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228話 「ぱいすとーりー6」

前回までのお話

身だしなみを整えた

 とある昼過ぎの子供部屋にて。レディーと3人のメイドが作戦会議をしていた。



「――という方針でいくわよ。そろそろメンテちゃんが戻って来るからお願いね」



 現在、メンテは外でお散歩を楽しんでいる。その間にレディーは秘密の計画を実行しようとしていた。


 作戦内容は極めて単純。3人のメイドが協力してメンテにおっぱいを止めろ、早く卒業しろと言うだけの簡単なお仕事。1歳相手に分かりやすく説得するだけでも良いのだ。


 ただし、普段と状況が違う。レディーがいる。毎回毎回失敗したという報告しかないからサボっているのでは? と監視しているのだ。言い逃れなど出来ない。


 メイド達はひどく後悔した。なぜ今日休まなかったのだと。たまたま集められたのも運の尽き。もう諦めて仕事を実行するしかない。


 ここまでメイド達が嫌がるのも理由がある。それはメンテがおっぱい離れをしないことにある。邪魔すると怒って暴れ出す。誰かが気絶するのは当たり前。物騒な言葉をしゃべりだしたり、ひどいときには風呂場を破壊する。なにより猫がメンテに協力的になるのがヤバい。群れの力で邪魔者を殺そうとしてくるメンテは恐怖そのものである。


 というわけでメンテにおっぱい離れさせようと躍起になっているのは、母親であるレディーだけ。メイド達は今すぐ帰りたいとすごくネガティブな気持ちでメンテの帰宅を待っていた。



 それからしばらくしてメンテが家に戻って来た。ドタバタと廊下から騒がしい音がし始める。


 メンテは子供部屋に向かっているのだろう。どんどん足音が近づいて来る。作戦実行の時間である。



「まんまー!」



「メンテちゃんの声が聞こえて来たわ。みんな分かってる? 今日こそおっぱいを卒業させましょう!」

「「「はい、奥様」」」 



 メイド達は死んだ目をしながらドアを見つめた。さっさと仕事を済ませよう。どうせ結果は分かっている。ほぼ諦めの境地であった。



 そして……。



 ドタン! っとドアが開く。




『にゃああああああああ!!!!!!!』




 メンテではなく猫達が雪崩れ込んできた。ドタバタ騒がしい原因がこれだったようだ。50匹以上いるのではないだろうか?



「えっ?」

「メンテくんどこ?」

「なんかこっち睨んでない?!」



 猫達はいっせいにメイド達に向かって突っ込み始めた。体当たりとか飛び蹴りをしてメイド達を床に押し倒す。いきなり総攻撃が始まった。



「きゃあああ?!」

「ひいいい!!」

「メンテくんおっぱいは卒業し……おげえええ?!!!」



 頑張って仕事を遂行しようとしたメイドの一人は、猫達に引きずられて廊下に消えて行った。思いっきり噛まれているが彼女は大丈夫か?


 残った二人のメイドは部屋と隅っこへと追いやられた。そのまま押し倒され、メイドの上に猫が乗って身動きも完全に封じた。メイドは猫達に支配されたのであった。


 こうしてレディーの前には誰もいなくなった。安全な道が出来た頃にメンテがのほほんとやって来た。それを猫達は優しく見守っている。



「まんまー!」



 何事もなかったかのように母親に近づく赤ちゃん。この光景だけ見ればとても微笑ましい。仕方ないわねえとレディーは床に座り込み、膝の上にメンテを乗せたという。



「まんま」ぎゅ

「はいはい。メンテちゃんは本当に甘えん坊ね。……ところでカフェちゃん。どうなってるの?」



 抱き着いて来るメンテを片手で抑えながらカフェに質問するレディー。カフェは今日の計画を知っており、メンテと一緒にお散歩をする役目を果たしていたのだ。



「外で散歩をしてたらどんどん猫が集まり、そのままメンテ様が連れ帰りました。メンテ様が靴を自分で脱ぐと言ってここに来るのが遅れたのですが……何かあったのでしょうか?」

「そう……。何でもないわ」



 部屋の隅で倒れているメイドも今見つけました。何かあったんですか? と返事をするカフェ。状況的にも何が起こったのかまだ分かっていないのだろう。ここはレディーも黙るしかない。


