表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/47

11. 視線


突然目が合ったソフィアは、ピシッと固まったように一瞬動けなくなった。

翡翠色の目に引き込まれて、息が止まる。

そして、なぜか強烈な存在感を身近に感じて、ソフィアは戸惑っていた。



はっ!いけない!

が、そこは必死に警護の目的を思い出して、さり気無く目をそらす。



な、な、なんだろう、アレ。

バクバクと心臓がうるさい。

もう一度だけ目をやると、もう男性はこちらを向いていなかった。




そこの部分だけ異様に暗いような、黒いような。

異常な魔力は感じないから問題ない?いや、でも念のためと、そっと魔力を使って外にいる2人に状況を伝える。




“ミハエル、ネルソン。こちらソフィアです”

“どうした”

ピシッとした口調でネルソンが即座に反応した。警護に支障がなければ通常使われない魔術だからだ。

“異常な魔力は感じないけれど、皇太子の側近の1人が異様な雰囲気なの。黒いっていうか”

“黒い?それって僕らと同じように魔力を放出しているってこと?”

そんな報告は聞いてないけど、とミハエルが答えた。

通常、賓客を受け入れるホスト国の神官が警護のため魔力を放出することはあっても、逆はない。それは攻撃とみなされるからだ。

“魔力ではないと思う。だけど、異様に暗いから気になって報告したの”

“名前は分からないのか?“

事前に渡された相手側の出席者リストを頭に浮かべてみるけれど、写真まではついていなかった。

“相手側の側近の1人としか分からない。ダークブロンドに緑の目、長身の男”

男の特徴を伝えて探ってもらうしかない。

“分かった。こちらで調べてみるよ。ソフィアはそのまま警護に当たって。何かあれば連絡して?”

ミハエルの声と共に通信は終了した。




なに食わぬ顔で警備を続けるソフィアの前で、会談はスムーズに進んでいく。このまま何も起こりませんように…。

そう願うソフィアの目の端には、常に例の男性がいる。

美形を見慣れた自分が言うほど、本当に超がつく美形なのだ。顔だけでなく、身に纏う雰囲気や仕草には気品ある色気があり、決して踏み込んではいけないレベルで美しい。

ただ、その分、美貌を彩る翳と、漂う黒さが異様に目立つけれど。



もしかして皇太子の愛妾とか?でも皇太子ってそっちの方だったのかな?両刀とか?

思わず勘ぐってしまうソフィアだが、彼の凛とした雰囲気から、そういったものを想像しにくい気もした。




そして、そのまま会談は無事終了した。





**********





そして午後。

お昼を済ませて、ソフィアたちは神楽舞の事前打ち合わせに一室を借り切っていた。

ミハエルは笛を、ネルソンは儀礼刀を、ソフィアは花の枝と扇子を手に、配置とタイミングを合わせていく。

簡単でいい。そもそも上級神官に昇進する際に神楽舞は必須で、ゆえに3人とも実力者なのだ。




神楽舞は、この世界の創造主である神に捧げる舞だ。

古代、全能の神ハデスには3人の子供がいた。

1番目の子はイライジャ、音楽を愛でた。2番目の子はニコライ、武を極めた。3番目の子はサイラス、地上の全ての植物を愛でた。

神話によると、この3番目の子サイラスがこの世界を創り出し、育んできたという。

そのため、創造主の血を引くとされる王侯貴族では、伝統的に3番目の男子が後を継ぐ。

また、ソフィアの実家、辺境伯家では継承権を持つ男子はギャレットのみ。そのような場合は長男が家を継ぐ。



練習後。

「例の男のこと、分かったぞ」

片付けをしながら、ネルソンが言った。

「ユリウス・ルクレール。ルクレール公爵家の3男で後継者だ。今は皇太子の側近として来ている。死神だ」

「えっ?!?」

途中までは理解できたけど、最後の部分は何?

目をパチパチと瞬かせるソフィアの後ろから、ミハエルのため息が聞こえた。

「死神っていっても、彼は軍人ではないし、誰かを殺したりはしていないよ。公的にはね」

ふ、不穏すぎる…。

「警戒が必要?」

だがしかし、相変わらず表情はクールなまま、ソフィアは尋ねた。




「そうではない。ただ…」

珍しく、ネルソンが言葉を濁した。

「ただ?」

「過去に婚約解消が4回。お前と同じか?4回だよな、5回か?」

「え」

4回よ、勝手に増やさないで!と怒るところ、ミハエルが割り込んだ。

「ネルソン。それって関係ないでしょ、今。話を元に戻すと、ユリウス・ルクレールの元婚約者は揃って事故死、病死、変死、あと1人は家が没落の憂き目に合っている。だから『死神』って陰で言われているんだよ」

「は」

はぁぁぁぁ?

声にならない溜息がハァっと漏れる。

なにそれ、状況が色々と自分と重なりすぎて、ほんと怖いんだけど!

「ネルソンも僕も、ソフィアに伝えるか考えたんだけど、どうせ知るだろうしね」

「お前と対極にあって、近いものもあるからな」

え?フォローされてる?ネルソンに。フォローになってない気もするけど。

いや、それは置いといて。




唖然として、ソフィアは二の句が継げないでいた。

過去4人の婚約者が不幸になった"死神"。

そっか、同じ4回の婚約解消でも、相手が全員幸せになったソフィアと死神は対極。




だけど、本当に?

ユリウスの目と強烈な存在感が、ソフィアの中でぐるぐる回った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