6. 4回目の急展開
あぁそうだ。彼女に心底惚れた男を探せばいいと、俺は思った。
だが。
否応なく気づいた。
ソフィアに一番、心底惚れてるのは、シスコン兄のギャレットだということに。
「ソフィア、迎えにきたよ。帰ろう。今日は舞踏会用のドレスが出来上がってきているからね。楽しみだね」
「あぁ、あのお兄様が選んでくださったドレスですね」
「ファーストダンスは僕と踊ってくれると約束してくれたよね。今から楽しみだよ」
キラキラした笑みを浮かべて妹にエスコートの手を差し伸べるギャレットに、本気でため息が出る。
血が繋がらない兄妹だけに、傍目から見たら恋人同士にしか見えない。会話を聞いてみれば尚のこと。
本気なのか?っって聞いてみたい気もするが、聞いても絶対「愚問だな」とか真顔で言うんだろうな。
だから、世間でいう妹への愛情とお前のそれはかけ離れてるんだよっ!と頭をはたいてやりたい。
考えながらレーゼンはウンザリした。
あのギャレットが恋敵になるのなら、相応の相手でなければ4回目も失敗するぞ。
だとすれば、ソフィアの婚約者として選ぶべきは…
「こいつだ」
一枚の釣書を手に、俺は笑みが溢れるのを抑えきれなかった。
ジョシュア・アロンソ。近衛隊所属。西の辺境伯の二男。
条件1 ソフィアに惚れていること
条件2 辺境伯家と釣り合う家柄であること
条件3 昔の恋人や人間関係が綺麗なこと
条件4 ソフィアに惚れて貰える要素があること
条件5 辺境伯に似ている奴がいい
そうだ。第5の条件で勝負だ。
ジョシュアは切れ長の目といい軍人独特の雰囲気といい、どことなくローズベルグ辺境伯当主に似ている。若くして近衛隊の中堅、つまり有能だ。
ギャレットが恋敵なら、あいつを抑えられる貴重な存在、父親である辺境伯をモデルにすれば勝算はあるかもしれない。
妙案を思いついた俺は目の前でイチャイチャしている兄妹を尻目に、早急にジョシュアの身辺調査を進め、俺自身も直接面談できるよう段取りをつけた。
そして、見事、4人目の婚約者を見つけることが出来たのだった。
ここまでは悪くない作戦だったはずだ。
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だが、ダメだった。
なぜだ?連絡を受けた俺は驚愕した。
相手もその親もソフィアを嫁にできるなんてと、諸手を挙げて喜んでいたはずだ。
初めて両者を引き合わせた時、上級神官服であるシルバーのワンピースをゆったりとひらめかせてやって来たソフィアの姿に、相手は一瞬で虜になっていた。
上司の俺から見ても、ソフィアの美しさは神殿でも群を抜いていると思う。初々しさもあり、クールで普段あまり笑わないが、所作には成人女性の色気もある。
対するジョシュアは近衛隊の制服をビシッと着こなす美丈夫で、こちらもよく今まで残っていたなと思わされる好物件だった。
どこから見てもお似合いの2人で、上手くいくとしか思えなかった。
だが運命の女神は、またしても悪戯心を起こした。
西の辺境伯には子供が3人いて、ジョシュアは二男、つまり後継ぎではなかった。
ユーフェリア国では、伝統的に3番目の男子が後を継ぐ。だから、ジョシュアは軍人として功を挙げて独立するか、どこかの婿養子に収まるか、どちらかの未来を選択するはずだった。
なのだが。
「よりによってこのタイミングでか…」
深夜だったため、第一報は取り次いだ執事からもたらされた。
アロンソ公がわざわざ俺の自宅を訪問したい、話があるという。時間帯も時間帯だけに、執事が用件をまず取り次いだらしい。
なんとアロンソ公にはもう1人、婚前に関係を持った女性との間に男子がいたらしい。公がそれを知らされたのはソフィアとジョシュアの婚約が決まった直後のこと。
慌てて真偽のほどを確認させたところ、実子に間違いないとの結果が出たという。
「面倒なことにならなければいいが」
呟いて、レーゼンは公の待つ来客の間に足を向けた。
貴族だけに婚外子の子供は珍しくなく、こういう事態も珍しくはなかった。だが、婚外子を認知し継承権の順位に組み込むかは別の話だ。
だがもし、直系男子として遇すつもりなら、ジョシュアは3番目の男子になり、それはつまり、公の後継となることを意味する。
その場合、ソフィアは神殿勤めをしているが、北の辺境伯の愛娘だ。ジョシュアが後を継ぐというなら、その妻になればいい。家柄も問題ない。
だが、深夜に公が訪れてまでレーゼンに話があるという事態が、何か嫌な予感がした。




