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203話 「とある村の守り神伝説 その4」

 犬は黒いムチを受けても怯まない化け物であるが、守り神も同様に化け物だった。お互いがダメージを与えては受けてはと永遠に繰り返していく。


 2匹の化け物の戦いを見て先輩の言葉を思い出していた。なぜAランクにならないのか? と聞いたら力量が足らないからだと言っていた。見た瞬間に強さが分からない相手を見てヤバいと思ったことがあるらしい。長生きしたいなら自分の強さと相手の強さを正確に把握出来るようになれと。


 俺は今自分よりも格上なAランクの、いや伝説の魔物同士の戦いを見ている。それも運よく見つかることなく近くで長いこと。はっきり言って俺はどちらの魔物も体が大きいか小さいかしか思わなかった。力量なんてさっぱり分からなかったし考えもしなかった。でも先輩から聞いた言葉の意味を心から理解した。俺がBランクになるのは早いかもしれない。実力を鑑みるとCランクのままいた方が賢明か。



 戦闘は夜明けまで続いた。そろそろ日が出るという朝方の時間帯に守り神に異変が起こる。フラフラとバランスを崩し始めた。



「守り神?!」



 ずっと戦いを見守っていたから分かる。守り神は魔法攻撃を中心とする魔法使いタイプ。体の外に魔力を放出するタイプの魔法は魔力の消費量が多い。対する犬の魔物は肉弾戦を好むタイプだ。使っているであろう身体強化の魔法は魔力の消費が少なめ。この差が如実に現れたのだろう。


 守り神が犬の魔物よりも先に魔力がなくなってしまった。魔力がなくなっても死ぬことはないが、怠くなったり眠くなったり疲れたりするのだ。もう休むことなく何時間戦っている。莫大な魔力を持つ守り神でも魔力を維持し続けることが出来なくなり、フラフラな状態に陥ったのだ。


 まずい。あの犬の魔物は大した怪我もなくまだまだ戦えそうだ。体格に差があるのも原因かもしれないが、あのタフさは異常すぎる。未だに疲れを感じさせないのだ。


 もし今俺レベルの冒険者が出ていったところで全員ひねりつぶされるだろうな。多分Aランクだろうと持久戦に持ち込まれれば勝てない。嫌というほど戦っている犬の姿を見て来たから分かる。これが力量差ってやつかもしれない。見ているだけなのに少し成長した気がする。



 今あの守り神がいなくなったら犬の魔物を止められない。あの犬は好戦的な種族だというのが分かっている。戦いこそ生きがいという狂戦士。自分と戦える魔物を見つけると嬉しそうに笑うのはそういう理由だろう。相手が強ければ強い程興味を示していたことから、今後は人を積極的に襲うことになるだろう。なにせ守り神のいなくなったこの森で1番強い生き物は人間なのだから。


 現状俺たち冒険者であの犬の魔物に勝てる確率は完全にゼロ。1という数字すら浮かばない。今ヘイワ村にいる全員の冒険者を集めても足止めすら無理どころか全滅は必至。さらに追加の救援を待つ時間もなさそうだ。なぜなら時間が経てばあの犬の魔物はヘイワ森を飛び出し、国どころか人類を襲い始めるからだ。


 ここで確実に討つなり最悪でも撃退しなければならない。勝率を上げるにはあの守り神と協力して戦うしか方法はない。今のところあの犬と対抗出来る唯一の存在なのだ。


 

「何か、何かないのか……」



 俺は手持ちのアイテムを探すが何も役立ちそうなものはない。体力を回復する道具はもう使ってしまった。俺は回復魔法や他人を支援する魔法は使えない。今守り神を回復する手段はないのだ。


 俺が飛び出て時間を稼ぐか? 一瞬ならチャンスが生まれるだろう。だが守り神は今にも倒れそうだ。それよりも他の冒険者に報告し、全滅という最悪の事態を防いだ方がいいだろう。俺の情報は今後確実に必要になる。途絶えさせてはいけない。そんな葛藤が生じた。


 守り神はフラフラ動くが何とか攻撃を避けている。だがもう反撃する力は残っていなさそうだ。いつの間にか日が差して来た。もう夜明けの時間になったようだ。幸い俺は戦いを見ているだけなので体は休めた。魔力も少し回復して身体強化の魔法が使えるぞ。今の俺ならヘイワ村まで戻れるはずだ。



 ここで俺は決断する。人類の存亡をかけヘイワ村に戻ることに決めた。すまない守り神、俺はこうするしかないのだ。そのときだ。




「グルオオオオオオオオオッパアーーーーーーイ!!!!」




 守り神が変な声を出した。今まで「ぐおー!」やら「にゃおー!」みたいな可愛い声で鳴いていたのだ。体が小さいから高めの声なのかと思っていたが、急に身の毛がよだつドス黒くて低い声をあげたのだ。その変な声と同時に体がぶくぶくと膨らんでいった。…………はあ??




