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247話 「密林ひょろひょろあふたー」

「みんな集まれ。ついに届いたぞ」

「「「「「おおー!」」」」」



 ナンス家の厨房。そこに料理人一同が集まっていた。



「おお、これが今話題沸騰中のカエス式・赤目包丁か!」

「確かに刃先がほんのり赤い」

「すごい色だな。初めて見たぞ」



 皆が見つめる先にあるのは包丁だ。それを見てざわついていた。



「この包丁はとある森に現れた特殊な赤い目の魔物から出来ているらしい」

「数量限定なのに世界中から予約殺到。あまりにも人気が出たため抽選販売となり、最終的に倍率が何百倍にまでハネ上がったんだよな」

「当たったやついるか?」

「落ちたわ」

「俺もだ」

「やっぱみんな落ちたのか」

「結局この一本だけか……」



 ここから遠くの国の森で発見された魔物。それはBランクの冒険者パーティーが逃げ帰るほど強かったようだが、カエスという男がそれをひとりで倒したらしい。材料にその魔物の爪を混ぜた武器を作ったところ、切れ味が上がるという特殊効果が確認されたそうだ。


 魔物を倒した男はギルドを通して世界中に宣伝したという。この魔物の素材を使ったナイフや包丁といった刃物を販売すると。元になる材料が特殊な個体だったため、今後同じものを発売することは難しい。魔物を倒した英雄の名が付けられた、とてもプレミアムな商品だと。


 その噂は瞬く間に広がり、世界中の冒険者や料理人が刃物を求めて町まで殺到したのだ。ナンス家で働く使用人たちも全員が抽選に応募したが、誰一人当選しない程に入手困難だった。


 が、ナンス家は運が良かった。



「まさかうちにカエスって人の仲間から依頼が来るなんてな」

「ここの魔道具は世界的に有名だからね」

「聞いた話だとパーティーで罠を張って追い込んだところで止めを刺したんだって。運が良かったってカエスが言っていたのは本当らしいよ」

「どんな魔物だったんだろうな」

「匂いがきついから時間を掛けて美味しくしたってよ」

「見たことないから想像つかないぜ。世界は広いよなあ」



 ナンス家に魔道具や家具の注文が入ったそうだ。何やらカエスが所属する冒険者パーティーは拠点となる建物を買ったらしい。そこで注文の品を拠点まで届けて設置やら何まで手伝ったところ、お礼にと入手困難なこの包丁を貰ったのだ。


 依頼を受けカエスの拠点に配送および設置サービスで訪問した人は語る。料理をする使用人たちの目があまりにも怖すぎて包丁を渡す約束をしてしまった。持って帰るときに落としたり盗まれないか、ここまで緊張しっぱなしの仕事は初めてだったと。



「じゃあ試し切りしてみるぞ」

「へい、カッチカチなカボチャおまち」

「最初はカボチャいってみるか」



 ちなみにこの包丁を使う順番は決まっている。揉めに揉めたのは言うまでもない。特に順番が最後の副料理長が。



 ストーン! パカー。



「おお。すげえなこれ! 全然力を入れなくても軽い!」

「交代だ。次はこの貝でどうだろな」

「貝殻ごといけと? さすがに刃こぼれするんじゃねえか?」

「魔力を込めると切れ味が増すらしいぞ」

「やってみるな。……うお、刃先が真っ赤になったぞ?! これで切るんだな」



 ストーン! パカー。



「「「「「うおおおー!」」」」」

「……ってバカ野郎?! まな板まで切れてるじゃねえか!!」

「「「「「うおおおおおおおおおおおおー!」」」」」



 大盛り上がりである。次は俺、早く早くと次々に包丁を使っていく。その切れ味にみな感動したという。


 全員が試し切りをしたあと、今回の本題である()()が冷蔵庫から取り出された。



「最後はこれだ!」

「これがテツノカジツ……」

「見ただけであれだな」

「石だよな」



 最後に切る食材。それは鉄で出来た果実のような形をした不思議なフルーツ。分類的にフルーツではなくただの石とされている。切ろうとしても逆に刃が折れ、魔法にもやたら強い。もはや食べて良いのかどうかも分からないヤバめなやつである。



