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199話 「子猫の死闘 その4」

 冒険者らしき人間が近づいて来たので、目くらまして的な黒い霧を作った。これで僕の姿はよく見えないだろう。



「グルオオオオオオオオオオ!!」



 魔物が僕を攻撃しようと近づいて来る。僕を前足で地面ごと叩き潰そうとする気だ。猫バリアを作っても壊される。爪もダメ、牙もダメ。身体強化の魔法を使っても勝てそうにない。ならどうすればいいのか。




「猫ブレス!!」


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!




 答えは簡単。ブレスぶち込むだけ。ため息したくなる状況だからブレスぐらい出ちゃうよね。でかい魔物は10メートルぐらいぶっ飛んだけど、吹き飛んでいる間ずっと視線を感じた。吹き飛びながらも絶対に僕から目だけは逸らさない。とんでもない負けず嫌いであり、もはや執念というか絶対逃がさないぜっていう強い意思を感じる。ストーカーかな?


 魔物は倒れることなく普通に地面に着地し、すぐさま後ろ足で勢いをつけてこっちに突っ込んでくる。やっぱあの魔物は身体能力がおかしい。魔物は全身の毛を強化しているためかブレスに手ごたえを感じなかった。う~ん、猫ブレスで森の景色は全て消えたのにパワー不足だったのかなあ。



「猫のしっぽ」ぐにょ~ん

「グオッ?!」



 ここで僕は初めての攻撃を見せる。魔力で作ったしっぽを魔物の顔面に叩きこむ。魔物は目を閉じたら負けと思っているので燃えるしっぽを使うよ。これはとある赤い猫と話した時だ。毛の色が綺麗だねと言ったら情熱の炎さが宿っているのさ! と言っていた。だから猫は火の魔法を使えるのだ!



「毛がちょっと黒くなっただけか。燃えると思ったんだけどなあ。次!」



 毛は火に弱いと思ったんだけど違ったみたい。次は風属性のしっぽを作り出してみる。しっぽをブンブンと振り回し、真空の刃を飛ばしまくる。風の斬撃を魔物に当てるが全然効果はないようだ。逆に僕の魔法が負けてしまっているぞ。悲しいことに魔物の毛は1本すら切れてない。あの毛、恐ろしい頑丈さである。大地ならスパスパと傷つくんだけどなあ。



「切れないなら別の属性が効くのかもしれない。次!」



 今度は水属性のしっぽを作り出す。猫だって小便するんだから水の魔法を使えるのだ。手っ取り早く溺れさせようと魔物の顔面に水のしっぽをグルグル巻いてみた。でも普通に僕のしっぽは破壊された。なるほど、濡れても普通に毛を飛ばせるみたいだ。というか顔にある毛も自在に操れるのか。水とか雨の中で戦っても全然問題なさそうだなあ。うへえ、また相手の弱点が減ったよ。



「濡れても影響なしか。次!」



 僕は雷属性のしっぽを作り出す。猫が雷?! と思う人もいるであろう。だがよく考えて欲しい。猫はゴロゴロと喉を鳴らすのだ。ゴロゴロ、つまりこの効果音は雷そのもの。よって猫は雷の魔法を使えるのである! しっぽを雷の鞭のように素早く叩きつける。濡れているから効果は倍増だ!!


 ジュワッと水が蒸発したような音がするが……。



「グルォ?!」

「嘘でしょ……」



 魔物は普通に耐えた。ここまで来るとあの逆立った毛の強度がおかしいと気付く。これって毛の下に攻撃を当てないとダメージ一切通らないんじゃない?


 他にも猫土魔法で作った岩のしっぽで叩きつけたり、ピカピカ光るしっぽや闇のしっぽで叩くがほぼ効果なし。あの魔物は苦手な属性がないみたいだ。


 毛をなんとかすれば勝てると思ったけど、そもそも弱点がないから有効な攻撃がないぞ。これはちょっと予想外ではあるがいい経験になった。しっぽで相手の属性を探るというのは今後も使えそうだよね。ポジティブに考えよう。



「てやあああ!!」

「グルオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」



 僕が色々な種類のしっぽ攻撃をするせいか魔物は戸惑った。だが毛の防御力を上回れないと分かると魔物は接近戦を挑んでくる。そんな攻撃効かねえからと僕のしっぽ攻撃を無視して突っ込んでくるのだ。近づきたくないから避けているのに気付いたみたい。



