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217話 「子猫vs怪盗ファミリー」

前回までのお話

暖房温かい

 僕メンテ。猫の姿で真夜中の散歩を楽しんでいます!


 最近は近くの森というか山の辺りをうろうろしてます。人に見つかってもただの猫だって誤魔化せますから安心ですしね。今日はちょっと趣向を変えて町から延びる道をのんびりと歩いていきましょうか。



「ふんふふん」



 夜中に道を歩いている人間はあまりいませんね。というのも暗いから。たまに魔法か魔道具で明かりをつける人とか馬車が通るぐらいかな? 今は誰もいないので堂々と歩けます。



「ん?」



 ふと空を見上げると、何か白い物が僕の家というか町の方角に向かって飛んでいますね。岩かな?



「あれ? このままだと落ちるんじゃ……」



 角度というか高さ的に絶対に近くに落ちること間違いなし。結構なスピードで飛んでいるので衝撃がヤバそう。トラブルが舞い込んで来たかも。



「んー。どうしよう」



 困りましたね。最近は山だったので足場ばっかり見てたからさ、たまには星空を楽しんでいたのに。開けた道を進んでいたせいか上空の様子がばっちり見えちゃたようだ。


 何らかの事故が起きたら怖いので僕が対処するべきでしょうか? でも結構ここから距離があるんだよなあ。こんなとき何か便利な魔法はあったっけな? 僕の猫魔法は基本的に近距離で使うものばかり。ここに来て意外な弱点が発覚です。


 僕も同じように飛べると楽なんだけどなあ。出来ないから猫らしくジャンプで近づいてみる? 猫結界で空中に足場を作れば一応可能なのですが、その間に白い物は通り過ぎちゃうね。思ったよりスピードがあったみたい。時間がないのでこの案は却下。


 いやはや、参ったなあ。どうしようもないなあと思ったら歌を口ずさんでました。



「空を自由に飛びたいなあ~。はい、猫ブレス!」


 ドゥゴオオオオオン!!



 あれれ~? 勝手に攻撃してたね。


 僕の中で一番遠くまで届くのは猫ブレス。意識せずに軽く息を吐いて撃破を狙ったようです。お、当たった。すると……。



「あらら、分裂しちゃった」



 おやおや。遠すぎて狙いがズレたのか、それともタイミングが合わなかったのか。白い物を完全に撃ち落とせず複数に分かれちゃいました。というかあれ動きが止まって空中に浮かんでない?



「え?」



 明らかに不自然な動きです。あれただの岩じゃさなそう。もしかしてああいう姿の魔物? 知識不足で分かんないや。僕の目だと白い岩のようなものが浮いて見えるんだけどなあ。


 ……よし、ぶっ壊そう!



「よく分からない物を撃ち落としたいなあ。はい、猫ブレス!」


 ドゥゴオオオオオン!!



 あ、避けた。初動も早いみたい。なんかキョロキョロ辺りを見回しているような気がします。見つかると大変なことになりそうなので近くの森に駆け込む僕です。たくさんある木で身を隠しつつ、遠距離攻撃しとこっと。



「猫ブレス!」


 ドゥゴオオオオオン!!



 あ、また避けられた。相手は警戒しまくってますね。


 猫ブレス単体攻撃だとダメか。こうなったら自慢のしっぽも使いましょう。こうやってしっぽの先端に口に溜める魔力みたいな感じで力を溜めて狙いを定めます。



「攻撃の手数を増やしたいなあ。はい、猫ブレス!」


 ドゥゴオオオオオン!!ドゥゴオオオオオン!!



 口としっぽから同時に猫ブレスを放ったら白い岩を一つ落とすことに成功しました。しっぽを口に見立ててブレスを増やすこの作戦はいい感じです。よし、このまま走りながら連続で猫ブレスだ!



ドゥゴオオオオオン!! ドゥゴオオオオオン!! ドゥゴオオオオオン!! ドゥゴオオオオオン!! ドゥゴオオオオオン!! ドゥゴオオオオオン!! ドゥゴオオオオオン!! ドゥゴオオオオオン!! 



