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234話 「テンプレート共和国 その2」

 僕メンテ。最近僕の住む町が面白いことになっている。



「この的を壊したら試験は合格だ。やってみろ!」

「はい。まあ手加減してこれぐらいでいいか……」


 ドーン!!


「な、なんて威力の魔法だ?! しかも伝説の全属性複合魔法だと……。信じられない、本当に人間なのか??」

「ち、チートだ!」

「こいつ凡人じぇねえのかよ」

「ぐぬぬ、貴族でもない平民のくせして」

「俺何かやっちゃった?」



 今日はチートという言葉が良く出る演劇が町中で溢れ返っている。



「ぱぱあー」

「おや、また増えたな」

「ほほっ、今度は強すぎる力を持つ人間の物語ですな。それを流行らせたいのでしょう」

「あれは~?」

「んー。あれはメンテには早いかな」

「ほほっ、恋愛要素も絡んでいるようです。メンテ様にはまだ分からない内容でしょうな」

「えぐぅ~?」



 集まった観客からヒロインは誰々だとかハーレムだとか聞こえて来る。だが鈍感な主人公なせいか恋が先に進む気配がない。このまま最後まで何もなく終わるのだろうか?


 しばらくすると賭け事が始まった。よく見ると劇団の関係者が主催しているぞ。


 なるほど、結末は賭けの結果によって左右するのか。金を出せば望む結末を見せてやる感がすごい。


 母があいつらヤバいから無視しろという意味がなんとなく分かる。



「ぱぱあ」

「どうしたメンテ?」

「あれほちぃ」

「あれ? あー、賭けのことかな? あれが気になるのかい? でもあれはおもちゃじゃないからな」

「まま、かねほちいった(お金欲しいって言ってた)」

「タクシー、やれ」

「ほほっ、あれはコノマチで無許可での営業ですな。全て没収しましょう」



 しばらくナンス家の懐事情が良い感じになったらしい。一番喜んでいたのは母かも。







 さらに日数が経ち……。



「お前は要らん。追放だ」

「そ、そんな……」



 今日もそこらじゅうで同じような内容の演劇をしている。主人公が最初ひどい目に合うのだ。



「ぱぱあー」

「ん、今度は誰が追放されたんだ? ほう、悪役令嬢? 普通の令嬢と何が違うんだろうな。宮廷魔導士だったりギルドの偉い人をクビにしたり誰でもありなようだ」

「ほほっ、偉い立場の人間を追い出し立場を乗っ取りたいようですな。これを流行らせたい勢力の願望が駄々洩れですぞ」

「あれはー?」

「あっちでは王様が泣いているな。ついに国まで奪われたのか」

「ほほっ、どこも最後は黒幕ざまぁとなる同じ終わり方ですぞ。あっちでは婚約破棄から似たような展開になっています。パターンは無限大なようですな」



 少しだけ設定を変えてあとは似たような話の演劇が広まっている。


 う~ん。まさにテンプレ地獄。


 またこの展開かよと思いながらも最後まで見てしまうから恐ろしい中毒性だ。



「ぱぱあ」

「どうしたメンテ?」

「あえほちい」

「あれ? あれって何だい?」

「こえ」

「ん? タクシー、何と言っているか分かるか?」

「……服でしょうか?」

「はーい! そえ。きっちゃ、きじほちいった(キッサが服の生地が欲しいって言ってた)」

「タクシー、やれ」

「ほほっ、永久追放しましょう。服と言わず持ち物全部置いて行って貰いましょう」

「「「ひゃっはー!」」」



 こんな感じで毎日遊んでいたらテンプレはすごい勢いで撤退した。もっと遊びたかったなあ。




 ◆




 これはコノマチの村長のお話。



「村長! 大変です!!」

「……何も言うな。分かっている」



 ドゴーン! ドゴーン!!



「……ここまで聞こえますね」

「こんなことするのはダンディしかいない」

「そうです」

「では原因を教えてくれ。どうせあの国なのだろうが」

「分かりました。まず町に入る劇団に徹底的にナンスのことを伝えた上で厳しい検査をしました。通行料もガッポリ頂きました。拒んだ団体は町に入らず王都に向かうことにしたようです。狙い通りになりました」

