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213話 「虫歯」

前回までのお話

赤ちゃんライフとスローライフは似ている?

「メンテこれは?」

「いち」

「正解! これは?」

「にぃ」

「正解だよー。メンテ頭良くなったね!」

「はーい!」



 ここはアーネの部屋。アーネの勉強中に突如乱入したメンテ。二人の仲は良いので喧嘩することなく、なぜか一緒に簡単な算数の問題を解いていた。


 今日の教師はメイド長のカフェ。メンテがアーネの手元が見えないと泣くのでアーネの横にわざわざイスを出し、膝の上にメンテを乗せながら二人の様子を見ていた。



「どうカフェさん? メンテすごいでしょー」

「すごいですねメンテ様は。もう足し算を理解しているのは知りませんでした」

「お兄ちゃんがね、両手の指の数はもう分かるって言ってたー」

「そうなのですか?」

「はーい!」

「ほらね。分かってるって言ってるよー」

「メンテ様は勉強が得意なのかもしれませんね」



 僕頭が良いでしょ感を出して喜ぶメンテ。かわいいとついつい頭をなでなでするカフェである。



「メンテ次いくよー。えっとね、じゃあこれ。10+15は何?」

「アーネ様、その問題を計算してみてください。指の数を超えています。メンテ様には分かりませんよ」

「……あ、本当だ?!」

「メンテ様に出すならもう少し簡単な問題の方がよろしいかと」

「ごめんねメンテ。これ難しいやつだった。でも一応聞いてみよーっと。メンテこの問題分かる?」

「……えぐぅ~?」



 口をだらりと開け、いかにも頭の悪そうな顔をするメンテ。大人はこの顔を見たら理解していないのがすぐ分かる。メンテは顔芸だけで相手とコミュニケーションを取れる1歳なのだ。



「二桁の問題はまだメンテ様には早いですね」

「あ! いいこと思いついた。この問題解けたらご褒美におっぱいあるよー。メンテ好きでしょ?」

「アーネ様。そんなこと言っても頭は良くなりませんよ? それに奥様からメンテ様を甘やかしすぎるなと言われて……」

「にじゅうご」

「――?!」←カフェ

「すご~い! 答えあってる!!」



 目を見開き驚くカフェ。メンテの顔を見ると背筋を伸ばし、キリっと聡明な表情をしていた。



「じゃあ次ね。7-4は?」

「さん」

「正解! メンテ本当すごいねー!」

「――?!! ……メンテ様は引き算がもう出来るのですか??」

「さあ。お兄ちゃんが教えたんじゃないのー?」

「そ、そうですか」



 急に頭が良くなるメンテ。さっきまでのアホな顔はどこにいったのだろうか。真剣な顔で二人を見ていた。ご褒美まだ? と言いたそうである。



「次の問題はこれにしよー。7×7だよー。メンテ分かるかな?」

「アーネ様、さすがに掛け算は難しいかと……」

「よんじゅうきゅう」

「すごーい! 正解だよー!」

「――?!!」←カフェ



 普通に指の数を超えた計算も楽々に解いちゃうメンテ。アーネはすごいと褒めるが、カフェはなぜ分かるのでしょうと困惑していた。



「じゃあ次はね、私が今習っている割り算だよー。難しいよ」

「おっぱいは? おっぱい」

「答えられたらあるよ。ね、カフェさん」

「……そうですね。で、ではこの問題はいかがでしょう」

「え? まだここ私習ってないよ??」

「問題ありません(なるほど。おっぱい欲しさに頑張ってるようですがここは諦めて貰いましょう)」



 ここは意地でも間違えてもらおうと難しい問題を選ぶカフェ。このままだと私がおっぱいを頼みに行く流れになる。これで怒られるのは私だけ。阻止せねばと難易度を上げたのである。



