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253話 「手紙 その3」

 カフェ以外の女性達が騒ぎまくっている頃。レディーとキッサは二人で黙々と事務作業をしていた。



「ふぅ、あと少しね。キッサさんはカフェちゃんのところに行かなくてもよかったの?」

「どうせ騒いでろくな話なんてしないわよ。どうなったかはあとから聞いた方が正確でしょ」

「そうかもしれないわね。でもお相手のことは知りたくないの?」

「あの子が選ぶんだから口は出さないつもりよ。ちょっと楽しみにしてるけどね」

「フフッ。そうなのね」



 これで二人の会話はおしまい。そこまで騒ぐ程のことではないわよねと思いながら残りの仕事を続けたという。カフェは恋人がいてもおかしくないお年頃。気にはなるけどまあ大丈夫でしょと大人の余裕を見せていた。


 が、そんな時間はすぐ失われることになる。だんだんと聞こえて来る音や声が大きくなっていく。どれだけ騒いでいるのだろう。これは本当にカフェちゃんに恋人が出来るかもしれないわねと思っていると、足音と共に部屋が揺れ始めたという。



「あら? 騒がしいわね。なんだか嫌な予感がするわ」

「そうね。こっちに向かっているような……」



 ドーン!



「奥様、メンテ様がおっぱいをご所望です」

「熱出して体調が悪いです!」

「早くしてください! つらそうです」

「「「「「カフェちゃんのためにー!!」」」」」

「まるで私が主導しているみたいに言わないで下さい」←カフェ



 ドアが吹き飛ばすかのような勢いで開き、仕事場に突入した女性達。あ、盛り上がりすぎてカフェちゃんだけで止められなかったのね。私たちも行かないとダメだったかしら。失敗したかもとレディーとキッサは見つめ合ったという。



「奥様、手紙の翻訳をお願いします!」

「メンテくんもこちらも同じぐらい重要なんです」

「誰も読める人がいないんです」

「カフェちゃんの未来が掛かっているの!」

「このままだと一生結婚出来ませんから」

「「「「「カフェちゃんのためにー!!」」」」」

「「?!」」←レディーとキッサ



 女性達の普段と違う力強い圧というかオーラに冷や汗をかくレディー。普段であればメンテを甘やかすのはダメと言うところだが、彼女らの勢いに押されてしまうのであった。珍しい光景である。


 何があったの?! ついていけないわと言いたくなる気持ちを我慢しつつ、メンテを抱きかかえるレディー。メンテは何も言わずにレディーの服の中に潜り込む。いつもの光景すぎて誰も何もいうことはない。


 そんな暴走した女性達を見て、キッサは大きなため息をついた後に語り掛けた。



「そ・れ・で、この状況はどういうことかしら? 今仕事中なんだけど」



 さすがにこれは看過できないわねとイラっとしたキッサの一言で騒ぎが収まると思いきや……。



「何言ってるんですか! キッサさん、あなたの娘ちゃんの将来が掛かっているの!!」

「殿方からラブレター貰ったんですよ! 落ち着いていられませんって!!」

「このままだと永遠にお孫さんの顔見れませんよ!」

「一生に一度のチャンスですよ!」

「何をのんきなことを言ってるんですか!」

「そ、そうなの……?」←キッサ



 お前の娘のことだぞ。分かってるのか? という怒涛の猛攻にさすがのキッサもたじろいだ。


 もはや上司だろうと雇い主だろうと止めることが出来ないほど興奮する女性達。普段と立場が逆になってしまったという。乙女パワー強し。



「レディーちゃん、これ無理よ」

「仕事が終わったら話を聞きましょうか。そうね、夕方ぐらいにまた来て頂戴。落ち着く時間も必要でしょう」

「みんなで二人の手伝いをするわよ」

「そうね。早く終わらせましょ」

「待ってられないもんね」

「全員で取り掛かれー!」

「「「「「カフェちゃんのためにー!!」」」」」

「その掛け声恥ずかしいので止めて貰えませんか」←カフェ



 こうして二人の仕事を手伝い、数分で完璧に終わらす女性達。どうしても手紙の内容を知りたいのだろう。カフェを応援する乙女パワーの前にレディーとキッサはずっと顔が引きつっていたとか。


 仕事が片付くと、女性達は今までの出来事を分かりやすく端的に説明し始める。誰も言えなんて言っていないのに勝手に。おかげでレディーとキッサにすぐ状況が伝わったという。



