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214話 「ぱいすとーりー4」

前回までのお話

歯医者ごっこしたよ

 子供部屋にて。今日もメンテは母親であるレディーに甘えまくっていた。これはいつも通りの日常に起きた小さな事件のお話である。



「まんまあ」

「どうしたのメンテちゃん?」



 腕を見せつけるような動きをするメンテ。するとレディーは赤くなって膨らんでいる部分があるのを発見した。



「ここに何かあるの? ……あら、赤くなってるわね。虫にでも刺されたのかしら」

「かぁーゆ(かゆい)」ゴシゴシ

「かいちゃだめよ(そうね、かいたらおっぱいはお預けにするって言おうかしら。これならメンテちゃんも守れないわね!)」

「……!! ぐぐぅう」

「そうそう、我慢しましょうね(あら、必死に我慢し始めたわ。そんなに頑張らなくても良かったのに)」



 何かを察したメンテは急にかゆい部分をかくのをやめたという。この年齢の子供はとても素直なのである。やましい考えなんて一切ないのだ!



「ちょっといいですかね」



 そんな二人のやりとりの様子を見ていたメイドの一人が話に入って来る。手に何かを持っているようだ。



「奥様。これ使えませんか? いつも私が持ち歩いている皮膚のかぶれに効く塗り薬です。虫刺されにも効果があるはずです。刺激が少ないのでメンテくんでも使えるかと」

「あら、それはカブレナーイね。いつも持ち歩いているの?」

「はい。毎日使っていますので。私がメンテくんに塗ってもよろしいでしょうか?」

「お願いするわ。良かったわねメンテちゃん。これでかゆみが消えるわよ」

「はーい!」



 メイドに薬を塗ってもらうメンテ。このカブレナーイはすぐに効果があらわれるので、メンテもすぐに元気になったという。だがこの薬には一つだけ欠点があった。



「きゃきゃ!」

「あらあら、すっかり元気になったわ。でもこの薬は臭いわね。ママ昔からこの匂いは苦手なのよ」

「……まんま?」←何かを感じ取るメンテ

「ごめんねメンテちゃん。しばらく近づかないでね(やったわ。今日はおっぱいはなし作戦成功よ。この薬を選ぶなんてナイスよ)」

「まんまあ?!」



 逃げるように子供部屋から出ていくレディー。扉が閉まる直前に後はよろしくね。絶対におっぱいを卒業させるのよと薬を塗ったメイドに目で訴えかけたという。



「……おっぱいは? おっぱい」

「え?! えっと……奥様が戻ってくるまで一緒に遊びましょう! ね?」

「このうらぎりもの」

「ちょっと待ってメンテくん?! 私は裏切り者じゃないよ? メンテくんのママが薬の匂いが苦手なんて知らなかったの」

「ちぬかくごはできちゃか?(死ぬ覚悟は出来たか?)」

「なんでそんなに怒ってるの?! すぐママは戻って来るから大丈夫だよ。そんなにすごい顔で睨まないで。落ち着いて深呼吸しようね。……待って、なんで猫達がこっちに来てるの?? あれれ、同僚の姿がない!? 生贄にされた!? 私味方だから、メンテくん私は味方だからー!」

「きええええええええええええええええ!!」



 結局この日もおっぱい卒業しなかったという。みんなの戦いは続く。




「きえええええぇぇぇ……ぱい?」ガシッ




 ◆



 メンテが暴れる少し前。これはナンス家のご近所さんのお話。



「やっほー」

「え、お姉ちゃん?!」

「遊びに来たぞ!」



 ドーンと玄関のドアを思いっきり開け家の中に入る女性がいた。どうやらこの家の住人の姉らしい。



「いつも言ってるけど来るなら来るって先に連絡してよ」

「暇だったからノーちゃん驚かせようと思っただけよ。そんな怒んないで~。はい、お土産」

「もうお姉ちゃんったら……。それで今日は何の用?」

「そりゃコノマチの観光でしょ!」

「やっぱりね。前も来た理由が同じだったよお姉ちゃん」

「楽しみに決まってるじゃない。入るわよ」



 嬉しいのか戸惑いなのか。この家の住人はそんな顔をしていたという。そんな顔をしている妹をほったらかしにし、家の中を見回る姉はある大きな変化に気付く。



「……あれれー? ノーちゃんって猫飼ってたっけ??」

「え、言ってなかったっけ? その子たちはアイちゃんとラブちゃん。お姉ちゃんの左にいるのがアイちゃんで、床でごろーんしてるのがラブちゃんね。この前お姉ちゃんが帰った後に飼い始めたの」

