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12. 死神とサラマンダー



「ま、まぁ。私も人のことは言えない訳だけど…」

「婚約解消の回数は同じだが、あっちは疑惑が尽きない。全てのケースにおいて本人はシロだとされているが、真偽は不明だ」

「今回の訪問では要警戒人物くらいの認識でいいと思うけど。それより、ソフィア、僕たちは別のことを心配しているんだ」

ミハエルが言葉を選ぶように一度口を閉じ、少し声を低めた。




「あいつはリスクが高すぎる。くれぐれも気に入られないように、接触は控えた方がいいと思うんだ」

「え?」

「まさか、気づいてない訳じゃないよね?会談の後、ユリウスは明らかに君を見ていたよ。視線を取り繕うこともしていなかったし、見るものが見れば丸分かりだったと思う」

ぽかんとした顔のソフィアをみて、最後はため息混じりに口を閉じた。




「ま、まさか。…神官が珍しいとか?」

「本人も魔力に長けた万能選手だぞ。公爵家の跡取りなんだから当然だろ」

アホかと、ネルソンは目を細めてソフィアを見た。

「ミハエルが心配症なだけかと思っていたが、まさかここまでとは。その歳になって純情だとか初心だとかの言い訳にも無理があるぞ」

「はぁ?!」

なんですって??

カチーンときて、一瞬、燃やしてやろうかと思ってしまった。

「ストップ!ネルソン、それは言い過ぎ。ソフィアは賓客の間での警備の後で魔力も体力も酷使していた。あからさまな視線だったとは言え、距離もあった。気付かなくても変じゃない」

ミハエルが抑えてくれた。

「そしてソフィア。君も、気持ちは分かるけど、…ちょっとどころじゃなく、魔力が漏れてるよ」

気付いてる?と。

やや顔を引きつらせた。

「熱いぞ、さっきから。とんでもなくな。信じられん、サラマンダーの魔力は気配だけでも物質を消滅させ得るというのに」

ネルソンも若干、顔を青くしていた。





「あ、ごめんなさい」

つい熱くなってしまって、微量ながら魔力が漏れていたようだ。

「あのなぁ!サラマンダーは攻撃の要だぞ。それをこんな風に」

「だって、ネルソン酷いし。それに、死神が見てたなんて言われて動揺してたし」

「だからと言って、それに」

「はいはい、そこまで。炎と水でやり合わない」

と、そこで、またしてもミハエルが割り込んで仲裁に入ってきた。

と、深い深いため息を一つ。





「ソフィア、ネルソンの言う通り、サラマンダーの攻撃力は僕らの中でも随一だ。特に今は常に結界に魔力を放出しているし、神楽舞の影響もある。普段よりコントロールには注意して欲しい」

珍しくピシャっとミハエルが締めた。

「本当にごめんなさい。もしかしてミハエル、気分が悪い?」

なんだか、いつもより顔色が冴えない気がする。

指摘されたミハエルは、ハッとした顔をして苦笑した。

「うん、実はそうかも。僕はシルフ以外の神官とこんな風に長く居るのは初めてだから、君たちの精霊の力に正直慣れていないんだ」

「あぁ…」

それはそうかも。

神殿では適性を見て配属を決められた後、各部署での教育を受け仕事に就く。他の属性の神官と魔力を合わせたり任務につくことはほとんどない。

「シルフは風を司るから、突風や竜巻には慣れているけれど、炎はね。下手に動くと延焼させそうで気を使うよ」

「うっ…ほんと、ごめんなさい。気をつける。サラマンダーの部署じゃ、滅多なことでは燃えないようになっているし、燃えても魔力で焼失したものは復元されるように設定されているから、このくらいなら大丈夫かと。加減が分からなくなってた」

「え?」

「このくらい?」

平謝りするソフィアに、ギョッと2人が声を上げた。





「え?かなり微量だと思ってたけど?」

ネルソンが眉根を寄せる。

「微量だが強烈だぞ。今ほど酷くはないが、神楽舞の時もお前の背景に青白い炎が見え隠れしていた。サラマンダーの威嚇かと勘違いされてもおかしくないほどに」

「あぁ、それか。…えっとね、それはないから大丈夫だよ」

ソフィアは必死に頭を回転させながら、説明をする。

他の精霊の神官って、知識としてどこまでサラマンダーのことを知っているんだっけ?

「まず、神楽舞の時の青い炎は、サラマンダーではよくある現象だし、祝福って言われてるから、火傷とか爆発とかはないよ。それはさっき漏れてた魔力も一緒。暑いだけで攻撃にはならないよ。それに、基本、サラマンダーは威嚇とかしない」

「え?」

「……威嚇しない?」

「サラマンダーは攻撃一択だから。炎が見えた瞬間に死んでる」





しーん。





「あまり知られてないのかもしれないけど、熱いより冷たい炎の方が危険で、気配だけで焼失させるのはそっちの方。こっちは同じサラマンダーでも怖い」





ちーん。





表情をなくして黙り込む2人に何を思ったのか、ソフィアは言葉をつくして説明しようとした。

サラマンダーの魔力は基本、暑いだけで安全だから心配ないと。

だが、残りの2人は頭を抱えて溜息をつくばかり。

「冷たい炎?…さっぱりわからないぞ」

「ソフィアのクールさって、ほんと、たまに脅迫レベルで怖いよね」

「だから、熱いだけで、せいぜい火傷くらいだから!」

「火傷とか熱さに慣れすぎだろう、サラマンダーは」

「はぁ…」




3人の会話は延々と終わりが見えなかった。




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