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243話 「密林ひょろひょろ その1」

前回までのお話

SFファンタジーしてた

 ナマケモノ。


 その動物の名前を聞くと、ゆっくり動いて木にぶら下がる姿を想像する人が多かろう。実はこの世界に似たような動物がいる。そして、魔物も同様に存在する。



 ナマケモノに似ている魔物の名は『ナマケルノ』。



 それは地上に住んでいる生き物だ。全身は長い毛で覆われ、クマのような分厚い体格をしている。毛の色は住んでいる環境によって変化する。森の中であればどこにでも住処を作るようだ。犬や猫のように四足歩行をし、しなやかな筋肉で俊敏に移動する。後ろ足だけで立ち上がることも可能で、木に登ることは得意だ。大きい個体でも1メートルを多少超えるぐらいである。


 食性に関しては木の葉や実、野菜をよく食べる。泳ぐことも出来るため、魚を捕らえて食べることもあるらしい。このことから雑食の生き物だと言われている。


 ここまで聞くとナマケモノとは別種と思うだろう。だが、その見た目やのんびりとした性格はナマケモノに瓜二つ。機敏に動く姿を見るまで動物と魔物の区別が付かない人が多いのだ。


 基本的に一日中寝ている。エサを探すときだけ活発に走り回るようだ。怠けるのか怠けないのかどっちだよと言いたくなるだろう。




「シュルルルル……」




 そんなナマケルノに近づく一匹の大きな影。細長い体で舌を出しながらクネクネと地を這うように移動していく。


 静かに近寄って来たのは、体長4メートルを超える大型のヘビ。


 眠るナマケルノに狙いを定めたのだろう。獲物を見つけたヘビは口を開いて飛び掛かった。その瞬間――。




 スパッ!



 ボトッ。シュー……。



 血飛沫がほとばしる中、ナマケルノは目を覚ます。


 落ちたヘビの頭を踏み潰し、残ったヘビの胴体を横に薙ぎ払う。


 黒き瞳を赤に変え、空を見上げながらうなり始める。






 ナマケルノ。


 それはとある地方の言葉で”密林のかぎ爪”という意味がある。


 普段は温厚だが絶対に怒らせてはいけない。そういうタイプの魔物である。






 ヘビの亡骸から血の匂いを感じとったのか。肉食動物の群れがナマケルノの住処へと近づいて来ては切り裂かれ、どんどん死体の山を築いた。


 ありとあらゆるものを切り裂く不可視の斬撃。それがナマケルノの爪に付加された力。魔力の使い方を理解し、普通の種とはかけ離れた強さと賢さをもつ生き物。それを総じて魔物と呼ぶのだ。


 睡眠を妨害されたナマケルノは怒りに満ちていた。


 今まで多くの生き物を返り討ちにして来た。自分より大きな相手だろうと小賢しい技を使う相手も全て打ち負かして生き残り続けて来たのだ。番狂わせと森中で恐れられている特殊な個体である。


 動くものは全て敵。手当たり次第に切り裂いていく。




 スパッ! スパパパッ!!




 逃げる相手にも容赦はない。不可視の一撃は攻撃されたことも分からずまま命を散らす。




 ザクッ! ザザザッ!!




 全ての生き物がいなくなるまで怒りが収まらることはない。大地を踏みしめ、勢いをつけて相手の首へと腕を振りかぶる。


 例え自分より小さく弱い生き物だろうと関係ない。危害を加えて来ない相手であろうとそこには死あるのみ――。






「にゃ(虫多いなあ)」ベチコーン!!!


「ぐぼっおおおおおおお?!」






 ん? なんかひときわ大きい虫が飛び掛かって来た気がする。まあ気のせいでしょう。


 というわけで皆さんこんにちは! 僕メンテ。猫だよ。


 今日は森というかジャングル? みたいな場所に来ている。木の上とか下にツタがいっぱい生い茂っている森なんだ。そのせいか月明かりも届かなくて暗いね。


 暇だったから山の向こうへ向こうへと行きまくったら生態系が変わってたんだよねえ。ムシムシしているというか気温が高いというより湿度がある。熱帯地方にある森にたどり着いた感じかな。


 こういうところは初めて来たね。海外旅行に行っているみたいだ!




 まあそんなことよりさ、前見てよ前。あそこあそこ。


 ほら、そこのおじさん。


 なんかね、こんな暗~い森の中に酔っぱらいが酒瓶持ってフラフラ歩いてたんだ。びっくりだよねえ。



「ふんふんふんふー。うごっ」



 あ、木の根っこに引っかかってこけた。


 あのおじさん大丈夫なんだろうか? 酔って足元がおぼつかないのか妙な動きをするんだ。色々と心配しちゃうよ。



「すんごうほほほほー!」



 テンションがアホみたいに高いおじさんは、謎の言葉を発しながらフラフラと移動していく。


 どこに向かってるんだろうとさっきから尾行してるけど、森の中をいったり来たりして目的地にたどり着く気配がない。


 この近くにおじさんの家だか住んでる村でもあるのだろうか? 猫探知でこの付近を調べてみよう。



「……おや?」



 なんか周りに動物の気配がいっぱいあるぞ。ここだけ異常なほどに集まっているなあ。


 んー? 辺りを見渡すと何かが争ったような痕跡があるね。


 ここで何かあったのかな? と考えていたらおじさんに向かって何かが飛び出て来た。木の上からの奇襲である。危ない!