「えー。聞いてないんだけど」

「言うの忘れてたかも」

「そうなんだ。本当ノーちゃんは昔から可愛いの好きだよねえ。……なんかすごく見られてるけど私警戒されてるのかな? まあそのうち仲良くなるでしょ。よろしくねえ」

「アイちゃん、ラブちゃん。お姉ちゃんによろしくしてね」

「にゃ?(あれ誰だと思う?)」

「にゃあ(さあ、ご主人の知り合いじゃない?)」



 というわけでここから登場人物の紹介。


 まずはこの家の住人。ナンス家で働く使用人の一人、メイドのエルフノ。


 エルフノは”エルフ”というスキルを持つのでエルフっぽい見た目の人間だ。容姿はエルフと聞いて思い浮かべる金髪やら耳が長いとかがそのまま当てはまる。すごくエルフっぽいけど中身は普通の人間なので勘違いしてはダメだぞ。



 二人目は、エルフノの姉のエルフナ。


 エルフノに容姿がそくりなのは、姉も”エルフ”のスキルを持っているからである。だか姉の方が雰囲気がまったりして髪も長い。服装も解放感に溢れた動きやすい緑色のローブのような衣装だ。森に住んでいるから緑に違和感なく溶け込むようにしている自然派なエルフである。


 このエルフ姉妹は名前も容姿も似ているため、この話ではエルフナを『姉』と呼ぶことにする。エルフノだからノーちゃんと呼ぶのは姉の特権。思いつけば突然遊びに来るなどなど。姉はやることなすこと自由なタイプの人間だぞ。



 そして、最後は猫のアイとラブ。2匹ともメンテの知り合いである。なお姉に会ったのは初めてなのでガン見して警戒していたという。



 以上で人物紹介終わり。話に戻ろう。




「コノマチって毎回来るたびに変わってるから面白いわよね。ノーちゃん今から一緒に観光行きましょ?」

「いいよ。今日はたまたま休みだから。あ、お姉ちゃんこれ飲む? 貰いものなんだけど」

「じゃあちょっと休憩しよっか。……ノーちゃんその恰好で行くつもりなの?」

「そうだけど」

「ピンク、ピンク、ピンクでただのパジャマ姿にしか見えないけど本気?」

「え? 変かな」

「ちょっと目立ち過ぎな気がするぞ。そっちの壁に掛かってるやつにしたら? あれが一番地味じゃない」

「あれ仕事用だから着ないよ」



 エルフノは可愛い物が好きなのでファンシーな衣装しか持っていない。そのため私服よりメイド姿の方がキリッとしていて恰好が良かったりするのである。


 それから二人はしばらく休憩し、お土産を食べたりおしゃべりをして楽しみ始めた。しばらくすると姉がモゾモゾとし始める。



「ん~」

「お姉ちゃん。別に我慢しなくていいよ。二人しかいないし」

「そう? じゃあ出しちゃうわね」



 すると姉からブワッと風が吹き、色とりどりの何かがふわふわと浮かび始めた。それはもやっとした霧のような姿をしている。



「ふう。落ち着くわねえ」

「みんな久しぶり。……あれ、知らない子がいる。もしかして増えた?」

「分かる? 最近火の精霊ちゃんが増えたのよ」

「お姉ちゃんすごい」



 そう、これは精霊である。


 精霊とは何か。草木に宿る自然の存在、動物や無機物に宿る魂のような存在、伝承にあるスピリットと呼ばれるような存在、元素と呼ばれるエレメントのような存在、精神にある存在、イメージの生み出した存在、神のような存在などなど。人によって色々な解釈があるであろう。


 この世界においての精霊とは何が当てはまるか。それは上記に述べたことは全て当てはまるのである。なぜならこの物語の世界は地球ではなく異世界。魔力という不思議な力があるためだ。そのため地球でいう精霊っぽい不思議な現象は全部魔力の影響だろと片づけられてしまう。この世界はかなり大雑把に物事を認識しているため、精霊に対して特に厳密な決まりなどないのだ。


 とまあ難しい話はさておき、この世界において一般的な常識で話をしよう。精霊とは魔力が意思を持った存在と言われることが多い。それっぽいものは全部精霊でいいよね? と本当にテキトーである。ハッキリ言ってこの世界は地球と比べたら決まりがゆるゆるなのだ。


