羽ばたかせて両腕を天に掲げる。
二人の手の周りに高エネルギーが発生し、バチバチと音を立て始める。ブゼリアン達は空に舞い上がった敵に対して、早く降りてこいと空に向かって手を振り回している。
「気持ち悪い、、、本当あいつらってば女の子に集団でよってたかるなんて。」
「引いてないで。行くよ、彼方!」
「「シューティングバレット!」」
二人の間にあったエネルギーが弾け、地面に飛び散
っていく。
ズドドドド!!
落下した場所には大きく穴が空き、丘の上の自然はクレーターのように姿を変える。
ブゼリアン達は体をぶち抜かれて絶叫する。
「あの女の子の苦しみはこんなもんじゃなかったはずよ!死ぬまで痛みを味わいなさい!」
陽菜は手を止めない。次々にエネルギーを大地にぶち込んでいく。
「陽菜!ストップストップ!!魔力使いすぎだってば!」
彼方の声は、着弾音でかき消される。
弾を全弾打ち尽くし、土煙が消え始めた時、二人はゆっくりと降下して地面に四つん這いで倒れた。
「陽菜ぁ、、!この前全力使い切ったの忘れたの?もう立てないよこれ、、、」
へばっている彼方は体が光り始めて消え始めていた。
「この世界にいられる時間に限りがあるのも、使いすぎたら現実世界の私達に影響でるって、わかってるけど、、、手加減て嫌いなのよ。」
破茶滅茶に丘に穴を開けまくって、数多のブゼリアンを駆逐した二人は、眠るように光に包まれて消えた。
山の中で彼方は目を覚ました。枯れ葉の上で目を覚まし、横の陽菜に目をやる。
陽菜はよだれを垂らしながら爆睡していた。
「こんな森の中で、よくもまあこんなにすやすや眠れますなぁ。まぁ、私も寝てたんだろうけど。」
彼方は陽菜のスカートをめくり上げる。その瞬間、陽菜の鼻にてんとう虫が止まり、陽菜はたまらずくしゃみをする。
目を覚ました陽菜は、目下行われている変態行為にたまらず飛び退く。
「ば、、ばか!?何勝手に人のスカートめくり上げて観察してんのよ!」
「いや、最近見る機会ないし、まだおしりにウサギのイラスト書いてるのかなとか思って。」
「そんなパンツこの年ではくかぁぁぁ!!」
陽菜は真っ赤になってスカートを抑える。
「あーもうなんで制服がこうもスカートなのよ、、あぁ、、恥ずかしい。」
彼方はため息を吐きながら、恥ずかしがる陽菜の頭をチョップで叩く。
「こんな山奥で女子高生二人が無防備で寝る危険性がわかった?もしスカート除いたのが私じゃなくてごっつい山男だったらどうしてたわけよ。力を使いすぎだよ陽菜。」
二人とも体には少ししびれが残り、歩くのもままならなかったが、なんとかゆっくりときた方向を戻ったが崖にぶち当たる。
「そうだ私達ここ飛んできたのよ!?もう変身する力も残ってないし日も沈んで真っ暗!どうすんのよぉぉぉ!」
「陽菜がちゃんと計算して行動しないからこうなったんじゃんか!」
二人は、頭を抱えて座り込む。今日は帰れないかもしれない。明かりも持たずに知らない山道を下るのは危険だ。最悪ここで一晩過ごさないといけないかも知れない。
陽菜はポツポツと呟き始めた。
「携帯で助けを呼ぼうにも、ここ電波届くの?それに、両親にこんなところにいることが知れたら怒られるし、ああお腹空いたな、、、、」
二人のお腹がぐーぐーとなる。
今何時くらいだろうか、山から見える如月の町はどこも明るく点灯し、闇の中でピカピカと光っている。自分の家はあの辺りだろうか、ボケーッとしながら夜景を見ていた陽菜の肩を彼方は、ポンポンと叩く。
彼方は制服のポケットから何やら取り出すと、袋を開け中身を二つに割って片方を陽菜に差し出した。
「こんなこともあるかもだから、ほら乾パン。」
「こんなの持ち歩いてるの?」
「陽菜。どんな事態にも備える対応力が必要だって、師匠に教わったでしょ。」
