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255話 「デート? その2」

 僕メンテ。魔道具を作っているナンス家の末っ子で1歳の男の子だよ!


 今日は母と遊んでいたら謎の手紙を渡されたんだ。


 これを僕が読むの? なんか見たことあるなと思ったら昨日の手紙だったよ。すっかり存在を忘れてたね。ゆっくり読んでいたら周りの大人たちが騒ぎ始めて大変だったなあ。


 最終的になぜか僕も連れて行くという話になり、カフェさんに抱っこ紐されて町までやって来ている。急に予定が入ったのですが、ちょっと楽しみだ。


 確か手紙では待ち合わせはギルドと指定されてたね。バイクって男の人は来てるのかな? どこだ~。



 

「確認だけして帰りましょうか」




 カフェさんはあまり乗り気ではないご様子。まあ理由は分かるよ。手紙の内容的にデートっぽくもあるけどデートではないというかね。なんか自分のこと伝えるのに熱を入れ過ぎたのか、文章の後半が大雑把だったしさ。


 僕ですら具体的な待ち合わせ場所どこだよって思ったもん。現に今だってカフェさん困ってるでしょ。食事のあとは多分何か話をしたいんだろうけど、そういうことは一切書かれてなかったんだ。憶測だけで語るしかない手紙を渡すってどういうことですかバイクさん。そこマイナスポイントですよ。渡す前にしっかり見直しした方がいいと思います。


 母も手紙を読んで僕と同じ気持ちになっただろう。デートかデートじゃないのか。もしデートじゃないのに勝負服を着て行ったら心に大きな傷が……とかいう葛藤もあったはず。ギリギリまで悩みに悩んでやっぱりこれはデートのお誘い! と決めたのかなあ。みんな母の判断待ちで大変だったろうなあ。


 ※メンテは皆が手紙の内容を知っているものだと思っています。




「――! あ、そっちでしたか。今行きます!!(いた!)」

「?!(いる?!)」



 いろいろ考えていたらギルドからバイクらしき人物が出て来たぞ。笑顔でこっちに走って来るね。カフェさんと同じぐらいの年齢かな? 20代前後ってところでしょう。この前教会で見かけたときは、あまり顔を見れなくて印象に残っていないんだよねえ。だから今まじまじと見ちゃう僕です。うん、まあまあ男前?


 カフェは急に出て来たバイクを見てびっくりして固まっていました。本当にいるの? って感じもするような……?


 まあいいか。とりあえず合流には成功したぞ。



「すいません、探すの大変でしたよね。そういえば手紙に書き忘れてたかもと思い、外まで見に来て正解でした。待たせてしまって申し訳ないです(会えてよかった)」

「え、えっとですね……(これ本当にデートだったりします? 皆の冗談ではなく??)」



 ん? カフェさんの様子がおかしいぞ。押されているというか戸惑っているというか。


 よく見るとバイクもあれだね。デレっとしているというか照れているというか。大なり小なり好意を持っていそうな顔をしている。



「「…………(な、何をしゃべれば??)」」



 おやおや、二人して黙り込んでしまったぞ。見つめ合っているというかお互い値踏みでもしているのかな?


 ※カフェはデートの自覚が生まれて混乱、バイクは久々の会話で話し方を忘れている状態です。



 はは~ん。なるほどね。カフェさんは、あの手紙を読んだときから本当はデートに誘われたと解釈してたようだ。恥ずかしいから皆の前では鈍感なフリをしていたんだな。そのせいか余計に騒がれて逆効果になったみたいだけど。


 カフェさん乗り気じゃないと言いつつ、しっかり相手のことを知ろうとしてますねえ。ニヤニヤしちゃいますなあ。笑わないように我慢しておこうっと。こんな間近な特等席なかなかないしさ。



 ……ん? ここに僕いる?? こんな赤ちゃんいたらデートの邪魔になるんだけじゃないの。



 いったん家に帰るように言うか? いや、確かタクシーがいるから途中で帰って来るなってみんなが言ってたぞ。デートの邪魔しそうなタクシーを皆で足止めしてるんだろう。今日はみんなソワソワしてるなあって思っていたけど、カフェさんのデートが原因だと思えば納得だ。僕は赤ちゃんだから何も教えなくても大丈夫と思われていたに違いない。


 解決案解決案。何かいい方法は……。



 あ、そうだ! 教会に行けばいいんだ。デートの間だけ僕を預けて貰えばいいのでは?




「かふぇえええい!」

「? どうなさいましたかメンテ様」

「いく」

「いく? どこに行きたいのですか? 今お話し中なのですが」

「かねのなるあれ」

「…………えっと、どこでしょうか。あっちですか? ああ、お金ですか。教会に行きたいのですね」

「はーい!」



 ふう、通じたぜ! さすがカフェ。


 そういう感じで教会に向かってるんだけど、チラチラとバイクが僕を見て来るぞ。まあデートに赤ちゃん連れて来たらそっちに目が行くよね。


 ちょっと歩いたら教会に着いたよ。歩いている間は誰もしゃべることはなかった。みんな緊張しているのかなあって感じ。



「あ、カフェさん来たよ」

「なんか男の人も一緒だね」

「デートじゃない?!」

「ほんとだ。デートしてる?!」

「事件だ! マネーノさん呼んで来てー!」



 カフェさんのモテなさは教会の子供達にまで浸透しているようだ。別にモテないというか自分にも他人にも厳しいから近寄りがたいだけだよ。小さい子が相手でも悪い事は悪いとしっかり怒ることが出来るのがカフェさんのいいところ。大人には暴力で解決。おかげで教会の子供達にはヤバい大人と恐れられているけどさ。