「猫バリアー!!」



 僕は猫バリアを魔物の近くに滅茶苦茶作る。アホみたいにいっぱいとね。魔物はそれを邪魔だと言わんばかりに破壊していく。パワーで粉々にし、爪でスパスパと簡単に切る。そんな化け物に接近されたらヤバいので僕は逃げ続ける。あっち行って欲しいなあ。


 だいたい判明したが攻撃も防御も魔物の方が強い。あの毛を攻略しない限り僕の勝利は難しいだろう。そんな中、意外な活躍をしたのは猫の霧だった。



「やー!」

「グルル!?」



 あの魔物、基本的に目で僕を追って来るのだ。犬っぽいから匂いや音で僕の場所を把握しているのかと思いきや、一番頼っているのは目であることが判明した。人間と似ているね。きっと僕と同じく暗闇の中を見る力があるのだろう。だから目を離さず僕を見ているのかと納得したよ。


 だが猫の霧は光を一切通さない猫暗闇。霧の濃い部分に体を隠せば一瞬だが僕を見失うという。あの魔物には非常に効果的だった。嬉しい誤算ってやつかな?



「グラアアアア!!!」

「にゃっと」



 おっと危ない。魔物は周囲の霧を吹き飛ばすかのように全方位に毛を飛ばしまくる。猫の霧が邪魔なようだ。効いてる証拠だね。


 魔物の攻撃と同時に僕は動き出す。霧だけでなく体が小さいから発見しにくい事を有効活用し、隙を見つけては少しずつ魔物の後方へと回り込んでいく。魔物の体をじっくり観察しながら攻撃を避けてを繰り返す。もっと毛の秘密を知りたい。


 魔物の体に近づくとあることが分かった。魔物から魔力らしき力を感じるのだ。毛が逆立ってから近づかないようにしていたから気付かなかった。だが今なら分かる。この魔物、常に魔力を纏っているぞ。


 それからしばらく観察を続けて分かったが、やはり魔物の毛から強い魔力を感じるね。僕は魔力を目で見るタイプではなく肌で感じるタイプの猫なのだ。慣れない感覚のせいで時間は掛かったが間違いないぞ、これは身体強化の魔法だ。


 これが魔物が強くなったカラクリ。魔力が一切漏れずに全身の毛にまとわり続けている。しかも信じられないほど濃厚な魔力で。ここまで無駄のない身体強化はタクシー以外では見たことがない。そう考えると我が家の執事は何者なんだろうか。


 話を戻そう。もしかすると身体強化には物理的な力だけでなく、魔法に対する耐性も上げる効果があるのかもと僕は思った。しっぽ攻撃が全く効かない理由がこれじゃないかな? 僕も普通に身体強化の魔法を使って殴ったりするけど、殴った部分に痛みを感じることがほとんどないんだよね。これって物理的な防御力も上がっているからじゃない? なら魔法も同じ事が起きても不思議じゃない。


 そう考えると辻褄があうのだ。あの魔物に攻撃が効かない理由とかがね。今まで身体強化の魔法にそんな隠された効果があるなんて考えもしなかった。意外と魔法って奥深いのかもしれない。



 ズザザザザザーッ!!!


「にゃ?!」



 僕が魔物の背後を陣取っていると、魔物は全身の毛を飛ばしまくる。僕が見えていなくてもお構いなく全方向に。霧も僕も一網打尽しようとして来たね。燃費の悪い攻撃だが僕には効果的である。僕は一旦距離を取った。


 ここで僕は視点を変えてみる。この魔物には明確な苦手属性はない。もしあったとしても身体強化で防いでいると思われる。でもさ、それって強化しないと痛い部分があるってことじゃない? だから魔法で弱点を補っているんだよ。嫌がるところを探せ探せー!



「グアッ!」

「にゃ」

「グルアアアアッ!!」


 ズババババッ!!