 本当は廊下で気絶しているメイドをメンテが何度も踏みつけているのを見ているのだが、私は知りません。何も関係ありませんと逃げることに関してカフェは一流であった。仕事? それより身の安全ですよと彼女は語る。



 こうして物理的に障害物を破壊したメンテ。先手を取り、誰にも何も言わせずに作戦を失敗に追い込んだという。


 メンテがどこでこの企みに気付いたのかは不明である。彼の情報源には秘密が多いのだ。



「(困ったわ。次はどうしようかしら。……そうね、いっそのことみんなを巻き込んでみればいいのかしら?)」



 猫に倒されたメイド達が復帰した頃。レディーはメンテからいったん離れ、メイド達に次の作戦を伝えた。魔法を使い絶対にメンテに聞こえないようにし、作戦内容も入念に事細かく。


 話を聞いたときにまだやるんですか?! と嫌がったメイド達であったが、今度は自分たちだけが巻き込まれないと分かると喜んで動き出したという。みんな道連れじゃー! と悪い笑みを浮かべていた。



「フフッ。これでおしまいよ」

「えぐぅ~?」

「なんでもないわよ」




 ◆



 夕方より少し前。まだ日が落ちない頃に子供部屋にある男がやって来た。これが今回のキーパーソン。



「ただいま。今日も元気にしてたか?」

「ぱぱぁー!」

「よーしよしよし。抱っこしよう」

「きゃきゃ!」



 いつもより早い時間で仕事から帰って来たダンディ。父親を見てぴょんぴょん飛びながら抱き着くメンテ。この赤ちゃんとても嬉しそう。かわいい。



「お帰りパパ」

「ただいまママ。はっはっは。今日もメンテは元気そうだな」

「(……分かってるわよね?)」

「(はっはっは、もちろんだよママ。メンテの気を引けばいいんだろ?)」



 メンテから見えないように会話するレディーとダンディ。赤ちゃんが起きないようにと静かにしゃべること数年。今では口パクだけで完璧に伝わるようになっていた。この夫婦の読唇術は完璧。さらに目だけでもある程度会話が通じるぐらい仲が良い。



「今日はたっぷり時間があるぞ。う~ん、何をしようか」チラッ

「それならメンテちゃんと遊んだらどうかしら」ニッコリ

「おお、それだ!」

「フフッ。良かったわねメンテちゃん。パパが遊んでくれるって」

「きゃきゃ!」



 自然な流れでメンテとダンディに遊ばせることに成功するレディー。ここまではおおむね作戦通りである。



「はっはっは。遊ぶぞー。メンテは何かしたいことはあるかな?」

「お昼は外を散歩していたみたいだから家の中で遊ぶのがいいと思うわよ?」

「そうか。なら今日は部屋の中で遊ぼうか」

「はーい!」



 これには普通の仲良し家族にしか見えないだろう。メンテは何も疑うことなく喜んだ。だがしかし、本当の目的は別にある。


 しばらく二人のふれあいが続いた後、ダンディはメンテを抱っこし、ある話を切り出す。



「よーしよし。メンテも重くなってきたな。もうそろそろ2歳か。成長したなあ。そろそろおっぱいはおしまいだな」

「……えぐ?」



 突然おっぱいを止めろと言い出す父親にメンテは困惑した。



「おっぱいを吸うのは赤ちゃんだけだぞ?」

「えぐ~?」

「はっはっは。そうかそうか。分かってくれたようだ。よしよし、ママに報告だ」

「まんま?」

「おーい、ママ。メンテがおっぱい卒業しても良いらしいぞ!」

「あら本当なの?」

「えぐ」←首ブンブン横に振るメンテ

「はっはっは。良いらしいぞ」

「さすがメンテちゃん。もうそろそろ2歳だもの。卒業なんて当たり前よね。赤ちゃんじゃないんだし」

「うえええん!」



 メンテが会話に入る隙などない。さらに抱っこというかいい感じにロックされているので思い通り暴れることも出来ない。動きは完全に封じられた。これにはもう泣くしか抵抗する手段がない。


 そのせいで話は勝手に進んで行く。



「あらあら。メンテちゃんうれし泣きしてるわ。ママも嬉しいわよ」

「はっはっは、今日はお祝いだな。タクシー!!」

「ほほっ、お呼びでしょうか旦那様」

「みんなに伝えろ。今からメンテのおっぱい卒業記念の祝賀会をする!」

「それはそれは。メンテ様の成長を喜ばねばなりませんな」

「うええええええん!!」



 こんな話をしていると、ドアが開く音がした。



 バタン!!