「あらあら。本当に脈がありそうな話になってるわね。キッサさんはどう思う?」

「ちょっと疑わしい気持ちもあるわよ。私の娘だけに」

「もうそんなこと言っちゃダメよ」



 すぐ女性達の仲間入りするレディーとキッサ。心は乙女なのだ。



「カフェ、相手はあなた的には好みはタイプだったの?」←キッサ

「よく覚えてません」

「それなら印象はどうだった?」

「印象もなにも何をしたいのかさっぱりでした。変な人でしたね。やはりこの手紙は仕事の依頼でしょう。みんな勘違いしすぎです」

「……えっとね、どういう男が理想なんだっけ? 条件とかあるの?」


「そうですね。まず第一に私を大事にし、お金は必要でしょう。身長は……(以下長いので略)」


「キッサさん、あのまま放置した方がよくないですか?」

「いくらなんでも理想高過ぎですよ」

「さすがに夢見がちすぎっす」

「このままだと本当に誰も寄り付かないですよ。レディーさんもそう思いますよね?」

「まあ、まあ。どうかしら」←こっちに話振らないでって顔のレディー

「……こっちで手助けしてあげないとダメそうね」←キッサ



 気が付くと誰も私の話を聞いていなかった。母もレディー様もあっち側にいってしまったと落胆するカフェである。この部屋にはカフェの味方がひとりもいないようだ。


 カフェは一人寂しそうに窓の外を眺め始めたという。メンテがいないせいか手元に何か欲しいと思っていたという。やはりメンテのような小さい子の存在は心が安らぐのだ。



「それで例の手紙は今どこに?」←キッサ

「ここにあります。アニーキー様が勝手に持って行こうとしたので、メンテ様のおっぱいを手伝ったら読んでいいと言ったら諦めてくれました。アーネ様もアニーキー様に付いて行ったのでここにはいません」

「それなら遠慮なく手紙の話が出来そうですね」

「何も気を遣わなくていいですし」

「メンテくん最強」

「おっぱい止めるように言いなさい、そこは」←レディー



 レディーの言葉は乙女たちのパワーの前では弾かれたという。そんなものは後回しだ。あとメンテがいつ爆発するか分からないので兄弟は即行で逃げたらしい。子供は正直。危機管理能力もバッチリあるようだ。褒めた方がいいだろう。



「ちょっと失礼するわね。ふーん、これが噂のねえ。カフェ、読んじゃうわよ」←キッサ



 まずはカフェの母親ことキッサから手紙を読むことになったのだが……。



「…………何これ。初めて見る文字ね。ちょっとちょっと、レディーちゃん」

「どうしたの?」

「これ読める?」

「…………さっぱり読めないわね」

「「「「「……えっ?!」」」」」



 まさかの返答にとんでもない形相になる女性達。


 え? メンテくん読めてたよね?? 奥様の手伝いをしているときに覚えたのでは????


 奥様なら絶対読めるという前提条件がなくなり、女性達は焦り始めた。



「……冗談ですよね?」

「いえ、読めないわ」←キッサ

「こんな字知らないわよ」←レディー


「「「「「えええっー!!」」」」」


「まさかアニーキーくんの推理は間違っているの?!」

「でもあれは皆が納得したはず」

「それだと説明が……」



 あれ? っと思う女性達。その視線はレディーの服の下にいるメンテに注がれたという。



「メンテくん。元気になったかな~?」

「顔を出してメンテくん」

「この文字読んで欲しいなあ」

「カフェちゃん大変なの」



 これメンテくんに色々確認が必要なのではないか? と女性達はメンテに話しかける。だが誰の言葉にも一切動じないメンテ。皆手掛かりはあなただけなの、手伝ってー! と必死になっていた。


