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227話 「身だしなみ」

前回までのお話

ぱいのためなら何にでもジョブチェンジ

「メンテちゃん髪伸びて来たわね。少し切った方がいいかしら」

「えぐ~?」


 

 頭が爆発したかのようなぐちゃぐちゃな髪型になっているメンテ。今日もいっぱい遊んだのであろう。そんな息子の髪の長さが気になる母親ことレディーである。



『奥様』



 その言葉を待っていましたと言わんばかりにササッっとメイド達が現れた。


 彼女たちは色々な道具を持っている。ハサミや髪の毛をとかすくし、タオル、子供用のイスなどなど。すでに準備は整っているようだ。


 メンテは1歳を過ぎたあたりから毛がフサフサになってきた。そろそろ散髪の時期だなと予測して動いたのだろう。



「あら、早いわね」

『お任せ下さい』



 魔法を使って霧吹きのような水を出すメイドやハサミをチョキチョキ動かして準備出来てるアピールする者もいた。みんなメンテを可愛くしたいと思っているのだ。


 メンテは髪を切るとき嫌がる素振りを見せない。むしろまだやらないの? はやくやろうと催促してくる。かわいい。


 アニーキーやアーネの小さい頃は暴れて大変だった。嫌々言って泣きわめくのは当たり前。頭を急に動かしたり走り出すなどやりたい放題。髪を上手に切れるわけがなかった。


 だがメンテは違う。おとなしく待てる良い子ちゃんなのだ。例え失敗してもニコニコ笑っているし文句を言うことはない。大人にとっては最高の赤ちゃんと言えよう。


 あまりのかわいさに皆遊びた……。ごほん、仕事をしたいのだ!



「奥様、どのような髪形になさいますか?」

「そうねえ、前髪が眉毛に当たっているからそこは短くね。それから……」



 レディーの注文にメンテが文句をいうことはない。今の彼は皆に可愛いがられるお人形。さあなんでもかかってこいと完全に受け身の状態である。



「奥様、今日はお風呂場で髪を切りましょう」

「実はこういうものもありまして……」

「あら、いいじゃない」



 メイドが持っているのはメンテ用の小さな服。全部メイド手作りだ。ヒラヒラしている明らかに女の子用の服が見えるが気にしてはいけないぞ。



「メンテちゃん、髪を切ったらそのままお風呂に入るわよ。そろそろ夕ご飯だから丁度良いわね」

「えぐ」

「では参りましょう。みなさん、準備はいいですね?」

『はい』



 こうしてメンテは皆にお人形遊びをされたという。女性達、特にレディーが大いに盛り上がったとか。




 そして……。




「メンテ、ママがごはんだってー。……あれ、メンテいないよー?」

「隠れてるんじゃないかな? おーい。出ておいでー」



 子供部屋に来たアーネとアニーキー。レディーが二人にメンテちゃんを呼んで来てと頼んだという。



「お兄ちゃん、どこにもいないよ。外にいるのかなー?」

「外は暗いから家の中だよ。この部屋にいると思ったんだけどなあ」

「じゃあ私違う部屋見て来る―」

「わかった。俺はこの部屋の隠れてそうな場所探してみるよ」



 二手に分かれる兄弟。アーネは子供部屋から出て行き、アニーキーは一人で子供部屋を探し始めた。



「うーん。どこにもいないや。誰もいないしここにいないのかな?」

「アニーキー様、お困りですか?」

「あ、カフェさん。メンテ知らない? 母さんにごはんだから呼んで来てって言われたんだけどいないんだ。違う部屋にいるのかな」

「メンテ様ならここにいますよ」

「え?! いないけど……」



 何を言ってるんだとカフェを見るアニーキー。その驚きの表情を見てカフェは心の中でほくそ笑む。かかったなとニヤニヤが止まらないのだが、一切顔に出さないように我慢していた。



 実はこれ、全て仕組まれた計画なのだ。



「ではメンテ様を呼んでみてはいかがでしょう?」

「言っても出てこないんだよ。メンテ―、返事してー」



 シーン……。



「ほら。ね?」

「では私も呼んでみましょう。メンテ様ー。ごはんのお時間です」



「……えぐぅ~?」



「ああっ?! どこかからえぐって聞こえたぞ。この部屋にいるの?!」

「いますよ。先程からあちらに」

「え?!」



 カフェがヒントとばかりに指を差す。疑いながらもその方向に向かうアニーキー。



「いないけど……」

「いえ、通り過ぎましたよ」

「通り過ぎたって……。ええええええ、嘘でしょ?!」



 驚きすぎて思わず体がのけぞるアニーキー。



「猫じゃん?!」

「猫ですね」



 アニーキーが見たのは猫。だがそれは猫であって猫ではない。メンテだ。


 猫耳の付いた帽子付きの服を着てごろ~んと佇むメンテ。顔以外は全て本物そっくりの猫の模様が描かれている。メンテの身体のサイズにジャストフィットしており、顔が見えなければ普通の猫にしか見えない着ぐるみのような作りだ。


 しっぽも本物そっくりに再現されている。細かく動かすことも可能という凄まじいクオリティである。


 ようするにとんでもないレベルで猫になりきれる服装なのだ!



