37話 「レディーのスパルタ?教育」
前回までのお話
キッサと一緒にお悩み相談をした。
「メンテちゃんファイトよ!」
「がんばれー」
「もう少しだよ」
「メンテ様、あと少しです」
「メンテくん、こっちにおいでー」
「はっはっは」
今現在、僕は一生懸命ハイハイの練習をしています。最近まですぐ出来るだろうと思い、全く出来ない演技をしていました。
「……んぐう!」
実際にやってみると一歩も進むことが出来ませんでした。うつぶせの状態から必死に手を伸ばして前へ前へと進もうと頑張ります。
「……はぁ、……はぁ」
赤ちゃんなのに息切れしています。僕死んじゃいますよ?
それなのに誰も助けようとしませんね。ここにはナンスファミリーが全員、カフェさんとハイハさんがいるのです。僕以外の6人は楽しんで見ていますが、誰も手を貸してくれません。
これは僕への教育でしょうか? ちょっとスパルタすぎませんかね。
「……」
息が苦しくなってきました。もう声を出す気力もありません。実際に赤ちゃんは寝返りでうつぶせになったら死ぬことだってありますよ。息が出来なくなるのです。
「…………ぐぅ」
僕は必死になって前にいる母を見つめます。しかし、見つめ返してくるだけでした。助けてくれないのは、僕への試練でしょう。さっきから応援だけですね。
母から視線を少し下に下げるとある物が見えました。なんと母の足元には哺乳瓶があったのです。多分スポーツドリンク的なやつでしょう。中身はミルクですね、わかります。
しかし、これを飲むとおっぱい卒業と勘違いされてしまいます。これはいじめかな? それともあらての虐待ではないでしょうか?
「ママ、そろそろやめた方がいいと思うが……」
「俺もそう思うよ」
「メンテちゃんなら大丈夫よ。もっと応援なさい!」
男性陣の声は一蹴されました。もっと頑張ってよと思いましたが、止めるのは無理でしょうね。
「がんばれ!」「メンテファイトー!」
男共も応援を始めます。悲しいことに僕にはもう味方がいません。
「……んぅ」
最後の力を振り絞って腕を前に出しました。そのとき、誰かが僕のお尻を押してくれました。すると初めて一歩進むことができたのです!!
「メンテちゃんハイハイできたね!」
「一歩進んだねー」
「メンテできたね」
「おめでとうございます」
「やったね~」
「はっはっは」
僕の初めて? のハイハイを誉めたり喜んでくれました。まあ補助ありですがハイハイできましたよ! すごいでしょ~。
いやあ~、疲れました。今日はこれでおしまいだね。
「今度はこっちまでよ。メンテちゃんおいで~」
「メンテ様なら出来ます」
「2歩目はこうやるんだよ~」
「……うぅ(嘘でしょ)」
なんと、この部屋の女性陣はハイハイを続けようとするのです!!!
先程全力を出し切ったので体に力が入りません。僕はプルプル震えるばかりです。
そういえば、僕が本気で動くのはおっぱいのときだけですね。抱っこされた後は僕の好きなポジションをとろうと頑張るのです。母だろうとメイドさんだろうとこればかりは全力です。このとき以外は基本的に体を動かしていませんね。今もおっぱいに関係ないので力が入りませんし。
どこに行くにも誰かに抱っこされてますし、最近はベビーカーでの移動も多いです。寝返りしても息苦しくなるだけなのであまりしません。自分から動くより誰かにやって貰っている時間の方が多い気がします。
……もしかして僕って筋肉なくない?
それならば今動けない理由は筋肉痛のようですね。納得ですよ。全然動かせないもん。
あれ、なんだか意識が消えていくような感覚がしますね……。
「メンテ白目だねー」
「え?!」「メンテちゃん?!」「メンテ様?!」「メンテくん~?!」
だだだだだ、くるりん。ぴかー。
「ふう、危なかったな」
「……ごほっ、ごほっ」
……あれ? 意識がはっきりして来たよ。近くに父がいますね。というかいつの間にか仰向けになってました。なんか僕の体に光る石を当てていますね。
誰もしゃべりません。静かに僕を見ています。すごく心配そうな顔をしています。
「……?」
え? なにこの状況? 僕何か悪いことしたかな?
……よし、泣こう!
もうハイハイの練習は終わりにしたいです。
「……………………………………ん、ぐぅ」
しかし、声が出ません。しかも僕の目から勝手に涙が出るし止まりません。もしかして死にかけていたとか? あははは、それはないない。ないよね?
本当に痛かったりヤバいときは声が出ないよねえ。今まさにそんな感じで泣いています。僕の心はそこまでひどい状態ではありませんが、泣くことを止められませんでした。
「……………うぐ、うえええええええええん!!」
ふぅ、やっと声が出ました。実は相当ヤバい状況だったのかもしれませんね。
父は母が動く前に僕をあやしました。よしよし~ってね。
「ママ、やりすぎは良くないよ。助けるのが遅かったら死んでいたかもしれない」
「……メンテちゃんごめんね」
珍しく母が怒られました。いつもとは立場が逆ですね。母も間違えることはあるようです。
……って僕死にかけてたの?!
今日は助けてくれた父に甘えましょう。本当はおっぱいが吸いたいけど我慢します、今回だけ特別ですよ。それよりさっきの光る石を見せてほしいな。めっちゃ気になるよね! 教えてくれるまでくっついちゃうぞ~。ほっぺすりすり~。
貧弱すぎるのは良くないと思ったメンテは、頑張って運動するようになった。可愛く動いているその姿を見て、屋敷の人々を笑顔にしていったという。