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233話 「テンプレート共和国 その1」

前回までのお話

冒険者が定住するまでの流れ

 僕メンテ。可愛いカワイイかわいい1歳を演じる男の子。


 今日は家族でお買い物。町でショッピングをしているんだ。そんな中、目立つ集団に遭遇しました。



「人の名前を語るバカはお前らか?」

「何を言う。俺が本物だ、この偽物め。うりゃー!」

「はあ、最強たる俺に効くわけねえだろうが」

「クソッ、こいつ強い。囲め、やっちまえー!!」

『やー!!』

「馬鹿な奴はどこにでもいるなあ」



 町中で寸劇みたいなのが繰り広げられている。


 ド派手な服装と大きな音で周りから注目されているのが分かる。僕達もついつい立ち止まって見ていた。


 主人公を演じる背の高い男性が主役かな? 剣で敵役っぽい恰好の人々を一方的に切り刻んでいる。剣を振るたびにどこからか効果音が聞こえるね。


 剣は相手に当たっているようで当たっていない。いわゆる寸止めだ。時折当たっているのもあるけど痛くはなさそう。当たるとふにゃふにゃしてるんだもん。あの剣偽物っぽい。


 敵のやられ役っぽい人は10人ぐらい。主役の男に攻撃されるたびに大袈裟に吹き飛ぶ。あれは主人公がいかに強いかを表すパフォーマンスだろう。


 演技の得意な僕には分かる。あれは僕と同類。魅せ方を意識していやがる!


 これは殺陣というやつかな。剣の構え方、斬り方や斬られ方、足の動きなどが皆が理解しているから出来る動きだ。


 他にも魔法を使って上手に迫力を出している。風が観客まで届いたり光ったりすごいのだ。足元を見ると土魔法でも使ったのだろうか、少し地面が盛り上がって舞台っぽくなっているぞ。異世界ならではな感じがするなあ。



 僕を抱っこしている母に尋ねてみる。あれは何かなと可愛く。



「まんまぁ」グイグイ

「どうしたのメンテちゃん?」

「あれはー?」

「あれはね、コノマチに来なくていいのに来ちゃったの。見ちゃダメよ」



 あれれ?


 なぜか嫌そうな顔をする母。すると父が話の続きをしてくれた。



「あれはな、テンプレート共和国から来たんだろうな」

「えぐぅ~?」

「なにそれー?」←アーネ

「俺名前だけ聞いたことあるかも」←アニーキー



 アーネとアニーキーも会話に入って来る。二人とも僕同様に知らないようだ。



「んー、どう言えばいいんだろうな。一言でいえばあれは”おもちゃ”だな!」

「「「……?」」」

「パパ、誰にも伝わっていないわよ?」

「はっはっは、でもそれ以外の言葉が必要かい?」

「……まあいいわ。でも説明が面倒なのは事実なのよね」

「ほほっ、では私が代わりに説明しましょう」

「よし、頼んだぞタクシー!」

「あら、丁度良いわ」



 僕達家族と一緒について来た荷物持ちことタクシーが答えてくれるようです。



「まずはあそこの者たちの背中をご覧ください。あのマークはテンプレート共和国の紋章です。テンプレート共和国。通称テンプレですな。芸術の国やらエンターテインメントの町と言われておりますが、実態はただの文化乗っ取り国家ですぞ。紋章の色によって所属が分かれているらしいですな」



 なんかすごいこと言い出すタクシー。


 確かに演技をしている人が身に着けているものには同じようなマークがあるね。



「テンプレート共和国の土地はあまり豊かではなく、これといった産業も名物になるような特産品もありません。そこで目に見えない文化を押し進めることにした国です。他国に自国の文化を強引に押し広め、元からあった習慣や文化を破壊していく。そうやって内にも外にも信者をどんどん増やし、自国の勢力を拡大させることで有名な文化侵略国家ですな」