 そんな女性達の反応を見て本当にメンテが読めるの? と思いつつ、レディーもメンテを呼んでみることにした。



「本当にメンテちゃんが文字を読んだの? ママにも見せて欲しいなあ」

「……」

「もういっぱい吸ったでしょ? 時間よ」

「……」

「聞こえてないのかしら?」

「ぐぅ~」

「あら。寝てるわね」



 ある意味乙女より自由で無敵の赤ちゃん。誰の声も届くことはなかったという。



「すぐ寝たってことは本当に体調が悪いのね」←レディー

「レディーちゃん、もうあとにしましょう。それで手紙の内容はどこまで読めたの?」←キッサ

「殿方の名前はバイク。人を探しているらしく、それがカフェちゃんだということ。それで……」

「「……それで?」」

「メ、メンテくんが『しょくじ』と言ったところで急に熱を出してしまい……」

「「ぶふっ?!」」



 噴き出すレディーとキッサである。



「そこ一番重要なところじゃないかしら?!」

「確かに気になる終わり方だわ……」



 手紙の内容的に肝心なところでメンテがダウン。皆続きが気になって押しかけて来たのねと納得するレディーとキッサであった。



「なんでメンテちゃんが読めるのかは分からないけど、これをどこかで見た事あるってことよね? 探せば何か出て来るのかしら……」

「それはないと思うわ。私達どっちも知らないなんておかしいもの。メンテくんぐらいの子供は何でもよく見てるし、今からグングン覚えていく時期でしょ? どこかで目にしたり聞いたことあったんでしょうねえ……」



 謎は深まるばかりである。


 まあメンテが嘘をつくことはないだろう。誰も教えてない言葉をしゃべるなんてありえないし、謎の人物名が出るはずがない。指を差しながら僕ここ読んだよ。すごいでしょ? 褒めて褒めてってやるカワイイ子なのだ。本当に読めているかどうかは誰も確認しようがないが。


 きっと私たちの知らないうちに文字を覚えたんでしょうねとレディーとキッサは結論付けのだった。赤ちゃんは大人が思いもよらない変なところまで見てるのかと驚かせられるものである。


 そんな話し込む二人に、女性達はある事実を突きつけるのであった。



「お二方、少しよろしいでしょうか? まだ話は終わっていません。重要なことがまだあります」

「あら、ごめんなさいね。話し込んじゃったわ」←レディ

「ん? まだ何かあるの?」←キッサ

「もしこれが食事と書かれているとします。その後に来る言葉はどうなると思いますか?」


「「……………………はっ?!」」


「やっと気付かれましたね」

「私達がここに来た理由がそれなんです」

「誰も読めないせいでヤバいかもしれません」

「奥様方が読めると信じていたのですが、これでは予定が……」



 食事のあとに続くであろう言葉。それはお誘いについての詳細が書かれているはずだ。いつ、どこで、だれが、なにを、なぜ、どのように。こういった情報が欠けに欠けているのだ。


 もう皆お分かりだろう。現時点で一番重要な人物の体調が悪く、手紙の内容が全く分からない問題が発生していることに。


 それだけではない。もしおっぱいの邪魔をするとアホみたいに怒るので、気分を害して全く読まなくなる可能性も考えられる。赤ちゃんの気分は変わりやすいのだ。これを理解したとき、今本当にヤバい状況だと分かる。この部屋でカフェ以外の全員が思い悩むこととなった。


 カフェの命運は全てメンテが握っている。皆が冗談交じりでメンテを恋のキューピットと言っていたのがガチになった瞬間でもあった。



「……日付が書かれていたらまずくないかしら」←レディー

「そうなんです。今日貰ったそうなので明日までには読み解かないと多分ヤバいです」

「このまますれ違いになったら一生独身なんてことに」

「最後のチャンスを棒に振ることになっちゃいます」

「しかも明日明後日は土日。休日なんですよ」

「タイミング的にデート」

「カフェさん何を準備すればいいか分かっていると思います? 今もこっちの話興味なさそうにしてるような人ですよ? 我々でサポートしないと大変なことに……」

「カフェさんって仕事人間ですからねえ。仕事を認めてくれる人と付き合えばいいのにアホな妄想ばっかり求めるんですから」



 皆言いたい放題である。



「これメンテくんの熱が下がってからが本当の勝負になりそうねえ」←キッサ

「そうですね。早く元気になるよう手厚く看護しましょう!」

「「「「「カフェちゃんのためにー!!」」」」」



 カフェちゃんのためにー!! と言うメンバーの仲間入りしたレディーとキッサを見たカフェは驚いた後、うんざりしたという。これ最初に母やレディー様に相談しても同じ流れになっていたのでは? 遅かれ早かれの違いだったようだ。


 この日、メンテは皆に生まれたばかりの赤ちゃんような超丁寧でとんでもない甘やかされ方をすることとなる。だが、なんかみんな構ってくれてるなあとしか思わないメンテ。疲れすぎた脳みそは赤ちゃんにまで退化したのだろうか。あまりの赤ちゃんっぷりに女性達は苦労したという。


 こうして手紙の内容は誰にも分からないまま無情にも時間だけが過ぎていくのだった。次回に続く!




「まだこの話続くんですか?」←カフェ

「黙ってなさい! あなたのためよ」←キッサ

「えー……」



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