60話 「おねだりタイム」
前回までのお話
幼馴染と少し遊んでみた。
そろそろ祖父母が王都に帰ると聞きましたよ。そのせいか家族のみんなはおねだりを始めました。
「ママー。何かかわいいもの欲しいの」
「おばあちゃんに言ってみなさい」
「わかったー」
「母さん、新しい魔法の本が欲しいってじいじに言っても『わし分からないから無理』だって」
「おじいちゃんは魔法を使えないからね。メンテに見せたいからと付け加えて説明するといいわよ」
「うん。ちょっとじいじのところ言ってくるね」
「ママ、新しい素材が欲しいんだが」
「それは何に使うのかしら?」
「ベビーカー……じゃなくて新しい魔道具かな、はっはっは」
「……怪しいわね」
「べ、別に何でもないぞ。ベビーカーにも使えるかもとたった今思いついただけさ。それより素材だ!」
「お義母さんとお義父さんに言ってみたらいいじゃないの。早くしないと帰っちゃうわよ」
「いや、もう言ったんだ。でも断られて困ってるんだ……」
「じゃあメンテのために使うって言いなさい」
「それだ! ありがとうママ。愛してるよ」ちゅっ
先ほどから僕の名前を出しに使うの止めて貰えませんかね? ちゅぱちゅぱ~。
それより僕でおねだり成功するとは思わないのですが。ちゅぱちゅぱ~。
いや、チョロい祖父母ならあるのかなあ。ちゅぱちゅぱ~。
「えっぐぅ~!」
「やっとおっぱい終わったの。遊びに行こうね」
「えぐぐぅ!」
よし、祖父母の様子を見に行こう!
◆
母に抱っこされながら畳の部屋に入ると、アーネとアニーキ―が喜んでいました。あれはおねだりが成功した顔ですかね。アーネはメイクばあばに、アニーキ―はイブシじいじにくっ付いています。これも母の入れ知恵かな?
「おお! ママ、メンテ。丁度いいところに来たな」
「どうしたのパパ?」
「ぐぅ~?」
「はっはっは、メンテは新しい魔道具を見たいよな?」
「えっぐうううう!」←目キラキラ
「……はぁ、分かったわよ。今回だけね。イブシが取って来なさいよ」
「うむ、仕方あるまい」
あ、父に利用されてしまいました。急に聞かれたから考える暇もありませんでした。まあ魔道具を見たいと言えば見たいし別にいいかな。イブシじいじが取ってくるってことは、狩りなり探索するのかな? それはそれで気になりますがね。
祖父母は、父のおねだりを断ることを諦めたようです。間違いなく僕のせいですね。いや、きっと僕のことが大好きなんでしょう。僕も二人とも大好きですよ!
よし、今日は僕が二人の心をケアしてあげましょう。
僕は母に抱っこされています。ハイハイしたいと暴れると、察してくれたのか畳の上におろしてくれました。そのままメイクばあばのところまで一直線にハイハイします。
「あらーメンテちゃんじゃない。どうしたのかな?」
「うぐぅー」
「メンテも抱っこしてだってー」←アーネ
「はっはー。もう二人とも可愛いわねえ」
「えへへ」「きゃきゃきゃ」
メイクばあばは僕とアーネを同時にぎゅうっと抱きしめました。みんなで笑っちゃいましたね。
しばらくすると、アーネが母のところに走って行きました。僕の耳には報告し合っている声が聞こえますね。メイクばあばに聞こえたらがっかりしそうだなあ。ここは聞こえないように甘えておきましょう。それ~!
「えっぐ!」スリスリ
「はっはー。メンテちゃんは本当に可愛いわねえ。もうぎゅうううううううってしちゃうわよ」
「きゃきゃきゃ」「はっはー」
メイクばあばとしばらく遊びました。僕を下におろそうとすると嘘泣きをしてずっと抱っこさせます。そのまま頭をくっつけ、母性をくすぐるような可愛い声を出します。えぐえぐ~。さらにスリスリして匂いもしっかり嗅ぎます。メイクばあばが僕に何かするたび、ニッコニコの笑顔で答えます。こちょこちょされたら元気に笑っちゃいますよ。
これぞ『孫の赤ちゃんはおばあちゃん大好き攻撃』です!
普通は人見知りの赤ちゃんを抱っこすると、体をのけ反り引っ付くことすら嫌がります。僕は人見知りしない赤ちゃんと認識されているので、これを利用して甘えまくっているのですよ。
メイクばあばはずっと幸せそうな顔でした。癒されたでしょ?
次はアニーキ―が母に報告しに行きましたね。アーネもアニーキ―もバレないようにこっそり行動して欲しいものです。今度はイブシじいじのところに向かいましょう。尻拭いは僕に任せて!
◆
ハイハイでイブシじいじに近づいた僕は、『孫の赤ちゃんはおじいちゃん大好き攻撃』をします。
具体的には先ほどメイクばあばと同じです。めちゃくちゃ甘えまくる作戦ですね。ただ、イブシじいじは顔に表情があまり出ません。全くというわけではないのですが、基本的にいつも冷静なのです。
「あぐぅー」
「どうしたメンテ」
「うーあーっぐ」
まずは抱っこしてもらい心臓の音を聞きます。はたから見れば頭を胸に押し付けて甘えているように見えますね。これも作戦のうちです。
イブシじいじはオーラというユニークスキルがあります。オーラで僕を浮かばせる遊びをすると最初は笑いますが、腕で抱っこして欲しいと嘘泣きをします。これで繰り返して、イブシじいじにもっとくっ付いていたいのアピールです。
ぎゅっと力を入れてくっ付きます。おお、心臓の鼓動がちょっと早くなりました。表情はさほどですが、効果はあるようです。もっと大好きアピールしましょう!
「メンテは甘えん坊じゃ」
「うぐぅ~」スリスリ
僕の気持ちが伝わったようですね。では行きましょう!
「ん~、かぷぅ」
「うおおお?!」
あごを甘噛みします。髭がないので痛くないですね。ちゅぱ~。
心臓の音をチェックすると、鼓動が早いです。力を入れてぎゅっと抱き着きます。めちゃくちゃ甘えているように見えるでしょ?
「そんなにわしが好きか」
「んぐぅー」
甘噛み作戦は効果がありました。少しですが表情が笑っています。僕はずっとその顔が見たかったのですよ。
「そろそろご飯よー」
「「「「「「はーい」」」」」」「えっぐー!」
しっかり甘えて祖父母の心を癒せたと思います。
時間ですね。そろそろみんなのお腹がすく頃なので食堂に向かいましょう。今日はメイクばあばが僕を抱っこして連れて行ってくれるようです。優しく持ってね!
◆
ふふふ~ん。ふんふふ~ん♪
「今日は機嫌が良いのう。メイクや、何かあったのかの?」
「そういうイブシだってそうでしょ」
「がははは! メンテが甘えてきてな」
「あら、一緒ね。あたいもすーごく甘えて来たわよ。なんてかわいい孫なのかしら」
「どうやらお互い好かれたみたいじゃ」
「はっはー。本当よね。少し長めの滞在だと思ったけどこれで良かったわ」
「うむ。次会うときに忘れてないといいのう」
「そうねえ。でもまだ赤ちゃんだからすぐ忘れちゃいそうよね」
「あ、またメンテが白目むいてるー。えへへへへ」←近くにいたアーネ
「「メンテ(ちゃん)?!」」←祖父母
メンテは9か月になりましたが、まだまだかわいい赤ちゃんなのでした。




