72話 「おもちゃを使おう その1」
前回までのお話
シロ先生と友達になった。
僕の名前はメンテ。11ヶ月ぐらいになりましたよ。
最近はよく教会に遊びに行っています。同じような年齢の赤ちゃんに会ったけれども誰とも話が出来ませんでした。猫とは会話が出来るからといって、赤ちゃんと会話出来るみたいではないのですね。言葉を理解しているかの違いかな?
今僕は子供部屋にいます。床に寝ころびながら魔力ボールを持っていますよ。
深呼吸して心を落ち着かせます。シロ先生が、魔法は人間に聞けと言っていました。魔法は詠唱ではなくイメージが大事だと母が言っていたのを思い出したので、それを参考に力を込めてみます。
「あぐぅ!(火!)」
……全く光りませんね。変化なし。
「うぐぅ!(水!)」
……全く光りませんね。変化なし。
「えぐぅ!(雷!)」
……全く光りませんね。変化なし。
イメージしているのにどういうことかな? もしかして参考にしているのが兄貴の魔法なのでダメなのでしょうか。もちろんあのダサ~い詠唱部分はカットしているのですがね。真似したくないですもん。
「ぐぅ!(氷!)」
「あうー!(風!)」
「んぐぅ!(土!)」
「んぐぅう!(光!)」
「んぐぅうう!(闇!)」
……全く光りませんね。変化なし。
このボール壊れているのでは?? それなら納得です。いつもぶん投げてましたからね。それも分からないので誰かに聞きに行きましょう。
僕はくるんっと回ってハイハイを始めます。行き先は母……がいないので兄貴にしましょうか。
「えぐぐぐえぐぐえぐ!」
ボールを片手に持ってハイハイで移動します。兄貴は本を読んでいますね。僕のことを気付いてもらおうとボールを持って兄貴の足を叩きまくります。バシバシッ!
「痛い痛い痛い! え、なに? メンテやめて」
「きゃきゃきゃ!」バシバシバシバシッ!
あ、ボール壊れているんだった。毎回投げたり叩いたりするのがよくないんだね。僕は兄貴の足を叩くのを止め、兄貴の服を掴んでつかまり立ちをします。
「どうしたのメンテ?」
「うぐぅ(これこれ)」
魔力ボールを兄貴に見せます。これ壊れてるんだよ!
「これで遊んでたの?」
「えぐ!」じぃー
「え? どうしたんだろ。光らせてほしいのかな」
「えっぐうう!」目キラキラ
「……本当にメンテはわかりやすいね。じゃあ貸してー」
僕は素直に魔力ボールを渡します。兄貴はボールを持つと変な技名を唱えます。
「アニーキ―・スペシャル☆スリー!」
兄貴の魔法名は相変わらずダサいです。でもボールは光り始めましたね。わぁお!
「ぐぅ?」
「これは火と水と雷の力を込めたんだよ。カラフルでしょ?」
おお、すごいですね。でもすぐに消えてしまいました。
「魔法を同時に使うのは難しいんだよ。僕のスキルで一応出来るんだけどね」
今スキルって言いましたか?!
バシバシと兄貴を叩きます。痛いよと言ってますがそれどころではありません。僕にスキルを教えてよ、兄貴ー! バシバシバシッ!
「ふふふ、今の技名の由来を聞きたいんだね! 実はね、これは……」
「カプカプ(違うよ)」
「あああ?! ちょっとメンテ噛まないでよ~」
「かぷぅー」
「もしかして違うの? じゃあ他の魔法をボールに」
「カプカプ(それも違うの)」
それから兄貴に何度も噛みました。何度も噛んでいたらやっとスキルの話がでました。
「じゃあスキルのことかな?」
「えっぐぅ~」ひょい
「そ、そうなのか。メンテはなんて分かりやすいんだろう……」
「んぐぅ」
噛むのを止め、兄貴の顔を見て目をキラキラさせます。可愛い声で教えて~とおねだりします。
「俺のスキルのは"賢者"だよ。普通の人よりいろいろな魔法が使えるんだ。ちなみに母さんも賢者だよ」
「えぐぅ?!」
な、なんだとおおおお?! 母のスキルは賢者だそうです。もしかして僕も魔法いっぱい使えるんじゃない??
「うぐううううううううううううう」バシバシバシ
「もー、痛いってば」
「ちゅぱ~」チラっ
「……そういう問題じゃないんだけどね」
叩くのも噛むのもダメだそうです。兄貴は注文が多いですね。
でも兄貴におかげで魔力ボールが壊れていないこと、それと”賢者”というスキルがあるのが分かりました。僕にはまだ目覚めていない才能があるのかもしれません。
「あぐううううううう(魔法の使い方教えて)」
「ボールで遊びたいの?」
「えっぐ!(うん!)」
「それじゃあ一緒に遊ぼうか」
「だぁぶうううー!」
それから僕の魔法を検証すべく楽しく遊びました。魔力ボールは全く光らなかったけどね!




