表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/47

15. 抱っこ


無事?歓迎の宴も終わり、神楽舞も終えた。

あとは道中の警備だけだが、その大半は護衛騎士が担うので、神官は魔力的なサポートが主だ。



今回の皇太子の滞在は4日間の予定で、今日は初日。

早速というべきか、皇太子は寸分の時間も惜しむように視察を終えると午後は『休養』に入った。

「午後は1人だけ付いていけばいいそうだよ」

ミハエルが言って、昼食のトレーを下ろした。

食事は交代制で、ソフィア→ミハエル→ネルソンの順で取ることになっていた。

「今回は随分ゆっくりなスケジュールよね。体調が悪いわけでもないみたいだし」

首を傾げるソフィアに、ミハエルはピタリと動きを止めた。

「ソフィア、もしかして知らない訳じゃないよね?今回の視察の目的は、皇太子の女性絡みだってこと」

「え」

ええ!そんな理由?!

「皇太子がユーフェリア国に留学してた頃に知り合った女性らしいよ。相手は男爵令嬢だから正妃には無理だし。愛妾に口説いているんじゃないかな」

なんか、ミハエルの口からすごい言葉がスラスラ出てくる!

愛妾。男爵令嬢。皇太子が国を越えてやってくる!

身分違いの恋はまだしも、皇太子が国を超えてやって来るなんて、側近の苦労がしのばれる。




「視察は…」

「理由はどうあれ、こちらにもメリットがあるから受けているんだし、視察も真面目にやっているし。問題ないんじゃないかな、僕らには」

うーん、まぁ、そうだね。

無言で頷いて、ソフィアは立ち上がった。

「じゃ、ネルソンと交代してくる」

そして、振り返った所だった。

「ソフィア、後ろ!」

ミハエルの声がして、中途半端に振り返ったソフィアは、硬い何かにぶつかった。




目を上げれば、漆黒の詰襟、金の刺繍、肩から見えるシルバーのマント。

「失礼」

低めの声が上から降ってきて、咄嗟に傾いたソフィアの身体を逞しい腕が一本、支えていることに気付いた。

「あっ、ごめんなさい」

視線の先には、ダークブロンドの艶やかな髪から覗く翡翠色の瞳。

彼は…

死神だ。

ソフィアも、おそらく背後にいるミハエルも息を飲んだ。




「怪我はない?」

伏し目がちの睫毛が長くて、色気を纏う。

「は、はい」

あぁ、さすが死神とはいえ神と評されるだけある。整った顔立ち、翳りのある色気、艶やかな声。同じ人間とは思えない。

圧倒されたままのソフィアに、ユリウスは少し困ったように微笑んだ。

「このまま攫っていっても?」

「……っ、え?」

と、抱きかかえられたままの姿勢に気付く。

キャーーーー!公衆の面前で死ねる!!

「君を呼びにきた。連れていってもいい?」

さっとソフィアの膝の後ろに手を入れ、その身を軽々と抱きかかえた。

ちなみにソフィアの心中はギャーーーー!の一択で吹き荒れている。

「あ、歩けます」

慌てて降りようとするけれど、その力は強く、ユリウスはすでに身を翻していた。

「あ、あのっ」

「ルクレール殿。お待ちください」

後ろから鋭い声が上がり、ミハエルがさっと身を滑らせてきた。




「彼女はこちら側の人間。しかも任務の最中です。勝手に連れていかれては困ります」

目に剣呑な光を宿し、ミハエルがユリウスを止めた。ザァッと風が吹き渡る。シルフの魔力を使って牽制しているのだろう。

「その任務のことで彼女に用がある。午後の皇太子の休養に、彼女に付き合って欲しいから」

え、皇太子の休養に付き合う?

どういうこと???

いや、それよりもまず、おろして欲しいんだけど。




「そちらに人事権はない」

冷たい風がユリウスの頬を撫でた。切れそうなほど怜悧な風だ。

「風か。君はシルフの神官だね。神楽舞での君の笛は見事だった。なのに最後は私のせいで乱してしまい申し訳なかった」

すまない、と頭を下げるユリウスに、ミハエルも眉根を寄せた。

「午後の彼女の行動については、貴国の宰相に許可を得ている。もうすぐ出発だから呼びに来たんだ。そういう訳だから、攫っていってもいい?お姫様」

最後はソフィアに尋ねるように、顔を下に向け、甘く微笑む。

い、いやっ、本当、勘弁してほしい。お姫様抱っこなんて、恥ずかしすぎる。

「姫ではありません、ソフィアです」

身分も伯爵令嬢だ。姫は過分すぎると思い、そう訂正した。




「そう、ではソフィア。こちらへどうぞ」

優雅にそっと微笑むと、色香が目元に滲む。

この人、ほんと、危ないかもしれない。

そう思いながら、ソフィアは小さく頷いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