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261話 「ぱいすとーりー7 あふたー」

「えぐ~?(おっぱいは?)」

「ちょ、ちょっと言葉で表すと難しいかなあ……(レディーさんの前で言えるわけないでしょ?!)」

「はーい、くび(あなたは今日でクビです)」

「言える言えるよー! メンテくんかわいいねえ。何か食べる~?(これで勘弁して><)」




 ……さっきからうちは何を見せられてるんやろう??




 うちはフェネック。


 君はフェネックっぽいからフェネックね! と言われて名前がフェネックになった猫である。名付けた本人にフェネックてとは? と聞いてみると、そりゃ見た目がフェネックでしょ。えぐ~? とよく分からない返事しか返って来なかった。そのフェネックって結局何なんやろ??


 コンコン。失礼、取り乱しちゃった。それでうちは元々砂漠に住んでいた。今は砂漠とこのナンス家と呼ばれる住処を行ったり来たりしている。今はナンス家という住処の方にいる。


 最近砂漠で大事件があった。捕食者どもが全滅したんや。すっごい音と衝撃があってな、気付いたらうちより力を持つ生き物はいなくなっていた。


 それでいつの間にか生えたでっかい木の一番良い場所を陣取り、快適に過ごし始めた。天敵はいなくなったし、この木は実が取り放題で腹は減らない。最高の生活がスタートしたってわけや。


 これからはうちの天下やー! と思っていたある日、ちっこい生き物に遭遇した。それでちょっとイタズラしちゃおうと力を使ったんや。


 幻でうちの想像する最強の自分を見せて遊んでいたら、ちっこい生き物もその姿の真似してきた。こいつもうちと同類の力を持ってるんか。面白いやつやなと思って張り合っていたら、幻じゃなく実体のあるヤバい奴だった。


 化け物やと思って全力で逃げた。力をフルに使ったのは久しぶりや。でも気が付いたらうちがちっこい生き物の前にいて死ぬかと思った。幻で囮を作って反対方向に離れたはずなのに。


 あとで分かったことやけど、あのときは距離をぶっ壊しただけだよと訳の分からないことを言うんや。即降参して正解だったと思う。そのあとなぜか気に入られて住処まで案内されたんや。




「えぐ?(おっぱいは?)」

「ひいっ?!」

「やくたじゅ。ちけー(役立たずは死刑あるのみ)」

「待って。今考えているんです。いっぱいあるんです。……! 他の方、お先にどうぞ」

「おい、こっちに話振るなって?!」

「何良いこと考えたって顔してるんだよ」

「俺達まで巻き込むんじゃねえ」

「「「「「ざわざわ」」」」」




 うちの目の前にいるちっこい生き物の名前はメンテ。あの化け物かと思った生き物の正体や。なぜか仲良くなったのでこの住処を使わせてもらっている。


 それと今メンテを抱きかかえているのはメンテの母親。見た感じ化け物感はない。でも母親なのでヤバい奴やろうなあ。


 今メンテが何をしているかって? なんでもおっぱいが欲しいことを他の大人どもに言わせようとしているそうだ。メンテが言うにはまだ自分はまだ上手にしゃべれないかららしい。


 で、うちはそのお手伝い。幻を作ってどの角度から見ても母親にはご機嫌な表情を見せる役目。あとは声を変える補助とかもしている。まあサポート全般をね。




 ……うち何をさせられているんや????




 まさかメンテの正体が赤ちゃんだとは思わなかった。あり得ない程強い力を持っているのにこんなしょうもないことに力を使って喜んでいるなんて……。


 幻の力を使わなくても一人で全部出来ているじゃん。え? あくまでうちは保険。万が一の備えと気の緩み対策なのね。へえ、頑張ってや。


 コンコン、赤ちゃん過ぎて呆れちゃう。やりたい放題やねえ。




「えぐううう(てめえら絶対逃がさねえからな)」




 ……メンテ、あなた一応赤ちゃんよね? さっきから物騒な発言しかしていないんやけど。そのせいか周りの大人どものあたふたが止まらない。ちょっと見ていて可哀そうなぐらい翻弄されている。応援してあげようかな、頑張れ人間の大人ども!