 よーしよしよし。猫ブレスの命中率も上がって来たから遠距離攻撃として使えるようになってきました。分裂した白い岩が小さくなり、浮いているのは残りひとつになりました。



「岩じゃなくて……鳥? いや人っぽいような」



 なんか岩のゴツゴツ感が減って黒っぽいのが出てきましたよ。手とか足っぽいのが見えるけどよく分かりません。でも明らかに敵意を感じます。あれ絶対に町に近づいたらダメなやつだよね?



「まあ落とせばいいよね。猫ブレス!」


 ドゥゴオオオオオン!!



 が、避けられました。それどころか森に向かって何か攻撃をしていますね。



「あー、木を切ってるよ」



 ビューンって音がすると木の枝が折れていきます。これは魔法を使った攻撃でしょう。木の幹までは折れていませんが、僕の隠れるスペース減るよねえ。岩じゃなくて魔物だなあれ。森に落ちた魔物も生きているようだけどパニックになって逃げているようだ。そっちは放っておこう。


 その後猫ブレスを何回か放ちましたが全て躱され、反撃っぽい攻撃をしての繰り返しです。まあ僕は走り回っているのであんな遅い攻撃は当たりませんが。


 もっと広範囲な攻撃が必要なようです。よし、ちょっと変わったブレスを吐いてみよう!



「火山の噴火みたいな攻撃がしてみたいなあ。はい、猫ブレス!」


 ドゥゴゴゴォオオン!!!!!!!



 無差別の超広範囲拡散猫ブレス。今までは一点集中の威力と速度重視でしたが、この猫ブレスだと威力はそのままでかなり広い範囲に攻撃できます。ちょっとイメージを変えただけで魔法の効果も変わっちゃいますね。



「あ……」



 魔物が落ちるのと同時に森が火の海になっちゃいました。火山をイメージしたせいか火のブレスになっちゃいましたね。あの魔物のせいで山が大変なことになりました。なんて奴だ。許せません!


 水をイメージして……、いやダメだ。もっと広範囲に広げなきゃ火が広がって町に迫って来ちゃうぞ。そうだ、雨を降らしたらいいんだ!



「雨をいっぱい降らしたいなあ~。はい、猫ブレス!!」


 ドュイイイイン。ゴゴゴゴゴッ。グウォオオオオオオオオ!!!!



 雨雲がいっぱい出来る猫ブレスを使いましょう。すんごい気圧の変化で雨を降らせるという手もありますが、ここは異世界。魔法を使って強引に天気を変えちゃえば手っ取り早いね。猫ブレスもイメージを変えたらいろいろなことが出来るんだなあ。


 ただ魔力を込め過ぎたのか、この世の終わりみたいな豪雨と風に森が見舞われてます。あ、白い何かが吹っ飛んでどっか行ったね。もう魔物いなくなったし問題ないかな? まあそのうち止むだろうし放置だ。



 今日は魔法の練習が出来て楽しかったですね。雨がひどいから帰ろっと。



 ◆



 俺、いや俺達のグループの名は”怪盗ファミリー”


 その名の通り我々は家族全員が怪盗。そういうわけで本当にファミリーで構成されているのだ。さすがに安直すぎると思うが、先祖代々続く由緒正しき名前なので仕方がない。


 普段はとある国に使えるただのしがない役人。俺の家族どころか親戚も皆同じく怪盗でありつつ役人として国を支えている。だがそれは仮の姿。真の姿こそ怪盗一族。国のいたるところに紛れているのだ。この血縁のある一族全てが”怪盗ファミリー”の一員だ。もはやこの国の情報は筒抜けと言っても良い。


 泥棒や盗賊と一緒にしてもらいたくはない。我々の目的は盗むまでの過程にこそある。誰も殺さず、華麗な盗みと逃走のスリルを楽しむ。金のためにやっているのではなく完全に趣味だ。


 趣味のおまけ程度に国にとって危険と判断されるものの処分、または国で有効活用するために盗むこともある。そういった諜報活動をしている理由から実は国に貢献しているのだ。まあそんなこと知らないせいか他国だけでなく我が国でも指名手配されているのが悲しいところだが。


 まあ盗んだ相手によっては金を出すから返してくれという連絡がある。そういうときは喜んで盗んだ物を返す。国のために働くよりこっちのほうが大事な資金源になるからな。この盗んだ後どうなるか分からないドキドキ感もたまらないのだ。