「キッー!」

「にゃ」ビシッ

「ふんふふん」←おじさん



 やっべ。ついついしっぽで攻撃してしまった。人がいるときは見つからないようにしてるのに。


 それよりあのおじさん、襲撃に全然気付いてないのがヤバい。何のんきに鼻歌を歌ってるんだい。あなためっちゃ囲まれてますよ?


 いくらなんでも無防備すぎるなと思ったけどただの酔っ払いじゃん。こんなところにいるから強い冒険者か何かかと思ったけど、本当にただの一般人。これはこれで予想外だ。



「ん? おお。パドヴォ―」

「?!」



 うわっ。急に僕に気付いたよ?!


 僕のしっぽの攻撃が見えたのか。それともたまたま振り返ったのか。酔っ払いの行動は予測出来ないよね。完全に意表を突かれました。



「元気か~? えさのじかんだかあ?」



 よく分からないけど僕に話しかけて来るぞ。逃げる気配は全然ない。むしろグイグイ来る。


 どうしよう? 一応周囲に黒い霧を出しているのでここに何かいるぐらいの認識のはず。猫魔法で強引に対処したり、しっぽで分身を作って誤魔化すべきか。悩ましい状況である。



「散歩だえ。かえってご飯の時間だど!」



 ん~? 僕のことがペットか何かに見えてるのかな??


 おじさんは帰るぞーみたな感じで僕を誘って来るし。


 そうだ、試しに返事でもしてみよう! ここで僕あなたのペットだよ感を出せば誤魔化せるのではないか? 少し反応を伺ってみるね。



「はよいくで~」

「にゃ」

「あんで? パドヴォ―なんだか猫みてえな声だなあ」

「ぉぱぃ?」

「なんだ聞き間違えかー。かえるどー!」

「にゃー!」



 このおじさん、ひどく泥酔しているだけのようだ。僕がテキトーに返事しても大丈夫だったし。


 これならもっと近くにいてもバレないよね? というか面白くなって来たのでついて行ってみよう!



「パドヴォ―。毛が短かくなったかー?」

「にゃ」



 おじさんは横に並んで歩く僕に話しかけて来る。


 いい感じに勘違いしてくれているな。多分パドヴォ―というのはペットの名前だろう。なら今から僕はパドヴォ―だ!


 どうやらパドヴォ―は毛が長い生き物らしい。魔法で毛を伸ばしてみる。ここは僕の変身能力の見せ所。このおじさんのイメージ通りになれば偽物のパドヴォ―だとバレることはないだろう。そもそもパドヴォ―が何の動物なのかは分からないけど。



「うちにいる頃は茶色かったのにだいぶ汚れたなあ」

「にゃ」



 パドヴォ―は茶色いみたいだ。今の僕は黒色。猫魔法で毛の色を変えてみよう。



「帰ったらきれいきれいすっど。にしても右のほねもあでだよなあ」

「にゃ?(骨?)」



 パドヴォ―は右の何かが骨らしい。右前足の一部を骨にしてみよう。



「そうそう。おっきいでここ」

「にゃ?!(骨が?!)」



 パドヴォ―の骨はでかいらしい。骨の部分だけ巨大化させよう。



「にしても久しぶりだなあ。パドヴォ―のくさなたれ顔なんだっけ。おげ、気持ち悪ううう。ちょっと休憩すだっふっふー」

「にゃあ(吐くほどひどい顔なのか)」



 パドヴォ―の顔はたれているらしい。見ていると気持ち悪くなるぐらい肉を腐らせ、ヤバいたれ顔にしよう。



「なんかパドヴォ―いきいきしてるなあ。だんだだん。だんだだん」

「にゃ~?(その歌何?)」



 こんな感じでおじさんのパドヴォ―の要望を叶えていったんだ。そしたらすんごい生き物になった。まあこの世界にはこんな見た目の生き物もいるのではないでしょうか。


 あとおじさんはパドヴォ―って抱き着いて来たり、なんかめっちゃ涙流してうるさかった。酒臭いからすぐ離れたけど。


 それから一緒に歩いてたんだけど、急におじさんが立ち止まった。目的地に着いたのかな?



