87話 「噂の新人冒険者 その5」
……あれ? 気付いたら哺乳瓶がなくなっていました。
これ以上のことを調べるには、テレパシーが必要であるという結論になっていました。僕の抵抗がおっぱい存続の危機を救ったようです。
「それにしてもメンテくんの感情は、ほとんど顔に出てましたね」
「にゃは、メンタルチェックしなくてもほとんど分かったの」
「「「「「ざわざわ(みんな大爆笑)」」」」」
今回のメンタルチェックの結果、メンテの態度がそのまま感情を表していると判明したのである。ただし暴走状態は除いてだが。
赤ちゃんだから表情を隠せない、そこが可愛いんだよなあとみんなに思われたのであった。
◆
「メンタルチェックはここまでにしましょう。そろそろ僕のアニマルパワーの説明をしようかなと思います。メンテくんのユニークスキルと同じ能力があるかもしれませんし」
「やったー!」「えっぐー!」
トマ兄さんは手を上げます。正の感情ですね。
「はっはっは、子供達も気になっているようだ。少し見せてくれないかい?」
「はい、わかりました!」
父に了承を得たので見せてくれるようです。
「まず”アニマルパワー”についてからだね。人間以外の生き物の力を使えるスキルを”アニマルパワー”って言うんだ。ちょっと見ててね」
トマ兄さんが体に力を込めるような仕草をすると、全身が黒い毛で覆われました。
「どうだい?」
さっきまで普通の人間と変わらなかったのに、今では全身が毛深くなっています。にやっと笑った口には牙があります。ぱっと手を広げると、肉球や爪が伸びているのがわかります。
「おお!」
「あぐぅー!」
僕と兄貴の目はキラキラです。トマ兄さんは手を上げます。正の感情ですね。
「えぐうううううう」両手広げる
「ん?」
「にゃは、お兄ちゃんに抱っこして欲しいんでしょ?」
「えぐえぐー!(うん!)」
「そうなのか。おいで」
トマ兄さんに抱っこして貰いました。ふむふむ、毛深いですね。僕は上に登って顔に近づきます。
「メンテくんどうだい?」
「うぐぅー。カプ」
「ぐわあああああ?!」
「ちゅぱちゅぱ~」
「鼻が、息がああああぁ」
人間の鼻とも違うなと思ったので口で触っています。どうやら全身が猫っぽく変化したようですね。これは興味深いね、ちゅぱちゅぱ。
「がははは! わしもよく鼻を舐められるぞ」
「ぬおおおお、誰か助けて~」
「にゃははははははははははは」
「「「「「ざわざわ~(笑)」」」」」
先ほどイブシじいじにガードされた分をトマ兄さんでペロペロしちゃいます。その様子を見てみんなが笑っちゃいました。
「……ふぅ。びっくりした」
「にゃはは、仲良くなれて良かったね」
僕はマト姉さんに抱っこされていますよ。服は脱いでいませんが胸が当たるので許します!
僕が鼻を舐めている間、ずっと正の感情だったそうです。もうトマ兄さんはスキルを解除して人間の姿に戻っています。
「こんな感じで肉体を変化出来るんだ。これがアニマルパワーだよ」
「かっこいいですね!」「うぐうううう!」
「はは、ありがとう」
戦うときに変身したらカッコよさそうだね!
「僕はね、戦うときだけアニマルパワーを使うんだ。普段は一般人なのに、力を解放したら本当は強いとかすごくカッコよくない?」
「めっちゃカッコいい!」「えぐぅ~」
本当にカッコつけてたようです。男の子の考えはどこの世界でも単純なのですよ。
「最後にアニマルパワーの魔法を見せたいんだけど……。身体強化の魔法ぐらいしか派手なのは使えないんだ」
「そうなんですか?!」
「えっとね、同じアニマルパワーでも全然違うんだよ。僕のスキルは身体強化に特化した猫の力なんだ。同じ猫の力でも攻撃魔法が得意だったり、戦闘に向いてなかったりと様々な種類があるんだよ」
「へえ~、それは知りませんでした。みんな体が丈夫だなぐらいしか……」
「身体強化をさらに特化させたスキルがアニマルパワーって言われてるからね。体が丈夫なのは間違ってないよ」
動物は人間より身体能力が優れてるところがあると言われます。アニマルパワーはその力を引き出すのでしょう。
僕の場合は多分猫です。そういえば前世でもネコ科の動物はいっぱいいましたね。その中からどの力が与えられるかランダムってことかな? トラとかライオンだったらいいなあ。
「あはは、おかげで冒険者としては活躍出来ているんだけどね。それに身体強化は珍しくないスキルだから魔法は使わなくても大丈夫かな?」
「えっぐううううううううううううううう!」バンバン
「にゃ、メンテくんがとても怒ってるよ?! お兄ちゃん何したの?」
「僕が悪いの?!」
僕は魔法が見たいのです。よし、もっと暴れちゃいますよ!
「うんぐぅううううう!」バンバン
「トマ兄。メンテは魔法が見たいと言ってるんだと思うよ」
「そうなの?」
「お兄ちゃん、魔法見せてあげたら?」
「でもここは部屋の中だから何か壊しちゃうよ……」
「なら庭に出てみるかの。今日のお礼に稽古でもつけてやろう。なあに、その様子を孫たちに見せれば魔法を見せられるし訓練も出来て両得じゃろ?」
急遽イブシじいじがトマト兄弟に稽古をつけることになったのです。