「じゃあ5÷8は?」

「れーてんろくにいご」

「――?!!!」←カフェ

「え? もう1回言ってー」

「れーてんろくにいご」

「カフェさんこれあってるの?」

「……正解です(なぜ分かったのでしょう??)」

「メンテすごーい!」

「おっぱい」



 習ってもいないこともスラスラ答えるメンテ。おっぱいのためなら全ての力を解き放つ。今の彼は天才な1歳である。ばぶばぶー。



「おっぱいは? おっぱい。おっぱいは??」

「メンテ様、今までのは小手調べです。次の問題に答えられたらおっぱいはあるかもしれませんよ。アーネ様。これが問題です」スッ

「え、これお兄ちゃんの教科書じゃない?」

「いいのです。さあ、適用にページを開いてください。そこから問題を出しましょう」



 簡単な問題じゃダメだとレベルを上げまくるカフェ。これなら絶対に答えられるわけがない。これでメンテのおっぱいを阻止してやるとメンテと激しい攻防を繰り広げるカフェ。



「え? いいのかな。えーい、じゃあここで。5の三乗を答えろだって。カフェさんこの問題はどういう意味?」

「これは難問ですね。ですからおっぱいはなしということで決まりですね。答え合わせをしま……」

「ひゃくにじゅうご」

「――?!!!!!」←カフェ

「ひゃくにじゅうご。ひゃくにじゅうご。ひゃくにじゅうご」

「メンテが125? ってうるさいんだけど正解なの?」

「ぱーい。ぱいぱいぱいぱい!!!!」バシバシ

「きゃあ、メンテが我慢出来ずに暴れ始めたー?!! カフェさん、早くママ呼んでー!!」

「……少々お待ちを」

「きえええええええええええええええええええええ!!!!!」

「きゃああああああ?! お兄ちゃんの教科書を破き始めたよー。早くー!!」



 バカと天才は紙一重。果たしてメンテはどっちなのだろうとカフェは不安になったという。あとおっぱいをだしに使うなと怒られましたとさ。おしまい。




 ◆




 僕メンテ。そろそろ2歳になる男の子。いっぱい食べて大きくなるぞー!



「もぐもぐもぐ」

「……」

「ごくん。えぐ~?(あれ? シロ先生、今日は食べないの?)」

「にゃ(呪いにやられて食欲がわかないわ。もう私も長くはないでしょうね)」

「――!! もぐもぐ(あ、これうまい)」

「……(全然聞いてないの)」



 がっつくメンテ。かわいい。その様子を見ていたレディーはメンテに話しかける。



「フフッ、今日はいっぱい食べるわね。メンテちゃんは体が小さいからもっといっぱい食べて大きくなりましょうね」

「もぐもぐ。ぱーいぱい(おっぱい)」

「もう何を言っているのかしら? もうメンテちゃんは十分大きいでしょ? ふざけたこと言わないで頂戴」

「ごほっ、まんまぁ?!」

「フフッ、どうせ今から泣くんでしょ? 無駄です。ママにはお見通しですよ。さあ、早く食べなさい」

「うええええええええん!!!!」

「にゃあ……(この子大丈夫かしら……)」



 今日も二人の戦いは続く。





 というわけで夜。家族が寝静まった頃、僕は子猫に変身してシロ先生とお話をすることにしました。



「呪いって何?」

「あら、覚えてたの。食事のあと全く聞いてこないから忘れちゃったのかと」

「やだなあ、ずっと心配したから忘れるわけないじゃん」

「へえ。ああ見えてちゃんと話を聞いていたのね。あの場で教えてくれればよかったのに」

「詳しくは夜聞こうかなって思ってただけだよ」



 寝る前に思い出したなんて絶対言えないや。



「で、シロ先生はもう長生きできないの?」

「そうねえ……、メンテは口の悪魔の話を聞いたことある? 猫の間では有名なんだけど」

「口の悪魔??」



 何それ、誰か聞いたことある人いる?



「その悪魔はある日突然現れる。理由や原因は分からない。だけど悪魔に出会った猫は食欲がなくなり、やがて死ぬ。悪魔にあうことを私たちは呪いと呼んでいるわ」

「シロ先生はその悪魔を見たの?」

「いいえ。これはただの言い伝え。見てないけど私は呪われたのは分かるわ。食べたい気持ちがあっても食欲がわかないの」



 まあシロ先生が食欲ないのはおかしいよね。だから呪いが原因って話かな?



「ちょっと口開けてみてよ」

「ダメよ」

「なんで?」

「呪いがうつるかもしれないわ」

「大丈夫。僕には猫魔法があるからね。猫の光魔法で呪いなんかいちころだよ」

「すごい自信ね。わかった、少しだけよ。……ところで猫の光魔法って何? そんな話初めて聞いたわ……」



 口を大きく開くシロ先生。僕は口の中を覗きます。



「?? どこにもいないけど……」

「今は下の前歯にいるわ。メンテから見て左の方ね」

「前歯?」



 言われた歯を見て見ると、歯の内側の方が黒くなっていますね。




 ……虫歯じゃない?




