94話 「計画的な成長アピール」
前回までのお話
メンテは1歳になった。
みなさんこんにちは。僕の名前はメンテ・ナンス。1歳の赤ちゃんです。
最近は名前を覚えてきたと思われています。そのせいか違う言葉を覚えさせようとみんなが必死です。今までも僕に教えようとしていましたが、よりその回数が増えたのを感じます。
「メンテちゃん、ここはおつむよ」
「んぐ~」
母は頭を指さして教えてくれます。
「……えぐ」プイッ
「メンテちゃん、どこ行くの?」
「うぐぐぐぐー」タタタッ
僕も母の真似をして頭をさわる……と見せかけ、ハイハイでおもちゃをとりに行きます。みなさんもうお分かりだと思いますが、これはもちろん演技なのです。
急に覚えるよりもバカな子アピールした後の方が感動は大きくなると思いませんか? あと自然に賢くなったよ! の成長アピールも出来ちゃうのです。これすごくないですかね。大発見した気分ですよ。
「メンテちゃん? ……全然こっちを見てくれないわね」
「奥様、メイド達にお任せ下さい。メンテ様が言葉に興味を持って貰うように頑張りますので!」
「あら、いいのかしら? カフェちゃんありがとう」
僕がおもちゃで遊んでいると、僕の都合が良い感じに話がまとまっていました。しめしめ。これを利用して1週間で言葉覚えたよ、すごいでしょ? と演技をしましょうか。少しずつ成長していく様子を見せつける計画なのです。
では、今日はその1日目。おバカな赤ちゃんアピールです! ということで今日は今まで通り普通に遊びました。1週間後が楽しみですねえ。
◆
2日目。
僕はたくさんのメイドさんと遊んでいます。
昨日話していた通りに言葉を覚えさせようとしてきますね。その様子をチラッとだけ見ます。
それ以上のことはせず、今まで通り遊びました。
3日目。
今日はチラッとではなく、少しだけ様子を見ます。少しずつ興味が出て来た感を演出します。
それ以上のことはしません。あとは今まで通り遊びました。
4日目。
昨日以上にじぃーっと見つめます。メイドさんもだんだんこっちを見るようになったと喜んでいます。
ついつい真似したくなりましたが、ここは我慢します。その後も今まで通り遊びました。
5日目。
メイドさんが言葉を教えようとしたらずっと見つめます。じぃーっと様子を見ます。
まるで覚えようとしている感が出てきたと思います。
6日目。
そろそろ僕は行動に移そうと思います。
「メンテちゃん、おつむはどこかな~?」
「……」じぃー
「まだまだ難しいのかしら。でも前よりも興味を持って見てるのよね」
うむ、僕の言葉に興味あるんだ感が伝わっていますね。カフェさんがみんなで頑張りましたと報告したところ、母は喜んでいます。近くのメイドさんも胸を張ってますよ。
では、それっぽい動きをしましょう。母の言葉にタイミングを合わせますよ。
「メンテちゃん、おつむはここよ。頭よ。タッチしてみて」
「ふわ~」
欠伸をしながら頭に手を当てます。そのあと目をこするような動きをします。どう思うかな?
「奥様、今見ましたか?!」
「ん~、どうかしらね。たまたまかもしれないし」
カフェさんは簡単に騙せましたが、母にはどうなんだ? と疑われていますね。でもこれでいいのです。
「もう1回やってみるわね。メンテちゃん、おつむはどこかしら?」
「えぐぅー」ぽりぽり
わざとらしく頭をかきます。
「奥様、やっぱり分かってますよ!」
「出来た……のかしらね?」
「みなさん、メンテ様が言葉を覚えましたよ」
「「「「「ざわざわ~」」」」」
「……きゃきゃ」
メイド達がその場を盛り上げます。僕は戸惑いつつ、笑います。母も雰囲気に流されて出来たのよね? みたいになってます。
これなら僕の計画に支障はさなそうです。よし、仕上げは明日ですね!
◆
7日目。僕が言葉覚えたよ~、褒めて褒めて! を実行する日です。今日は休みなので、僕の家族が全員そろっています。アピールするには絶好の機会ですね!
「本当にやるのー?」
「昨日は機嫌が悪くて見れなかったね」
これはキッズたちです。昨日はやってよと何度もしつこかったですね。今日のためにわざと見せませんでした。そういう計画なので。
「昨日はちょっとだけだけど出来たのよ。今日はどうかしらね」
「はっはっは、本当なら楽しみだ!」
家族の中で見せたのは母とカフェさんだけです。そのため、みんな本当に出来るのかと疑っていますね。
「きゃきゃ!」
「今日は機嫌良さそうね。メンテちゃん、おつむはどこかしら? ほら、おつむてんてん」
「えぐえぐー!」
僕はバンバンとお尻を叩きます。
「メンテちゃん違うわよ。そこはお尻よ」
「きゃきゃ!」
みんなが僕を見て笑っちゃいましたよ。まずはおバカアピール大成功です! 可愛いでしょ?
「えへへへへ。メンテ間違ってるよー」
「でもさ、ある意味オムツのほうが難しくない?」←アニーキー
「はっはっは。まあ一文字違いだからなあ」
「毎日聞いているから覚えたのかしらね」
「そういえばそうだね。メンテも成長してるなあ」←アニーキー
兄貴が結構するどいことを言います。相手が子供だからと侮ってはいけませんね。でも母がいい感じにフォローしてくれたので、僕は誤魔化す必要なかったです。
ふぅ、いきなり計画が破綻しかけて焦ったよ。でも落ち着いて深呼吸していたらアーネとアニーキ―が近づいてきました。
「今日こそやってねー」
「んぐぅ~」
「おつむじゃなくて頭のほうが反応するかもね」
「そうなのー?」
「えぐえぐ(そうそう)」
「俺見てるからアーネが試してみてよ」
「わかったー」
子供たちの話はまとまりました。ここで計画を実行ですね!
「えへへ。メンテの頭、頭。頭はどこー?」
「んぐぅ!」
僕はアーネの言ったとおりに頭をポンポン叩きます。
「「「「おお!」」」」
「きゃきゃ!」
「「「「ざわざわ~」」」」
僕のことをすげーとか頭良くなったとか話していますよ。喜んでざわざわ騒がしいのです。これですよ、これこれ。これを待っていたのです。もっと僕を褒めるがよい!!
「メンテちゃんも賢くなってきたのね。ママ嬉しいわ」
「えぐぐ~」
「パパも嬉しいぞ。そろそろ名前も行ってくれるともっと嬉しいがな」
「うぐ~!」
かくして順調に成長している演技は大成功したのです!
「でもメンテちゃんがね、赤ちゃんじゃなくなると思うとママ寂しくなっちゃうわ」
「うぐぅ?! ……ふぐうううぅ!!」
ぶふっ、ぶりぶり、ぶりぶりぶりりりーーーー。
「うわ?! メンテが急に踏ん張りだしたよ」
「ママー、うんち臭い」
「はっはっは。今日も快便だ」
「……オムツ換えなきゃ。まだまだメンテちゃんは赤ちゃんねえ。あーくちゃいわ。くちゃいわメンテちゃん」
僕まだまだ赤ちゃんなんです、だからもっと甘えさせてを伝えるためなら手段を選ばない。それがこの赤ちゃんことメンテなのだ! 恥なんてとっくに捨てている。今日もメンテは必死に体を張りまくったという。




