196話 「子猫の死闘 その1」
前回までのお話
ハジメの森を探索!
僕メンテ。魔物を一目見たいなあとハジメの森の奥の更に山を越えた場所にいます。
「うわ、なんか臭い……。何これ?」
魔物に近づくにつれ生臭いような変な匂いがします。魔物って臭いのかな? と思うと何かを発見。真っ赤な何かです。そして、魔物の気配がする方向に近づくたびにこの赤い物体を見かけました。どうやら魔物が暴れているみたいです。多分赤いのは血じゃないでしょうか。
「お、そろそろだ!」
僕は猫探知の気配がする方向に近づくと、魔物らしき生き物が見えました。こっそり近づきます。
「(……でかすぎない!?)」
そこにいた魔物は信じられないぐらい大きかったよ。
見た目は猫? 犬?? いやどちらでもありませんね。キツネでもタヌキでもないしオオカミとかそういう風にも見えなくもないです。鋭い歯があるから肉食でしょうか。前世では確実に存在しない生き物なので例えようがありません。種族不明の四足獣です。
肝心の大きさがヤバい。建物の2階より大きいと言えば分かるでしょうか。高さは5メートルを優に超えています。さらに頭からしっぽの先までの長さは20メートルぐらいあるのではないでしょうか。へたしたら大型トラックよりでかいね。軽く体当たりされるだけで即死しそう。
デカいだけならともかく魔物の前足もおかしい。どちらもありえないぐらいに太いのです。そこらへんにある木より太くない? それに遠くから見てもごっつい筋肉って分かりますもん。極端に発達しています。ちなみに後ろ足も普通に太いので回り込むのも危険そう。
さらに魔物の指先には巨大な爪も生えています。あれは本当に危険な感じがする。さらに特徴的なのが全身を覆う赤く茶色い毛。めっちゃ堅そうなのにサラサラとしています。なにこの矛盾??
「(――! あれは……)」
このでかい魔物の近くに人間がいました。目視して分かりましたが、あの人間は気配を完全に消していますね。というか息も絶え絶えという状況です。
「(冒険者負けてるじゃん……)」
ほっといたらあの人殺されるね。う~ん、どうしよう。魔物に会ったの初めてだし話しかけてみようかな? 会話ぐらい出来るんじゃないでしょうか。あのでかい魔物は猫の可能性も否定出来ないしさ。
「こんにちは」
「――!」
魔物がこっちを向きました。じぃっと見てきますね。交渉の余地がありそう!
「ねえ、僕の言葉分かる?」
「……」
「君おっぱい好き?」
僕はいい感じに首を傾け、可愛さ満点の子猫スマイルで話し掛けます。可愛いでしょ?
シュッ。
「……?」
ん? 今何か音がしたね。…………なんかほっぺがかゆいなあ。ゴシゴシ。
「え????」
僕がほっぺを触ると手が真っ赤になっていました。
「――!?」
僕は意味が分からず地面を目を向けると何かが刺さっていました。えっ? 猫結界に穴が開いてるんだけど?! もしかして今、首を傾けなかったら死んでいた?? 僕何か怒らせるようなこと言ったかなあ……。
うん、交渉失敗!
◆
その大きな魔物は僕をずっと僕を見てきます。
「……」
「……」
んー、見てくるだけで全然近づいて来ないや。いや、なんだか警戒しているような?
……もしかして僕が完全に死んだのか確認しているのでは? この魔物相当知識が高いんじゃないの?!
「……」
「……」
うわあ、これはヤバい。一切僕から目を離しません。
「(……よし、逃げよっと)」
「――グルォ!」
「(うお?!)」ビクッ
僕がこっそり帰ろうと動いた瞬間、魔物は臨戦態勢に入りました。嘘でしょ?! やっぱり僕が死んだか確認していたみたい。
ズザッ、ゴゴゴゴゴッ!!!
