51話 「祖父母が来た その2」
祖父母はなかなか馬車から降りてきません。でも屋敷側にいる人は誰も動じずに待っています。いつものことなの?
……よし、暇なので暴れましょう!
「えぐうううー」バタバタ
「ちょっと待ってねメンテちゃん。おじいちゃんとおばあちゃんにもうすぐ会えるからね」
「はっはっは。歳をとると立ち上がるだけでも大変なんだよ」
「うぐぐー!」バタバタバタ
いつも馬車から降りるのは遅いらしいです。みんな中の状況を知っているのかな? 僕は祖父母の無駄な会話がずっと聞こえているからね。まだ会話中なの分かってるんだ。早く来てくれないかなあ。えっとなになに~?
「一番会いたいって言ってたお孫さん暴れ始めましたよ。早くしないと機嫌が悪くなってふれ合いすら出来なくなりますよ。てか赤ちゃんのお孫さんよりも早く泣くの止めてくれませんかね?」
「……ふぅ落ち着いてきたわ。行きましょうか」
「わしはまだなんじゃが」
「眠くて欠伸をしたお爺ちゃんの設定でいいじゃないの」
「そうか。それでいこう」
「まだですかー?」
「今行くわよ」「行くぞい」
「じゃあお孫さん達呼んできますよ。合図したら来てくださいね」
ついに出てくるようです。ふぅ、やっと祖父母の顔が見えますね。
「すいません、お待たせしました。そろそろ出て来ますよ」
「じいじばあばまだー?」
「歳をとると馬車は疲れるようでして。アーネ様、おじいちゃんとおばあちゃんを応援してください」
「応援したらくるのー?」
「はい、元気が出てすぐ出て来ますよ」
「じいじー、ばあばー、頑張ってーーー!」
アーネはピュアハートなので応援頑張ってますね。
「どうやらアニーキ―様も一緒じゃないと元気が出ないようです」
「えーそうなの? お兄ちゃんも応援しよー!」
「……俺はゆっくり来ればと思うけどね」
「早く応援したほうがいっぱい魔法を見てくれますよ。では二人ともご一緒に!」
「じいじー、ばあばー、頑張れー!」「じいじ、ばあば、俺の魔法見てー!」
……ヒーローショーでも始まるのかな?
すると馬車から二人のお年寄りが出て来ました。
「二人とも応援ありがとう。おばあちゃん元気になったわ!」
「旅が長かったから疲れて寝てしもうたわい。今の声で目が覚めたから助かったぞ」
「じいじー! ばあばー!」
「遅いよもう」
この老夫婦は、どこぞのご当地ヒーローでしょうか。アーネが駆け出し、ばあばと呼んでいたお年寄りにくっつきました。アニーキ―は少し照れていますね。
「父さん、母さんお帰り。孫が早く会いたいってはしゃいでさ。はっはっは、もう大変だったよ」
「お義父さん、お義母さん、こんにちは。ご無沙汰しております」
「うむ。レディーちゃん久しぶりじゃのう」
「レディーちゃん久しぶりね。うちのバカ息子が暴走しなかった?」
「フフッ、問題ありませんでしたよ」
「わしは少しぐらいならええと思うがのう」
「あの子は何かと問題起こすから注意してなきゃダメよ」
「はっはっは。その話は私がいないところでして欲しかったな」
どうやら父であるダンディ側の祖父母になるようです。つまり僕のおじいちゃんとおばあちゃんです。で、名前はまだですか?
「んぐぅ~?」
「メンテちゃん挨拶しようね。僕メンテだよ~。じいじ、ばあばよろしくね!」
母が僕の腕を持ってぶんぶん振り回します。しゃべれないので自己紹介できませんからね。今回はこれでいいのですよ。それに、この方がまだ何も分かってない赤ちゃんぽいよね!
