表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/47

1. 天使

R15にしていますが、保険です。初投稿のため、色々と後で変更する可能性があります。


ソフィア・ローズベルグ。

それは私の名前だ。

ユーフェリア国の神殿勤めの23歳。ごく普通、と言いたいところだが、残念ながらそうもいかない経歴の持ち主だ。


それは、そう、今この瞬間にも訪れようとしていた。


「ソフィア、君には本当に感謝している。婚約者として、僕はとても鼻が高かった。君は美しくて優しくて…」

「うん」

この後に来るであろう一言が予想されても、ソフィアは静かに待った。

「だから、本当に心苦しい。申し訳ないっ!」

突然そう言って、目の前の男性は土下座した。

喫茶店で。

衆人の目が痛い。


これは謝られているのだろうが、はっきり言って、やめてほしいレベルでの嫌がらせとも言える。

ソフィアは柔らかく笑みを浮かべると、やはり静かに口を開いた。


「とにかく座って?」

静かに微笑むソフィアをみて、男性はハッとした顔で周囲を見回して席に座りなおした。

「すまない」

そう言って氷が溶けかけたアイスティーに手を伸ばす。


「うん」

気にしないでと言った方が良いのだろうか、中途半端に沈黙が降りた。


「話は分かった。だから、もう今日は帰ろうか?」

そう言いながらソフィアは伝票に手を伸ばした。

「いや、ここは僕が」

「ううん、いいから」

「いや、そういう訳には」

「いや、本当に、後腐れなく終わりたいから」

「うっ」


ズバッと切るように会話を締めくくるソフィアに、男性は絶句した。


うん、分かってる。

ほんと、分かってる。


だけど…

だけどさぁ


これ4回目なんだけど!!!


婚約解消!!!


かろうじて貴族の矜持として顔色はそのままに、ソフィアは心の中で絶叫していた。





**********





どうしてなんだろう。

帰り道の足取りはどうしても重い。


ズーンと効果音が鳴りそうな程、心中は重苦しい。が、顔は無表情。貴族として育てられた矜持か、幼い頃からの教育の賜物か、はたまた4回目の慣れか。


泣けてくる。


「なんでまた」


ポツンとため息混じりに呟いて、ソフィアはかすかに眉を寄せた。




そう、この実に4回目の婚約解消こそ、ソフィアを「ごく普通の」という形容詞から遠ざける大問題だった。


1回目なら、いい。

人生にはそんなこともあると言えよう。


2回目なら、さすがに外聞が気になるが、ソフィアの場合、まったくこちらに非はない。責められる筋合いはないと胸をはれた。


そして3回目。

このあたりから、若干、周囲がざわつき始めた。当然だ。普通なら人生に1度や2度歩かないかの婚約解消が立て続けに3回もあるのだ。


そして今回の件で4回目だった。

もう後はないと臨んだお見合いで、人柄も温厚、経歴に問題なし、相手もソフィアを見て婚約を喜んでくれた。これならいけると踏んだソフィアの身に、またしても婚約解消。


なんなのだろう。


しかも、この4回とも、すべて相手方の都合によるもので、運命の相手と巡り合ったとか、過去の忘れられない元彼女と復縁したとか。

相手ばかりが幸せになった結果の婚約解消だった。


結果、巷では「恋を成就させる天使」として、ソフィアはすっかり有名になってしまった。


「大変不本意です」という言葉が、これほどしっくりくるとは。


「はぁ」


差し当たっては、帰宅してから家族になんと告げよう。職場の上司や同僚に何と告げよう。それが目下最大の悩み。


ソフィアはため息をつき、帰り道を急いだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