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36話 「キッサのお悩み相談 その2」

 夕食のメニューが決まった後、悩みがある人はいないか聞いて回りました。


 特に仕事には不満はないという意見が多かったです。ここは給料がいいらしいですね。僕はお金の話をしっかりと聞いちゃう系の赤ちゃんなのです。


 ついでとばかりにみなさん僕と遊んでくれます。むふふ、もっとかまってもいいのよ~。



「そろそろメンテくんのお部屋に戻りましょうか」

「うぐぅ!」



 今日はたくさんの人と遊びました。満足ですね。帰ろうとしたときに声が掛かりました。



「あ、あのキッサさん。少し相談いいでしょうか?」

「いいわよ。おばさんに任せなさい!」

「ありがとうございます」



 おや、珍しいですね。この人は僕もよく知っていますよ。



「私はニーホ・ヤモリンです。いつもカフェさんにお世話になっています」

「あら、聞いたことある名前ね。あなたがしっぽ使いのニーホちゃんね」



 ……この屋敷では二つ名を付けることが流行っているのかな?



「はい! そのニーホは私です」

「ニーホちゃんよろしくね。で、どうしたの?」

「実はメンテくんについてなのです。少しだけ悩みというか聞きたいことがあって」

「えぐぅ?」



 まさかの僕についてでした。仲が悪いとかそういうこと何もないと思うんだけど……?



「メンテくん? 娘にはあなた達は仲良くなったと聞いていたけど違うの?」

「いえ、そのことではなくてですね。あの……、あれですよ」

「あれ?」

「んぐ?」




「メンテくんって大きな胸の人が大好きじゃないですか!!!」ドドーンッ!




「?!」「だぁぶぅ?!」



 突然声が大きくなりましたよ。それより相談内容!!!




「メンテくんはおっぱいが大好きなんですよ!!」



 ちょ、やめて! 



「私のおっぱいは、メンテくんにとっておっぱいじゃないんですーーー!!!」



 やめてーーーーーーーーー、恥ずかしいよおおおおおお!!!



 おっぱいおっぱいと叫ぶニーホさんに視線が集まります。メイド達が無言で男達を見て、オラオラさっさと部屋から出てけとジェスチャーします。状況を察した男達は静かに部屋から出ていきました。



 僕も男だし一緒に出ちゃダメかなあ。え? ダメなの? 僕はここにいろって。はぁ……。




 ◆




 部屋中のメイドさんが、僕のそばにやってきました。僕への視線の量が多いです。すごくざわざわしています。早くお部屋に帰りたいです。



「厄介払いは済んだわね。ニーホさんもう一度説明をいいかしら? もう少し詳しくお願い」



 僕もそう思います。彼女の何となく言いたいことは分かりますが、念のためにね。



「最初は疑問に思わなかったのですが……。あるとき気付いてしまったのですよ。私のおっぱいではメンテくんが満足しないということに」

「どういうことかしら?」

「それは私が新人としてメンテくんのお世話をしているときでした。私は見ての通りその胸があれなのです。少しばかりその……ち、小さいといいますか」

「……そ、それで?」



 僕は小さいのも素敵だと思います。サイズの問題ではなく、僕を構ってくれるその心が大好きなのですよ。だから気にする必要なんてありません!



「その日は、私の胸だけが小さかったのです。他の人が抱っこをするとメンテくんは喜んで飛びついたのですが、私が抱っこをすると急に暴れだしました。最初は機嫌が悪かったのかなと思ったのですが、このようなことが何回も続きました」



 ……どうしよう、心当たりがあります。汗が噴き出てきました。



「そんなのたまたまではないの?」

「いえ、まだ続きがあって」

「……んぐ?」



 まだ続くの?! 


 これ以上のことを僕がしたのかな? そんな記憶ないんだけどねえ……。



「今までメンテくんを抱っこしたことがあるみなさんに聞きたいのです」



 ん? 僕じゃなくて周りのメイドさんに聞いちゃうのね。



「抱っこすると胸に飛び込むことありますよね? おっぱいをまさぐるように動いたことはありませんか? 私は一度もその経験がないのです……」

「「「「「ざわざわ~」」」」」



 ……記憶にありすぎます。ええ、それはもう沢山に。



「ニーホさん。落ち着いて聞いてほしいのだけど、私もないわよ?」

「「「「「えっ?」」」」」

「え?」



 キッサさんも体験したことがないと言うと、周りが驚きます。そして、キッサさんも驚いた後に不思議な顔をしてしまいました。



「「「「「…………」」」」」



 沈黙が場を支配しました。



「……あの~、メンテくんがおっぱいを触るのはよくあることだと思ったのですが」



 誰かが勇気のある発言をしました。あの人は誰だったかな? 名前は思い出せませんが、おっぱい大きいですね!



「私も毎回されますが」「あたいもです」「私も」「ミーもです」「よくされますよー」



 一人を皮切りにして、次々と賛同の声が聞こえます。もう止まりませんね。みなさん恥ずかしいのでやめてください、本当にお願いします。



「別にそんなことしないよ~」



 お、反対意見もでました。この人は兄貴の友達のモドコ・キスイダさんで、まだ子どもです。他にもちらほらと発言がありますが少数ですね。よし、もっと言ってやれ!