 では今回の目標について話そう。今怪盗ファミリーの幹部たちが集まっている。各一族の代表者が出席しているのだ。



「今回のターゲットは未完成の魔道具やその技術。魔道具で有名なナンスの店の新商品だ。何でもいいから取ってくれば我々の勝利だ」



 相手は他国の有名な金持ちだ。新しい技術を奪うのも良し、脅して金を出させるのも良し。何にせよ我々にとって旨みのある相手である。



「無理に物を盗む必要はない。今作っている物や技術が分かるだけでもよい。ひよっこ達のデビューには持ってこいの簡単な任務だろ?」



 今回は俺達ファミリーの若き怪盗達の初陣を兼ねている。相手は我々と敵対しているわけでもないので無理をする必要もない。まずは体験させ怪盗の楽しみを味わってもらおう。


 ファミリーは頭脳担当、情報収集、物資調達、実行部隊などなど適性によって担当が分かれている。私は今回の実行部隊およびそのリーダーだ。今日集まった幹部たちと今後の作戦を話し合った。






 それから数か月後。


 準備が整ったので本日任務を実行する。実行部隊は俺と各一族から選ばれた精鋭と若きひよっこ達、サポートとして俺の親父だ。親父は数年前まで先代の怪盗ファミリーのリーダーだった男。まだまだ現役だ。



「ナンス家のおさらいだ。気を付ける相手は複数いるが特に厄介なのはダンディ。こいつは頭がおかしいのか天才なせいか何をするのか予想出来ん。あとは家の見張りと守っている奴ら全員だ。調べたところ各自武器が違うようなので対処が難しい。見つかったらまず逃げろ」



 相手の調査をしたところ、戦力が尋常じゃないと判明した。本当にただの店か? 貴族どころか王族も真っ青になるレベルらしい。



「次に気を付けるのはレディー。風の魔法使いとしてかなり手強い。それと子供が3人いるようだがこちらは問題ない。調べたところいたって普通の子供達のようだ。一番下の子にいたっては1歳。店でママが良いと暴れている姿を確認出来ている。もし異変があればレディーは真っ先に子供たちのもとへ向かうだろう。ナンス家は家族の仲が良いことで有名だからな。狙い目だ」



 子供を守ろうとするから動きは読みやすい。これはラッキーだな。



「あとは執事も戦えるらしいが、情報があまり入って来なかった。年寄りだからまあ早く寝るんじゃないかってなんだこれは。よく分からんがこの執事も戦える可能性がある。気を付けるように」



 コノマチに情報を調べるよう複数の諜報員を雇って送ったらしいが、これぐらいしか得られるものはなかったそうだ。さぼっていたのだろうか? それとも消されたのかもしれん。適当な情報のせいか不安になる報告書だな。



「親父からは何かあるか?」

「誰も盗みを成功したことがないと裏の界隈では有名な相手じゃ。任務としては最高レベルのものになるだろうが、若手を育てるには最高の経験になるだろう」

「そうだな。一番優先すべきは命。生きて帰ることだ。優秀なひよっこ達が生まれることを期待している」



 それから細かな作戦内容を再確認し、皆がずっと気になっていることについて紹介をした。それは皆の目の前にある巨大な物だ。



「今回、我が一族の総力をかけて作りあげた移動船を使う」



 今実行部隊の前でお披露目されているこの移動船。船というがこれは空を飛ぶ飛行船。数十人もの人間を同時に目的地に送り出す最新鋭の機体だ。


 この移動戦の特徴はなんていっても白いところだ。この白く塗られている部分で光を反射し、透明になることで見つけにくくするらしい。


 また”包み軽紙”という特殊な紙をふんだんに使っている。これは包まれた比率分の重さを消失するというアーティファクトだ。例えばこの紙で石を包み込むと完全に重さがなくなる。紙を剥がすと石は元の重さに戻るという力を持っている。軽量化したことで頑丈さも上がりつつ乗員の人数も増え、急な加速や方向転換も容易に行えるようになった。また一瞬アーティファクトを剥がすことで超重量アタックこと体当たりの攻撃も可能となる。


 見た目の大きさより軽いため速度が速く、隠密性の優れるこの世で一番安全な飛行船である。アーティファクトに資金の大半を費やして完成されたまさに英知の結晶だ。


 このお船の完成お披露目のために怪盗ファミリーの関係者はほぼ全員集まって盛り上がった。船の名前は今回の任務が終わってから名付けようと決まった。成功したときの逸話が名前の由来になるだろう。


