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204話 「スーパー猫の日」

 とある日の午後、コノマチの路地裏にて。



「「「「「にゃわにゃわ!」」」」」



「ボスー、集まりましたよ!」

「お、揃ったか。みんな今日はよく集まっ……ん? 本当に集まっているのかこれ?? いつもより少ない気がするんだが……」

「まあそこは色々ありましてにゃ」

「暇な猫達はもう全員来てますにゃあ」

「んじゃ始めるか」



 大量の猫が一か所に集まっていた。これはコノマチに生きる野生の猫達の集会である。今回の主催はボスと呼ばれるひときわ大きな猫とその取り巻き達だ。



「今日はボスがみんなに伝えたいことがあるそうにゃあ!」

「よく聞くのニャ」

「ささ、ボス。どうぞ」



「……………………」



「ボ、ボス?」

「どうかなさいましたにゃ??」

「……少ない。やっぱり少ないだろうがよお!! この前の集会のときはもっといただろうが。あいつらどこ行きやがった!!」



 怒るボス。その理由は、前回の集会の7割ぐらいの猫しか集まっていないからだ。



「お、落ち着いてくださいボス」

「そこは色々ありまして……」

「だからその色々って何だあって聞いているんだ!!」バシ

「痛い、痛いですにゃ?!」

「ひいい、色々って言うのはあれのことですにゃ」

「あれ? だからあれって何だあ!!」バシ

「この前の縄張り荒らしの件ですニャ」

「――!!」



 急に殴るのを止めるボス。取り巻き達は冷静になったボスの様子にホットしつつ、丁寧に説明をしていく。



「猫が集まっていないのはあの白黒親子のせいですにゃ」

「そうだニャ。あいつらのせいで縄張りがなくなったのニャ!!」

「住む場所を追われて森や違う町に行く猫が増えたのですよ。あっしの知り合いは人間の乗り物とかいう物に乗ってコノマチを去りましたよ。元気でやっているでしょうか」

「……そうか」



 納得するボス。ボスは力だけでなく頭も良い猫だ。



「だがな、いくらなんでも減りすぎじゃねえのかよお?」

「そうにゃのです。実はそれだけではにゃく……」

「あ? まだあるってか?」

「教会に行った猫も多いのですよ」

「というよりほとんどの猫が教会に助けを求めに行ったまま帰って来ないのです」

「はあ?! どういうことだ!」

「「「「「にゃわにゃわ」」」」」



 ざわつく猫達。ボスとその取り巻き達だけではなく、ここに集まった猫達も知っていることを話し始めた。集会に参加する猫の目的は、このようにお互いの情報を出し合い共有することにある。



「そうだ、教会だにゃあ!」

「追い出された猫はうまい飯がにゃい、今の生活がつらいからあそこに行くんだって言ってたにゃ」

「教会の顔見知りの猫に相談している姿も見たにゃー」

「でも誰も戻ってこないのニャ」

「きっとあいつらは教会の軍門に下ったんだ!」

「ワイルドに生きるって言ってたのに人間に飼いならされてるにゃんて可哀そうに」

「みんなペットに堕ちたんだ!」

「戻って来ないのは怠け者にゃり」

「「「「「にゃわにゃわ!」」」」」

「おい、お前ら落ち着け」



 コノマチの猫達は野生で生き抜く猫こそ生きざまがある。人間と一緒に暮らす猫は軟弱猫というのが共通認識である。


 ヒートアップしていく猫達を逆になだめることになるボス。まあボスがこの流れを作ったので自業自得である。しばらくし、皆が落ち着いたところでボスがカリスマ性を発揮する。



「まあ理由は分かった。環境について来れない猫どもが教会に行っただけの話だろ? そんな猫に比べてここに集まってる俺たちは強い。それが証明されただけの事だ。喜べお前ら! 俺たちは強い猫だあ!!」

「おおお、さっすがボスー!」

「ボスのお墨付きだぞー、喜ぶにゃあ!」

「ボース! ボース!」

「ひゅうひゅうー」

「「「「「にゃわにゃわ!!」」」」」



 なんやかんやまとめるのが上手なボス。ボスはみんなのまとめ役なのである!



「でだなあ、もうひとつ話がある」

「え、まだあるんですかにゃ?」

「そうだ。どうやら今日はスーパー猫の日らしい」

「「「「「にゃ?」」」」」



 この場に集まった猫達は、何言ってるんだこいつ的な目をしてボスを見つめた。



「おいお前ら、そんな目で見るんじゃねえ。ことは今日の朝だ。何者かが俺に話しかけてきやがった」

「「「「「何者か?」」」」」

「正体はよく分からなかったが猫だ。そいつは天使だとか記念とか訳の分からないことを言いやがって俺に近づいてきやがった」

「「「「「??」」」」」

「羽が生えていてる猫だとかモテるやら意味が分からねえ奴だったぞ。確か名前も言っていた気もするが長すぎて覚えてねえ。でだ、誰か怪しい猫を見た奴はいねえかって聞きたくて全員呼んだんだよ」