 ニーホさんは、賛同した人の胸を凝視しました。そして、反対意見を出した人達とモドコさんの胸を見て、最後に自分の胸を見つめます。



「やっぱり……」



 僕も一緒になって見ちゃったけど、賛同した人は全員おっぱいが大きかったよ。反対した人は……まあ察してください。僕から語ることは何もありません。


 ここまで来ると、さすがに言い訳できないです。ニーホさんだけではなく、ほとんどのメイドさんが僕を見てきましたよ。




 よし、聞かなかったことにしよう!




 僕は何をしゃべっているのか分からないという顔をして右手の親指を舐めます。そういえば赤ちゃんは口に物を入れるのがお約束でした。僕は、まさに今思い出したかのように実践します。


 そして、みんなの視線から目をそらし誰もいない方向を見つめます。ただのかわいい赤ちゃんを演じるのです。決して現実逃避ではありませんよ?



「あはっはははははははは。はあー、面白いこと考えたのねえ」



 突然キッサさんが笑い始めました。



「全然面白くないですよ~」

「もー、よく考えなさいな。メンテくんは赤ちゃんなのよ?」



 どうやらキッサさんの目には、僕がただの赤ちゃんに見えいているようですね。演技は完璧だったようですよ。



「え? それは分かりますが、どういうことですか?」

「レディーが一番好きに決まってるでしょ~。あっははは。もう考えすぎよ」



 キッサさんはツボにでも入ったのか大爆笑です。逆にニーホさんは戸惑っていますね。



「メンテくんは甘えん坊なのよ。母親と離れたら不安になるに決まっているじゃない」

「「「「「!!」」」」」



 みなさんハッとした表情になりました。ん、どういうこと?



「え? えええ?」



 ニーホさんは大混乱です。僕も混乱しているけど、ニーホさん見ると落ち着きましたよ。自分がパニックになっているときに、自分以上にパニックになっている人を見ると落ち着くあの現象です。



「だから深く考えすぎなのよ。メンテくんはレディーと一緒にいると落ち着いているでしょ? でも少し部屋を離れると泣いちゃうのよ」

「そうですね。奥様がいないとそわそわしますね」



 ……それ母がいなくてチャンスとかラッキーと思ってる僕ですね。泣くのはただの演技です。



「メンテくんが癇癪を起したときは、レディーの胸を吸わないと落ち着かないのよ。他にもお腹が空いたり、不安になったら必ずおっぱい求めているわよ。慣れさせるためにわざとおっぱいを吸わせなかったらずっと泣いて大変だったわ。ミルクの噂は知っている人も多いでしょう? まだまだ赤ちゃんだからね、おっぱいを吸いたくて吸いたくて仕方がないのよ」

「――! そういうことですか」



 ……それ至福の時間を楽しむために暴れる僕ですね。



「つまり、メンテくんはおっぱいがないと寂しいのですね!」

「正解よ。別にニーホさんに対して悪意はないでしょうから、ただの本能のまま動いているだけよ。胸がある人の場合は、レディーのことを思い出せるから気を紛らわせるんでしょう。まあ間違えて吸っちゃうこともあるでしょうけど、赤ちゃんなら仕方がないわね」



 ……すいません。それは悪意じゃなくて欲望です。誰でも服の上から吸いまくり、よく記憶が飛ぶなんて言えません。


 みなさん頷いているので、いい感じに勘違いしているようですよ。どうやらみなさんは、僕がおっぱい大好きな赤ちゃんだと思っているようですね。これは一体なぜでしょう?


 ※詳しくは33話を。



「私が抱っこをするとよく吸われますね」

「私もです」「わたしもー」

「いつも服がべちゃべちゃになりますね」

「そだねー」「そうそう」「わかります」

「毎回念入りに先っぽまで探してからカプって噛むよねー」

「そこをちゅぱーってよくやるよ」

「メンテくんは甘えん坊だもんね」

「「「「「ざわざわ~」」」」」



 みなさん僕に対する気持ちを暴露します。それほど嫌われていなくてよかったです。乳首を狙っていたのがバレていたのは驚きでした。



 でもやめませんからね!



「別に胸が小さくても問題なんてないのよ。それが証拠に仲がいいんでしょ? なら大丈夫よ」

「そうですね、キッサさんありがとうございました。私のような貧乳でも希望が持てました!」



 わーお、自分で貧乳って言っちゃった。諦めちゃダメだよ。


 ここは身を削ったニーホさんのために動きますか。ニーホさんに目線を合わせ、手足をバタバタします。



「んぐぅ!(抱っこして!)」

「ほら、ニーホさん。メンテくんが呼んでいるわよ」

「えへへ、おいでメンテくん」



 僕はニーホさんに抱っこされて胸に飛び掛かります。このままちゅぱちゅぱしようかな……ってあれれ? 胸というか骨しか存在しないですね。ちょっと困ったので匂いを嗅いで楽しんでいると誤魔化しましょう。



「やったー! メンテくん全然嫌がらないです!」

「よかったわね」

「キッサさんのおかげですよ」

「あはっははは。私は悩みを聞いただけで何もしてないわよ」



 こうしてニーホさんの悩みは解決しました。今後は誰に抱っこされても嫌がらないように努力します。そして、他のみなさんも僕は赤ちゃんだからと甘やかしてくれるようになったのです。


 赤ちゃんだから仕方がない。これが今の僕が持っている最強のチートですよ!






 もっと甘やかして! 赤ちゃんだけど好き放題やっているのは秘密です。


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