「デッドゥオオオオオオパアアアーーーイ!!!(デッドオアおっぱい?)」




 守り神が大きくなった。あの犬とほぼ同じ体格になった。……な、なんだこれは?? なぜ大きくなったのか分からないが、怒り狂っているのは分かる。むき出しの感情が溢れかえっているぞ。


 俺は大きくなって少し黒い靄が剥がれたら所から4足歩行の何かがいるのを見た。守り神も犬みたいな4足歩行の獣だったようだ。首から上は残念ながらよく見えなかったが犬でも猫でもないな。イノシシとか馬や鹿とも違う。クマが立ち上がっている姿とも違う。あんな凶悪そうな体格の生物は見たことがないぞ。せめて顔が見られたら判断材料が増えたのに。未知の新種、それか古代種や神獣なのかもしれない。


 なにより特徴的なのはしっぽだ。あの犬の魔物の3倍ぐらいある。というかしっぽから今まで感じたことのない畏怖すべき邪悪な何かを感じる。見ているだけで体が動かなくなった。震えが止まらないのに心臓は止まりそうだ。汗が止まらない。寒い。あれはなんなんだ。死をまき散らしている。本当に守り神なのか? でも膨らむ姿を見たしなあ……。


 普通太陽の光を浴びたら光の力が増幅するんじゃないのか? 光魔法は日中の方が力強くなるとは有名な話だと思うのだが。でも俺には守り神が明らかに闇の力によってパワーアップしているようにしか見えない。あれは守り神じゃなくて厄災の神や破壊神の間違いだった??




「パアアアアアアアアアーイ!!(はよ答えろ)」

「グボォ?!」




 守り神が動いたと思ったら犬の前にいた。一瞬で移動したようだが早すぎて俺の目で追えなかった。そのまま守り神の右前足が光り、犬が地面に叩きつけられた。



 ドゥゴオオオオオン!!



 遅れて音と衝撃波がやってきた。俺は体が浮き上がりそうになったので伏せて耐えた。犬は地面に叩きつけられた後、そのまま地面を削り続けながらゴロゴロ回転して吹き飛んでいった。


 吹き飛んだ犬はゆっくりと立ち上がり、口から血を吐き出した。顔には強打された出来た跡らしきものがあるぞ。俺には全く見えなかったが守り神のパンチ? が直撃したらしい。犬が初めてダメージらしき傷を負った姿を見た。ついに守り神の攻撃が犬の防御力を上回ったのだ!




「グルオオオオオオオオ!!!!!!」




 犬の魔物は守り神を睨みながら嬉しそうに吠えた。そして、俺の目でも見えるほど魔力が高まっていく。すると犬の魔物に急激な変化が起こる。



 メキメキメキメキッ!!



 フワフワとした全身の毛が鋭くなっていく。全身が針、いや刃物のような鋭さを持つ姿に変貌した。それだけではない。あの犬を見ると全身が痛む。まるで犬の魔力そのものが鋭利な刃のように尖っている気がした。



「いてっ?!」



 痛みが強くなって来たのでいったん木の陰に隠れると、俺のマントが破れているのに気付いた。まさかと思いもう一度犬を見ると目が痛んだ。そこで犬本体ではなく犬の周辺の地面に目を逸らすと、そこには穴がたくさん出来ていた。まさか見るだけで危ないのか?! 急いで木の陰に体を隠した。


 犬は一歩たりとも動いていない。魔力だけで全てを突き刺すとんでも現象が起きていたのだ。俺が隠れた木もギシギシと嫌な音を立て始めた。ヤバいと思い隠れていた木から離れると同時に木が破裂した。危なかった。離れていないと俺も巻き込まれるぞ。


 俺は急いで犬から距離をとるように移動した。すると痛みが弱まって来る。犬に近ければ近い程危険であるようだ。存在するだけで何もかも突き刺す。あれがあの犬の魔物の本質のように思えた。