 それにしても人間という生き物は仲間想いやなあ。初めて見たときは背が高い二足歩行の生き物やとびっくりした。砂漠では一度も見たことはないレアな生き物。それが人間。でもここでは当たり前のようにいっぱいいる。それぐらい遠く離れた場所にこの住処があるんや。




「よお新入り。役立ってるようだな」

「……本当にこんなんでいいの?」

「おう。いつもこんな感じだぞ。……ん? あいつはダメそうだ人間だなあ。こりゃメンテが怒って何か指示飛んで来るぞ。お前ら、準備しとけ!」

「「「「「にゃ!」」」」」




 うちに話しかけたこの猫という生き物。皆メンテの家に住む仲間だそうだ。


 猫はいつもうちのことを新入りと言ってくる。困ったことがあれば先輩に聞けと言って来るので悪い奴らではないと思う。


 この猫達とうちが普通にしゃべれているのは、メンテがくれた猫ギフトとやらのおかげ。猫だから猫の言葉が分かるようになるらしい。それって元々うちは猫じゃなかったってことだよね? どこをどうすれば猫になるんや?? メンテの力の謎が深まるだけだった。


 ちなみに猫もここに来るまで存在すら知らなかった。ここは未知の生き物だらけで面白い。




「……(あっちに行ってみるか)」




 うちはやたら張り切っている猫達の横を通り過ぎる。だが誰もうちに気付いていない。何も邪魔されずスッと簡単に通り抜けることが出来た。


 コンコン、誰もうちの姿が見えていない。これが普通の反応。とても安心する!


 元々この幻という力は逃げるためのもの。ちょっと大袈裟に見せたり、ないものをあるように見せて驚かせる。まさに相手を騙すための力。周囲から姿を消すのは造作もない。


 普段砂漠でうちは単独行動をしている。同族の数も少ないので会うことはまれ。だから群れることには抵抗というか違和感があっていまいち慣れない。うちはそういう種の生き物や。今は猫になったらしいけど元々の本質は全然変わっていない。


 正直猫としゃべれる以外は何も変化していないなあ。見た目もそのままやし。考えるだけ無駄かもしれないので忘れよう。


 離れていてもメンテにかかったうちの幻は消えないし問題ない。暇なのでこの部屋の中を歩き回ってみることにした。




「……(あそこにやたら人間が集まっている。何をしてるんや?)」




 メンテから少し離れた位置では、変な恰好をした人間どもが集まっていた。確かメイドとか言われていたなあ。近くに寄ってみようと机の上に飛び乗る。


 メンテは人間でありならが猫でもある。なのでどっちとも繋がりを持つ。だからここは人間と猫が共存する不思議な住処と言える。今ではだいぶ慣れたが未だに驚くことばかりや。

 



「はい、アウト!」

「化けの皮が剥がれましたよ!」

「まさかあの方もグルだったなんて……」

「あれが真の裏切り者です」

「じゃあやつの似顔絵書きますね」




 何をしているのかよく分からないが、人間と言う生き物は道具を使うのが上手なようだ。なんとなくだがあの人間の見た目を描書いているのは分かる。なぜこんなことをしているんや?


 さいわい近くで見ていてもメイドと呼ばれる人間どもはうちの存在に気付いていない。近くにいてもしっかりと誤魔化せているようで安心した。力を使いこなせている証だろう。


 ……なんやろう。ここにいる人間がすごい顔をしているせいか近寄りがたい雰囲気がある。負のエネルギーというか何か嫌な感じの何かが溜まっているような? この場所はあまりいい感じがしない。離れたくなってきた。別のところに行こう。




「……(あ、あんなところにうまそうな飯が置いてある)」




 人間は近くにいないし、どこからも視線を感じない。バレないうちにこっそり食べてしまおう。


 もぐもぐ。うまい!!


 やっぱりこの住処の飯の味は格別。なくなったのが見つからないように幻で飯を再現しよう。確かこんな見た目だったはず。それっぽい幻をこの皿と呼ばれる上に置く。これで誰も食べたことに気付かないだろう。完璧に誤魔化せたはずや!




「クンクン。誰かが何か食べた匂いがするわ」

「コン?!」




 び、びっくりしたあ。


 あのシロさんとか言う名前の猫、感が鋭いときがある。幻で匂いも消えているはずなのに何て猫だ。メンテと言い猫は何か特殊な力を持っているのだろうか??




