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251話 「手紙 その1」

前回までのお話

まさかの恋の予感を感じた

「どなたかこの手紙を読める方いませんか?」

「見せてください。……ぬぬぬ、読めません」

「んー、私も無理です」

「なら私が。……何語なのでしょう? 落書きではないですよね」

「どうしたんですこれ?」

「町で男の人から貰ったのですが……」


「え、カフェさん殿方からお手紙を貰ったんですか?!」

「「「「「きゃー!!」」」」」



 使用人の休憩室にて。カフェの持って来た手紙によりメイド達の姦しい声が部屋中に響き渡った。



「ついにメイド長にも春が?!」

「お相手は誰ですか?!」

「相手はイケメンでしたか!!」

「みなさん、落ち着いてください。まずこれが手紙かどうかも……って誰も聞いていませんね」



 カフェを置いてきぼりにして盛り上がるメイド達。部屋にいた男の使用人達は追い出されたというか何かを察して自らの足で素早く出て行く。こういうときは離れた方が良いのを知っているのだ。


 カフェはささ、どうぞどうぞ。ここに座ってくださいとメイド達に強引にソファに座らされ、質問攻めされるのであった。


 この世界にはスマホなんて便利なものはない。離れていながら想いを伝えるのは難しいのだ。なので告白の際は面と向き合うものである。


 だがいきなり相手に向かって自分の思いを伝えられるだろうか? 恥ずかしいしパニックになって感情が滅茶苦茶で変なことを言ったり……と思い通りにいかないことが多いだろう。そこで最初の一手によく使われるのが手紙だ。会って話をしたい。まずはあなたに好意を持ってますのアピールから始めるのだ。


 というわけでこの世界において告白とは一大イベントと言えよう。乙女達はそういう甘い話が大好き。年齢に関係なく、乙女心に突き刺さる最高の娯楽なのだ。他人の恋バナにやたら敏感で目がないぞ!


 どこから噂が広まったのか分からないが、休憩室にはナンス家で働く女性が大集合したという。もちろん仕事はしっかりと終わらせたうえで。中には今日休みなのにわざわざやって来たつわものもいたという。その情報網どうなっているのだろうか。ともかくすごい勢いでカフェの元に押しかけたのだ!



「カフェさん、手紙を貰った時の状況を詳しく!!」

「も、貰ったときですか? 町に用事があったときに通りがかった男の人から貰っただけです。ですが言葉が通じなくて何を言っているのかさっぱりでして……」


「い、異国の殿方からのラブレター?!」

「「「「「きゃー!!」」」」」



 いちいち盛り上がるカフェ以外の女性達。あれ? 聞く相手間違えたのでは?? と思い始めるカフェである。だが取り囲まれて逃げようにも逃げられない。まあ手紙の内容を知るにはいい機会なので利用させて貰おう。みんな勝手に勘違いしているのだから問題ないでしょうとカフェは話を続けるのであった。



「皆さん落ち着いてください。これがそういうものかの判別もまだ出来ていないのですよ。もしかするとナンス家への依頼かもしれませんし」

「またまた~」

「そんな照れなくてもいいじゃないですか」

「絶対恋文ですって」

「普通依頼だったら店に来るよね」

「誤魔化し方が下手すぎますよ(笑)」

「はいはい、みんな勝手にしゃべらないで。話が進まなくなるでしょ。それよりカフェさん、殿方はどのように渡して来たのですか? 簡単にでいいので再現してください! これでどっちかハッキリするので!!」

「あら、それ見たいわ!」

「カフェちゃん早く早く!」

「……あなた達、私で遊ぼうとしていませんか?」



 ジド目で女性達を見るカフェ。だが効果はない。恋に関して興味のある乙女たちの前では無意味であった。


 これはもう止まらないわねと仕方なくカフェは膝の上に座っているメンテに話しかけた。



「メンテ様どうしましょうか? ここに遊びに来ただけなのに大ごとになってしまいました」

「えぐ?」

「ここは狭いですからどこか別の場所に行きましょうか? 外なんかどうでしょう。のびのび出来ますよ」

「えぐぐ~?」

「……(この状況を理解なさってない顔をしてますね)」



 話がよく分かってないんだという顔をするメンテ。そんな顔をされたらカフェは何も言うことは出来ない。外に行きたいと言えばこの恋バナは終わっていたのにと逃げる機会を失うカフェである。


 ちなみにここにメンテがいる理由。それはメンテがみんなで遊びたいと言ったからだ。カフェはこの部屋なら人がいっぱいいるだろう。来るついでに手紙を読める人を探そうと思ったのである。そしたらメイド達が勝手に暴走して今に至る。ゆえにこの状況はメンテが作ったわけではない。たまたま一緒にいたらイベントが発生しただけなのだ。