「って守り神は大丈夫か?!」



 俺が守り神を見ると何事もなさそうだった。というか一歩も動いていない。どうやら俺とは違い犬の魔物を見ても耐えられるようだ。攻撃力だけでなく防御力もパワーアップしているようだ。



「パァーイ(わが意思に比べたら柔らかし)」



 なぜか守り神に威風堂々とした佇まいを感じた。そのよく理由は分からないが。



「オパアイ!!!!(おっぱい)」

「グルオオオオオオオオ!!!!」



 守り神が先に動いた。巨大なしっぽが上空に伸びると犬に向かって振り下ろされる。犬は咆哮をあげると周囲の地面に無数の穴を穿った。犬の全身から出た魔力が形を変え、トゲトゲしいバリアのような形になっていた。俺の目で目視できる出来る程強力な魔力が犬の周りに覆っている。あれは魔力だけで全てを防ぐ守りの身体強化でありながら反撃にも使える形になっているのだろう。攻防一体だ。身体強化だけでこんなことまで出来るのか。もはや力量が分かる人類はいないのではないか?


 しっぽとトゲがぶつかり合った。その結果守り神のしっぽは破裂し、犬はトゲトゲしいバリアごと遠くに吹き飛んでいった。相打ちである。


 守り神のしっぽ大丈夫か?! と思ったらぐにょーんと伸びた。しっぽには再生能力? があるらしい。知らなかったとはいえ俺はヒヤヒヤしたぞ。



「オパアアイ!!!!(おっぱい)」

「グラァアアアアアア!!!!」



 守り神のしっぽ攻撃は続く。今度は弓矢が飛ぶかの如く何度も犬を貫き始める。再生能力があるせいか躊躇いなどなかった。犬はしっぽの攻撃をギリギリの距離で回避すると、巨大な前足でしっぽを切り裂いた。その姿は刃物のごとし。フワフワ感がなくなり全身凶器になった犬は、触れるだけで何もかも切り刻んでいく。守り神の攻撃を避けるだけでなくカウンターを即座に叩き込む。なんて動体視力だ。犬のパワーアップも尋常じゃないようだぞ。



「オパアアアイ!!!!(おっぱい)」

「グルオオオオオオ!!!!」



 守り神はしっぽの攻撃を諦めると犬に向かって突進していく。そのまま守り神と犬は取っ組み合いを始めた。今の守り神と犬はお互いに同じような体格。パワーも似通っているようだ。お互い殴っては引っ掻いては噛みついてはとガチな喧嘩であった。


 お互い敵でなければじゃれつい遊んでいるようにみえるな。まあ殺し合っているのだが。この巨獣対戦を制したのは…………犬だった。



「オパイ?!」

「グルロオオオオオオオオ!!!!」



 犬は守り神の頭を巨大な前足で掴むと地面に叩きつけ、巨大なクレーターが出来た。守り神が立ち上がろうともがくが、犬は再度頭に前足を叩きつけ動きを止めた。守り神の身動きを封じると、犬のしっぽが螺旋状の刃物のように伸びていった。どんどん鋭さが増し、回転し始めた。それはドリルのようであった。


 犬のしっぽの魔力が急激に高まる。あれは今まで犬が見せた攻撃の中で断トツで危険であると俺でも分かる。犬は守り神を土台にしてジャンプ。守り神に向けてしっぽの巨大ドリルを解き放った。まるで針を飛ばすかの如く回転するしっぽが飛んで行った。おいおい、冗談だろ? あれも針の一種だとでもいうのか?! あんなの当たったらひき肉にされるぞ!!


 守り神は蹴られた衝撃で地面に縫いつかれたまま動けないようだ。危ない!!



 ドガアアアアアン!!



「ぐふっ……、ぱぁぁい…………」バタリ

「ま、守り神ー?!!!」



 ドリルは守り神を突き刺し、胸があるであろう位置を貫いた。正確には守り神の体の半分近くがなくなっていた。守り神は弱弱しい声で鳴き、黒い血を吐いてピクリとも動かなくなった。完全に絶命した。


 犬の魔物の戦闘力が予想を遥かに超えていた。守り神が負けてしまったのだ。この瞬間、俺は血が引いた。顔が真っ青になっていただろう。人類にとって最悪の未来がやって来る。もう終わりだと。









「オパアアアアイ!!!!(おっぱい)」

「グルオオオオオオオオオ?!」

「えっ?!」



 え、守り神???!