「「「「「知らないにゃ」」」」」



 突然現れたという謎の猫。その話はボス以外誰も知らないようである。



「……誰も見てないか。まあそれはどうでもいい。その怪しい猫が奇妙なことを言っていた。今日は2022年2月22日で2がいっぱいある。にゃんにゃんにゃんでスーパー猫の日。100年に1度の猫がいっぱいでいいことがあるって話だあ」

「「「「「???」」」」」

「そんな顔するんじゃねえよ。俺だって意味が分かんねえんだ……」



 ポカーンとする猫達。ボスは何を言っているんだ、頭がおかしくなったのかなと困惑していた。だがボスの取り巻き達だけには違う反応を見せる。



「それお告げニャ……」

「それってボスだけに……?!」

「まさかボスが選ばれたのにゃ!?」

「そうに間違いないにゃ。きっと猫神だにゃ! つまりボスはスーパーな猫になりたいからみんなを集めたのにゃ!!」

「おお、そういうことですか!」

「さっすがボス。あの親子を懲らしめるんですね!」

「……あ?」



 謎の盛り上がりを見せる取り巻き達。これは完全に勘違いによるものだが誰にも止められない程騒ぎ立てた。むしろどんどん事が大きくなっていくのである。



「にゃるほどねえ。スーパーボスになるんですにゃ」

「考えましたね!」

「おい、お前らさっきから何を言ってんだ……?」

「聞いたかー! ボスが猫神からのお告げを聞き、スーパーボスになってあの親子にルールを叩き込むって言ってるにゃあああああ!!」

「「「「「にゃ、にゃんだって?!」」」」」

「はあ?!」



 取り巻き達の話を聞き驚く猫達。ボスも何言ってんだこのアホ猫どもがという状態である。



「ボスは猫神からのお告げを実行した。猫がいっぱい集まることでパワーアップにゃああああ」

「猫神がボスを選んだ?!」

「猫神って何にゃん?」

「そりゃすごく偉い猫だよ。ボスが認められたんじゃにゃいか?」

「にゃああ?! こりゃ一大事じゃにゃいか!?」

「うおおおおお我らがボスウウウ!!」

「さっすがああああああ!!」

「おい待て。その猫神って言葉どこから来やがった?!」

「「「「「にゃわにゃわ!」」」」」

「うおおおお、誰も俺の聞いてねええええ」



 熱気に包まれる猫の集会。ボス1匹だけが戸惑っていたが勝手に話が進んで行く。うるさすぎてボスの言葉は誰の耳にも入らなかった。



「あんな親子にボスが負けるわけないですよ!」

「そうだそうだ!」

「やったれボス」

「ボース! ボース!」

「我らのボスがスーパーな力で敵討ちするってにゃああああ!」

「今日来て良かったー」

「ボスは最高にゃああああああ」

「「「「「にゃわにゃわ!」」」」」

「……(なんでそんな話になってやがる?!)」←ボス



 今日一番の盛り上がりをみせる集会。もはや誰にも止められない。ボスを除いて誰もかれもが完全に暴走状態である。


 1匹だけ状況に取り残されたボス。最初の威勢はどこへやら。もうこの場から逃げたい気持ちに溢れていた。なぜならあの親子の話はしたくないからだ。関わったらろくでもないことになる。だが暴走した取り巻き達がボスを囲んで逃がさない。



「ボス、最後にあの親子に向かって一言いいですかにゃ?」

「ひ、一言?」

「前に言ってたっじゃないですか。俺にゃら余裕だって」

「他にも俺たちの流儀を見せてやるってにゃ。あれカッコよかったのにゃあ」

「ボスが負けるわけないもんな」

「そうだそうだ!」

「ボスは最強にゃああああ!」

「そりゃもう無敵にゃ!」

「逃げるわけないだろ」

「ボスは猫神に選ばれたスーパーな猫にゃああああ」

「「「「「にゃわにゃわ!」」」」」

「……(この状況どうすりゃいいんだよ)」←ボス



 頭を抱えるボス。ボスだけは分かっていた。あの町を破壊しまくった親子、特に黒い方に勝てるわけがないと。だがコノマチ中の猫達が期待した目を向けて来るのだ。そんな憧れを抱くのを止めてくれ。俺の力じゃ勝てるわけがない。


 このことを正直に答えればボスとしての威厳は消え去ってしまうだろう。今回の集会の主催でありコノマチのリーダー。それがボスの立ち位置だ。下手なことを言えばボスとしての幻想を壊してしまう。ボスのプライドとしてそれだけは避けたいのである。