「グロオッ?」キョロキョロ

「――ッ!(――あったかも!)」



 魔力をあまり感じなかったり薄かったりする場所。そんなところがあるはずだと逃げ回りながら探す。時間は掛かったがついに見つけた。



「猫の爪!!」



 魔物に向かって全力で巨大な魔法の爪を作って振り上げる。狙う場所は耳。ここは魔物の中で毛が一番薄い部分。部分的な身体強化の影響が少ないはずだ。ここが奴の弱点だからダメージが与えられる。魔物が焦ってこちらを振り返ったとき、僕の爪は耳を切り裂いた。



「やあああああ!」

「ギュルオオオオオオオオオオ?!」



 会心の一撃。魔物の耳から赤い血が噴き出した。


 しかし、浅い。浅すぎる。噴き出したと言ってもこれは擦り傷レベルである。僕の攻撃が当たる瞬間、魔物の全身からドバーッと魔力が溢れ出したのだ。魔力を全身に纏ったとたんに爪は完全に砕かれた。よって最初のチクっとした一撃だけしか入らなかった。



「グルアアアアアアアッ!!!!!!」

「――!?」



 大きな咆哮に一瞬怯む僕。魔物はやってくれたなこのヤロー。そんな目をして僕を睨みつける。でもしっぽを振っているから楽しんでいるような気もする。怒るか笑うかどっちかにしてほしい。


 魔物は僕の出方を伺っているのか攻撃してこない。先手譲ってやるよみたいな顔をしている。僕何で魔物の気持ちが分かるんだろう??



 ふう、ちょっと時間が出来たな。チラッと横目で人間の様子を確認してみると、いい感じに猫の霧で身を隠していた。


 おお、あの人間上手に隠れてるね! 毛が当たらないようにしっかりと距離を取りつつ、猫の霧を利用していい感じの場所にいる。結構遠いけどこっちの様子見えてるのかな? まあ好都合だけど。


 多分魔物は人間の存在に気付いていないぞ。気配の消し方が上手い。冒険者のプロっぽいところが発揮されてる。ここは見習いたいね。でもこの戦いに参加しないで何をしてるんだろう? ……おや、よく見ると怪我をしているよ。だからあまり動けないのかなあ。なら無茶してこっちに見に来なくても良かったのに。


 いっそのこと、この魔物押し付けて逃げようかなと思ったけど僕は善良な猫。そんなことはしないよ。でもこの魔物に勝てる気がしないので撃退する方針で動こう!



 まあ人間のことはさておき、今が考えるチャンスだ。このちょっとした時間も無駄にしてはならない。なにせ相手はほとんど隙がないのだ。


 最後の全身に纏った魔力。あれは身体強化の魔法で間違いない。だって僕もあんな感じで使っているからね。あの魔物は必要な場所だけピンポイントに部分強化を行い、普段は魔力を節約して戦っているとみた。なるほど、無駄なことをしないとはこういうことね。これが経験の差ってやつか。


 それとは別に魔物の毛について考える。僕は見ていた。魔物が身体強化をする直前の耳の毛は、僕の爪で何本かパラパラと切り裂けた。初めてのダメージだ、いけると思ったら魔物が身体強化した途端に僕の爪が砕かれた。ということはあの毛も魔力を纏わなければ普通のサラサラした毛。攻撃は通るし、魔物の身体強化を上回る攻撃をすればダメージが入るってことだね。



 ここまで来るともう間違いない。あの魔物はギフトはこうだ!



=============

【でかいまもの】

 種族 不明


 所持スキル

 ・毛を飛ばす魔法

 ・身体強化

=============



 毛を動かす魔法→身体強化のスキルだろうと心のメモを更新する。身体強化は僕の知っている猫達も持っているからあの魔物が持っていてもおかしくない。これであの魔物の毛の秘密が分かったぞ!


 まあ猫というか動物の場合はプラシーボ効果程度らしいけどね。あの魔物ヤバすぎるよなあ。


 あとの問題は毛を飛ばす魔法だけ。身体強化で毛を動かせるんだからスキルも同一だよなと思っていたら何かが警告してくる。





 ――おっぱい。おっぱい。ない。





 ふぁ!? 違う違う、このままだと死ぬぞだと?! こ、これは……僕の本能か? このままだと僕はおっぱい吸えずに死ぬぞと訴え始めた。


 ※メンテは特殊な子なのでおっぱいを別の言葉に変換することが可能です。



 もしかして僕は何かを見落としているのか?? よく考えろ。何を、何かを……。そ、そうだ! 今さっき魔物が見せた全身の身体強化。ここで僕はある違和感、いや強い不安感を覚えた。毛がもぞもぞと動く様子が全くなかったのである。

 

 よくよく考えれば身体強化だけで毛を自由に動かすってさ、身体強化で出来る範囲を明らかに超えているよね? あと毛を成長させる力はまだ治癒力を高めたで説明は出来るけど、毛を鋭く針のようにするって身体強化?? 絶対違う、身体強化の範囲外だ。


 毛を動かす力、毛を針のように成長させる力、これらは身体強化だけでは説明出来ない気がする。もしかすると別の力の可能性があるのではないか? ずっと身体強化の魔法だけで出来ると考えていたけどそうじゃない。スキルか魔法か、またその両方か。その可能性を考えなければいけなかったのではないか?