 今日は親族でのパーティーという名目なため部外者は誰もいない。目立ったことをしてもバレないのが怪盗ファミリーの強みだな。



 それから俺達はこの船に乗り込み、コノマチへと旅立った。頑張れーと応援されまくったからひよっこ達のやる気は最高潮だ。


 それにしてもなんて速さだ。1週間掛かるような道のりでも数時間で着くだろう。それに揺れも少なく内装は貴族の屋敷のように立派でありながら機能的。ひよっこ達も楽しそうだ。怪盗ファミリーの資金をほぼ費やしたかいがあるな。



「あと1分でコノマチに着く。準備は出来ているな?」

『おう!』



 町と豪邸班に分かれる予定だ。俺は豪邸に侵入する予定だ。さあ始めるぞと思ったそのときである。




 ドゥゴオオオオオン!!




 いきなり船が爆発した。



「うぉおお?!」

「「「ぎゃあああ?!」」」

「おやじいいいいいいいいいい!!!」



 船の壁が損壊し、仲間数人が外に落下した。その中でも実行部隊のブレインたる俺の親父が落ちたのが非常に痛い。親父の臨機応変がなければ経験の浅いひよっこ達は役に立たないだろう。


 念のため皆落下しても大丈夫なよう訓練は受けている。命は大丈夫であろうと思い外を見たら、親父達は船の破片を掴んで浮かんでいた。浮遊石と風魔法のおかげで皆無事だったようだ。訓練の成果が出ているな。



「爆発?!」

「何が起きた!」

「船の壁が壊された以外は異常はありません。多分外で何かが……」

「どこからの攻撃だ?!」

「わかりません!!」

「くそっ、皆攻撃に備えろ!」




 ドゥゴオオオオオン!!




「うおお、危ねええええええ?!」

「おい、誰か見えたか」

「下です、下から何かが打ち出されました!」

「なんだと?! 誰かいるのか?」

「分かりません!!」

「とりあえず仲間を救出しろ。ひよっこ達は落ち着けー!」



 何をされたのかが分からないが、幸いアーティファクトのふんだんに使われた箇所は無事だ。頑丈じゃなかったら一撃で終わっていたかもしれない。船の故障ではないのでまだ動ける。だがこれ以上壊されると船は墜落してしまうだろう。


 攻撃方法を知らねば対処のしようがないので探さねば。それと救出もせねばならない。だというのにひよっこ達はパニック状態に陥り使い物にならない。




 ドゥゴオオオオオン!!ドゥゴオオオオオン!!




「ぎゃあああああ?!」

「森から攻撃が?!」

「「「うわあああああ」」」



 落ちた親父達を助ける前に攻撃が来た。どうやらコノマチの近くにある森から攻撃されているようだ。しかも今度は2回音がした。その攻撃のうち1つが直撃し、船のほぼ半分近くが吹き飛ばされた。船に乗っていた半分以上の仲間達が衝撃に耐えられず落下していく。親父も巻き込まれて一緒に森まで落ちたようだ。下から皆無事だというサインが送られてきたからだ。


 気付けばもはや浮いているのがギリギリの状況になっていた。こんな大魔法を連発出来る化け物がいるのか?! ……待て、ナンス家といえば魔道具。もしかするとこれは森に設置された防衛装置か何かなのではないか。となるとまずい。



ドゥゴオオオオオン!! ドゥゴオオオオオン!! ドゥゴオオオオオン!! ドゥゴオオオオオン!! ドゥゴオオオオオン!! ドゥゴオオオオオン!! ドゥゴオオオオオン!! ドゥゴオオオオオン!! 



 気付くのが遅すぎた。連続で攻撃が来る。操縦席を壊され、船の心臓たるエンジンもあっけなく壊された。怪盗ファミリーの金と技術を費やした移動船が墜落していく。もはや俺以外に船に乗っているものはいない。任務失敗である。



「うおおおおおおおお!」



 俺は船から飛び出して脱出、そのままスキルを発動させる。背中から翼を生やし鳥人間と化した。これは俺の種族としてのスキルであり切り札。どんな相手だろうと空の上でなら負けることはない。



「羽切り!!」



 森に羽を飛ばして切り裂いていく。こんな攻撃を連発する人間なんているわけがない。いったいどんな強力な魔道具を使えばこんなことになるのだろうか。


 予定変更だ。もはや俺達コノマチまで行けないし行く必要もなくなった。馬鹿げた威力を持つ魔道具がそこらじゅうに設置されているのだ。それを盗めばよい。船の被害が大きすぎるが、それを盗めれば十分取り返せるとふんでいる。


 森の中に落ちた仲間達に魔道具を探せと合図を出していく。さすが親父、俺と同じように考えていたから行動は早かった。




 ドゥゴオオオオオン!!