 どうしようもない状況に陥ったボスは、コノマチの猫達に向かって堂々と宣言したという。



「ま、待っていやがれ。俺が決着をつけてやるよ!」



「おー! 我らのボス―!」

「スーパーボス―!」

「俺たちそんなボスが好きだにゃああああ」

「「「「「にゃわにゃわ!」」」」」

「……(どうしてこうなった。あんな化け物相手に戦えるわけねえのが分からねえのか?! コノマチの猫達はお花畑すぎるだろ。見つけたらどうすりゃいいんだあああ)」



 この日、コノマチの猫の集会は過去一番の盛り上がりをみせたという。




「……まあ今日は腹が痛いからそのうちやるかあ。そのうちなあ」

「「「「「ボス?!」」」」」




 町中の猫達に無理難題を押し付けられたボスは寝込んだとか寝込まなかったとか。



 ◆



 町で猫の集会が開かれている頃、ナンス家の子供部屋前の廊下にて。アーネとカフェは子供部屋のドアを少し開けた状態で中を覗いていた。



「あれ? アーネにカフェさん。そこで何してるの? 入らないの??」

「あ、お兄ちゃん」

「アニーキー様。今は中に入ってはいけません!」

「え?」

「お兄ちゃん、ここからこっそり中見てー」

「入ったら巻き込まれますよ」

「え??」



 ただならぬ様子の2人の見て、アニーキーもこっそりと子供部屋の中を覗いて見た。すると……。



「しゃああああああ!」ビシ

「にゃ?!」

「しぇええええああああああああああああ!!!!」

「にゃあああ?!」ビシバシ



 子供部屋の中を見ると、猫がリアルファイトしていたという。



「あ、猫が喧嘩してる?! 止めなきゃ」

「お兄ちゃんダメー!」

「なんでだよ?!」

「アニーキー様、あちらをご覧ください。喧嘩をしている猫達の横です」

「ん? んんん?!」



 そこにはどーん! とメンテが腕を組みながら立っていた。



「あそこにメンテがいるでしょー。だから大丈夫だってカフェさんが言ってたよ」

「何が大丈夫なのさ?! 早く止めないと……」

「アニーキー様。喧嘩をしている猫の立ち位置をよーく見てください」

「ん?」



 そこにはどどーん! とメンテが偉そうに腕を組みながら立っていた。どの猫達よりも先頭に。



「え? どういうこと??」

「これは躾です」

「しつけ??」

「はい。メンテ様があの新入りの猫をしつけています。ことは猫がトイレ床におしっこをしたことから始まります」



 語り始めるカフェとそれを補足するアーネ。2人の話によると、あの怒られている猫はこの家に初めて来た猫らしい。キョロキョロと家中を見渡したり、毛の汚れ具合や瘦せ具合から判断したそうだ。その猫がこの家のルールを守らなかったために先住猫達が怒っているとのこと。



「……なるほど。メンテが猫を呼びよせているんじゃなくて、猫がこの家のことを広めているから新しい猫が来るんだね」

「メンテもね、最初はこの猫知らないみたいな反応してたよー」

「話を聞く限りその新入りの猫は普通の反応をするんだね。うちに来る猫達のマナー良すぎだとは前々から思っていたけどさ……」

「どうやら私たちが普通の猫だと思っている猫達は訓練された後なのでマナーが良いのでしょう」

「だろうね。でもどうやって教えてるのか気になるなあ」

「お兄ちゃん、さっきメンテがえぐえぐ言ってたよー」

「そりゃメンテだからえぐえぐ言うよ」



 この日、ナンス家に来る猫達のマナーが良すぎる疑問が解決したのであった。



「で、どうして中に入ったらダメなのさ?」

「お兄ちゃんあっち。奥の方見てー!」

「あっちね。……ん? 何あれ??」



 部屋の奥にはボロ雑巾のような物体が横たわっていた。



「ミスネがね、『オムツしているメンテくんが猫にトイレの躾って面白過ぎる』って笑ったの。そしたらメンテが怒って猫達と一緒にボコボコにして血祭りにしたよー」

「こわっ?!」

「ちなみに今はミスネの攻撃に参加しなかった新入り猫が、メンテ様と他の猫達に指導されています。口答えらしきことをすると先住猫がボコボコにしてルールを分からせているみたいです。猫の中にも序列があるようですよ。序列のトップはメンテ様でしょう」

「トップって……。でもやたら猫の連携が取れているときあるよね。これが原因だったのかな」

「お兄ちゃんいつも余計なこというから今入らない方がいいよー」

「アーネ様の言う通りです。アニーキー様は一言多いのですから」

「実は俺、中に入ったらミスネさんと同じこと言おうと思ってたよ。よく分かったね」

「ほら、やっぱりー」

「さすがアーネ様。よくアニーキー様のことを分かっていらっしゃいますね」

「二人とも止めてくれてありがとう。助かったよ」



 それからしばらくナンス家に新しい猫達が増え続けたという。なお数日でメンテの言うことを従順に聞く恐ろしい猫集団に変貌したため、恐怖を感じたと皆語る。


今日は猫の日らしいので猫いっぱいで

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