「はあ、ねるどパドヴォ―」

「にゃ(起きて)」ビシビシ

「ふわ?! ここは便所か。ベッドどこだでー」



 全然違った。おじさん、寝ちゃダメだって。しっぽビンタで起こす僕です。


 おじさんの言葉を推測すると、この森が自分の家の中と勘違いしている言動がただある。徘徊している理由はそれだと思うんだ。酔い過ぎて何か変なの見えちゃってるんだろうね。


 今更だけど猫の姿で人間と堂々と交流したのがこれが初めてだよね。初めてがこれでいいのか? どうせ明日になったらおじさんは僕のこと覚えてないだろうからノーカウントでもいい気がする。普通の人との交流はまだしてない。今は練習。うん、これでいいや。



 でね、おじさんとは別に新たな問題が起こっていたりする。


 なんかさっきよりおじさんへの襲撃の回数が増えているよね? 木の上に猿っぽいのがいっぱいいるんですよ。敵意むき出しで追いかけて来るの。


 飛び掛かって来る猿を軽くしっぽでビシバシしても全然逃げる気配がない。猫探知したところ、僕とおじさんの周りに集まっているのが分かる。突っ込んできたり物を投げたりと歩きずらい。おじさんを守るだけで一苦労だよ。


 あと猿とは別の生き物も複数いるのを感じる。こっちはこっちで何かと喧嘩しているね。この森、治安の悪すぎない? 久々に異世界ヤバいと思ったね。


 んー、非常に面倒な状況だ。とりあえずここから離れたいけど、このおじさんどうしよう?




「お? 近くに町っぽい反応だ」




 おじさんの進む道の先にたくさんの人間がいる気配を感じました。これは結構な数だからなかなか大きな町でしょうね。ちゃんと町に向かってたんだと一安心する僕です。


 酔っ払いのこのおじさんは町の入り口にでも置いて帰ろう。さっきからおじさんの護衛しかしてないしさ。やはりどの世界でも酔っ払いと絡むと面倒なことが多いようだね。


 あとはあの猿をどうにかしなきゃね。町に近づかないように追い払えばいいだろう。そうすればおじさんを放置しても安全だ。



 よし、ここはあれを使って穏便に済まそう!





「猫魔法・絶望の心!」





 まずは肉球みたいな形の疑似太陽を森の上に浮かばせます。そして、日当たり抜群のいい感じになる高さにたどり着いたら猫の光を解き放ちます。


 するとあら不思議。光を浴びた生き物は希望が消えたかのような落ち込んだ状態になるのです。


 猫にだって感情あるんです。これはその猫の思いをたんさんの生き物と共有する可愛いらしい魔法なのです。これで興奮した生き物も落ち着きを取り戻し、喧嘩は止むことでしょう。


 発動するまで多少時間が掛るのが難点ですね。邪魔な生き物たちはしっぽや猫パンチで吹っ飛ばしていきます。猫パンチというか骨パンチだね。パドヴォ―はゾンビみたいな猫だからさ。


 お、魔法が発動して森を明るく照らし始めたよ。あとは森の生き物たちが落ち着くのを待つだけだね!




 ……。



 …………。



 ……………………あれれ~? 生き物の気配がなくなっちゃったよ。




 近くの猿達は木から落ちて白目向いて泡拭いてる。他の生き物も倒れ込んで動きやしない。


 ん? みんな心臓止まってないこれ。


 ちょっと刺激が強すぎたかな??





 ……っておじさん大丈夫?! と思ったら木の陰に隠れていました。


 運よくスッ転んだのかな? 地面に滑った足の跡のようなものがあるもん。おかげで僕の魔法の光を浴びることがなかったようだね。


 どうやらおじさんは元気そうです。いびきがすごいので寝ているだけなのが分かります。




「ん?」




 よく見るとおじさんの傍らに何かいる。ナマケモノみたいな顔の生き物がいます。いや、顔はそっくりだけど熊っぽいような? とにかく変な生き物がいます!


 なんかおじさんが持っていた酒瓶が割れてナマケモノの喉に突き刺さっていますね。


 ありゃー、不幸な事故でもあったのかな……。南無南無。



「ふひー」

「あっ」



 おじさんが寝返りをしたと思ったらナマケモノに抱き着きました。完全に枕替わりにしていますね。多分その枕死んでるよー。


 しょうがない。ナマケモノごとおじさんを町の入り口に放置しよう。またねー。



 そんな感じでおじさんと別れました。



 見た感じこの町は結構大きそうです。ちゃんと町の周りが整備されていますね。森の中にポツンとあるというより、森を削って町を築いたような感じでした。


 あの町を囲む大きな壁で動物の侵入を防いでいるのかな? 夜中にあんなに争ってるんだもん。そりゃ壁でもないと大変だよねえ。


 さすがに町の中の探索をする時間はないので今日はお家に帰りましょう。


 多分この世界って人間の住む場所より自然のほうが多いよね。前世と比べたら人工物が少なく感じるもん。明日はどこを探索しようかなあ。








 ここからはメンテ心のメモ帳のコーナー。


 今まで僕が変身してきた猫を簡単にまとめたよ! 


●ライオン 王者っぽい


●トラ 筋肉すごい


●宇宙 何もかも無限大


●パドヴォ― ただの飼い猫


 みんな普通の猫だよ。お気に入りはライオン。たてがみがカッコ良いからね。


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