「これただの虫歯なんじゃ……」

「虫? 虫なんて食べてないわよ。だって今日は魚2匹しか食べられなかったし……」

「あの魚大きいよね。2匹以上食べてる猫はシロ先生しか見たことないよ」



 虫歯を知らない? この世界では虫歯のことを悪魔とか呪いとか言うのかな?? まあ猫だけかもしれないけど軽くカルチャーショックを受ける僕です。



「これ根元のは虫歯じゃなくて歯周病かな? あ、こっちは根元より上の方に出来ているから虫歯の可能性が高いね」

「え、もうそんなに広がっているの?!」

「静かに。全部の歯を調べるからもっと口開いたままじっとしてて」

「分かったわ」



 全部見たけど5本ほど黒い部分がありました。やっぱこれただの虫歯なんじゃないかなあ。


 そういえば前世では犬や猫は虫歯にならないって聞いたことあるよ。まあ絶対という訳ではないんだけど、虫歯になるのは珍しいのだとか。なんでも唾液が人間と違ったり、歯の構造に違いがあるからとかね。


 まあうろ覚えなんでこの知識を参考にするのは間違っているかもしれないね。だってここは異世界だよ? 猫が虫歯になったり、猫でも虫歯になるような菌があってもおかしくないもん。こっちの世界の常識に合わせたら猫が虫歯になるのは変じゃないはず。



「シロ先生。これ悪魔とか呪いじゃなくてただの病気だよ。人間の世界ではこれを虫歯って言うんだけどね」

「……病気?」

「うん。人間もなるんだけどね、歯の手入れをしないとこうなるんだ。ひどくなると痛くなったり歯が抜けるんだ」

「やけに詳しく知っているのね」

「僕の親が歯を磨かないとそうなるって言ってるから覚えちゃったんだ。まあ僕はまだ全部の歯は生え揃ってないんだけどね。それより食欲ないのは歯が痛いからなんじゃない?」

「――! なぜそれを?!」

「やっぱりね。その原因は多分ただの食べ過ぎだと思う」

「誰がデブ猫よ!!」

「そこまで言ってないけど……」



 最近丸っこくなってきたこと気にしてたんだ。



「じゃあ治療しようか」

「にゃ、メンテはこの呪いの解除が出来るの?!」

「魔法を使えば簡単だよ。あと呪いじゃなくて虫歯ね。口開いて上向いて」

「にゃーん」



 この世界には魔法とかいう便利な力があるから楽だよねえ。



「猫魔法・猫目ライト!」



 まずは目を光らせます。懐中電灯みたいにぐいーんと前方をね。これで口の奥まで見やすくなります。ピカーン!



「……待って。それ何なの?! しっぽが光るのは知っているけど目から光が飛び出てるわよ?!!」

「これ? ただの猫の光魔法だよ。猫ってさ、暗いと目が光って見えるって前にも言わなかったっけ? しっぽも目も同じようなものだよ」

「猫の目はそんな光り方しないわよ?!」



 なんだかんだ言われましたがシロ先生は口を開けてくれました。



「まずは歯石をとろう。隠れた虫歯も見つかるかもしれないし」



 しっぽを伸ばしてその先を尖らせます。しっぽに猫の爪を生やせば歯石を砕く道具の完成だよ!



「ちょ、ちょっと待って。ストッープ。そのしっぽはおかしくない?!」

「え? これはしっぽの先端に猫の爪を付けただけだよ」

「どういうこと?!」

「最近正しい魔法の使い方が分かって来たんだ。しっぽからしっぽだけじゃなくこうやって手でも足でも頭でも生えて来るよ」

「そんな猫いないわよ?!」

「にゃ~?(えぐぅ~?)」



 この技術は最近おっぱいの邪魔をした犬との闘いで学んだんだ。魔力で生み出した肉体を別の形にする変幻自在な技だよ!


