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閑話 シルフ視点 1


僕はミハエル・アンドレッティ。シルフの上級神官だ。多くの者が成人後に入殿する中、訳あって13歳で入殿し、かれこれ人生の半分以上を神殿で過ごしてきた生粋のシルフた。



子供と言える頃からシルフの精霊舎を遊び場に、いや学び場にして、ありとあらゆるシルフの魔術や知識を身につけてきた。帰る家もない僕にとって、神殿は唯一の「我が家」であり、神官としての知識と技術を身につけることは、自身の居場所を守るための自衛の手段でもあったからだ。

そんな訳で、同年代の者と比べて僕の魔力は飛び抜けて高かったし、自らの生い立ちからか僕もいささかドライな目を持つようになった。



そんな僕の教育係として、いつの間にか1人の神官が常にそばにいてくれるようになった。

名はアレクサンドリア。とても有能な神官だが、性格は容赦なかった。

一度教えた魔術は使えて当然、一度教えた知識は身に付いていて当然。子供でも大目に見てくれることはなかった。



が。

そんなアレクサンドリアにいつ間にか慣れさせられた僕は、教育係として、また育ての親として彼女を尊敬するようになっていたし、彼女もまた、何だかんだと優秀だと言われた僕の面倒を見てくれた。

この十数年の付き合いで、僕とアレクサンドリアの間には、親子のような子弟のような、そんな曖昧な、だけど確固たる絆が生まれていたのだ。





************





ある日のこと。

僕はそのアレクサンドリアに呼び出され、大神官の部屋にいた。

「おはよう、アレックス」

「…たまには普通に入って来ぬか」

風の魔術で音もなく影もなく、突如として現れたミハエルに、早々のお小言である。

「あれ、シルフらしくと思ったんだけど。僕の技術はまだ稚拙で見るに耐えませんか?」

「そうではない。断りもなく、部屋の中に魔術で入ってくるのは礼儀の問題じゃ」

顔をしかめてみせるアレクサンドリアに、ミハエルは大人しく頷いてみせた。

今やシルフのトップ、大神官となったアレクサンドリアは、以前のように頻繁には一緒にいられなくなったけれど、たまには息抜きのように話す機会は設けてくれていた。




「それで御用は?」

相変わらず、爽やかすぎる笑みを浮かべるミハエルに、アレクサンドリアはスッと表情を消して言った。

「シルフの代表として、明後日の皇太子を迎える一団に同行するのじゃ」

「隣国の皇太子、ほんとに受け入れるつもりですか?」

返しちゃえばいいのに。言外にそう言う。

「視察する場所はこちらから指定しているし、大した問題ではない。そちらはな」

「今回の訪問の目的は、別にあるってことですか」

「でなければ、隣国の皇太子がこのように突然、押しかけて来たりせぬよ」

あー頭が痛い、と。アレクサンドリアはウンザリした様子で椅子を鳴らした。

「面倒事が?」

つまり、戦争のことだが、それは即座に否定される。

「そうではない。そちらの方がまだ…。ええい、あのバカが話に乗るからこのような面倒なことに…」

ブツブツと呟く上司を見て、だいたいの流れは読めた。





「ウンディーネですか?…違う?じゃ、サラマンダーのレーゼン様ですか」

すると、大変物憂げな仕草で、あっさり首を縦に振られた。

「今回の皇太子訪問の目的は女じゃ。留学時代に情にほだされ、まだ諦めきれぬらしい。正妃など到底望めぬ身分であるからさっさと愛妾として囲えばいいものを。まぁ良い。それは誰もが知る事情じゃ、探るものはない」

ブツブツ言う表情が、心底どうでも良いと言いたげだ。

だが、そこまで言って、アレクサンドリアはにやりと表情を変えた。

「このようなことに其方を出すのはどうかと思うがの、良い機会じゃ。ウンディーネの堅物さとサラマンダーの暴れ馬っぷりを存分に経験し、後に生かすと良い」

「……」

絶句した。

かろうじて表情を変えなかった自分を褒めたい。

「えーと。僕は、それなりに他の精霊の神官とも交流がありますので…」

そこまで言うと、ふんと傲慢不遜に鼻で笑われた。





「今までの経験なぞ子供の遊びじゃ。其方、ウンディーネが真に腹を決めて水をもって守護し、また破壊する様を見たことなどあるまい。サラマンダーもじゃ。あれの攻撃は我らの中で随一よ。駆け引きなど無用、防御の前に敵を殲滅せよと燃え盛る姿など見たこともあるまい」

僕は生粋のシルフだ。その上級神官として、それなりにプライドもあった。

ゆえに、どこかにシルフこそが最上位という思いもある。

そのせいか、他の精霊の力を褒め称えるかのようなシルフの長の言葉に、どこか複雑な思いになる。

そんな僕を見て、アレクサンドリアは噛んで含めるように言った。

「何のために我々は3精霊を頂くのか、今一度、考えてみよ。ミハエル、其方は我が子も同然、シルフに愛されし者。其方の技量はそこいらの者では太刀打ちできぬ。だがそれだけでは、まるで足りぬ。

我々とは全く違った世界に生き、全く違った方法で敵を排除してくる圧倒的な力と信念を、其方は知らねばならぬ。

ウンディーネとサラマンダーの真の姿、真の脅威をその身で感じて来るが良い」




僕は、アレクサンドリアの妙な迫力に押され、頷くしかなかった。

そうして、僕は一団に加わった。

サラマンダーとウンディーネの神官とは個人的に知り合いもいるし、だいたいの力もその特性も分かっているつもりだった。




そう、あくまで、「つもり」だったのだ。

僕は甘かった。

アレクサンドリアは僕には見えてないものを見て、シルフの名を背負い、そして戦ってきたのだろう。

この『同胞たち』と。




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