「遅いわああああ!!!!」



 敵からの攻撃を避け、魔道具があった場所を狙って攻撃を繰り返す。まだ見つからないのか? 精鋭部隊がいるのにどうなっているんだ? ひよっこ達がお荷物になっているのかもしれない。俺の息子はヘタレだからこういうときは逃げようとするからなあ。連れて来たのは早かったのかもしれない。そう思っていた時だ。




 ドゥゴゴゴォオオン!!!!!!!



「はあ?」



 今までの攻撃とは桁違いの攻撃が放たれた。


 う、嘘だろ。ナンス家の魔道具はヤバいと噂には聞いていたがこんなものをそこらじゅうに設置しているのか?!! 森が燃えていく。周囲の被害なんて一切考えてない最低最悪ともいえる爆発であった。どうやら相手は本気を出して来たらしい。



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」



 まずい、翼にダメージを受けた。上手く飛ぶことが出来ない。もう俺の役目はここまでだ。親父とひよっこ達が魔道具を1つでも盗めば俺たちの勝ちなのだ。今はそれを信じて撤退するしかない。そのときである。




 ドュイイイイン。ゴゴゴゴゴッ。グウォオオオオオオオオ!!!!




 俺は見た。森から放たれた一条の光。ぱあっと世界にピンク色の光が伴ったと思うと巨大な雲が出来ていた。雲の中からは青い光が見え隠れし、それらが全て地上へ向かって落下していく。雷の豪雨だ。それと同時にすべてを吹き飛ばすかのような強烈な風が吹いた。


 怪我をした俺は風と共にゴミのように舞い散るしかなかった。この風は水を含んでいるようで目を開けるのに苦労する。凄まじい嵐に見舞われたかと思うと、今度は雷も同時に落ちて地面を削り取ってゆくのが見えた。俺は運よく雷の直撃は避けたみたいだが、俺の体に向かって飛んで来た巨大な木にぶつかった。木の次は巨大な岩が飛んできており、全身に直撃して体の中の何かが割れるような音がした。そのまま地面に叩きつけられると削られるように体が移動していく。あれは竜巻か。俺は竜巻の中から運よく飛び出たようだ。未だに風が強すぎて体勢を整えることもその場に止まることすら出来ないが。


 失敗した。攻撃された時点で引き返すべきだったなあ。そして、だんだんと意識が遠のいていった。






「……ここは?」

「起きたかバカ息子」



 気付けば俺は寝ていたらしい。親父とその周りには今回の任務に参加した仲間たちがいた。どうやら誰も欠けることなく帰って来たらしい。俺は起き上がろうとしたが全然動かなかった。全身が包帯で包まれている。ポーションを使ってなんとか回復したところだろうか。



「親父っ、任務は?」

「……」ブンブン

「そうか」



 親父は首を横に振った。失敗だった。もし魔道具を見つけたとしても持って帰れなかっただろうと語る。



「今回は相手が上手すぎた。ただの警備で船も破壊されたし誰も近づくことさえ出来んかった。一番強いお前も何も出来んかったようじゃし。それにしてもナンスはとんでもないな。だが良くも悪くも経験なら得られたし生きて帰れただ。それだけで十分じゃろ」

「……そうだな」



 ナンス家に手を出すのはまだ早かった。そこを見極めれなかったことは後悔はしている。だがこれ程スリルのある体験は初めてだった。また行きたい。これだから怪盗は止められないのだ。いつの日かリベンジしてやる。




「怪盗ファミリーの戦いはこれからだ!」




「わしは早く引退したい」

「お金がなあ……」

「無理っしょ」

「もうあそこには行きたくない」

「終わりだよ終わり」

「諦めるな、俺達のリベンジはここからだ! コラー、みんな目を背けるなー!!」



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