「噂では珍味らしいがどうなんだろうな」

「硬すぎて切る時点で無理だよ」

「そもそも石を食べられる人は少ないからなあ」



 世の中には石を食べることが出来る珍しいスキルを持った人がいる。彼ら曰く、テツノカジツは色によって味が異なりデザートみたいにうまいらしい。特に中心程甘いのだとか。



「表面は完全に金属だけど、中には柔らかい実の部分があるらしい」

「味が変わるってのも気になるからコノマチに売ってるやつ色々買い漁って来たぞ。石だからか保存期間が年単位で笑っちゃったぜ」

「これ調理が難しいってレベルじゃないよな」

「まあ普通だったら食べる前に無理って諦めるよね」

「そこでこの包丁の出番ってわけよ!」

「もう我らに裁けない食材など存在しない」

「これほど無敵の気分になったことはないわね」

「包丁様様だよ」

「ここで働いていて良かったと思うわ」



 新たな道具を得た料理人の向上心は高い。ここには未知の食材を使ったり、新たな調理法を研究したい人しかいないのだ。みな高揚が止まらなかったという。


 だがさすがに家の中で切るのは危険なんじゃないか? と一度冷静になり、料理人は外で作業をすることにした。すると料理人のもとに元気な小さい男の子とメイドが一緒にやってきた。散歩でもしていたのだろう。



「はーい!」

「お、メンテの坊ちゃんか。今石で出来たフルーツを食べてみようと思って準備してるんだ」

「いちぃー?」

「おう、この石だ。硬すぎて誰も食えねえっていう果物なんだよ」

「さっき新しい包丁が手に入ったんだ。切れ味を試すなら絶好の食材だろ?」

「いやいや、その前にそれ食べられるんですか」←メイド

「それも含めての実験だよ」

「危ないから離れてくれ。お前らメンテくんには当たらないように絶対守れよ」



 カエス式包丁を手にした料理人は、テツノカジツの上に軽く包丁を乗せた。魔力を込めて包丁を赤く光らせ、下に向かってゆっくりと力を入れる。すると簡単に真っ二つになったという。


 無理に切ると破裂するかもと警戒していた料理人たち。だが包丁の切れ味に感動するしかなかった。これは争奪戦になるのも頷ける。自分専用に欲しいなあと心から思ったという。


 ちなみにかたい石をスパっと簡単に切っちゃう様子にメンテは興奮してはしゃいでいた。かわいい。



「中はどうなっている?」

「おお? 中心がちょっと柔らかいぞ。少しぷにぷにしてるな」

「石っていうよりゼリーに近い」

「早く食べてみようぜ!」

「わかったわかった。一口サイズに切るから待ってろ」



 料理人は小さな欠片をつまむと口に放り込んだ。メンテくんは得体の知れないものは食べちゃダメだよとメイドに抱きかかえられて泣いていた。かわいい。



「……ん? う~ん」

「まあほんのりと味があるな」

「か、噛み切れねえ」

「なんだこの食感。柔らかいのか硬いのかどっちだよ」

「これは俺には無理だ。歯が死ぬ。メンテくんは絶対食べちゃいけねえな」

「えぐぅ……」

「そんな悲しい顔しないでくれよ」



 最終的におえっと全員が吐き出したという。石は石だった。そんな大人達を見たメンテは泣くふりを止めたという。食べなくて良かったと表情に思いっきり出ていた。分かりやすくてかわいい。



「メンテくんごめんな。これがおいしく食べられるようになるのはもっと後になりそうだ」

「わかた(分かった)」

「代わりといって何だが、今晩何か食べたいものはあるかな? 今日はみんなで張り切って作っちゃうよ。さあ、言ってごらん。この新しい包丁のおかげで不可能はなくなったんだ」

「おっぱい」

「ん~?! よく聞こえなかったなあ……。牛かヤギのミルクかな?」



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!



「ひいいいいい?! ぜ、全員集まれ! レディーさんを早く探すんだ―!!」

「ひやあ?! 調子乗ってなんてこと言うんですか。巻き込まないで下さいよおおお」←メイド

「きええええええええええええええ!!」




 石よりもかたいメンテの意思。例えどんな切れ味の良い道具を持っていても、そのかたい意思をさばくことが出来なかったと料理人は嘆き反省したという。


 何事も舞い上がっちゃダメなようだ。みんなも気を付けよう。




 とあるメイド視点


「「「「「石食おうぜ!」」」」」

「こいつらやべえな……」

「おっぱいは?」ゴゴゴッ!

「ひやあ?! もっとやばいのが近くにいるううう」

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