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人は誰もが夢を見る  作者: 輝木吉人
夢と現実
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第一話

長らく更新の予定はないです。

申し訳ないです。

ーー野上人夢は、英雄になりたいーー


小さい頃好きだった特撮ヒーローみたいになりたい。幼い時はよくTVの前でヒーローを応援していたものだ。


その姿は親には、我が子がさぞ可愛く見えただろう。しかし、それは子供の間だけ、少しずつ親は呆れ顔を見せるようになる。

おそらく純粋な子供の時には誰もが憧れていた。


でも、人は成長するにつれてそんな夢は卒業して、教師、スポーツ選手、科学者、経営者、芸能人、エンジニア、色んな将来の夢を持つようになる。


幼い頃にヒーローになりたいという思いから派生して、警察官や消防士を志している人もいるかも知れない。


一方、自分はそんな具体的な夢をなく、そんな英雄なんて抽象的なものにまだ魅力を感じながら、特撮ヒーローのフィギュアを集め続けている自分に対して大きくため息をついた。


そんなものにいつまで固執していても何も起こらないし、何も変わらない。


難関校に入学し、優秀な成績で卒業し、企業で金を稼ぎ、国に貢献できるほうが良い。


なら、今すべきことはーー


考え事をしながらくるくるとシャーペンを回していると突然のくしゃみのせいで机の下に落とし、闇の中に消えてしまった。


「やべ、どこいった。学校に筆箱忘れて一本しかないのに。くそっ探すしか無いか」


肩を落として暗闇に落ちたシャーペンの捜索を始める。電気の届かない暗闇の世界は心底嫌なことを思い出させる。




今日だって些細なことから始まった

クラスメイトの喧嘩をどうすることも出来なかった。


本当は止めるべきだった。


あの時すぐに自分が止めていたら、

作品展のクラスの出し物が壊れてしまうこともなかっただろう。


わかっている。自分だけじゃない。


他の人だって見ているだけだ。


どちらかに加担すればどちらかの所属するクラス内のグループから敵対視される。


しかも、変に刺激して事態が悪化したらどうする?

「お前があの時、あんな事をしなければ」なんて言われて、終いには、「お前のせいだ」なんて言われたら?


何も出来ずおろおろしている間に、我らが学級委員長がやってきてあっという間に二人を押さえつけてしまった。


委員長は、幼い容姿で顔立ちは整っているのだが、大の男嫌いの性格と、その腕っぷしの強さから男子からは近寄りがたい存在となっている一方、対して女子からの信頼は厚い。


まぁその委員長は自分が片思いしている女の子だ。気持ちを伝えることなんて出来ず、ましてや喋りかけることすらできていない状態である。


彼女は惚れ惚れするほどあっという間に喧嘩を片付けてしまった。


彼女を見ているとつくづく思う。こんな人がいるのに、なんで自分がやる必要があるのか。こんな身近な女の子にすら勝てないのに。出来る人間がやればいいのだ。人を助かるなんて自分には向いていない。


ちゃんと頭で理解はしている。


実際、学校に行って勉強して、友人と遊んで過ごしている今、それが退屈だとも思わない。


むしろ、それが楽だし、幸せなことではないのかと思える。


しかし、幼稚な理想を捨てることはなぜか難しい。わからない。どうしてここまで固執する?



暗闇の中手探りでシャーペンを見つけて頭を上げた時、奥の方に小さい時大好きだったヒーローのフィギュアがあった。

こんな埃のかぶったもの捨ててしまおうと何度思ったか分からない。



明日の学校の課題を眠たい目を擦りながらなんとか終える。

授業中の居眠りを怒られている身で、もし課題を提出しないなんてことがあれば、根本的に勉強が出来ない人間にとっては致命傷。一学期の成績を見れば絶望的だ。


スマホに充電器をさして朝起きる時間にアラームを設定。


ここ一ヶ月くらい午前1時くらいを目処に何故だか急激に眠気が襲ってくるため、この時間までには寝床に着くようにしている。


勉強机のイスから転がるようにしてベッドに入る。


そういえば、明日は日直だったっけな。

大きくあくびをして掛け布団に体を縮こめつつ、そんなことを思いながら眠りについた。


















照りつける太陽の中、少年は草むらの中でパチリと目を覚ました。


鳥が(さえず)っている以外は静かな草原だった。


鼻に止まったてんとう虫をつまみ、逃してやると髪の毛に着いた葉っぱを払い落として、ゆっくりと起き上がる。

少年の服装は、首に巻いた赤いスカーフに服の上には膝や胸に防具がついていて、腰には立派な剣が刺さっている。



「くそっ。ずいぶん遅くなっちまった…。大体、課題が多すぎるだよ。まぁ、ああだこうだ言っても仕方ない。さて、仕事に入るとするか」

パンパンと顔を叩き、手に持った剣を(さや)から抜いて2回ほど大きく深呼吸する。


「最近はどうも授業中眠くなっちまう、もう課題漬けにされるのはごめんだ。今回はとっとと終わらせて帰るか」


そういって少年は一気に草原を駆け抜ける。人の身体能力を超えた動きで岩を飛び越え山を下って崖を飛び越えた。










しばらくすると小さな集落のような場所に出た。

中へ進んでいくと、そこには、歴史で習ったような竪穴式(たてあなしき)住居なんかよりも簡素で、石や木を乱雑に組み合わせた住居のような物がいたる所にあった。


少年の来訪の気配を感じ、そこからゆっくりと黒い生物が出てきた。


その容姿は、赤い目に小さな口、ペンギンのように指のない手をだらんとぶら下げた黒い影のような生物だった。


動物図鑑に載っていれば子供は確実に泣き出すであろうその生物の数は一匹や二匹ではない。


岩陰や洞穴、色んなところから顔を出し、そのこの世のものとは思えない生物達は少年の方をじっと見つめている。挿絵(By みてみん)


