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207話 「職場体験 その3」

「どどど、どうしよう。いったい何を作ればいいんだろう……」

「小さい物って言われてもなあ」

「うわああん、時間ないよー」



 1日目の午後。学生さんは小さな物を最低20個作るという課題で悩んでいました。



「はーい!」

「あ、メンテくんだ」

「お昼寝終わったから遊びに来たんだって」

「こっちおいで~」

「きゃきゃ!」



 学生さんが心配で気になったから来たんだよねえ。お昼ご飯はお家で食べてそのまま昼寝タイム、起きたらすぐに店に戻って来たんだ。



「5日で20個だろ? 1日4つも作らなきゃいけないじゃん」

「まだ何を作るのか決まってないのにね」

「無理だよ……」

「早くも終わったぜ」

「「「「「ざわざわ」」」」」



 予想通りみんな課題で苦しんでるぞ。笑っちゃうぐらい絶望した顔をしてるね。でもまだ諦めるのは早い。ここは僕が手助けしてあげましょう!



「はっはっは! お困りのようだな」



 カツン、カツンと足音を立てながら誰かが近づいて来ました。彼こそがナンス家のトップで僕の父親。世界的に有名? な魔道具職人であるダンディです。


 父はひょいッと僕を持ち上げ抱っこします。ここは僕の特等席。学生さんのお顔がよく見えるんだ。



「私はダンディ。ここに集まっているのは学園の生徒だな。みんな魔道具を作るのは好きかい?」



 父が現れるとキャー! とかわー! とか良い意味での興奮した声が響き渡ります。いつもは父を怖がる冒険者たちの悲鳴が聞こえるのですが、今日は魔道具に興味のある学生さんからは歓声がすごいね。みんな信者か何かなの?



「はっはっは! みんな落ち着くんだ。与えられた課題に悩んでいるんだろう? 少しアドバイスをしてあげよう」



 僕は上手にしゃべれないから大人に頼ることにしたんだ。専門的な話をするなら父が一番だと思い、こっちに来てとお願いして連れて来たんだよ。最高のサポートじゃない? 以下はそのときの会話ね。



「サインください!」

「いいぞ。どこに書いて欲しいんだ?」


「魔道具職人になったきっかけを教えてください」

「好きなものを作っていたら勝手に呼ばれるようになった。覚えていない」


「好きな魔道具は何ですか?」

「攻撃力の高いものだ」


「このお店の強いところは何ですか?」

「家具だ。今では雑貨屋と呼ばれているが元々ここは家具屋だったからな」


「給料はいくらもらえますか?」

「ノーコメントだ。それを言うと怒られるからな」


「ダンディさんは何を作るのが得意なんですか?」

「攻撃力の高いものだ」


「先程から出ている攻撃力とは?」

「身を守る力だ」


「武器や防具は売らないのですか?」

「鍛冶屋じゃないから作る予定はない。ここは雑貨屋だから武器防具に合うようなアクセサリーなら作っているがな」


「すごい武器を作っているという噂を聞いたのですが……」

「はっはっは。武器なんて物騒な物は作っていないぞ。第一私はそういうスキルを持っていないからな。だが今は機嫌が良いから特別に教えてあげよう。今作っている魔道具は、戦略級魔道破壊兵器・コロスンだ。普通の自己防衛用の魔道具だから都市1つ滅ぼすぐらいしか出来ない。まあ普通の魔道具だ。そのうち売り出すだろうからそれまでは秘密にしておくように」

「みちゃいる(ミサイル)」

「ミチャイル? この前はミサイチュとか言っていたな。もしかしてメンテはコロスンという名前が嫌なのかい?」

「うぐ(うん)」

「なら名前はあとで決め直そう。……ん? みんなどうした。お腹でも痛いのか? 働くなら体調を気を付けるのも仕事だ。学生のうちから慣れた方がいいぞ」



 最初は父や店について質問攻めでした。家具屋だったのは僕も初めて聞いたよ。で、だんだんと課題について学生さんは相談していきました。



「課題の小さな物って何を作ればいいんですか?」

「好きなものを作ればいい!」


「課題が魔道具じゃなくてもいいって本当ですか?」

「今回はそういう課題なのか。よく考えられているな。もし私だったら自分の力をアピールするだろうな。君はこの課題を聞いてどう思った? 相手が何を望んでいるのかをよく考えてみろ。あまり時間がないぞ」