陽菜は申し訳そうな顔で彼方から乾パンを受け取る。
「師匠だったら、もっと上手くやったんだろうな。私なんて、弱くて不器用で、、、」
そんな風に落ち込んでる陽菜の方を見ることなく彼方は星空を見上げる。
「いつまでへこんでんのよ。師匠はもういない。この町を、いや、世界を守るのは私達の宿命なんだよ?もう疲れたから寝よう。早朝には出発して一回家帰らないと。明日も学校だし。」
乾パンをぱくりと食べ終えた二人は仕方なく背中合わせで眠り始めた。
翌朝、友達の家に泊まっていたと両親に伝えた陽菜はこっぴどく叱られてトボトボと登校していた。
季節は秋。朝の風がスカートの下から伸びる足を冷やす。
陽菜はクラス委員長として、いつもは早めに登校しているのだが、疲れている陽菜はゆっくりと学校までの坂を登っていた。
「まぁ、チャイムには間に合うでしょ、、、。あんまり疲れ取れなかったし、授業で寝たりなんかしたら示しがつかなくなるよ、、、」
肩を落として坂を一歩一歩踏み締める。
すると、目の先に野上人夢が同じように肩を落としてだるそうに歩いているのを見かけた。
(もしかしたら、野上くんは如月春さんのことを思い出して泣いていたのかもしれない。何かあの事件についての手がかりが掴めるかも。)
昨日の今日で悲しんでいるところにあまり問い詰めないほうがよいのではと思ったが、これ以上犠牲者を出すわけにはいかない。
陽菜は早歩きで人夢に近づく。
「やばい、、昨日の俺なんで泣いてたんだ?クラスのやつからしたら完全に変なやつじゃん、、、坂上にもなんて話せばいいんだよ!」
気を落としていた人夢は、背後からいきなり誰かに肩を掴まれて危うく転がりそうになった。
「うぉっ!ちょ、危ねぇ!」
こんな急に肩を掴んでくるやつなんて一人しかいないだろう。そ
う思って人夢は鬱陶しそうに振り返った瞬間、その人物に、そしてその顔の距離に、驚きのあまりニ、三歩後退してしまった。
「なによ、クラスで口うるさい私に絡まれるのがそんなに嫌?」
陽菜は不機嫌そうに腕を組み、人夢を睨む。
「い、、いや!そんなことはっ!俺は、てっきり坂上だと思って、、」
人夢は誤解されたくはないと、両手を体の前に出してあたふたとする。
「完全に私の顔見て飛び退いたように見えたけど?」
「いや、それはその、俺なんかに声をかけてくるとは思わずに驚いただけで。」
人夢が緊張のあまり一オクターブ高い声になっていることにも気づかずに、陽菜はがっくりと肩を落とす。
「私ってそこまで男子に距離置かれてるのね。まぁ、全然いいけど。」
「そ、それで赤崎さんが俺に何のよう?」
頭の後ろに手を当てて、はははと愛想笑いを浮かべる人夢に少し安心した陽菜が昨日のことについて質問しようとした。
「野上くん、昨日、、、、、」
陽菜が問いかけ始めた時、予鈴のチャイムが鳴った。
先程まであった人夢の姿がない。そして、前方から声が聞こえてくる。
「赤崎さん、俺今日こそは遅刻するわけに行かないんだ!先に行くから!話しは後で聞くからぁ!」
置いてけぼりにされた陽菜は焦ってその後を追う。
「ちょ、嘘!もうこんな時間!?ま、待ちなさいよ!遅刻しちゃう?委員長の、この私が!」
陽菜もダッシュで校門をくぐり、二人で教室までの階段をゼーゼーハーハー言いながら駆け上がる。
「野上のやつ、遅いな。ま、今日は休みか。昨日あんな調子だったし仕方ないか。」
坂上が諦めて膝をついてボーッと教室の掛け時計を見つめていた時だった。
ガラガラガラ!!
勢いよく教室のドアが開いた。
「「ま、間に合ったぁー」」
二人は同時に教室に飛び込んで、クラス中の視線を浴びる。
委員長がこんな時間になんて珍しい。それも。
遅刻居眠り常習犯の野上人夢と二人同時入室である。