赤い目が光り、口からはポタポタとよだれを垂らしている。

見るからに歓迎されている様子では無い。


「ぐるる…」


喉を鳴らすような声を出しながらゆっくりと近づいてきた。足音もなく、よろよろとした足取りで少年の前に立つ。


しかし、少年はその場から一歩も動かない。


いつの間にかその生物の群れは少年を取り囲んでいた。


「シャッ!シャッ!シャ!」


その生物達は笑い声の様なものを上げながら手を叩いている。


おそらく、(一人でこんなところに来るなんて間抜けな奴め。)みたいに思っているのだろう



その中の一匹が小さな口を顔が裂けるくらい大きく開ける。


「グシャァァァァァ!」


平たい手を少年に向かって勢いよく振りかざした。この威力は常人なら脳震盪(のうしんとう)を起こして軽く吹っ飛ばされていただろう。


ガキィッ!!


硬い音が静かな集落に鳴り響いた。少年はその生物の一撃を左手で受け止めたのだ。


生物の視界には左腕の奥に少年の鋭い目が映る。


そして少年は剣を振り上げる。


太陽の光が剣に反射し、光ったその一瞬のうちに剣を振り下ろす。


避ける隙も与えず一瞬でその生物の体は真っ二つに裂いた。ブシャッと体内の奥の血が吹き出し、大声が上がる。


「グギャァガガッ!!」


呻き声を上げながら地面に倒れ込んだ。

ベチャッと音がして周りの仲間は動揺している様子で

グルル、グルルと声を上げている。


「悪いがお前達が逃げようが隠れようが、ここにいる奴には全員死んでもらう。それが嫌なら必死に抗うんだな!」


少年は死体を踏みつけて言った。


その生物達は突然の仲間の死に怒り、大きく口を開けて叫びながら目の前の敵に襲いかかる。



「あぁ、そうか、悪い。言葉は通じないんだったな」


飛びかかってくる生物たちに少年は冷静に剣を振るった。

舞うように切りつけ、時には蹴り飛ばし、その数をもろともせずに迎え撃つ。


血しぶきが舞い、剣が煌めいた。








戦いの後、少年の周りには肉塊が散らばっていた。また静寂が戻り、鳥の(さえず)る声が聞こえ始めた。鳥は何も無かったように死体を突っついている。

少年は剣を(さや)に戻して呟いた。

「そろそろ起きる時間か、もっと効率的にこなさないとまずいな。最近、あいつらの数がやたらと増えてきた。かなり負担がでかい。でも」


強く拳を握る。


「俺の世界への干渉は絶対に阻止してみせる」

そして日が暮れる頃。少年の姿はゆっくりと光に包まれるようにして消えた。











携帯のアラーム音が耳に響く。目を擦りながらアラームを止める。むくりと起き上がって部屋を出て、トースターに食パンを突っ込み、制服に着替え始める。


最近、寝起きがとてもしんどい。朝が弱いとかそういうことではない。眠った気がしない、というよりも眠る前よりも疲れているように感じる。


「またこのニュースか、、だんだん噂事じゃすまなくなってきてるな」


最近のニュースは謎の生命体の話で持ちきりだ。そのぼやけた本物かどうかも定かではない姿が目に飛び込んで来た瞬間、すぐにテレビを消した。


「にしても、怖い見た目だな。なんか夢に出そうな気がする見た目だ。一人暮らしの俺には刺激が強い…なんか、こうその風呂入ってても視線感じたりするし…」


食パンを食べ、オレンジジュースを飲み干して上着を着る。



出かける直前、季節は秋になり一気に冷え込んできたためタンスから使おうと思っていた赤いマフラーを手に取る。流石にまだ早いかともう一度タンスにしまった。


「あっ!今日日直の仕事!忘れてた…早く行かないとまた居残り掃除させられちまう!」


大急ぎで部屋を飛び出した。ゴミ捨ての必要があるが、もうそんなものを持って間に合う時間ではない。







何とかギリギリ先生が来る前に日直の仕事を終えることが出来、一息つこうと机に突っ伏した。

「あーー疲れたぁ」

しっかりと寝たはずなのにとにかく眠い。




人夢は寝ている間に自分が何をしていたか知らない。向こうには記憶は持ち越せても、現実に戻れば夢の出来事は綺麗さっぱり消えてしまう。


そんなわけで授業中にぐうすか寝ていた人夢は、先生にもう一日の日直を命じられてしまった。






夢と現実を行き来する少年の毎日はすでに始まっていた。


しかし、その世界の、交わることのなかった現実世界との境目に大きく亀裂が入り始めている。






挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ・テンポがいいです。 [気になる点] ・場面転換には◇を5個使ったほうが良いですよ。 ・情景描写もう少し意識しましょう。良い作品ですから尚の事。 [一言] ヒーロー、僕も未だに憧れてます…
[良い点] RT企画から来た蒼弐彩です。 読ませていただきました! 夢を思いながら現在との間で葛藤する主人公氏の心境がとても綺麗に書けていてすごいなと思いました。 今後とも頑張ってくださいね!
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