「なにその恰好。リアルすぎて怖いよ?!」

「新作の猫の服です。これは本物の毛皮ではなく似せているだけです。安心してください」

「怖いのはそこじゃなくて着ると本物と見分けがつかないことにだよ?! ってかまたみんなで着せ替えて遊んでたんだ。メンテも大変だねえ」

「えぐ~?」



 猫の動きを完全に再現した名演技でアニーキーを騙したメンテ。まあ本人は風呂上りでぼけ~っとしていただけなのだが、逆にそれが猫感を際立たせた。これも計算なのかもしれない。


 もう分かると思うがメンテもグルだ。ただ子供達を驚かせたいというレディーとメイド達と計画のお手伝いをしていたのだ。なんて賢い子なのだろう。


 褒めて褒めてとカフェに頭を撫でろと要求するメンテ。かわいい。



「本当びっくりしたよ。そうだ、アーネを呼んで驚かせよう! カフェさんいいよね?」

「構いませんよ」



 走り出すアニーキー。廊下に出るとすぐにアーネを発見。メンテが見つかったよと言って子供部屋に連れて来る。



「どこにいるのー?」

「この部屋の中に隠れてたよ。今も隠れて遊んでいるようだね。探してみてよ」

「わかったー」

「カフェさん、答え教えたらダメだよ」

「承知しました」



 驚きを伝えたいアニーキーはアーネに探させることにした。だがあまりの難問にすぐお手上げになったという。



「お兄ちゃん、メンテどこにもいないよー?」

「ヒントはあそこの下の方かな」

「ほんとー??」



 俺は答え知ってるからと自慢げに話すアニーキー。


 が、実はそれも罠であった。



「いないよ? お兄ちゃん嘘付いた??」

「いるんだよねえ。ここだよ。ほら、この子!」

「……ぷぷっーっ!! お兄ちゃん、それメンテじゃなくて猫だよ」

「え?」



 アニーキーが持ち上げたのはただの猫だった。


 何で?! とカフェを見ると笑っているのに気付くアニーキー。


 そう、また騙されたのだ!!



「ちょっとカフェさんどういうこと?!」

「リセットしました」

「リセット?!」

「新作の服がまだあるので先程着替えさせました」

「俺がアーネを呼びに行ったあの短時間に着替えたの?! どんなスピードだよ……」



 メンテもグルなので可能なことのだ。というか着替えさせろと言ったのはメンテだったりする。かわいい。



「アーネ、猫だ。猫を探すんだよ」

「猫?」

「そう、メンテは猫柄の服を着ているんだ。さっきは茶色っぽかったけど今は何色なんだろう……」



 探し始める二人。だがメンテは見つからない。



「お兄ちゃん……」

「うん、分かってる。増えてるね」



 なぜか猫がいっぱいこの部屋に入って来る。アニーキーがメンテを発見したときは5匹ぐらいだったのに今は優に30匹を超えていた。しかも動き回るせいかなかなか見分けが付かない。


 もちろんこれを仕組んだのはメンテだ。すぐ見つからないよう小細工を仕掛けたのだ。



「お兄ちゃん、どうすればいいー?」

「大きな声で呼べばいいんだよ」

「わかった。メンテ―! 早く出て来て―!!」



 シーン……。



「違うよ。名前じゃなくてあれだよ。興味を引くようなことを叫ぶんだ」

「あ! わかったー。メンテ、ママが呼んでるよー」



「……えぐ?」



「あ、どこかから声が聞こえたよー」

「アーネ、もっと強く!」

「メンテ―! ママが早くご飯食べないとおっぱいないって言ってるよー!!」



「はーい!」タタタタタッ!



「あ、出て来たー」

「そうだね」

「すごーい。お兄ちゃん、メンテが猫みたいに走ってるよー」

「いやいや、それ本当の猫だよ?! メンテはこっち」

「きゃあああ?! びっくりしたー。あ、お兄ちゃん。メンテの髪短くなってるー」

「本当だ。それは俺気付かなかったよ」



 歩かずにハイハイで飛び出て来るメンテ。あまりの猫っぷりにアーネは騙されたという。ただ髪型の変化には敏感ですぐ気付いたようだ。


 こうして計画通り子供達を驚かせることに成功。そして、最後のびっくり作戦を開始する。



「あらあら、見つかってしまいましたね」

「ですねー」

「でも成功じゃないですか」

「面白かったですぅ」

「ドキドキしたな」


「「えええっ?!」」←アーネとアニーキー

「きゃきゃきゃ」←メンテ



 急に現れる4人のメイド達。


 壁が回転してスッっと、天井が開いて床にドスっと、床の下からピョンっと、空気がブレて目の前に。実はこの4人は最初から部屋におり、隠れながら様子を伺っていたのだ。やっていることは忍者そのもの。魔法を使えば簡単に出来るのだ。


 早着替えやメンテの隠れる場所が上手だったのも全ては彼女達のプロデュースのお陰。アーネとアニーキーはその存在に全く気付かなかった。お見事としか言えない。



「びっくりしたー」←アーネ

「俺も全然気付かなかったよ。メンテ以外にも隠れてたんだ」←アニーキー



 思った以上に本気の遊びだったようだ。これには子供達もびっくりであった。


 こうして最後のサプライズも大成功。仕掛けた方も仕掛けられた方もみんな楽しめたという。今日もナンス家は平和である。



「少し遅くなりましたね。奥様がお待ちですので急ぎましょう。メンテ様はこちらにお着替えしましょうか。汚れに強い丈夫な服ですよ」

「はーい!」

「あ、お兄ちゃん見て見て。着替えるのすごく早ーい」

「ああやって5人がかりでメンテを着替えさせてたのか。ん? あー……」

「ぶふーっ! お兄ちゃん、メンテが女の子の服着てるー」

「しー。笑っちゃダメ。あれは母さんの好きそうな服だね。母さんの機嫌を良くなるような可愛い服をわざと着せてるんだ。あと母さんに服のことを聞かれたらカワイイ以外の言葉を言っちゃいけないよ。機嫌を損ねたらメンテが猫連れて俺達に襲い掛かって来るから」

「わかったー」


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