 それを聞いてうわあと思った僕です。あれだあれ、日本の漫画が海外進出でアメコミ文化をぶっ壊しているみたいなやつ。


 まさかこの世界でも似たようなことが起きていたとは……。


 ちなみに僕の兄弟達は?という顔をしていますがタクシーは話を続けるようです。



「今ここに来ているのは劇団関連の者でしょうな。舞台や演劇の活動をしている集団だと思えばよいでしょう。テンプレート共和国は元々小さな国の集まり。国の数だけ劇団があると思って下さい。そのうちの1つが今ここに来ているということは……他のライバル集団もぞくぞく集まることでしょうな」

「それが問題なのよね。ママが学生だった頃に王都にテンプレート共和国の劇団がいっぱい来て問題になったことがあるのよ。外に出歩くなって学園で注意喚起されるほどね。あなたたちもしばらく外出禁止かしら」

「えー、やだー」

「うわあ。早く帰ればいいのに」

「えぐぅ?」



 母はうんざりした表情だった。子供達も嫌そうな顔をしたという。


 まあ僕だけはよく分かっていない表情をして誤魔化したら頭を撫でられた。何も分かっていないピュアピュアのおバカ顔をすればこんなもんよ。もっと可愛がるがよい!




 その後、家に帰った僕が使用人達に聞きまくって集めた情報をまとめるね。


 テンプレート共和国。それは音楽、美術、文芸、演劇やデザインといった文化が世界一発展した情熱の国。世界中から自分を表現したい若者が多く集まり、お互いに競い合っている国らしい。芸術を極めたい人にとっては夢を叶える場所でもある。


 ジャンルは様々あるが、どれもこれも一流なのは間違いないようだ。実際家に本とか飾ってある絵や置物はテンプレート共和国の物が多い。出所なんて全く知らなかったよ。


 そのテンプレート共和国には他の国と極端に違う異色な部分がある。それは一番文化を広めて有名になった人が国の代表になる権利があること。本当に国のトップスターになれるらしい。


 だが共和国は元々小さな国々の集まり。誰がトップになるのかを元々あった小さな国同士で争っているようだ。仲が良いのか悪いのかよく分からない国だね。その中で劇団は一番政治的な活動をしていて厄介なんだって。演劇なら演劇全体で一グループになればいいのに何やってるんだか。


 そんな面倒くさいのが僕の住む町に来ちゃったようだ。ライバルが動けば俺たちも負けねえという感じでアホみたいに人が集まって劇を見せつける迷惑集団らしい。


 顔を売って有名になるという意味で演劇が一番認知されやすいんだろうなあ。






 で、数日後。父とタクシーと一緒にお店まで通勤していたときだ。



「ここはいったいどこだ……?」

「ここは違う世界。あなたにとっては異世界です」

「えっとあなたは?」

「神です」

「神?!」



 複数の劇団が町にやって来ていた。また町中で演劇をしているようだ。


 なんだなんだと通行人が集まっているぞ。しかも僕がドキっとするような内容じゃん。



「ぱぱあー」

「おや? またいるな」

「ほほっ、どこもかしこも異世界がどうのこうのという内容ですな。この前来た集団とは違うようです。これを流行らせたい勢力が来たのでしょう」

「いちぇかい?」

「あれは本の物語を劇にしているんじゃないか? パパは読んだことないからよく分からないが、こことは異なる世界があるという設定が今ブームらしい。実在するか分からない架空の物語を上手に取り入れた演劇というわけだ」

「ほほっ、世界観を大事にしているのでしょう」



 ドキドキしながら父に聞いてみたけど、異世界なんて物語の話だろうとのこと。


 思わぬところで僕の秘密に関しての情報が聞けてしまった。そして、僕の秘密は墓まで持って行こうと決めた瞬間でもあった。



 ……だが、しかし。これはある意味チャンスなのでは?



 テンプレにハマって物語の真似をしている残念な子の演技をすればいい。誰かに問われたり疑われても異世界の記憶=ただの妄想と誤魔化せる。痛い子になりきれば秘密がバレることはゼロだ!



