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195話 「子猫とハジメの森 その3」

 僕は身体強化の魔法を使いながらビュンビューンと森の奥の奥へと突っ切っていきます。


 う~ん。土にコケが生えていたり枯れ葉や木の枝がたくさん落ちていて歩きにくいです。この森って植物が多いのはいいんだけどさ、猫の姿だと目線が低いから障害物だらけに感じます。まあ四足歩行なので人間の姿のときより転びにくいのは利点かもね。


 ……おや? 僕の猫探知が何か大きい気配を察知しました。でもこの気配の生き物を僕は知りません。確認のため少し近づいてみましょう。ちょっと見るだけね!



「えっ、鹿?」



 僕の前に鹿が現れました。というか僕が声を出したので鹿と目が合っちゃいました。でかっ?!



「……」

「……」



 最初鹿は驚いていましたが、しばらく僕と見つめあうとどこかに去っていきました。襲ってくるかもと思いましましたが大丈夫でしたね。僕が小さかったから警戒しなかったのかな? とりあえずホッとする僕です。


 落ち着いたのであの鹿を分析してみましょう。小さな僕は見上げなきゃいけないので巨大に感じましたが、よくよく考えると前世とたいして変わらない大きさだったね。色も見た目もそのまんま。奈良の鹿を思い出してしまいました。



「今のはただの動物だったのかな??」



 僕はこの世界で猫や犬、馬といった動物は見たことがあります。町の中で見かけるからね。でも野生の生き物を見るのは今回が初めてでした。なのであの大きな鹿が魔物なのかどうか分からなかったです。


 この世界では、()法を使える生き()のことを魔物と呼ぶらしいです。獣の魔物が多い地域では魔物ではなく魔獣と表現することもあるらしいよ。よく分からなければ謎のモンスター現るとかね。これは僕が母親のことをママというか母さんと言う違いと変わりませんね。言い方なんて何通りもあるんです。


 でねでね、魔法が使えると信じられない動きをしたりするんだよね。例えば今の僕みたいにすごいスピードで動いたりさ。でも今出会った鹿からはそういう雰囲気を感じませんでした。魔法を使うときに感じる魔力? を一切感じなかったと言えばいいのかな。最近みんなが魔法を使うときに魔力らしきものを感じるようになった僕です。そんな理由であの鹿はただの動物だったと結論付けます。



「それにしても歩きにくいなあ」



 長い草が目の前に広がっています。奥の方までよく見えませんし、凸凹した地形になってきたうえ木も太いものばっかりです。ここら辺は視界が悪すぎる! 猫の小さな体の影響を悪い意味でめっちゃ受けています。なら飛べばいいって? にゃははは、僕は猫だから飛べませんよ。ジャンプの跳ぶは出来ますがね。



「よし、全部切っちゃおう! 猫カッター!」



 ここで僕の必殺技、第三の手こと魔力で出来た猫のしっぽを使います!


 まずはしっぽをぐにゅ~っと伸ばし、しっぽの先端に魔力を溜めます。魔力溜め終わるとしっぽをブンブンと振り回して三日月っぽい真空の刃を放って草を切り裂きますよ。みなさん知っていると思うのですが、猫が横を横切ったとき少し風を感じるよね? だから猫も風魔法を使うことが出来るんじゃないかと思ったら御覧の通り使えました。とても猫っぽい魔法ですね!!



 シュッ、シュシュシュシュ!! ドゴーン!!!



 真空の刃がスパーっと飛んで行って目の前の草が全部なくなりました。ついでに近くの木々も真っ二つにしちゃいました。だいたい20本ぐらい。


 あれれ~? 草だけ刈るつもりだったんだけどなあ。



「ちょっとやりすぎちゃった?」



 先程も言った通り、最近の僕は自分以外の魔力を感じられるようになってきました。人間のときも猫の姿のときもね。その理由はよく分からないけど、同時に自分が使える魔力も成長していたようですね。今気付きました。加減が全然わかんないんだもん。



 ん? おお、え? あれれー?!!!! 僕の周りから生き物の気配が遠ざかっているぞ?!



「ちょ、みんな逃げないでー!」



 大きな音にびっくりしたのか近くに何もいなくなりました。待ってー、僕は普通の猫だから危なくないよ。少し生き物に興味があるだけだよ。こっちおいでー!



 それからしばらく僕は何の生き物にも出遭えませんでした。



 ◆



 森に入って1時間ぐらい経ったでしょうか。結構奥まで来ましたねえ。ちなみに僕は母親の位置をだいたい把握しています。親子の絆ってやつですよ。どれだけ離れようと迷うことはありません!



「それにしても小さな生き物しかいないねえ」



 蛾とかコバエやらクモみたいな生物は見かけました。この世界って普通に虫がいるんだよねえ。この森は虫のオーケストラ状態でいっぱいいます。カエルやら鳥の声も聞こえます。生態系は前世とそんなに変わりないかも??


 他にはキノコみたいなやつも生えていましたね。そんな蛍光色みたいな色の光り方する? っていうぐらい目立っていました。毒があるかもと思い近づきませんでした。確か前世には嗅いだり触るだけでもアウトみたいなのもあったしさ。


 植物とか木は森中にありますね。多すぎて種類とか違いがよく分かりません。ただ水が豊富なため元気なのは間違いないね。ハジメの森って結構良い環境なんじゃないかな。と、そんなことを考えていたときです。



 ゴンッ!


