78話 「べったりベイビー」
前回までのお話
初めて立った(人の前で)。
初めて歩いた後、メイクに抱っこされるメンテ。今日はずっと祖父母から離れないと心に決め、甘えまくるサービスをするのだ。順番は午前中にメイクを、午後はイブシに甘えようと決めている。これは赤ちゃんなりに考えた最上級のおもてなしである!
「おばあちゃん大好きなのかな~?」
「うぐー(うん)」
「やっぱ孫は可愛いわね~」スリスリ
「きゃきゃきゃ」
メイクはメンテを抱きしめた。そのままずっと抱っこをするのだが……。
20分後。
「おばあちゃん疲れちゃったわ。誰かメンテちゃんを抱っこしてくれない?」
「うううう……」←嘘泣き
「え? 嫌なのかしら」
「えぐぅうう」スリスリ
「もう仕方がないわねえ」
「きゃきゃきゃ」
1時間後。
「おばあちゃん腕が痛くなってきたの。もうおろしてもいいかな?」
「うううう……」←嘘泣き
「どうしましょう。メンテちゃんが離れてくれない……」
「それねー、メンテ甘えてるの」←アーネ
「え? 本当かしら?」
「そだよ。それ甘えたい人にしかやらないんだよー。良かったねばあば」
「へえ、そうなの。アーネちゃん教えてくれてありがとうね」
「えへへー」
「んぐぅ」スリスリ
2時間後。
「……ちょっとダンディ。メンテちゃんどうすればいいの?!」
「なら母さんの代わりにパパが抱っこして『バシッ』……。どうやらまだなようだ」
「まだって何よ?!」
「はっはっは。それはメンテの気が済むまでだよ」
「メンテはいつも父さんに甘えてるからね。間違ってないと思うよ」←アニーキ―
「アニーキ―ちゃんもそう思うの?」
「今のメンテの甘え方は、父さんと遊ぶ時の姿とそっくりだよ。ばあばが大好きなんだね。俺もばあばのこと大好きだよ」
「あらやだ。嬉しいこというのね~。あとで何か買ってあげるね」
「わーい!」
近くでレディーがよくやったわと笑っていたという。
3時間後。
「ごめんね、ちょっとおばあちゃんトレイ行くわ。限界よ」
「うううう……」←嘘泣き
「もう、イブシも手伝って。ほらほら、おじいちゃんが抱っこしてくれるからね」
「うええええええええん!」←涙ぽろぽろの嘘泣き
「うむ、任せろ」
メイクはトイレに行った。するとメンテは、イブシをバシバシ叩いて追いかけろと暴れ出した。イブシにはメンテの言葉が伝わらなかったが、あやそうと立ってゆらゆら抱っこする形になると大人しくなった。そして、イブシはメンテがある方向にずっと指を向けているのに気付いた。
「もしかして、あっちに行きたいのかの?」
「えっぐ(うん)」
「がははは! わしに任せろ!」
「うぐぅ(やったー)」
イブシがメイクの方向に進むと静かになり、別の方向に進むと泣きまくる。それを繰り返し、二人はあるドアの前に着いた。そのドアをメンテはバンバンと全力で叩きまくった。
「えぐうううう(ばあばー!)」バンバンバンバンバンッ!
「ちょっ?! なんでこっちに来たの!!!」
「……いや、メンテがこっちじゃと」
「あ、あたいはゆっくりトイレも出来ないっていうの?!」
イブシは、なぜトイレの場所が分かったのか疑問に思った。メンテはおむつなのでトイレに来るのは初めてのはずである。そこまで考えたイブシだが、メイクが本気で怒っているので考えるのを止めて畳の部屋に戻った。実はこれこそメンテのスキルの力だったりするのだが、本人も自覚していなかったりする。
メンテはトイレからメイクが戻るまでずっと泣いていたという。もちろん嘘がつく方の。
時が進んで昼食の時間。
「さすがにお昼はレディちゃんよね♪」
「うううう……」←嘘泣き
「……まさかおばあちゃんと食べたいの?!」
「えっぐ(うん)」
「ごめんなさいね、お義母さん。メンテちゃんはね、食べるときは誰でもいいのよ。誰だろうとパクパク食べちゃうの」
「おばあちゃん頑張るわ……。おじいちゃんも手伝ってね」
「うむ」
祖父母はメンテの食事に付き合った。まだ上手に食べれないメンテはこぼしまくるのだが、器用なメイクは頑張って相手をしたという。イブシはオーラでメイクをフォローする完璧な連携プレーであった。そのため赤ちゃんでも楽しんで食べることが出来たという。
だが、おっぱいタイムが始まるとバシバシ叩かれ早くしろと理不尽に怒られるのであった。残念ながらこれだけは祖父母も管轄外なのである。
さらに時が進んで昼寝の時間。
「あぐううううう(こっちこっち)」バシバシ!
「あたいも一緒に寝てほしいの?」
「うううう……」←嘘泣き
「ふぅ~。わかったわ。おばあちゃんと寝ようね!」
「うぐ! えぐぅ……」じぃー
「ぬ、わしもか?」
「えっぐー(うん)」目キラキラ
「……しょうがない子じゃ」
祖父母は一緒に昼寝をしろと強制された。なお祖父母は疲れていたため、メンテと一緒に寝てしまったのである。そんな中……。
「……ふごごご?!(え?!)」
メイクが気が付くと息が出来なかった。ああ、あたいはもう死ぬのか。短い人生だったと思った。頭が重くて死を覚悟したのだが……。
「ふごぉ! はぁはぁはぁ~。なんでメンテちゃんが顔に乗っているの……。死ぬかと思ったわ」
メンテがメイクの頭を包み込んで寝ていただけだった。頭をぎゅうううっと抱き枕のようにしていたのだ。丁度メイクの鼻の位置にメンテのお腹があり、息が出来ないようにさえぎられていたのである。
もしこれがイブシやダンディだったら全力で殴っていたことだろう。だが、可愛い孫の寝顔を見ると怒る気は失せてしまった。特に演技をしなくてもメンテは普通の赤ちゃんなのである。
「ぐ~すぴ~」
「……もうちょっと寝ましょう。おばあちゃん疲れちゃった」
昼寝の後もメンテは、イブシに抱っこされながらアーネとアニーキ―と同時に遊ぶよう要求しまくった。オーラではなく腕を使わないと必ず嘘泣きをしていたという。3人の孫と必死に遊ぶイブシの側では、メイクがくたばっていたらしい。頑張れおばあちゃん!
その後も夕食、お風呂、夜寝るときまでずっーと祖父母に甘え続けた。この甘え続けている間、メンテは初歩きをしてから一度も歩いていない。というか一度もハイハイすらしない程徹底的に甘えていたのである。その事実に祖父母達は気付いていない。忙しすぎたからだ。
このようにメンテはひたすら甘えまくった! 彼の甘えっぷりには上限がないのだろうか? それを知る者はいないのだ。
祖父母たち二人は、一日ですっかりやつれていた。ずっと今日の様子を見ていたレンタカーは、孫と遊んでいたというよりも、ただ面倒な世話を押し付けられてるだけだなと思っていたのは内緒だ。ちなみにコノマチから来た大人達には、子供達がいっぱい甘えているなあと思われていた。あれぐらいならいつものことだなぐらいの感想であった。
後にメイクとイブシは、天国と地獄が同時にやって来たと語る。この忙しさがスキル鑑定の日までずっと続き、げっそり痩せたという。