 何が起きたのか全く分からなかった。気が付いたら死んだはずの守り神がいて犬は光るアッパーカットを受け上空に吹き飛んで行った。20メートルある巨体が数百メートルぐらい浮かんでいる。本当に意味が分からない。


 なにが起きたのか俺はしばらく理解出来なかった。今守り神死んだよな? なんで普通にいるんだ? 見間違えなわけないはず。目の前に死体あるのだ。幻だっていうのもおかしいぞ??


 だがその答えはすぐに判明した。胸を貫かれ死んでいたと思われる守り神の体がぐにゃぐにゃと形を変え、守り神の巨大なしっぽの形に戻っていったのだ。ま、守り神は元から2匹いたのか……? いや違う、今まで犬と戦っていたのは守り神のしっぽの部分だったってか?!


 まさかそんなことがあり得るのか? でも守り神の魔法なら可能なのかもしれない。しっぽの形が守り神本体そのものになっていたなんて分かるはずがないぞ。いつ本体としっぽが入れ替わったのかも俺は認識出来なかったしな。


 しかも守り神はあの状況で死んだふりをする演技まで用意し、犬の油断を誘う知恵もあった。あの闇に堕ちた感満載の見た目はブラフだったのか? 犬の魔物の反応からも戸惑いが見えた。きっと俺と同じような思いをしているに違いない。



「オパアアアアアイ!!!!(おっぱい)」



 守り神はしっぽの先からポトリと黒い玉が出た。その黒い玉は守り神の前に浮かんで佇んでいた。初めて見るがあれも守り神の魔法であろう。何をする気なんだ? しばらくすると上空にいた犬に変化が訪れた。すごい勢いで黒い玉に向かって落ちていくのだ。まるで黒い玉に体が引き付けられているように。



「パイパイパイパイパイパイパイ!!!!!!!」

「グボッ?!!!!!」



 ドドドドドドドドドドドドッ!!



 守り神は目の前に落ちて来た犬を殴りまくった。早すぎて見えない光のパンチの連打。犬は遠くに殴り飛ばされても黒い玉にすぐ戻っていく。犬も抵抗して体中の刃物を守り神に向かって飛ばすが、その攻撃はすべて黒い玉に吸引され飲み込まれていく。守り神に1ミリも届きやしない。それどころか守り神にとって殴りやすい位置を常に維持し続けている。黒い玉が犬を絶対に逃がさない。


 気が付けばあまりにも一方的な勝負になっていた。あの黒い玉は反則すぎる。俺は守り神から発生する衝撃波から浮かばないように身を伏せているのが精一杯だった。あの2匹からかなり離れたのに体が飛ばされそうになるのだ。形成逆転とかそんなレベルではない。守り神のパンチはどんどん強くなっていく。


 守り神は魔法を主体に使う魔物だと思っていたが、近接戦も得意だったようだ。大きくなったら黒い玉を除いてほぼ物理的な攻撃しかしていない。もうあの犬の悲鳴しか聞こえないぞ。殴られ過ぎて毛の鋭さや見るだけで突き刺す魔力も消えている。急に犬の魔物が可哀そうに思えて来た。それでも守り神は攻撃を止める気配がない。パンチどころかキックやらしっぽまで追加してズタズタにしていく。


 黒い玉が消えた時、犬の魔物はズシンと地面に落ちた。体を動かそうとするがグルルルルと唸っているだけで動けないようだ。それでも犬は針のようなものを飛ばして守り神を攻撃していく。本当にとんでもない戦闘狂である。だが守り神には全く効いていなかった。むしろ怒りをあらわにしている。




「キエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!」




 守り神の口? らしき部分に凄まじい魔力が集約していく。ゴゴゴゴゴッと世界が震え始めた。俺の錯覚は知らないが空間が歪むような音がする。それになんだか暗くなってきた。でもそれはおかしい。俺の不変スキルが通じない経験をしたのは生まれて始めてなんだが。あの守り神の攻撃がこの事態を引き起こしているのだろうか。犬の回転するしっぽ飛ばし攻撃をはるかに凌駕する魔力が集まっていく。




