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42. 告白



時は遡り。

ソフィアとユリウスはオリバーを見送ると、ホールから少し離れたバルコニーにやってきていた。



「ソフィア、聞いて欲しいことがある」

主催者による演出なのか、外は月明かり以外はすっかり闇だ。

兄たちの様子が窺えないものかと暗闇に目を凝らすけれど、物音ひとつしない。

ソフィアは諦めて、ひとまずユリウスへ向き直った。

「はい」

「庭の様子が気になるだろうが…。兄は恐らく結界を張っているから、こちらからは何も見聞きできないと思うよ」

「お兄様とは、オリバー様ともう1人の?」

「ああ。2番目の兄はアルフォンスという。根っからの軍人で、策士タイプのオリバー兄上とは正反対の性格だが、あの2人が今回のことに関しては結託して動いている」

やれやれと眉間を揉み解す姿はどこか新鮮で、思わずソフィアは口元を緩めた。

「ユリウス様はご家族のことを大事に思われているのですね」

くすくす笑うと、ユリウスは一瞬手を止め、やがて苦笑まじりに頷いた。

「昔は苦手だと思っていたが、そうかもしれない」

「今のユリウス様は、初めてお会いした時とだいぶ印象が違いますもの」

「そう?」

意外だとユリウスは大袈裟に驚いて見せた。

「君の私の第一印象は?」

「えっ…?そ、そうですね」

正直、あまりの強烈さにネルソンに異常を報告してしまったくらいです、とは言いづらい。

が、目の前の期待に満ちた彼の様子に、なんとか言葉を捻り出す。

「こんな風に、2人だけで話すような間柄になるとは思ってもみませんでした。ユリウス様はとても美しくて。抱き上げられた時は…心臓が止まるかと…」

最後は尻すぼみになる。



「あぁ、あの時は我ながら気持ちが先走りすぎていたと思う」

ユリウスの頬が微かに赤らむ。

「君と話がしてみたくてトレバーを口説き落として君を護衛に加えた。あの時はもう必死だったよ。君があまりに可愛くて、うっかり近付きすぎると抱き締めてしまいそうで」

「…っ」

今度はソフィアの頬がさっと紅に染まる。

「ああ、あの時の君もそんな風に頬を染めていた。まるで天使が私の元に落ちてきてくれたのかと思った」

「あ、あぁぁの…」

頬を包む温かいもの、それがユリウスの掌なのだと気付いた時には、視界が漆黒に染まっていた。

「ソフィア、これだけは言わせて欲しい。先日の視察には数々の理由があったし、聖獣の件も折伏の件も、遠からずその理由に入っている。けれど、私は君の能力ゆえに惹かれたのではないんだ」

「……」

ソフィアは息を詰めて顔を上げた。

「ソフィア、今、我が皇国は未曾有の危機に瀕している。君の能力は皇国の一部の者にとっては危険すぎるほど魅力的だろう。私は、君をそんな我が皇国にと望んで良いのかとも悩んだ」

形の良い眉が寄せられ、ユリウスは言葉を切った。

「君は、ここでレーゼン殿と共に生きた方が幸せかもしれないと…」



「ユリウス様」

咄嗟に声をあげ、抱き寄せる腕にしがみつく。

「それは私の幸せではありません」

言葉が口をついて出た。

「ソフィア、それだけではないんだ。私は…、私と婚姻を結ぼうとした女性は、みな異常な形で…」

「それはユリウス様のせいではありませんでしょう?」

ユリウスにその先を言わせたくなくて、とっさに腕を掴んで遮った。

じっと目を合わせて、あぁ、この人が死神である筈がないと自然に思えた。

「ユリウス様は、私を連れて行かない理由を教えてくださっていますの?私にお別れを言いに…」

それだけで胸がギュゥっと痛んだ。

「違う!」

今度はユリウスが言葉を遮ってソフィアの腰を抱き寄せた。

強く強く引き寄せ、肩に顔を埋める。

「違う。それでも君が欲しい。君を他の男に奪われると思うだけで気が狂いそうになる」

ピリッと肌を流れる薄い膜のような魔力が乱され、ソフィアはビクッと身体をしならせた。

ゆっくりと身を起こしたユリウスの翡翠の瞳が艶めく。

「い、今のは?」

「あれは、…この髪飾りの魔力。それから、レーゼン殿の魔力。君を不埒な男から守護するものだろう」

「不埒なって…」

「他の男の魔力が君の肌を纏うなど…。一目見たときから死ぬほど妬いていた」

「…っ」

もう情報過多で言葉が出てこない。

レーゼン様もだけど…

「レーゼン殿が同調させている魔力を、私色に塗り替えてやりたいと、そう思うことを止められないでいる。こういう私は嫌?」

耳元で囁かれる、低く艶めいた声が心臓に悪い。

ソフィアはただ必死に首を横に振り、目を伏せた。

「そういう仕草は男を煽るだけだと、知らない?」

「…っ?」

すっと髪を一筋、ユリウスが持ち上げて口付けた。途端に頬を真っ赤に染めて俯くソフィアの頭上で微かに苦笑する気配がする。

「君は本当に危険だ。私の理性は試されてばかりだ」

呻くようなユリウスの声に、ソフィアは更に顔を上げられなくなった。



「ソフィア」

そっと顎に手を添えられ、視線が持ち上がると、翡翠色の瞳が一心にソフィアを見つめている。

「君が欲しい。君が私との婚姻で家族も友人も仕事も、祖国でさえも失ってしまうと分かっていても、私は君を諦められない」

そしてソフィアの手を握りしめ、静かに膝を折った。

「ソフィア、愛している。私の妻になって欲しい」

「ユリウス様。…私は…」

「ソフィア。こんなタイミングで言うのは卑怯かもしれないけれど、君の返事を聞く前に、もう一つ、君に伝えておきたい」

返事をしようとしたソフィアの言葉を止めるように、ユリウスが言葉をかぶせてきた。



「我が皇国はサイラス神からの加護を失いつつある」



更新が遅くなり申し訳ありませんでした。ユリウスを押し除けてレーゼンがソフィアを攫っていきそうな勢いで、作者自身、今後の展開をかなり迷っていました。

今回でユリウスの巻き返し!になりますように。

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