 あくまで全部魔力で構成されているからこそ出来る技だよ。元々あった肉体に別の部位を生み出してくっ付けてるわけではないよ。あくまで変形出来るのは魔力で作られた肉体の部分だけ。仮初の肉体を魔力で具現化し、着ぐるみのように着ている感覚だね。僕本体には何も影響ないんだ。


 しっぽからしっぽじゃなく爪を生やしたっていいじゃないか。途中までしっぽだけど先端だけ爪。そんな使い方をしただけさ。魔法はイメージが大事なんだよ。



 ん~、初めて見た魔法のせいかシロ先生が混乱してるなあ。落ち着くまで待った後は口を開いた状態で歯石をとります。ゆっくり丁寧にやったので痛みは感じなかったみたいですね。


 おや、全体的に歯茎が少し腫れているのが分かります。まあ歯石はとったので時期に治まるでしょう。で、問題の虫歯。歯石の下にはなかったのでよかったです。ですが、表面が黒くなっている歯があるんだよね。これぐらいなら削る必要はなさそうです。



「猫魔法・猫目レーザー!」チュピチュピーン! ピュンピュンピュン!!



「……なんかチリってしたんだけど」

「急にしゃべらないで。もっと大きく口を開けて!」



 ちょっと加減を間違えたせいか威力が高く、関係のない歯まで削れちゃいました。てへっ、反省っと。んー、これは詰め物をした方がよいでしょう。こういうときも魔法の力を使えば簡単に解決ですよ。



「猫魔法・猫プラスチック」



 これは疑問に思った方がいるかもしれませんね。みんさん、なぜ猫がプラスチックを使えるかわかりますか?


 答えは英語です。プラスチックを英語にすると”plastic”となります。”plastic”のスペルをよーく見てください。cとaとtがありますね。


 合わせるとcat。キャット。つまり猫。よって猫魔法でプラスチックが作れるのです!!!



 ※猫プラスチック

 謎の猫エネルギーが原料の物質。猫だけが作れ、猫だけが使えるらしいが詳細不明。



 よし、これでシロ先生の歯は元通り。どんどんいきましょう。軽い虫歯は表面を削っただけで終わりましたが、この前歯の虫歯は中まで浸食しています。良くない状態ですねえ。



「この歯は奥まで虫歯があるから削らなきゃ。猫魔法・猫ドリル!」



 最近知り合いの猫がアーネの算数ドリルの上で寝ていました。これ丁度良いと言っていましたね。だから猫はドリルが好きなのでこの魔法が使えます。


 僕はしっぽを高速回転させます。先端には猫の爪があるので貫通力抜群なんだ。



 ギュイイイイイイイイン!!!!



「ひぃいい?! ななな、何の音?!」

「痛かったら手をあげてね」

「え? ……にゃああああ?! しみる、いたいにゃあああ!! 手を上げてるでしょ?! 早く止めて―!!!」

「猫魔法・ライオン」



 頑張れシロ先生。たいてい手を上げた所で医者に無視されるものなのですよ。暴れるシロ先生を巨大化して足で軽く踏んで抑えつつ、なんとか全ての歯の治療が終わりました。ライオンは解除っと。



「ふう、成功だ。治療終わったよ」

「……本当に終わったのね」

「しばらくしたらいつも通りに食べれるようになるよ。まあ来週に変なところはないか確認はするけどね」



 そんなわけで歯の治療が終わりシロ先生は元気になりました!


 思ったより魔法の力加減が難しかったですねえ。でも魔法の練習が出来たし、猫も元気になるし良いことずくめなんじゃない? しばらく続けようかなあ。



「シロ先生、他にも虫歯っぽい猫いたら連れて来てよ。魔法の練習したいから」

「……え、もしかして今私で練習してたの?」

「うん。初めてだったから力加減が難しかったけど難しい治療じゃなかったよ。あ、うがいしてないね。猫水魔法!」

「おげえええ?! ごほ、かげんを間違えてるーってうにゃあああああああ?!!!」←溺れるシロ先生



 それからしばらくして健康な歯をもつ元気な猫が増えたという。元気すぎて猫の食欲も増大! 食費が急激に増えて大変だったのだが、その原因がメンテだと誰にも知られることはなかった。






「ねえ、ちょっといい? メンテが治した歯がおかしいの。自分の舌では今までの歯と同じような感触ね。でも食べれないような硬い石をかじっただけで簡単に真っ二つになるの。ほら見てこれ。軽く噛んでこれよ。怖いんだけど……。メンテは何か知らない?」

「硬くておいしい食べ物も簡単に食べれるね」

「あら、全然問題なさそうね」

「だね」


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