「ちょ?! あれはまずい……」

「ネゴォッドオオオオオオオオオオオオオオオ!!(猫神ブレス)」




 守り神から放たれた黒い闇の光線は犬の魔物を消し去り、ついでに遠くにあった山々をも貫通してそのまま雲も貫き遠くに飛んで行った。俺も衝撃の余波で空中を回転しながら吹き飛ばされた。




「パアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアイ!!」




 守り神が雄たけびを上げる。するとキラキラとした太陽の光が差して来た。雲や山といった障害物を強制的に吹き飛ばしたことで朝を迎えたのだ。この瞬間、世界から脅威は去り温かい日常がやって来る。そんな優しい光に包み込まれた。


 犬の魔物がいなくなったせいか邪悪さが綺麗さっぱりと消えていた。これが本来の守り神の姿なのであろう。神々しい輝きを放っていた。そして、守り神はそのままシュッとジャンプしてどこかへ消えたのである。去り際、一瞬俺と目が合ったような気がするのは気のせいだろうか。




「…………」




 俺は呆然と守り神の去った方向を見ていた。しばらくして森の方へと振り返る。そこには戦いの後が残っていることから夢ではなかったと嫌でも理解する。


 この日、確かに犬の魔物からの脅威は消えた。それと同時に森と山が地図から消えることになる。なぜ守り神があそこまで怒っていたのかは分からない。ただこの大事件を目撃して生き残った俺は運が良かったといえる。



 ◆



「じゃじゃーん。メンテ見てこれ! 母さんにお土産貰ったよ。最近伝説と思われていた守り神が出たんだってさ。場所はヘイワ村ってところらしいよ。まあ俺も聞いたことない田舎の村だから場所は分からないけどね。で、噂によるととある冒険者が守り神を見たんだって。すごく強い魔物らしいよ! 見て見たいなあ。メンテも気になるでしょ?」

「……えぐぅ?」

「お兄ちゃん、メンテがアホみたいな顔してるー」

「あはは、メンテには難しかったかな? 守り神って言っても分かるわけないよね。その守り神の形をしたお菓子が今ブームで俺が持っているこれなんだよ。どれも黒いでしょ? 守り神が黒かったからこういう色なんだってさ」



 口をあけてボケーっとするメンテ。頭の悪さがよくわかるナンス家の可愛い末っ子である。そんなメンテは、アニーキーに近づいて抱き着いた。



「あにきい。んぐぅううう!」メキメキメキメキ

「ちょと待って。奪おうとしないでよ。まだあるから……ってその力どこから来てるの?!」

「あぐうううう!!」

「母さん、これメンテ食べれるの?」

「そうねえ……そのクッキーならいいわよ。こっちの黒い守り神チョコや黒い守り神まんじゅうは絶対ダメよ。まだメンテちゃんには早いわ」

「分かった。はいはい、メンテ口開けて」

「あーぐううう!」

「でかい口開けるね?! それ一口どころか丸ごと1つ入るよ?! 俺の分なくなるじゃんか! そうだアーネ。アーネから貰いなよ。きっと一口貰えるよ!!」

「あーえ」

「きゃああああああ?! あっち行って―!」

「あぐううう!」ダダダダッ

「ふう、助かった。メンテには守り神の話より早く食べたい気持ちの方が大きかったみたいだね」

「そんなこと言ってないで私を助けてよー!」



 甘いものが食べられるチャンスなのでメンテは必死なのだ!



「お、お兄ちゃん!! 猫が近づいて来たー?! きゃああ?! 外にも猫がいっぱい来てる。外見てー!!」

「うわ、本当だ。うちの猫って食べ物の匂いがするとすぐ集まって来るから不思議だよね」

「にゃお」ズズズズ

「あ、猫が箱ごとお土産を持ってる?!」

「にゃあ」シュッ

「いたっ、それ俺のだよ?! まだ一口も食べてないのに獲られた」

「きゃあああー?! 私のも猫に取られたー?! ママー助けてー!! ……あれ、ママは?」

「あ、猫が持って行ったお土産の一部がなくなってるぞ?! 母さんが父さんと自分の分だけ持って逃げたんじゃない? いつの間にって手際の良さだよ」

「えぐううううう!!」

「きゃああああー、猫がメンテにお菓子をあげようとしてるー?! それ私とお兄ちゃんの!!」

「うわああ、このままだと全部取られちゃうぞ?! メンテを止めろー!」



 今日もほのぼの平和なナンス家であった。



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