46話 「歯が生えた」
前回までのお話
鏡でこの世界の自分の姿を確認した。
僕メンテ。ナンス家に生まれた可愛い赤ちゃんです。最近なぜかとても口の中がかゆいのです。
「ちゅぱちゅぱ~、んぐぅ」
僕はおしゃぶりを噛みまくります。適度にいい感じなのですよ。このおしゃぶりは兄貴が選んでくれたものですよ。いつも僕が寝るベットの上に置いてあるので、邪魔だなあと思ってぶん投げていました。
まさかこんなに感謝をする日が来るとは思いませんでしたね!
兄貴は僕がおしゃぶりを使っているので喜んでいます。やっと使い方が分かったのかと満足気ですね。
「ほらメンテがおしゃぶり使ってるよー。これ俺が選んだんだよ」
ほらほら、兄貴は使用人に言いふらしていますよ。また僕の噂が増えると思うと恥ずかしいです。
◆
僕が母のおっぱいタイムを満喫しているときでした。
「あら?」
母は僕をおっぱいから遠ざけます。目を見開き、もっとくれと暴れますが母の目は僕を見ていませんでした。どうしたのだろうと思うと、母は自分の胸を見ています。そして、僕を見ると強引に口を開けました。
「んぐ?」
じぃーっと口の中を観察していますね。
「やっぱりね」
なぜか興奮しています。どうしたのでしょう?
「メンテちゃん歯が生えてきたわ。大きくなったのね、よちよち~」
「あぐぅ?」
まじで?! ついに歯が生えるまで体が成長したようですね。母が僕の口の中に指を入れ、下の歯茎を触ります。
「ここが白いわね。一本いや二本かな? ちょっとだけ歯茎から出てきたようね。あとでみんなに報告しましょ」
「んだぁ!」
どうやら下の歯が生えてきたみたいです。全部揃うのはいつごろになるのか楽しみですね!
「歯があると痛いのよねえ。メンテちゃんはいつまでおっぱいが必要になるのかしら」
「……えぐぅ?」
前言撤回です。楽しみが減ります。でもこれは僕の力では止めることはできません。勝手に成長するのでね。ううう、諦めたくはないのですよ!
僕は考えます。歯が生えるとおっぱいを吸うときの弊害になります。これからもメイドさん達にも吸いまくる予定なのです。これでは痛いと嫌がってしまいます。
くそっ、いったいどうすれば……。ダメだ、何も浮かばないよ。
ついに僕の赤ちゃん生活最大の危機が訪れたのです!!
頭をフル活用して考えます。この問題の解決策はあるのか、絶対ある。それは何だ……。僕が悩んでいると、母が抱っこしておっぱいタイムが再開されます。
ちゅぱちゅぱ、落ち着け。よく考えろ……。ちゅぱちゅぱ~。
「アニーキ―が、正しくおしゃぶりを使っていたとはしゃいでいたわねえ。やっぱり口の中がかゆいのかしらね」
母は独り言をつぶやきます。僕より兄貴のはしゃいでいた噂が広まっていました。もう兄貴ったら言わんこっちゃないです。まあ僕赤ちゃんだからおしゃぶりぐらい使っても問題ないよね? 兄貴は恥ずかしくないのかな??
……ん? 僕は赤ちゃん? 赤ちゃん……、あかちゃん……。
こ、こ、こ、これだああああああああ!!!
びびっときました。あとは実践あるのみです!
◆
今、僕はメイド達と遊んでいます。
「メンテくんに歯が生えたんだって」
「知ってるよー」
「お口開けないかなあ」
この人たちはよく遊ぶメイドさんです。ええっと名前は何だっけな? まあそれはそのうち覚えればいいのです。僕は行動に移りますよ!
「だあー」
「あ、口の中が見えるよ」
「下に白いのあるね。これかな?」
「まだ完全に生えたわけじゃないんだ」
まずは口を開けます。覗き込んだのを確認すると、口を少し閉じます。
「あ、見えなくなっちゃった」
「もう少し見たいなあ」
「かわいい歯だったねえ」
メイドの一人が人差し指で僕の口元をツンツンしました。よし、今だ!
「……んぐぅ!」
「きゃ?!」
すかさずかぷっと指を噛みます。突然僕が噛んできたので驚いていますね。ここからが勝負どころです。よし、気合を入れていくよー!
「……あれ?」
僕は指を優しくちゅぱちゅぱします。そう、これは甘噛みです。怪我をしないように丁寧にゆっくりと口を動かします。このときにわざと歯を使ってちゅぱることがポイントです。
「全然痛くない。歯があたっても痛くないよ」
「んぐう。ちゅぱちゅぱ」
「ははは、なんかこそばーい。ははははは」
これこそ僕が考えた『赤ちゃんの甘噛み大作戦、歯があっても痛くないよ』です!!
赤ちゃんなら口に物を入れるのが普通です。それを利用して歯が当たっても痛くないを演出するのです。人間の指先は敏感なので、指を噛んでも安全だと理解してもらうのが狙いです!
「えー、嘘でしょ?」
「ちょっとやりたいかも」
「私もやりたい」
「交代して」
「こら、あなたたち。私も混ぜなさい!」
あ、カフェさんが怒るどころか寂しがってこっちに来たよ。そこは怒らないんだね。これなら噂が広がるのも早いかも!
こうしてメンテの甘噛みは痛くないと広まった。むしろ噛んでほしいという要望が多かったとか。それを聞いたレディーは、いつになったらこの子はおっぱいを卒業するのかと不安になったという。