 結論として精霊っぽいのは全部精霊でいいじゃん。以上、この世界の精霊とは何かでした。



「やっぱ慣れない土地だと精霊魔法使わなくちゃ落ち着かないわねえ」

「実家でもお姉ちゃん使ってるじゃん」

「それはそれ、これはこれよ」



 姉は人差し指を動かし気にするなと可愛らしい仕草で答えたという。


 姉の精霊魔法。それは自分の魔力を使い精霊を生み出す魔法である。生み出された精霊達は意思を持っているので自由に周辺を探索し、見聞きしたものを姉に伝える。本人曰く言葉や映像などを共有しているらしい。身の安全を確保しつつ知りたいことを知る。とても便利な魔法である。



「おいしそうな匂いがするって騒いでいるわね。あっちで誰かがお菓子を作ってるみたい」

「それ火の精霊ちゃん?」

「そうそう。あの子は暑い場所を見つけると勝手に飛び出ちゃうのよ」

「可愛いね」



 姉が精霊を生み出す際の感情によって精霊はその属性に変化する。情熱を与えればそれは火の精霊となり、熱いところを好むという。また生み出せる精霊は日々変化したり増えたりするようだ。



「コノマチの周りって自然が豊富でしょ? ノーちゃんのお家に来るまで水の精霊やら土の精霊が喜んで飛び出しちゃって大変だったぞ~」

「お姉ちゃんの魔法って便利だけど制御するの大変だよねえ」

「調べたいと思ったらもう勝手に出ちゃってるからね。あっちで木と草の精霊がはしゃいでいるわ」

「あっちには畑があるよ」

「あら、結構本格的」



 好奇心で精霊を生み出す。姉はそんな特殊な体質の持ち主である。それゆえに彼女は知らなかった。この近くに絶対に近づいてはならないものがあるということを。



「……あらら、何かしら? 精霊ちゃん達が騒ぎ始めたぞ~。何かあるようね」

「どうしたのお姉ちゃん?」

「えっと……なるほど。近くで赤ちゃんが泣いているって伝えたがってるのね。分かったわ!」

「赤ちゃん?」

「そう、男の子の赤ちゃんだって。方角はあっちよ。ノーちゃん心当たりない?」

「あー。それならメンテくんかなあ」

「この子メンテくん? 前来たときは寝てたからあんまり覚えてないけどもう立ち上がって歩いているのね。大きくなったじゃない。あとおっぱいがどうたらって精霊ちゃんが言ってるわよ」

「ぶふぅー?!!!!!!!?!!?!?!?!?」



 口に含んだものを思いっきり吐き出すエルフノ。どう考えてもその赤ちゃんは機嫌が悪いようだ。



「……お姉ちゃん、他には何か言ってる??」

「えっとね。何を叫んでいるのか分からないけど大暴れているぞ。……なるほどなるほど。精霊ちゃんによると薬の匂いが臭いからってママがメンテくんから離れたみたい。それで怒ってると。周りの大人たちがメンテくんに翻弄されてるのが分かるわ」

「お姉ちゃん、その赤ちゃん絶対メンテくんだよ」

「うわうわ?! すっごいパンチ。ここから見てて面白いぞ。がんばれ~」

「……」



 今日は休みで良かったと思うエルフノである。まあ今日の自分は担当外。関係ないと気を取り直して姉に話を振った。



「お姉ちゃん、そろそろ観光行こうよ。メンテくんなら大丈夫。ひどいのは最初だけだから」

「ひえっ?!」

「……何かあったの?」

「見てる」

「見てる??」

「メンテくんが思いっきり精霊ちゃん達を見てるわよ?!!!」

「え?!」



 精霊が見えるのは人間は稀である。エルフノは精霊魔法を使うことは出来ないが、魔力の質が姉と似ているためか認識出来ているのだ。メンテの場合はよく分からないが、おっぱいのためなら見えるのだろう。