魔物は前足を地面に叩きつけ、こちらに向かって押し出すように動かしました。すると僕に向かって巨大な岩が飛んできたのです。
「――?! 猫結界!!!!」
ドゥゴーーーーーーーン!!! と大きな音が鳴り響きます。僕は3メートルぐらいある岩を魔法を使って防ぎました。岩が粉々になって土埃のように舞い上がります。
シュッ。
「――うわっ?!」
光ったと思ったらまた何かが飛んできました。僕はかろうじでそれを避けます。まだ土埃がやまないので今のうちに身を隠しましょう。隠れながら飛来してきた何かを観察します。
「(……何だこれ?)」
岩は猫結界で簡単に防げたのにこの何かは貫通してきました。僕のほっぺから血が出る攻撃はこれで間違いありません。
「(ん、魔力を感じるぞ?!)」
僕は飛んできた細い何かを見つめます。その正体は……。
「(細い糸……? いや、この色はあの魔物の毛か?!)」
なんということでしょう。僕は魔物の飛ばして来た毛によって怪我をしたのです。それも魔力を帯びた毛。つまりこれは魔法による攻撃だったのです。
「(毛を飛ばす魔法はヤバい。攻撃は見えるけど毛のスピード速すぎで体の方が追いつかないぞ?!)」
見えても対処が難しい、そんな攻撃です。なんたって相手は冒険者が逃げ出すような危険な生き物。かなりの手練れだったのです。
なるほど、これがこの世界の魔物か。思った以上に強いし怖い。魔法を使えば何とかなると思ったけど、相手も魔法を使うから厄介極まりないね。逃げきれるか分からなくなってきました。でも僕は身体強化には自信があるのです。
「いくぞ!」
僕は身体強化の魔法を使い一目散に逃げます。逃げるが勝ちです!
「うそ?!」
するとどうでしょう。僕に影が差したと思ったら魔物が前方に現れたのです。こいつジャンプして僕を抜いたのか?!
「グルルルルルッ」
「……(どうしよう)」
どうやら魔物と僕では身体能力が全然違うみたいです。魔法を使ってもカバー出来ないぐらいにね。
完全に逃げ道を塞がれた僕は無言で魔物を見つめます。なぜだかここで目を逸らしたら負けな気がします。
「ねえ、君は猫なの? 僕の言葉分かる?」
「……」
何もしてこないので話しかけてみたのですが、ピクリとも反応しないね。僕は猫とだけ話す特殊能力を持っているのですが、あの魔物には何も伝わっていません。
「猫ギフト……もあいつには使えなさそう。猫じゃないな」
あの魔物は猫ではないで確定。僕が一人でしゃべっていても魔物は近づいてきません。ただただ僕を見つめてきます。全然隙をみせないので逃げれないや。こっちから攻撃しちゃうか。
「……」
「グルルッ……」
「猫の爪!」シュン!!
「――グオッ?!」
僕は右前足に長ーい魔法の爪を作り、魔物の目を狙って突き刺します。すると魔物は少し顔を動かし、避け……ない。急に魔物の毛がゾワゾワと動き出し、爪とぶつかり合います。すると僕の爪は粉々に砕け散りました。うへえ、あの毛に魔法の爪も通じないのか。
「……」ニヤリ
「……??」
え、何で? なぜか目の前の魔物が口角を上げて笑っとるよ??
「グフゥ」ドシドシ
「え?」
魔物は前足を動かして僕に何かを訴えかけます。なんかこっち来いよみたいな挑発されてるんだけど……。僕何かしたっけ?
――あ! そういえば動物って目を逸らすと逸らした方が負けみたいなのあるよね。今さっき目を逸らしたのは魔物が先だったからさ、その勝負で負けたと思ったのかも? それで僕を好敵手とみたとかね。にゃはは、まさかねえ。
「グルォ」←地面トントントンと叩く
「……」
うわあ、なんかさっきまでと目の色が違うね。俺と遊ぼうぜ的な雰囲気を醸し出してるぞ……。
「よ、よーし。やってやるぞー! ……ちょっとだけね?」
よく分からないけどあの魔物好戦的すぎるよ。逃げられそうにないから戦うしかないみたい。これが僕の初めての魔物との戦闘でした。




