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75話 「馬車の旅」

前回までのお話

王都に行く準備が出来た。

 今日、僕達は特急馬車に乗って王都へ向かいます。普通の馬車だと2日掛かるところを1日で終わらせちゃうのが特急です。朝出て夜遅くに着く予定ですよ。


 で、これは馬車に乗る前の出来事です。



「じゃじゃーん! これを見ろメンテ」

「んぐぅ?」

「ベビーカーのお休みモードだぞ~」

「うぐ?」



 父はまたベビーカーを改造したようです。通常モードと違い、お休みモードはベッドのような姿勢になっていますね。今までのベビーカーは座るタイプでした。でもこのお休みモードは、ベッドのようにごろんと寝転ぶことが出来る平たい空間になるのです。


 いやあ、これはベビーカーというより乳母車に近いね。どうやって改造したんだろう?



「少し前のことです。アーネ様がイスで遊んで頭から落ちて泣いてしまいました。なぜ危険なことをしたのか聞いたところ、イスを2つ繋げて寝ようとしたという話を父にしたのです」←カフェ

「それを聞いて旦那様と相談したのですな。メンテ様も落ちたら大変だ、それならイスを本当にベッドにすれば解決だな! となりベビーカーにこのような新機能が付いたのですぞ」←タクシー

「そういうわけだ。馬車だとメンテも辛かろうと思ってな。パパ頑張ったぞ!」

「へえ、そうなのね。パパ素敵よ」

「「いいなー」」



 おお、すごいですね。これならどこでもゴロりんと寝ちゃうことが出来ちゃいます。これはリクライニング機能が付いたと言ってもいいでしょう。ただ座ると寝るの2つしか選べないので残念です。でもみんなの反応から、こういう角度を調整出来るイスは初めて見たって感じがします。


 もし角度を自由に変えられるようになったら、この世界のイスも前世と同じぐらい発展するかもしれません。色々な商品が出ることでしょう。背もたれ変えられるようなソファとかそのうち僕が作ってみたいですねえ。



「ほほっ、それだけではありません。周囲に身体強化の魔法を発動させるので酔い止めも不要ですな」

「はっはっは。身体強化があるおかげだな。開発してよかったよかったー」

「えぐぐー!(そうだね!)」

「はっはっは!」「ほほっ!」「きゃきゃきゃー!」



 どうだ、すごいだろ? 俺たちのおかげなんだぜと新機能が追加されたベビーカーを褒めまくるバカ3人がいたという。温かい目で見られていたことは言うまでもない。



 ◆



 馬車を動かすのはタクシーさんとカフェさんです。馬は2頭、後ろに車輪と屋根付きの箱みたいのがあり、それを馬が引くようですね。この箱みたいものにナンス家の5人が乗り込み、王都までの移動中ずっと座るんだってさ。


 僕にはこの箱の正式な名前が分かりません。だって日本で馬車を見るとした漫画かアニメぐらいですよ。名前なんて知るわけないじゃないですか~。人力車なら分かるけど馬車はねえ。だから僕は、これを全部まとめて馬車と呼ぶことにします。


 ちなみにタクシーさんは護衛も兼ねています。まあタクシーさんなら一人で安心でしょう。


 僕は母に抱っこされながら中に入ります。僕がまだ赤ちゃんのせいかまあまあ広いと空間感じますねえ。だいたい8人ぐらい座れるかな? 僕はベビーカーのせいで一人分ぐらいの場所をとりますね。あとは荷物があるので実際に座れるのは5、6人ってところでしょう。まあ子供も多いしこのぐらいの広さで十分ですよ。



「ではいきまずぞ」



 そして、僕たちは朝の8時ぐらいに出発しました。1日だけですが、僕からしたら長い旅になるのですよ。楽しみたいと思います。



 ◆



「ねえパパ」

「どうしたんだいママ?」

「気のせいかもしれないのだけど、この馬車少し早くないかしら?」

「はっはっは。特急だからいい馬なんだよ」

「いや、そうじゃないのよね……」



 あ、特急って馬のことなんだ。馬車の構造に何かしらの工夫があり、それを特急馬車と呼ぶのかと思ってましたよ。



「はえー」

「えへへ。はやいよー」

「えっぐー(そだねー)」



 子供たちは大はしゃぎです。窓があるので外の景色が見えますよ。初めて馬車に乗りましたが、めっちゃ揺れるので乗り心地はそれほど良くないです。でも母の胸はぷるるん揺れますので僕もぷるるん星人です。