「話は聞かせて貰いました。もう準備は出来ていますよ!」



 使用人たちがこの子供部屋に集まって来た。まるで示し合わせたかのようにタイミングよく。このときメンテはハメられたと勘づく。だがもう手遅れだ。



「よし、みんな食堂に行くぞー。メンテの卒業記念だー!!」

『おー!!!!!!!!!』

「うえええええええええん!!」



 こうしてメンテはおっぱいを強制卒業。誰に何を言ってももう卒業したよねと相手にされなくなったという。


 この超強引な手段こそがレディーの奥の手。もう勝手に事実にしちゃえ大作戦。


 メンテの機嫌が良いうちに勝手に話を進める作戦は無事に成功。この作戦はナンス家の関係者全員に伝えられていたのでスムーズに進んだうえ、厄介な猫達も豪華なエサを目の前にしたら大人しくなったという。



 まさにレディーの知力による完全勝利。二人の戦いはついに決着がついたのだ!!


 結果良ければ全て良し。何も問題ない!!


 これにてぱいすとーりーはお終い。6まで続いたのが驚きだ。次回はどんなお話があるのか乞うご期待!










 ……というのが本来の未来。この結果は大きく変わることはない。それが運命。



 だが皆は忘れてはいないだろうか。彼は自分のやりたいことを邪魔されると暴走し始めるのだ。



 そして、時は少し遡る。










「今日はたっぷり時間があるぞ。う~ん、何をしようか」チラッ

「それならメンテちゃんと遊んだらどうかしら」ニッコリ

「おお、それだ!」

「フフッ。良かったわねメンテちゃん。パパが遊んでくれるって」

「きゃきゃ!」



 自然な流れでメンテとダンディに遊ばせることに成功するレディー。ここまではおおむね作戦通りである。



「はっはっは。遊ぶぞー。メンテは何かしたいことはあるかな?」

「お昼は外を散歩していたみたいだから家の中で遊ぶのがいいと思うわよ?」

「そうか。なら今日は部屋の中で遊ぼうか」

「はーい!」



 これには普通の仲良し家族にしか見えないだろう。メンテは何も疑うことなく喜んだ。だがしかし、本当の目的は別なのだ。


 しばらく二人のふれあいが続いた後、ダンディはメンテを抱っこし、ある話を切り出す。




「よーしよし。メンテも重くなってきたな。もうそろそろ2歳か。成長したなあ。そろそろ……」




 ダンディがそろそろと言ったその瞬間、メンテは猛烈な危機感を抱いた。それはほぼ直感。


 これから先は絶対に言わせてはならない何かがある。暴走した天才的な頭脳で来るかもしれない未来を描き出し、メンテにその全てを予見させた。


 何通りか見た未来は全てが最悪であった。どんなパターンだろうとたどり着く未来は必ず同じになる。



 今すぐ対処が必要だ!!



 こうなったときのメンテの決断は早い。導き出した最適解を実行あるのみ!!



 まずは比較的自由に動ける右手の拳を握り締める。ぎゅっと。



 拳に込めるのは未来を覆す想い。とても言葉では表現できない神聖であり邪悪でもあるものが複雑に絡み合いながら混じり合っている何か。何らかの祈りや願いが込められた頭のおかしくなるような因果を断ち切るような超越した不思議な謎の猫パワー。


 それは絶対不可侵の領域だろうとどんな概念であっても関係ない。ただぶち壊すだけ。


 絶対に回避することは不可能。物語の最終決戦で都合よく出てくるような都合の良い奇跡。例え相手が神だろうと勝利をもぎ取る究極の一撃。世界はそれをこう呼ぶ。






 ”神の一撃”と。






 そして、ダンディが瞬きをするその一瞬を狙って顔面に狙いを定める。






 さあ、くらうがよい。





 解き放て、





 神の一撃を!!!!!!!!!!







「よーしよし。メンテも重くなってきたな。もうそろそろ2歳か。成長したなあ。そろそろ……『ぺちっ!』…………????」 



 メンテの神の一撃により、ダンディの思考は完全に停止する。


 傍から見ればそれは顔を軽く叩かれただけ。音からして分かる通り全然痛く痒くもない軽い一発。プニプニとした小さく可愛いおててによるパンチ。それをレディーから見えない角度で叩き込んだ。


 ダンディの頭は混乱した。今何かが起こった気がする。何だっけ。とても大事な何かを忘れた気がする。それより今何をしていたのか思い出せない。俺は何をしていたんだ???