「メンテちゃん、こんにちは。あらあらあら、大きくなったわね。あたいはメイク・ナンスって言うの。あなたのおばあちゃんだよ~。名前が決まった時に一度会ったことあるのよ。おねんねしてたから覚えてないかな」
僕をめちゃくちゃ顔を撫でるのは、メイクおばあちゃんですって。父と同じ金髪ですが、ボリュームがすごいですね。お婆ちゃんという年齢ではなく、多分50歳ぐらいかな? 普通にどこにでもいるおばさんって感じです。
とりあえずメイクばあばと呼びましょう。僕がしゃべれるようになったらどう呼んでほしいか聞けばいいですよね。顔はしっかり覚えましたよ!
「わしはイブシ・ナンス。お前のじいちゃんじゃ」
メイクばあばが邪魔で僕にさわりたくてもさわれないのはイブシおじいちゃんだって。こちらはイブシじいじと呼びましょう。こっちは寡黙そうな爺さんですね。
髪は白というより少し銀色? かな。服も鎧みたいなものを着ていますが、これまた銀色っぽい色合いです。全身灰色のような銀色をしたおじいちゃんですね。僕の錯覚なのかわかりませんが、全身に謎の銀色のオーラが見えます。年齢的にはシニアなのにシルバーなのですね!
う~ん、二人ともただの年寄りではなくまだ現役バリバリな気がしますよ。孫と話すときは砕けた話し方になりますね。他の人の前だとキリッとしていますし。知らない人から見たら、威厳のある感じがする人? ってやつですかね。でも子どもには甘い言葉を使って話すようなタイプですよ。
僕は祖父母の年齢がもっと上かもと想像していましたが、結構違いましたね。若いねえ。
「ほほっ、相変わらずお元気そうですな」
「そちらも元気そうじゃな」
「タクシー久しぶりね。レンタカーは毎日頑張っているわよ。最近あなたに似てきたわね」
「私の息子ですからね。もしサボっていたら罰でも与えなければいけませんでしたな。ほほっ」
「相変わらず父さんは厳しいなあ」
レンタカーさんはタクシーさんの息子で確定ですね。みなさんフランクに話し合っています。話が長いので心にメモでもしましょう。カキカキっと。
「それにしてもまた使用人が増えたわね。あたい達が住んでい頃とは思えないほど多いわよ」
「……メイドが増えておるのう」
祖父母は昔ここに住んでいたらしいです。すると一人の使用人が近づいてきました。
「イブシさん、メイクさん。それとレンタカーさん、ご無沙汰しています」
「あらソノヒトじゃないの」
「久しいな」
「ソノさん久しぶり~」
この人は、ソノヒト・コサンというナンス家の男性使用人の中でナンバー2の人物です。魔道具作りを得意とする一族で、昔からナンス家と一緒に働いています。昔のナンス家の使用人は、タクシーさんの一族とコサンさんの一族だけだったそうです。現在コサン一族は、お店の管理を任されているほど信頼されていますよ。
ナンスを内側から支えるのはタクシー、外側はコサンだよとメイドの誰かが言ってましたね。最初は意味がわかりませんでした。でも今では精神的な支えをタクシーが、仕事やお金などをコサンが支えていって意味かなと思ってます。
先程から祖父母が使用人が増えたと言っているのですが、それはダンディが当主になってからだそうです。正直な話、家の中だけどお店にいるのかな? ってぐらい人が多い感じだもんね。そういえば父と母は何歳なの? この後の会話で出て来るかなあ。僕しゃべれないから、そこらへんが不便だよねえ。
「毎年使用人は増加しておりますゆえ知らない顔も多いかと思います。そこで使用人一同、顔を覚えてもらいたいとサプライズを用意しております。我々のおもてなしを見てくれませんか?」
「見たい……じゃなくて期待外れだったら帰ろうかしら。イブシもそうでしょ?」
「ふむ、楽し……ではなくわしらを驚かせてみせよ」
「メイク様もイブシ様も早く見せろコノヤローとおっしゃってます。変な態度ですが気にしないでください」←レンタカー
「許可をいただきありがとうございます。ではご覧ください」
祖父母は、急に出来るものならやってみなさいという態度になりました。途中で威厳を示したいと思いだしたのでしょうね。僕にはツンデレ老人にしか見えませんよ(笑)
そして、使用人が盛り上がっていた理由はこれでしたか。こうなることを予想していたんだね!
何をするのか楽しみです!