1. 天使
R15にしていますが、保険です。初投稿のため、色々と後で変更する可能性があります。
ソフィア・ローズベルグ。
それは私の名前だ。
ユーフェリア国の神殿勤めの23歳。ごく普通、と言いたいところだが、残念ながらそうもいかない経歴の持ち主だ。
それは、そう、今この瞬間にも訪れようとしていた。
「ソフィア、君には本当に感謝している。婚約者として、僕はとても鼻が高かった。君は美しくて優しくて…」
「うん」
この後に来るであろう一言が予想されても、ソフィアは静かに待った。
「だから、本当に心苦しい。申し訳ないっ!」
突然そう言って、目の前の男性は土下座した。
喫茶店で。
衆人の目が痛い。
これは謝られているのだろうが、はっきり言って、やめてほしいレベルでの嫌がらせとも言える。
ソフィアは柔らかく笑みを浮かべると、やはり静かに口を開いた。
「とにかく座って?」
静かに微笑むソフィアをみて、男性はハッとした顔で周囲を見回して席に座りなおした。
「すまない」
そう言って氷が溶けかけたアイスティーに手を伸ばす。
「うん」
気にしないでと言った方が良いのだろうか、中途半端に沈黙が降りた。
「話は分かった。だから、もう今日は帰ろうか?」
そう言いながらソフィアは伝票に手を伸ばした。
「いや、ここは僕が」
「ううん、いいから」
「いや、そういう訳には」
「いや、本当に、後腐れなく終わりたいから」
「うっ」
ズバッと切るように会話を締めくくるソフィアに、男性は絶句した。
うん、分かってる。
ほんと、分かってる。
だけど…
だけどさぁ
これ4回目なんだけど!!!
婚約解消!!!
かろうじて貴族の矜持として顔色はそのままに、ソフィアは心の中で絶叫していた。
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どうしてなんだろう。
帰り道の足取りはどうしても重い。
ズーンと効果音が鳴りそうな程、心中は重苦しい。が、顔は無表情。貴族として育てられた矜持か、幼い頃からの教育の賜物か、はたまた4回目の慣れか。
泣けてくる。
「なんでまた」
ポツンとため息混じりに呟いて、ソフィアはかすかに眉を寄せた。
そう、この実に4回目の婚約解消こそ、ソフィアを「ごく普通の」という形容詞から遠ざける大問題だった。
1回目なら、いい。
人生にはそんなこともあると言えよう。
2回目なら、さすがに外聞が気になるが、ソフィアの場合、まったくこちらに非はない。責められる筋合いはないと胸をはれた。
そして3回目。
このあたりから、若干、周囲がざわつき始めた。当然だ。普通なら人生に1度や2度歩かないかの婚約解消が立て続けに3回もあるのだ。
そして今回の件で4回目だった。
もう後はないと臨んだお見合いで、人柄も温厚、経歴に問題なし、相手もソフィアを見て婚約を喜んでくれた。これならいけると踏んだソフィアの身に、またしても婚約解消。
なんなのだろう。
しかも、この4回とも、すべて相手方の都合によるもので、運命の相手と巡り合ったとか、過去の忘れられない元彼女と復縁したとか。
相手ばかりが幸せになった結果の婚約解消だった。
結果、巷では「恋を成就させる天使」として、ソフィアはすっかり有名になってしまった。
「大変不本意です」という言葉が、これほどしっくりくるとは。
「はぁ」
差し当たっては、帰宅してから家族になんと告げよう。職場の上司や同僚に何と告げよう。それが目下最大の悩み。
ソフィアはため息をつき、帰り道を急いだ。