「よくやった。その後は?」

「警備の連絡によるとナンスの店周辺には誰も近寄らなかったようです」

「そこまでは良かったのか。それで?」

「ナンスの店に通勤する途中のダンディさんと劇団が接触したようです。その結果が……」

「なんてこった……」



 頭を抱える村長。秘書も何とも言いづらい表情をしていた。



「あれか。もうあれを見るだけでおもちゃ扱いしてるってことだな」

「そのようです」

「……」

「……」



 しばらく無言になる二人。どうすりゃいいんだよと悩むのであった。そんなときに警備の若者がやって来た。



「村長、被害を国に訴えてやると言う劇団関係者が出始めています。どうします?」

「ナンスがお前の国に遊びに行くぞと言ってやれ。それで大抵大人しくなる」

「それを言ったら逃げ去りました」

「ずっとその対応をするように。はあ……。あの国が来てから問題しか起こらないな」



 コノマチで事件は日常茶飯事である。特にナンス絡みについては一番多い。


 対応が決まると警備の若者は仕事場に戻って行った。そして、村長と秘書の会話は続く。



「先程の話の続きですが、目撃した住民からの証言によると、ナンスに襲撃を受けた劇団はコノマチで禁止されている賭け事をしていたらしいです」

「ふあっ?! その劇団のグループは全員捕まえろ!! ダンディがいる限りコノマチで賭けなど成立しない。むしろそれを理由に暴れ始めるんだ」

「本当ろくな集団じゃないですよね。この派閥はお金が貰えるまでずっと居座り続ける厄介者で有名だそうです」

「あの国頭おかしいんじゃないか?! 王都から見つけ次第連絡よこせって話が出るわけだよ」



 まさかのナンスが正義側で驚く村長。


 もうこれあれだ、全部テンプレート共和国のせいにしてやると頭を必死に動かす村長であった。






 さらに一週間ほどすると、コノマチは住民より劇団員の関係者が多い状況になっていた。


 そこらじゅうの道で本番なのか練習なのかも分からない演劇を見せつけられる。それを避けようと動くと劇団員がわざと前に出て来て最後まで見ろと妨害してくる。ろくに歩けない有様だ。さらにしつこい勧誘がウザすぎて喧嘩もちらほら起きていた。


 最初こそ物珍しさを感じていたが、今ではテンプレート共和国に対してコノマチの住民はブチ切れつつあったのだが……。



「村長! 大変です!!」

「どっちだ?!」

「ナンスです」

「よし!」

「よし! じゃないですよ?! 何ガッツポーズしてるんですか」



 劇団の関係者が何か問題を起こすとナンスが駆け付け、ボッコボコにしていたおかげでコノマチで暴動は起きなかった。むしろもっとやれーという雰囲気である。



「今回問題を起こしたのはどこの派閥だ?」

「ループ派だそうです。過去に戻ってやり直すそうです」

「初耳だな。それにしてもいったい何個派閥はあるんだ? 昨日は婚約破棄、悪役令嬢、追放派が手を組んで生まれた女性志向。その前は領主、農業、スローライフのブラック同盟。動物やアイドル、王道、伝統派とかもいたな。数えきれないぐらい報告書が机に溜まっていて見たくないのだが……」

「私も全部は覚えてないです」



 流行を生み出したい力は強かった。毎日のように新しいジャンルの劇が誕生していくのだ。



「テンプレート共和国……。あの国の熱量は本物だ。だが広め方は下手過ぎる」

「面白い話も多いから対応に困りますね」

「ああ、その気持ちは分かる」

「ちなみに町のお年寄りの中では普通の演劇が好評なようです」

「分かりやすいのが一番だな」



 たまに村長のツボにハマる内容もあったらしい。なんやかんやで少しは楽しんでいた。



「でも今週中に片付きそうですよ。コノマチに向かっている集団も残りわずかです」

「やっと平穏が訪れそうだ」

「そうですね」

「それにしても途中からは楽になった。全てダンディのおかげだ」

「すごかったですね」

「あんな堂々と略奪……ではなくコノマチを守っていたからな」

「町では子供を喜ばせるために暴走したという噂もありますからね」

「噂になっている子は確か娘と同じ年だ。そんな幼い子が人を襲っている姿を見て喜ぶと思うか? だから全部ダンディの暴走だ。あの国はおもちゃ扱いされてるんだよ」

「噂は所詮噂ということですか」

「そういうことだ」



 メンテがあれこれ欲しいとおねだりした結果、テンプレート共和国に即刻帰ったり、王都に一目散に逃げ出す劇団が続出したのだ。また王都の帰りにコノマチに寄る劇団は1つもなかった。そのまま隣の国に行ったのだとか。


 おかげでコノマチの被害は最小限に抑えられたという。



「それにしてもヤバい国でしたね。もう関わりたくないです」

「しばらくは安心だろう。まあ揉め事が起きてもここではナンス家が勝手に解決するからな。外から来た問題は全部ナンスのせいにすれば問題ない。むしろ住民の訴えの方が大変だ。こんな楽に仕事が出来るコノマチが一番平和でヤバい町だろうな。他の町の村長はさぞ大変だろう」

「あはは、村長も冗談上手ですねえ」


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