 そんなこと考えていたら教会の庭で遊んでいた子供の一人がマネーノさんを呼んで来た。


 マネーノさんはこっちを見ておや? っと思いつつも丁寧に挨拶してくれたよ。突然の来訪だけど快くね。



「マネーノさん、突然で済みません。どこでもいいので部屋を貸して頂けませんか? あとこちらの男性とはお知り合いでしょうか」

「いや、初めて会うよ。……見た感じ害はなさそうだね。もしかしてデートかい? カフェちゃんもやるねえ」

「違いますよ。よく分かりませんが私と話がしたいそうなんです」

「ああ、そういうこと。ちょっと待っててね」



 教会の中に入ると子供たちが遊んでいる広めの部屋に仕切りを出し、部屋の中に小部屋を作るマネーノさん。これ教会で働いている大人が休んだり作業をするときに使ってる部屋だ。何かあってもすぐ駆け付けられる臨時の職員室みたいな感じ。だから部屋の片隅に大人用のイスとか机が置いてあるんだよね。


 いつもの来客用の部屋は使わないみたい。何か理由がありそうだ。子供達の声に集中してみよう。



「まねばーちゃん。何してるの」

「あのカフェちゃんがデートするんだと。こっちの部屋を使うから邪魔しちゃいけないよ」

「「「うそだー」」」

「嘘じゃないよ。あっちに男がいるだろう? 私はあの男がカフェちゃんに気があるとみたよ。ナンス家じゃ話しづらいことも多いだろうからここに来たんだね。いわゆるお忍びデートってやつだよ。ちょっと隙間空けとくから中の様子を見て何かあったら私を呼ぶように。いいね?」

「「「わかったー」」」



 マネーノさんが小さな声で子供達としゃべっています。気になるけど良識あるので邪魔しちゃいけないことは分かっているようだ。だから子供達を上手に使って監視しちゃおうとしてるね。うん、絶対面白がってるぞこれ。



「ではいきましょうかメンテ様」

「えぐ?」



 あれ? カフェさんは僕を預けると思いきや小部屋の中まで連れて行っちゃったぞ。バイクも中に入ってから仕切りをします。なんか部屋に3人集まったんだけど? 思っていた展開と違う。


 机を挟んでイスに座るカフェさんとバイク。僕はカフェさんの膝の上に座ります。よっこらしょ。


 今から何をするんだろうねえ。僕関係ないだろうし目の前にいるバイクの様子でも見てよっと。バイクはカフェさんに顔を合わせようと頑張るけどすぐ視線を逸らす。恥ずかしいのかな?


 なんか初々しすぎるカップルのデートみたい。よかったねカフェさん。意識されてるよ!



 ……で。




「「……」」




 お互い無言のまま数十秒。めっちゃ気まずい空気になってるんだけど……。


 外から子供の何してるんだって二人をいじってるような声が聞こえる。はよいっちゃいなとか言うマネーノの声がしたような気もするけど外野は無視しとこっと。


 そのままどちらが話を切り出そうかとソワソワするだけの二人。カフェさんにいたっては僕の体をプニプニして心を安静にしようとしてます。


 いやあ、もう見てられませんね。僕あまりデートに関わる気はなかったんだけどなあ。少し手助けしますか。



「なまえは?」

「「?!」」

「なまえ。なまえ」



 まずはお互い名乗るべきでしょう。



「私はカフェ。メイドをしています」

「俺バイクです。旅人かな」

「えっとベ、ベーグさん? ですか。よろしくお願いします」

「ちぇへ? 名前かな? 俺の言葉分かりますか?」

「……」



 あれれ? カフェさんの返事がない。でも無視してるようには見えない。



「あちゃー。やっぱ通じていないのか」



 困った顔をするバイク。


 もしかしてして……と思いつつ、二人に話し掛けます。



「かふぇ」

「どうなさいましたか?」

「ばいく」

「バイク? ああ、あの方の名前ですか?」

「はーい!」


「へい、ばいく」

「うおっ?! やっぱしゃべってる」

「かふぇ」

「かふぇ?」

「なまえ」

「あの女性の名前かな?」

「はーい!」



 指を差しながら二人に名前を教える僕です。


 そういえばカフェさん手紙読めなかったんだよなあ。文字だけでなく、しゃべってるあの言葉も理解出来ていないのか。んでもってバイクも同じような感じに見える。


 これお互いの言葉分かってないんじゃん。僕には二人とも同じ言葉をしゃべっているように聞こえるんだけどなあ。なんでだろう? まあ後で考えればいいか。


 あいさつだけで異文化交流みたいな難しさ。これが異国同士の恋ってやつか。言葉の壁は大きそうだぞ。



「もういっかい」

「?」←カフェ

「え?」←バイク

「なまえ。いう」



 二人に何度も練習させ、互いの名前を覚えさせます。最低限それぐらい覚えてくれってね。


 緊張がほぐれたのか、だんだん普通にしゃべれるようになったので本題に入ることにしました。



「なにちてるの?(本音)」

「何の時間なんでしょうね……(この人、本当にバイクって名前なんですね)」

「俺、人探しの旅してるんだ。少し聞きたいことがあってね(カフェさん綺麗だから緊張するなあ)」



 二人ともバラバラな返事が返ってきました。


 困ったね。デート中、僕が通訳するしかないのかな? 何も考えず連れて来られただけなんだけどねえ。




「まずは昼食にしましょう」




 そう言ってカフェさんが胸から弁当箱? を取り出し並べて行きました。



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