 ぷるるん、ぷるるん、ぷるーんぷるん……ってさっきから揺れがひどいね。



 浮いているベビーカーに慣れてしまったせいか馬車は微妙ですね。どうせなら馬車を改造した方がいいのでは思いますね。



「うぐぅー(ママー)」

「どうしたのメンテちゃん?」

「あぐぅー」指プイ

「ベビーカーに乗りたいのかな」

「えっぐ!」



 母はベビーカーに乗せてくれました。ふむ、やはりこちらは揺れが心地よいですなあ。電車の中でジャンプしても同じところに落ちるように、馬車の中で浮いていても問題ないのですよ。


 僕がぼけぇ~っとした顔で窓を覗きます。景色も乗り心地もいいね。僕の住む町からけっこう来ましたが、ずっと自然が豊富ですね。緑がいっぱい見えます。ここらへんは草原ですかねえ。山奥に入ったとかそういう深さの緑ではないですよ。



「あー、メンテずるーい!」



 僕のリラックスしている様子を見て、アーネがベビーカーが快適なのに気づいたようです。立ち上がってベビーカーの中に入ります。僕は小さいので二人一緒に乗っちゃうのはいつものことですよ。



「えへへ~、ここ全然揺れないね」

「んぐぅ~」



 僕は、アーネに人形のように抱き着かれながら外を眺めます。僕が泣くとここから降りることになるのをアーネは知っているのですよ。だから押し出したりはしません。仲良く2人で乗ります。



「……二人ともずるい」



 その様子を見て兄貴がぷんすかしていますね。仕方ないのでおしゃぶりを口に入れて、僕これ大好きなのアピールをしておきました。笑顔で兄貴を見つめると兄貴も大人しくなりましたよ。チョロいね!



 それからしばらくしたらコンコン、失礼しますとカフェさんが馬車の中に入ってきました。馬の操縦をする場所から中に入れるんですよ。このドアは馬が走っていても使えるので、いちいち止まるとか面倒なことはしないのです。まあ現在この馬車は止まっていますがね。


 ちなみに僕達はそれとは別のお客が乗る普通の入口から乗りました。ようするに運転する側と乗る側用の2つのドアがあるのです。それが今乗っている馬車の箱の構造です。



「今11時ですが村で昼食にしますか? それとも王都で食べますか?」

「「え?」」

「どっちでもいいよ」「わたしもー」「えっぐ(おっぱい)」



 なぜか両親が驚いています。ん、どうしたのかな?



「えっとカフェちゃん? 王都ってどういうことなのかしら」

「……、たった今ヤッドイパーイの村に着きました」

「「――えっ?!」」

「外をご覧ください」



 うん、外は村がありますね。



「嘘でしょ……」

「間違いなくヤッドだな」

「ヤッドは17時頃に着く予定でした。ですが予想より早くここに到着してしまいました」

「「「「「「……」」」」」」



 え? 早すぎない?! みんな静かになってしまいました。



「とりあえずそうだな……、タクシー!」

「お呼びでしょうか旦那様」



 タクシーが入ってきました。



「今の状況を説明して貰えるかな?」

「ほほっ、簡単な事ですよ。早く着いただけですな」

「いや、そういうことではなく……って、もしかしてあれか?!」

「多分そうかと」



 父とタクシーさんは、僕とアーネを見ます。僕達キッズは、きょとんとした顔で様子を伺います。僕何もしてないよ?



「え?! 身体強化って馬にも効果あるの?」

「そのようだ」「そう思いますな」



 兄貴がからくりに気付いたようです。それに答えるおじさん二人。



「パパ。これがあれば交通革命が起きるんじゃないの……?」

「いや、この現象はこのベビーカーがなければ無理だ。正確には酔い止めに使っている魔法の方だな。まさか人間より馬の方に予想外の効果があるとは。お試しのつもりが偶然新たな魔法を見つけてしまったようだ。これはナンス家の機密事項ということにする。絶対誰にも話してはいけないぞ」



 このベビーカーの使い方は、秘密ということになりました。馬が速過ぎて空飛ぶ時間とたいして変わらないレベルで走るんだって。


 そういえば、シロ先生が猫も身体強化が云々と言ってましたね。この馬はもろに影響受けていたようです。同じ魔法を使っても個人差が出るだね。それは動物も人間も一緒なのでしょう。僕は酔い止めぐらいの効果なのに、馬だけは超絶強化されるって笑っちゃうよねえ。



 昼食なのですが、村でテイクアウトして馬車の中で食べることになりました。普通に進むと馬車の振動がひどいので、今はゆっくりと移動していますよ。でも僕達はベビーカーを机にしているので、食べ物は多少揺れてもこぼれませんが。ふむ、なんて便利な使い方なのでしょう。このベビーカー万能すぎやしませんか?

 

 馬車の外では、この速度でも普通の馬車と変わらないとカフェさんが言っているような? まあ気のせいかな。僕はちゅぱちゅぱで忙しいのでちゅぱ~。




 そして、昼過ぎに王都に到着したのである。お休みモードを使う機会もなく、旅というよりただの移動であった。



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