 そんな女性達が部屋で騒ぎまくっている中、メンテはこう思っていた。面白そうだからメイド達の味方をしようかなと。メンテは興味津々なんです感を出しながらみんなの様子を見始める。すると話はスムーズに進んでいくのだった。



「ほらほら、メンテくんも話を聞きたそうにしてますよ?」

「早く手紙を貰ったときの状況を再現してください!」

「みんな待ってますよ」

「……はぁ。仕方ありませんね」



 しぶしぶ手紙を貰ったときの再現するカフェである。



「……というわけです。手紙なのか依頼なのか分かりませんよね?」

「「「「「……」」」」」

「どうしました?」

「「「「「きゃあああー!!」」」」」



 今日一の盛り上がりを見せる女性達。え? っと驚くカフェであった。



「顔が真っ赤でうわずった変な声でしたって?!」

「殿方は恥ずかしいのを我慢して声を掛けたのですね」

「どう考えてもこれはラブレター決まりです!」

「コノマチに見た目だけで騙されるような男がいたとは」

「いえ、そこは殿方の勇気は褒めるべきでしょう」

「告白できてえらい」

「それにしても貰った本人が何も気付いてすらないって……」

「殿方が残念すぎるよ」

「カフェちゃん鈍感!」

「だからモテないんですよ」

「「「ねー」」」

「誰ですか、悪口言っている方。消されたいのですか?」



 メイド達の中で手紙はラブレターで確定。あとは手紙の中身を確認しようと話は続いたという。もちろん主役であるカフェそっちのけで。


 はあ、やっと本題に入りましたかとカフェはメンテの体をプニプニしていた。こういうときに小さい子がいると気がまぎれるというか安らぐのだ。メンテもそれが分かっているから大人しくしていた。う~ん、お人形さんみたいでかわいい。なんて大人の気持ちが分かる子なのだろう。プニプニメンテくんのグッズ展開あると思います。



「誰か異国の言葉に詳しい人いたかしら?」

「店で働く人ならこの文字も読めるかもしれませんね」

「はーい!」

「どうしたのメンテくん?」

「へい、たくちぃいいいいいーーーーー!」


「ほほっ、お呼びでしょうか?」


「「「「「――?!」」」」」



 メンテが急に会話に入るのとほぼ同時に現れるタクシー。この執事は最初からここにいたのか、呼ばれたからここに来たのかは謎である。が、メンテの顔を見れば分かる。このままではこの物語が恋愛ものになってしまう。路線を戻すにはこれだ! そんな感じでメンテに呼び出されたのであろうと。


 女性達は一瞬驚いた。確かに謎の文字が読める可能性がある人物だ。が、今一番会ってはいけない厄介な人物でもある。女性達の心は今ひとつになっている。何の合図もなくとも一斉に部屋の外へ追いやり始めたという。


 カフェの未来のために団結した乙女たちに(かな)う者はいないのだ!



「男子禁制!」

「早く出てけ!」

「邪魔です!」

「帰れ!」

「鍵はしっかり閉めなきゃね」

「ぶっとべええええ!!」

「ほほっ?! 手厳し……ぐへっ」



 女性達からの圧と物理的な力で部屋の外まで叩きだされる執事。今父親という存在ほど邪魔な者はいないだろう。カフェの恋がスタートせず終わってしまう可能性大。殿方との接触前に絶対何かしでかすと判断されたのだ。よってとっても迷惑な存在がタクシーだ。排除が最優先なのである。



「いいですかメンテくん? もうあれを呼んじゃダメですよ」

「今カフェちゃんの一生が掛かってるの」

「あれが関わったら恋に発展する前にご破算しちゃいます」

「はーい。わかた」



 タクシーみたいに追い出されたくないメンテはしっかり頷いたという。


 ふう、僕の仕事は終わりだぜと何か役目を終えたかのような顔をしているメンテ。やっぱり面白くするためにわざと執事を呼んだのだろうか? それならとても仕事の出来る赤ちゃんである。えらいえらい。



「メンテくんには難しい話でしたね」

「まだ赤ちゃんですからね。困ったらパパやママを呼べばいいと思ったんじゃないですか?」

「あー、それあり得ますね」

「メンテくんピュアだもんねえ」

「見て、カワイイ目をしてるわ」

「メンテくんなりに役に立ちたかったんでしょうね。可愛い」

「メンテくんは無罪」



 メンテはピュアなので無害。タクシーは有害と判断されつつ話は進んで行ったという。


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