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21. 宣戦布告

この話の分、投稿が抜けていました。すみません。挿入します。


ドルッセン男爵家に着いて数時間のうちに、皇太子の前世にまつわるアレコレを知り、アメリアが侍女になった。

なんて目まぐるしい。



「ソフィア」

話し合いが終わった後、レーゼンはソフィアに目配せして呼び出した。

「はい」

「代わりの警護要員は手配した。お前はこっちに来い」

くいっと指で示された先には、真っ青な青い球体が浮かんでいる。

「これ、久しぶりに見ました」

サラマンダーの長たるレーゼンだけが扱える特殊空間。軍議などの秘密会議などで使われる。

ゼリーのようなぷよぷよの側面をツンツンすると、炎がゴォォッと燃え盛った。

「ソフィア様っ?!」

側にいたアメリアが焦って声を上げると、レーゼンがツカツカと歩いてきながら、アメリアを軽く手で制す。

「気をつけろ。ソフィアには危害が及ばないが、それ以外の者が触れれば瞬時に焼失する」

「し、焼失…」

軽く顔を引きつらせて、アメリアは2、3歩後ろに引いた。

「殿下、私とソフィアは打ち合わせがございますので、こちらで御前を失礼致します。ソフィアの代わりにネルソンを呼びましたので、間も無く参りましょう。それまでこちらでお待ちください。この館にはソフィアが張った結界がありますので滅多な者では殿下に危害を加えることはできません。ご安心ください」

レーゼンは一気に言い切ると、礼を取った。質問は受け付けないと暗に含ませて。




「アメリア様、後ほどご連絡します」

レーゼンの行動はいつも有無を言わせず強引だ。だが従わない訳にはいかない。

「では、殿下、ユリウス様。失礼致します」

「あぁ、ソフィア、世話になった。礼を言う」

皇太子がゆったりと笑みを浮かべて言うと、チラッとレーゼンを流し見た。

「アメリアのこともある。婚約者殿にも、くれぐれも宜しく伝えてくれ」

「ソフィア、入れ」

ソフィアの返事を遮り、レーゼンがソフィアの背を押した。するとソフィアが手を伸ばして球体に触れた先から青い炎が勢いよく吹き出て、グワッとその身を飲み込んだ。

「っ!」

レーゼン以外の者は一瞬、眼を見張る。

「心配ない、これでアレは安全だ」




************




「サラマンダーの大神官のレーゼン・ザインツだったか。部下をわざわざお出迎えとは過保護だな」

若干の呆れ顔は気のせいではあるまい。

「部下の監督は上司である私の務めです。特に彼女は優秀な神官ですが、まだ嫁入り前の身。要らぬ虫は排除する」

それが誰であっても。ギラリと眼を光らせて返すと、皇太子の横に立つ男が真っ向から受けて返してきた。

これか。

目下の俺の頭痛の種は。

「ユリウス・ルクレール殿。俺は回りくどいのは好まん。ハッキリ言う。ソフィアから手を引け」

「貴殿がソフィアの婚約者だからか?」

黒いオーラが部屋に満ちる。

この男の属性は闇かもしれないな。ユーフェリア国には存在しない、闇の属性。ルクレール公爵家の後継だから、か。

あぁ面倒くさい!なんだってこんな男に目をつけられたんだ、あの娘は。

「そうだ」

ええい。そういうことにしておこう、今は。

このままソフィアが行き遅れるくらいなら俺の妻にすればいいか、くらいの気持ちだったのだが。




後ろに控えている部下や護衛騎士がザワッと動揺しているが、これも後で何とかするしかない。

まったく。俺の仕事がどんどん増えていくな。

「令嬢の件はこちらで対応する。その代わり、彼女から手を引け」

いいな、と言葉を切る。

と、そこで横槍が入った。

「レーゼン。其方同様、部下を思う気持ちは私も同じだ。ユリウスは俺の腹心の部下。ここまで無下にされるとは遺憾だ」

「無礼は承知の上で申し上げている。だが、ソフィアを死神と噂される男に嫁がせようとは誰も思わないだろう。ただの噂とはいえ、リスクはリスクだ。あえて犯す必要はない。ほかに男はごまんと居るんだ」

言い切ってレーゼンは身を翻した。

これ以上の長居は無用だ。




「ソフィアが、私に好意を抱いているとしたら?」

後ろから低い声で一言。

言葉で人を刺せるなら、俺の心臓を一突きしかねないほどの鋭さで。

「夢でも見たか?」

さっきのソフィアの素振りからは、そんなものは感じなかったが。

視線だけで振り返ると、ユリウスがギラリと眼を光らせて好戦的に笑った。

「そうなったら、国が違おうと噂が何であろうと、婚約者がいても関係ない。堂々、奪わせてもらう」

これはユリウスからの宣戦布告だ。




レーゼンはそのまま身を翻し、その身を青白い炎の中に投じた。






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