「20個作るって難しくないですか?」

「まずは自分の力を見極める。1つだけ完成度が高くてもその他が微妙だったら間に合ったと言えるのか? それが今の自分の実力だと理解することから始めるんだ」


「同じものを20個作ってもいいんですよね?」

「そこも課題の一つだろう。全部同じような物を作るのか、それともバラバラな物を作るのか。こういうものが作れますよという自分の強みを見せるチャンスだからな。もちろん20個以上作れるならその方がいいとは思うぞ。実は私も何をするのか聞いていないんだ。これはアドバイスになっているかは分からないがね」


「2人で作ってもいいのですか?」

「もちろんだ。そこを考えられるのも才能のひとつだと思うぞ。凝った考えはものづくりにおいて不要だ。柔軟性があるからこそ進化し続けられるんだ」



 父は働くときは真面目です。しっかりと学生さんの質問に答えていきます。僕の想像以上に活躍してますね。



「ダンディさん、俺も少しいいですか? 俺の名前はミチオって言います。個人的なことで申し訳ないのですが……」

「もちろんいいぞ。ミチオ君は……どうした。何かに悩んでいる顔をしているな」

「はい。人生で一番悩んでいます」



 お、悩める学生ことミチオくんが勇気を出したぞ。がんばれー!



「俺はものを作るのが好きなのですが、これといって得意なものがありません。鍛冶屋や服屋、絵、食品などなど。いろいろなところで働いてみました。ですが未だにピンと来ません。自分の得意なことが見つからなくて……」

「それは難しい質問だ。そうだな……、ミチオ君のスキルを教えてくれるかい? もちろん全部じゃなくていい。この世界を目指した理由があるんだろう?」

「よくあるスキルの”ものづくり”です。だから何かの職人に向いていると思っているのですが……」



 悩んでいた理由はそれでしたか。お店のことで不安なのかと思ったけど全然違ったね。父は何となく察していたような発言をしていたので負けたと気分です。



「そうか。それはつらい悩みだな」

「はい」

「んー……」



 父が考え込みます。



「午前中は魔道具作りを……したけどダメだったから聞いているんだな。となるとあれの可能性が高いか」

「あれですか?」

「えぐ?」



 あれって何だろう?



「多分だが君の力が発揮されるのは、限定的なものだけだ」

「限定的??」

「例えば料理だと肉を使った料理だけ上手に出来る。他の料理は下手くそみたいなものだ。全体的に力を発揮するタイプじゃなく、ある特定の分野だけ。それとも特定の作業だけなのか。それがあまりにも狭すぎて見つからないんだ。いわゆるギフトの弊害だな」



 あー、そっか。ギフトって自分の才能が見えるけど具体的に何がどうだって教えてくれないんだよね。自分で捜して見つけろよって何一つアドバイスすらしないしさ。この世界って優しいようで厳しいところあるんだよなあ。


 おかげでミチオくんは道に迷ったと。未知だけに道にねえ。



「ここは雑貨屋だからな普通の仕事より色々やる作業が多いぞ。今までやったことのない優先してやりなさい。君に合う条件が見つかるかもしれないぞ」



 この後、この会話を聞いていた学生さんが仕事に関係のないお悩み相談を始めました。父はそれに真摯に答えていく姿はカッコ良かったです。これで店の評判も良くなるぞー!



「そろそろ時間だな。では1週間頑張りなさい。それと目のとても良い人をおいておくぞ。みんなで相手をしてやってくれ」

「目のいい?」

「誰か来るのかな?」

「はっはっは。もうみんなの目の前にいるじゃないか? ここにいる私の自慢の息子だよ。まだ1歳だが目利きが良すぎると評判だ」



 まさかの父公認ということで5日間、僕は学生さんのために体を張って頑張りました。みんな課題も良い感じにクリアしたと思います。


 そして、学生さんは緊張しながら最後の2日間を迎えるのでした。


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