「ひええええ?! 何で私の精霊ちゃん達見えてるの??」

「メンテくんはピュアだからかなあ」

「ぴゅ、ピュア? まあ子供は見える子多いけどここまでガン見している子は初めて見たわよ。メンテくんって精霊と相性良いの? それとも何らかの契約でもしてるのかしら」

「それはないよお姉ちゃん。だってメンテくんはまだ魔法使えないもん」

「そう? じゃあたまたま見つけたってことかしら。すっごい興味津々だぞ」

「そうじゃない? きっと気になったんだよ」



 メンテの目は良さは皆知っているが、精霊が見えることまでは誰も知らなかったという。



「じゃあそろそろ観光行くぞー! ノーちゃん準備出来た?」

「早く行こうよ」

「……ひゃああ?!」

「今度は何?!」

「メンテくんが、メンテくんが精霊ちゃんを掴んだわ」

「え?!」

「え、ええ?! ええええええええ?! 何これ。全然離れないどころか何かが流れ込んでくるぞ?!!」

「お姉ちゃん落ち着いて。今度は何?」

「あばあばばばばばあj,baarg;2ouq34yt9fはkア;43ヴぁいー」

「お姉ちゃん?!」



 突然白目を向いて痙攣し始める姉。明らかに様子がおかしい。



「ええええ、何が起きてるの??!」

「ば4;hがlらw。わかった。もんだいない」

「あ、戻って来た。お姉ちゃん大丈夫??」

「……はやくおっぱいをあげなきゃ。わたしいかなきゃ」

「お姉ちゃん?!」

「「にゃああああー!!」」

「え?! アイちゃんラブちゃんも?!!」



 何かを感じ取ったのか急に猫達も暴れ始め、謎の異常事態に突入するエルフノ家。困惑してパニック状態に陥るエルフノである。



「「にゃああああ」」

「えええ、さっきから何が起きてるの??」

「おっぱい。めんてくんにおっぱい。わたしいかなきゃ」

「おねえちゃんどこ行くの?! 言ってることも変だし早く戻って来てー!!」バシバシ



 姉の頭を叩きまくるエルフノ。だが姉の言動はおかしいままである。



「……あれ?! 静かになったと思ったらアイちゃんとラブちゃんが消えてる?!」

「「にゃあああああ!」」

「えええ?!!! な、ななななんで外に??? 待って待って。うち鍵かけてるじゃん。この家に隙間何てないのにどうやって外に出たの?!」



 たまたま窓を見たエルフノが猫が家から脱走しているのに気付いた。エルフノにはメンテが猫魔法で作ったものが見えないようだ。



「のーちゃん」

「あ、やっと戻って来た。よかったー。それより大変、猫達が逃げ出しちゃったの。私探しに行くね! ちょっと留守番してて」

「だいじょうぶ。おっぱいのじかんだから。おっぱい」

「お姉ちゃん?!」

「あいもらぶもおっぱいにむかったから。あっちぱい」

「その方向メンテくんだよね?! アイちゃんラブちゃんメンテくんのところに向かったってこと? さっきから何が起きてるの??」

「おっぱいはただしい。せいぎ」

「何言ってるのお姉ちゃん?! 本当にどうしたの???」



 本当どうかしてるのである。そんな中、姉は一瞬だけ正気を取り戻す。



「はっ?! ここは」

「お姉ちゃん?!」

「精霊が掴まれたとたんに力が抜けて……ダメ。もう持たない。ノーちゃん、私の精霊が乗っ取られ……っぱい。く、来るおっぱい」

「お姉ちゃん?!! ……え?」



 姉の警告と同時にブワッと現れる精霊達。これは姉が生み出した精霊達である。自由に遊んでいたようだが、急に姉の元に戻って来たのだ。だが様子がおかしい。色も違えばなにやら禍々しい気配がある。エルフノはそんな精霊達に囲まれてしまう。



「な、何この黒い精霊……」

『おっぱい』

「……え?」

『おっぱいは?』

「しゃ、しゃべってる……?! そういえば乗っ取られてるとか言ってたけどこれメンテくんがやったの??」

『早くちろ。ぶっ殺ちゅぞ』

「これ絶対メンテくんだよ!?」

『きえええええええええええ!!!!!』

「ひいい、分かったよ。今行くからお姉ちゃんとアイちゃんラブちゃんを戻して―!!」



 メンテが頭のおかしい理由で精霊を乗っ取ったことにより、エルフノは休日出勤を余儀なくされたという。メンテの機嫌が治まったら姉も猫のアイとラブも元通り。その後、みんなで観光も楽しめたそうだ。めでたしめでたし。




 ぱいすとーりー。それは見つかったら終わりのホラー映画みたいな恐怖のお話。遠くにいようと部外者だろうと誰も彼から逃げることは出来ない。


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