40話 「アニーキ―の魔法実演 その2」
兄貴は杖を取り出しました。腰にホルダーみたいなものがあり、そこから杖を出したようです。
「ふぅ……」
深呼吸をして集中しています。僕は早く見せてと暴れたいですが、静かに見守ります。
「……お願いします。俺に力をください。悪いのは無力で無能なこの俺です。しかし力の扱いには自信があります。もっと上手に使いこなしてカッコよくみせると約束します。だから俺いや僕に力を貸してください。本当にお願いします。僕の一生の願いなんです。土下座でもなんでもやりますから」
……ん? あの中二病的なダサいセリフではありませんね。どんどん杖の先が光ってきます。ほえええ?! いったい何が起きているのでしょう???
「ふおおおおお、ありがとうございます。夕食のデザートも差し上げます。もっと僕に力をー!!!」
さらに光が激しくなります。この詠唱だとダサいはダサいでも意味合いが違いますよ。そして、兄貴はゆっくりと狙いを定めます。
「いけえええ、超☆電撃ッ!」
あ、そこは中二病なのですね。ちょっと安心しました。いつもの兄貴だ!
どごーーーーーん!!
かなり強めの電撃が魔力ボールに向かっていきました。昔僕に見せたちっぽけな雷とはスピードも威力も違います。詠唱が非常に不安でしたが、これならしょぼいなんて文句を言えませんね!
そして、電撃が魔力ボールに当たるとすぅっと吸い込まれました。あの威力の魔法でも余裕で吸い取るんですね。てっきり壊れるかと思いました。
パチパチパチ~。
「フフッ、いつの間にこんなに上手になったのかしら」
「えぐぅ!」
「えへへ」
母が拍手をして誉めましたね。覗いていたあのときと違いますもんね!
僕も手足をバタバタして喜びます。これなら僕が兄貴の魔法に興奮していると伝わるでしょう。
「実はね、この前買ってくれた本と、父さんに借りた本を読んで勉強したんだ。それを俺なりに合体させたんだよ!」
――そういうことですか!
変な詠唱だと思いました。恥ずかしいと情けないの二つが交わっていましたからね。ははは、やっぱりダサいです!
「ええっと、パパから借りたのよね? どんな本なのかしら?」
母が気になったのは本でした。僕も勉強とか合体なんかよりも本が気になりますね。
「パパから借りたのは『ド・ゲイザー・ヒザマズキの魔道』という本です。この本にはさまざまな詠唱について書かれていました」
「……やっぱりねえ」
「んぐぅ?」
母を見ると苦笑いのような顔でした。僕は母をじぃーと見つめると気付いてくれましたよ。そのまま説明をしてくれました。
「メンテちゃんは、ゲイザーのことは知らないわよね。有名な昔話に出てくる冒険家だけど、本当に実在したと人物だと言われているわ。この国では、歴史上の偉人として崇められているのよ」
ふむふむ、なるほど。
「『言葉には力が込められている。極めれば力を思うが儘に操れる』が有名なセリフなんだ。この本には、いざとなったら体を張れと記されていたよ」
ほほう、すごいね。……ん?
「でねでね、冒険家として数々の偉業をなした彼に国は”ド”という名前を褒美として与えたんだよ」
へえ、ゲイザーが本名なんだ。母がドを言わなかったのはそういうことね。
「ゲイザーは言葉の魔術師という二つ名があったんだって。憧れちゃうよね!」
……どうしよう。知れば知るほど嫌な予感がします。続きを聞きたいような聞きたくないような、そんな微妙な感じです。
「男の子ってみんなゲイザーのことが好きなのよねえ。これを読んだら一度は冒険に出たいっていうのがお約束よ。女の子には冒険より別のことがしたいって人気がないけどね」
「俺も大きくなったら冒険するのが夢です!」
「……アニーキ―もなのね。パパも昔はよく同じことを言っていたわよ」
「え? そうなんですか」
「びっくりするぐらい似てるわ。やっぱり親子ね。メンテちゃんも冒険したいとか言い出したらどうしようかしら……」
それは考えたことありませんでしたね。だって、僕はまだ赤ちゃんですから!
まあ外の世界を見たい気持ちはありますよ。だってここは異世界だからね。それよりもおっぱいですね、おっぱい。もっと甘えたい気持ちになるのはなぜでしょう? ぱいぱいおっぱいぱい!
それよりゲイザーが後世に与えた文化はすごいですね。男性に人気があるってことでしょ? それでパパも好きで読んでいた。二つ名や名前からしてもう間違いありません。絶対にこの世界であれを広めたのはゲイザーだね。
日本だけかと思っけど、異世界にも似たような人がいたんだねえ。男が謝るときの文化はこれがルーツでしょう。ずっと思っていた疑問が一つ消えましたね!
「それはそうとねアニーキ―、魔法を使うときは詠唱がなくても大丈夫なのよ」
「詠唱の方がカッコいいし、強くありませんか?」
「ママは技名だけ叫んだ方がまだカッコいいと思うわよ。それに今の魔法を連続で何回も唱えられるかしら?」
「……えっと。今の魔法を1回使うと、しばらく他の魔法が使えなくなってしまいますね……」
「あら、それは効率が悪い魔法ってことよね」
母がためになりそうな話をしますね。ここは兄貴のためにも黙っていましょう!
「……でもゲイザーは詠唱が魔法の真髄だと」
「えっぐうう!」
それは謝罪のときの言葉だよ!!!!!
はっ?! つい言葉が出ちゃいました。
「でもね、良く考えてほしいのアニーキ―。あなたが詠唱をしている間、相手は待ってくれないわよ。そんな無駄な時間があると攻撃されるわ。それを避けられなかったら簡単に死んでしまうわよ?」
「それはそうですが……」
「そんなのダサいわ。男なら黙って魔法を使った方がモテるのよ?」
「?!」
「長々時間を掛けてしょぼい威力を出すより、無詠唱で強い魔法を出した方がカッコいいわよ」
「!!」
急に母の恋愛講座が始まりました。それは気付かなかったと目から鱗が落ちるかのような顔で母を見る兄貴です。僕には兄貴の魔法はしょぼいっとディスられているように聞こえるけど。
「アニーキ―、これを見ていなさい」
母が魔力ボールに手を向けました。すると魔力ボールが突然破裂しました。吸収出来る量を超えちゃったのかな? どうやら真っ二つになったようです。切り口がツルツルそうです。え、何今の?
「ええええ?!」
「んぐぅ?!」
「フフッ、どうかしら? ママかっこいでしょ」
ヤバいです。これは惚れちゃいますよ!
「母さん、今何を??」
「風でボールを切っただけよ。魔法はイメージ力が一番大事なのよ」
「そうなんですか」
「そろそろ学園に行くから覚えましょうか。きっと女の子にモテモテになるわね」
「ちょっと母さん……」
いや~、母の魔法はすごかったですね。母は教育に関してはスパルタ気味ですが、これを見た後だと別にいいかなあと思ってしまいます。僕も早く魔法を使いたいね!
それと、学園とやらが気になりました。アニーキ―は8歳です。日本だと小学生と同い年ですよね。学校に行っていないから不思議だなあと思っていましたよ。ここは異世界だから学校がないのだろうかとね。でもあるんだね!
よ~し、そのうち調べましょう!
アニーキ―はさらに熱心に魔法の勉強をするようになったという。異性にモテたいという気持ちはどの世界でも同じなのであった。