「えぐううう(皆、フェネックみたいにおっぱいを言わなかった裏切り者のおやつを狙え)」

「「「「「おやつタイムにゃあああああ!!!」」」」」




 メンテがうちを見ながら猫に命令を出した。メンテだけはうちの幻が全然効かない。何をしていたのかバレバレだったようだ。




「きゃあああ?! 私のデザートが消えてるうううう。このクソ猫め。どいつだ、お前かお前か」

「口元見れば分かる……って誰も食べた形跡がないだと?!」

「いったいどうなってるんだ??」

「ついに猫達が手品みたいな攻撃を繰り出して来たぞ……。ごくり」




 あ、幻が解けてうちが食べた後の皿のあとが人間に見つかった。


 このように幻は簡単にバレる。騙している間に逃げるのが定石。うちは遠くから人間と猫の攻防を見守ることにした。


 数分後、戸惑っている人間どもを見るのは飽きて来た。ちょっと出かけて来ると言って廊下を歩くことにした。


 このナンス家と呼ばれる住処は部屋がたくさんあって広い。猫も人間もいっぱい住んでいる。




「交渉に成功したら彼女にプレゼントをあげるんだ」

「俺は楽器が欲しい。モテるって聞いたからな」

「何かうまい物食いて―!」

「「「給料アップ! 給料アップ! 給料アップ!」」」




 廊下で複数の人間を見かけた。今は目が輝いているのだが、あのメンテがいる部屋に着くと黒く濁るのだ。さっきから通りがかりでよく見かけるなあ。


 ……そっとしておこう。あそこに行ってもあの赤ちゃんの相手をさせられるだけなんや。ご愁傷様。




「交渉するなら今しかありません。早く行った方が良いですよ」

「そうだな、皆少し休憩しよう。今から食堂にいくぞ」

「「「うっす」」」




 別の場所では、メイドと呼ばれる人間に誘われている別の人間の姿があった。


 確かメイドは人間のメスらしい。人間のオスどもがメスに騙されてメンテのいる場所に誘導されているようだ。人間のオスという生き物は哀れやなあと思った。


 次は住処の外も見て回ってみよう。お、あそこに誰かいるなあ。




「見て見て。みんな家に向かってるー。食堂に行くのかな?」

「まだメンテのあれ続いているんじゃない? 知らんけど」

「誰も戻って来ないので分かりませんね。……魔法の訓練でもしましょうか?」

「「やるー!」」




 確かこの人間はメンテの兄妹だ。それとメイドと呼ばれる人間も一緒にいる。なんとなくだが今メンテのことをしゃべっていた気がする。近くに寄ってみよう。


 何をするのか見ていたら、不思議な力を使い始めた。なるほど、これはメンテの兄弟で間違いない。あのメイドとかいうのも同類か。絶対に怒らせないようにしよう。


 うちには攻撃する力は一切ない。完全に逃げるためだけに使っている。身体能力もそこらへんにいる猫とたいして変わらないしなあ。


 というわけでここは危ないから離れることにした。次はあっちの方向に行って見るか。





「……(いっぱい人間がいるなあ)」




 メンテの住む住処の近くには、たくさんの人間が住む町と呼ばれる場所がある。


 町はいわゆる人間どもの巣、活動拠点だ。砂漠では考えられない光景がここにはあった。


 世界って広いんだなあと思っていたら、初めて見る生き物に衝撃を受けた。




「わんわん!」




 ん? なんだあの生き物??


 あれ猫じゃないなあ。言葉が分からないから別の種類の生き物だろう。どちらかというと猫よりうちの姿に似ているような?




 ……なんだろう。嫌な予感がしてきた。



 確かうちの名前は見た目で名付けたとか言っていた。まさかと思うけどフェネックって猫じゃなく謎の生き物の名前だったりする??




「フェネックって何なんやー?!」





 ついつい叫んでしまった。すると通りがかりの2匹の猫がうちに話しかけてきてびっくりした。叫んだせいで幻が解けてしまったようだ。




「よお、新入り。こんなところで何か悩み事にゃ?」

「あの生き物が気になってね。初めて見たから」

「あれ? あ~、あれは犬。新入りは猫って言うより犬の方が似てるよにゃ」

「え?!」

「どちらかというと山にいるあれじゃね?」

「あー、あれもそうだな」

「山にもうちみたいなのいるの?!」




 フェネックってなんやろなあ。ついつい名前があれだと愚痴ってしまった。するとこの2匹の猫は意外な反応をした。




「まあその気持ち分かるにゃ。俺の名前は何だと思う? 道端のあれ。ノアレって呼んでくれ!」

「俺なんて川底のコケ。カワゾコだ」

「あと有名なのに”煙突から落ちてくすんだ色”って名前の猫もいるぞ」

「長すぎるからエントツって呼ばれてるにゃ」




 変な名前付けられた疑惑の猫が複数いることが判明した。うちだけじゃなかったようだ。ただ、砂漠では水が貴重なのでカワゾコって名前は悪くないんじゃと思ってしまったのは内緒。




「「「……」」」パシッ




 うちらは無言でお互い肉球でタッチし合った。初めて猫と意気投合した瞬間かもしれない。


 この後、この二匹と一緒に住処に戻ったら人間の大人どもが暗い空気に包まれていた。やっぱメンテは人間だろうと猫だろうとヤバいと思った。


 他の猫が言っていたことやけど、メンテはしっかり世話しないと心配になる子猫だと。本当にその通りやなあ。


 ……たまには遊んであげようかなあ。でも今はパス。怖いから。




 こうしてフェネックはナンス家に馴染んでいったという。基本単独行動が多いが、猫とは仲良くやっているようだ。








 

 おまけ。猫ギフト授与



「君のスキルって何?」

「スキル? 何それ」

「特別な力のことだよ」

「そうやなあ……。ちょっとした幻を見せれるぐらいね」

「へえ。はい、猫ギフト。君は今日からフェネックね」


=========

フェネック


所持スキル

・ちょっとした幻

=========


「うち猫でもフェネックでもないよ?! 何これ??」

「えぐ~?」



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