 おお、この作戦はいける。最悪これで乗り切れるじゃん。



 ありがとうテンプレ!!



 急に打開策っぽい案を閃いてしまった。悩みなんてぶっ飛んだぞー!!











 よし、お前らはもう用済みだ!











「ぱぱあ」

「どうしたメンテ?」

「あえじゃま」

「あれ? あー、確かに店の前にいると営業の邪魔になるな。タクシー、何か解決策はあるか?」

「爆殺しましょう」

「たくじいいいい、けちぇ。ぶっころちぇ!!(消せ、ぶっ殺せ)」

「おお、よく分からないがメンテが見たがっているぞ。タクシー、ド派手にやって喜ばせるんだ!」

「ほほっ、お任せください」

「でっりぃいいつぅおおおお!!(デリート!!)」



 こうして騒ぎを起こして異世界の話をする演劇集団は撤退させた。うんうん、今日は良い日だなあ。




 ◆



 これはコノマチの村長とその秘書のお話。



「村長! 大変です!!」

「どうした?」

「やつらが現れました!」

「やつら?」

「テンプレート共和国ですよ!」

「あー、また荷物が大量に届いて道が塞がれたのか? あの国は加減を知らないからなあ」

「違います、劇団員がやって来ました」

「劇団? ……ってそれは本当か?! それはどこ情報だ?」

「私が直接彼らに話を聞いて参りました。王都に向かう途中の俺TUEEE派のグループだそうです。ここにはたまたま立ち寄ったみたいです」

「情報が早くて助かる。一刻も早く王都に連絡しないといけないな。それに周辺の町にも知らせておかねば被害が広がってしまう。急ぎ手紙を書かねば……」

「あ、もう使いは出しましたので大丈夫です」

「君、優秀だね?!」





 数日後。



「村長!」

「来ちゃった?」

「来ちゃいましたね。劇団の数は4つ。どうやら4つとも同じ派閥なので似たような内容の演劇をしているようです。俺たちは原作を忠実に再現した原作派のグループだそうです」

「げ、原作派? それはこの前来た劇団とは別なのか??」

「そうみたいです。前来た劇団は昨日王都へ向かいました。今日来た集団も王都を目指しているそうです。『俺TUEEE派はライバル、あいつらには絶対負けられねえ。立ち寄った村や町で必ず公演するのが我々の信条。ド派手にいくぞおおおお!』……とのこと。私が直接彼らに聞いて来たので間違いないです」

「いつも情報が早くて助かるよ。本当ありがとう。あの国は政治絡みになると国外でバチバチやるのやめて欲しいな。素晴らしい作品を作ってもこっちは迷惑に感じるんだよなあ」

「ですね」



 数時間後。



「村長! 大変です!!」

「また劇団関連か?」

「そうです……じゃなくてナンスが暴れています」

「ぶふっ?! ごほごほっ、どういうことだ??」

「店の前にいる劇団が邪魔だったのが原因です。まさか大通りのど真ん中に舞台を作るとは思いませんでした」

「テンプレはアホなのか?!」

「目立ちたかったそうです」

「本当にアホじゃないか。よりによってナンスの店の前でやるなんて命知らずだな。ダンディを刺激するようなものだろうに」

「やばいもの同士の争いでしたね」

「君うまいこと言うな! ……じゃなくて町の警備を動かすぞ! ナンスの店の前に劇団を近づけさせないように。それと通行を妨げる演劇も禁止だ。住民からの苦情がすごかったからな。というかそんなに人が集まっているものなのか? 現場を視察するか。今すぐ行くから準備してくれ」

「村長落ち着いてください。騒ぎはもう終わっています。騒ぎを起こしたこのグループは急いで王都に向かうことにしたらしく、前の集団と違ってコノマチに留まらないそうです。ですがその……」

「何だ?」

「冒険者に頼んでコノマチに来そうな劇団を調査したところ、明日は今日の5倍近い劇団が集まるという報告が先程ありました。というわけなので明日から頑張りましょう、村長!」

「…………はぁ」


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