 そんな隙をメンテは見逃すはずがない。



「おっぱい。おっぱいは?」

「…………ん?」



 ダンディがメンテを見た瞬間、ダンディはメンテのことが0歳数か月の赤ん坊に見えた。息子はなんて小さくて可愛いのだろう。そういえば今はおっぱいの時間だったなと脳が勘違いする。


 神の一撃により判断能力が著しく低下し、その間にメンテにとって都合の良い記憶を埋め込む。一時的に脳をバグらせたのだ。



「はっ?! そうだ。今はメンテのおっぱいの時間だ」

「えぐううううううう」



 ダンディは自分がおかしくなったのに気付いていない。これが正しい行動だと思い込みながらレディーに向かって走り出す。早くママにメンテを渡さねばと。



「ママ。メンテのおっぱいの時間だ」

「……はい?」



 想定外の出来事にレディーも混乱した。


 さっきまで順調に作戦が進んでいたのに、突然ダンディがおかしなことを言いただしたのだ。急にとち狂ったとしか思えない。



「パパは何を言っているの。逆でしょ? おしまいの時間よ」

「はっはっは。メンテは赤ちゃんだからおっぱいの時間だよ。ママこそ何を言っているんだい?」

「はい??」



 何が起こったのか。それは誰にも分からない。だが未来がどんどん書き換わってゆく。



「おーい、タクシー! タクシー!!」

「ほほっ、お呼びでしょうか旦那様?」

「メンテは何歳だ?」

「ほほっ。それは簡単ですぞ。メンテ様は……」

「えぐぅ~?」←目キラキラ

「……メンテ様は赤ちゃんですな」

「ちょっと二人とも何を言っているの?! この子はもう少しで2歳でしょ? 赤ちゃんは卒業よ」



 メンテの可愛さのあまりタクシーも赤ちゃんだと言い始めた。だがこれは神の一撃による効果ではない。ただの天然パワーだ。


 タクシーのようなご年配の方々からすればメンテどころかアーネも赤ちゃんみたいなものだ。アニーキーぐらいから子供という認識。極端に言えばダンディもレディーも子供に分類する人もいるだろう。それぐらい年齢が離れているのだ。



 一つの出来事がきっかけとなり、だんだんと波紋のように波及効果をもたらしていく。


 おかげでどんどん未来がおかしくなって来た。それは廊下で待機していた使用人たちにも影響が出始める。



「中が騒がしくなってきましたよ」

「これは合図でしょうか?」

「うるさくなったら入れと言っていたのでそうでしょうね」

「よーし。みんな行くぞー!」

『おー!』



 バタンッ!!



「話は聞かせて貰いました。もう準備は出来ていますよ!」




 廊下に集まった使用人のひとりがこの子供部屋に入った。何やら騒がしいから合図が出たと勘違いしたのだ。


 俺たちも続けー! と使用人たちが部屋に雪崩れ込む。ダダダダっとその流れは止められない。


 使用人たちはこれでミッション完了と思ったのだが……。



「おっぱい! おっぱい!!」

「ママ、早くメンテにおっぱいを」

「だからダメって言っているでしょ。メンテちゃん早くおっぱいは卒業しましょう」

「やー、やー」

「おお、メンテがイヤイヤ期に入ったぞ!」

「ほほっ、素晴らしい。メンテ様は順調に成長しているようですな」

「二人とも褒めるところ間違ってるわよ?! 早くメンテちゃんを説得しなさい!!」



 言い争うレディーとダンディを見て皆が察する。あ、これ作戦は失敗してるなと。


 そして、メンテの視線が使用人たちに突き刺さった。怒りすぎて赤ちゃんとは思えない表情で話し掛けて来る。



「……おっぱいは? おっぱい」

「か、かいさーん」

『うわあああああ?!』

「にゃにゃー。やれ」

『しゃああああああああああ!!』



 一斉に逃げ出す使用人達と追いかける猫軍団。こうしてドタバタしただけで今日も失敗に終わったという。


 ちなみに祝賀会はイヤイヤ期になった記念として開かれることになった。





 ぱいすとーりー。それは定められた運命すら覆す物語。例え神でも彼は止められない。


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