 僕の勝手な思い込みで身体強化のスキルと片づけるのが不味いかも。だとすると僕の考えは半分合っていて半分間違っている気がする。




 ――おっぱい。おっぱい。おっぱい。




 そう考えると不安感が少しスッキリした。これは今すぐ修正しなきゃと急いで心のメモを引っ張り出す。



=============

【でかいまもの】

 種族 不明


 所持スキル

 ・毛を飛ばす魔法

 ・毛を動かす魔法

 ・毛を針に成長させる魔法

 ・身体強化

=============



 多分これが正しい。あの魔物は身体強化とは別に何か秘密がある。


 僕の経験や知識不足から勝手に思い込んではいけないね。多分あの魔物は複数のスキルを持っているんだ。それは全て身体強化の魔法のように見えるけど、本当は違う魔法を同時に使ってるんだろう。それを見落としたら死ぬぞ! と本能が僕に警告したのだ。


 これが違和感の正体か。僕は身体強化と他の魔法の区別がまだよく分かっていないんだなあ。というか初めての戦闘がこれって厳しすぎない?




 こんな感じに魔物と睨みあって考えていたらあることに思い至ってしまった。もしかしてあの魔物は僕より魔法の使い方が上手なんじゃないか? 部分的に強化出来るだけでなく、全身の身体強化も軽々と出来るんだよ? 僕の猫魔法はまだそんな器用な真似は出来ない。むしろそんなこと出来ちゃうんだ関心してしまったほどだ。


 魔法も相手の方が上。身体能力も負けてる。可愛いぐらいしか勝ってない。これって滅茶苦茶危険な状況なのでは? 体力が持つのかも分からなくなってきたぞ。どうしよう……。




 ◆




 僕と魔物の戦いは続いた。だが決定打のない僕の攻撃では魔物を倒すことも撃退することも出来なかった。予定通りなんて言葉は存在しない。


 まあどうにかなるだろうと軽く考えていたが甘かった。魔法の使い方が多少上達しても魔物には通じなかった。猫の霧でこっそり逃げようとしても見つけたら即毛が飛んで来て霧散するし。あの魔物の力は想像以上で未だに底が見えない。逃げ続けるだけで時間が過ぎていく。今更ながら近づくんじゃなかったと後悔している。そして、夜が明けようとしていた。



「はぁはぁ……」



 頭がクラクラする。僕は最初の一撃でほっぺに傷がついた。それからずっと動き回ったせいか未だに血は止まっていない。体調が悪いのは血が流れすぎたからかもしれない。子猫には負担が大きかったのだ。このままだと死んじゃいそう。


 それだけではない。もうそろそろ明るくなる。早く帰らないと時間がない。このままだと僕が消えたと騒ぎになってしまう。スキルを使って夜遊びしてる秘密もバレちゃう。なにより大事なおっぱいの時間がなくなってしまう。これはまずい。



「グルルルルッ」



 焦る僕に対し、あの魔物は余裕そうに笑っている。まだ遊び足りないのか僕を逃そうともしない。はっきりいって大ピンチである。というか吐きそう。もう力が全然入らない。僕の人生はここで終わるかもしれない。早くおっぱいを吸わなければ…………。そんなときである。



「……ん?!」



 もしかしてあの魔物、僕のおっぱいの時間の邪魔をして楽しんでいるのではないか? これならあの魔物が笑っている理由も説明がつく。怒りが沸いたと思ったら急に力もみなぎって来た。いつの間にか傷付いたほっぺも治っている。まだまだやれるね!





 バキバキ、ムキムキムキムキ……。僕は巨大な猫の姿に変えた。なんだ今まで以上に力が出ている。ここからはおっぱいタイムを愚弄した魔物への裁きの時間である。





「デッドオアおっぱい?」




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