「――?!」



 おや? 何かが僕に当たりました。正確には僕を守っている透明な猫結界に。念のためにと歩きながら常に発動していました。



「と、鳥!」



 種類は分からないけど鳥が僕の傍に倒れていました。大きさはフクロウぐらいかな? 結界に衝突して気絶していますね。いや首の方向がおかしいから死んでいるのかもしれない。もしかして僕を狙って突っ込んできたのかな? そうだとしたらお気の毒に。


 僕はむやみやたらに生き物を殺したりするタイプではありません。平和が一番だと思うんだ。この鳥にお墓でも作ろうかなと思っていたときです。



 …………いや、待てよ? 僕が動物を倒しってことは経験値があるんじゃない? 増えていたりするのかも??



「猫ギフト!!」



===========

【 】

 称号 なし

 種族 猫


 所持スキル

 ・暴走

 ・猫魔法

 ・エッグ

===========


 全く変化なし! それどころか経験値もレベルみたいな表記もないよねー。



 やはりこの世界で経験値とかレベルとかそういう概念はないっぽい。自分のギフトを調べた限り分かっていたけどね。嘘じゃなかったみたいだ。


 もしこれが異世界の物語だったら主人公にだけレベルがあったり、チート能力に目覚めて皆を驚かせる展開になっていたはず。どうやら僕はただ普通の男の子だったようだね!



「やっぱり死体は消えないのか」



 この世界に来てから生き物が死んだらどうなるんだろ? と考えたことがあります。もしこの世界がゲームだったら倒した魔物が消滅したりすると思ったんだけどさ、僕の家って魔物の素材がいっぱいあるんだよね。他にも食事で魔物を食べてもレベルとか上がらないしさ。ゲームの世界に転生した可能性はゼロでしょう。


 

 というわけで結論。ギフトで自分の才能をスキルとして見れる、魔法がある以外は前世とほぼ変わらない。そんな世界にいるらしい。



「かわいそうだし墓でも作っておこう」



 犠牲になった鳥さんのために穴を掘って埋めたんだけど、帰りに見たらいなくなっていました。なんか普通に気絶していただけみたい。




 ◆



 お墓を作ったあと、僕は身体強化で森の奥へと走り抜けていきました。急に傾斜がきつくなってきたから森から山になったんじゃないでしょうか。僕の生まれた町の近くは比較的平坦な場所が多く、森の奥に向かうほど山って感じですな。木は相変わらずいっぱいです。


 でも僕は全然疲れていないのでご安心ください。身体強化のおかげで40キロぐらい進んだんじゃないでしょうか。ほぼマラソンの距離ですが10分程あればお家に帰れます。魔法ってすごい!



「全然魔物いないや」



 残念なことに魔物は見かけませんでした。イノシシみたいな動物は見かけましたがね。魔力を感じなかったのでただの動物でしょう。


 一瞬だけでもいいので生きている魔物を見たいんだよね。外の危険がどれだけあるか知っておきたいじゃん?



「全力で猫探知!」



 そうと決まれば本気の猫探知をします。全魔力を広範囲に解き放ちます。一番大きな気配は…………あっちですね。目の前の山を真っすぐ進んで60キロぐらい離れた場所にいます。走って15分ぐらいかな? それなら時間的に問題ないや。この魔物を見てから今日は帰ろうかな。と、そのときです。



「……………………………………ろ」

「?!」



 うお!?? 急に何か聞こえたぞ!!



「………………………に……………」

「え?」



 これは何の音だろ?



「………………………………………げ……」

「……音? いや声かな?」



 うん、幻聴ではなさそう。



「…………にげ……」

「誰??」



 どこからこの声が聞こえるのかと耳を研ぎ澄ませると、一番大きな魔物の気配がした場所から聞こえて来ますね。



「……あ! なるほど」



 今猫探知を全力で使うために大量の魔力を集めたよね。知らず知らずに身体強化もさらにパワーアップしてたんじゃないかな? たから遠くの音を拾ってしまったのでしょう。猫って人間より耳が良いしね!



「もしかして魔物と誰かが戦っているのかな?」



 こんな時間に戦うなんて一般人じゃないでしょう。つまり人間はどこかの冒険者。ただいま狩り中ってことですね。こっそり覗き見をすれば安全に魔物を見れそうだよ。急がねば!




「よし、いくぞー!」














 ◆



 ある日、()()は森にやって来た。


 これはネズミであった。それに気付いた瞬間、頭と体は離れ離れになった。

 これはヘビであった。それを認識する前に赤く染まった。

 これは大きなクモであった。それに罠など通じず潰された。

 これは素早いキツネであった。それに睨まれた瞬間に息絶えた。

 これは立派な角を持つシカであった。それに角は砕かれ、体も全て砕かれた。

 これは太いクマであった。目の前に現れたそれを警戒し、立ち上がった瞬間命を失った。

 これはクマより巨大なイノシシであった。それに挑むもびくともせずあの世に吹き飛ばされた。

 これは小さな角を持つ集団であった。縄張りに入ったそれと勇敢に立ち向かうも全滅した。

 これは木に擬態した魔物であった。それに出会い、跡形もなく消滅した。

 これは空を飛び魔法を使う鳥の群れであった。それよって絶滅させられた。


 これもこれもこれも元は全て生き物であった。目に映るあらゆる生き物と戦うそれは、森のあらゆる生き物を殺戮していった。それにより森の生態系が完全に崩壊した。



「これはいったい……。この森で何が起こっていやがる??」



 たまたま森を訪れた人間が大量の死体を発見。謎の生物の追跡をすべく冒険者に依頼が出た。そして、冒険者はそれと遭遇。いや、不運にも遭遇してしまった。




「……逃げろ、逃げろ、逃げろ!!!!!!」




 冒険者は必死になって逃げた。逃げた先々で遭遇した生き物にそれを押し付けながら走った。だが無駄であった。それはあまりにも強すぎた。冒険者といえどそれからしたら所詮ただの動物なのだ。生きるために必死に隠れ回るしかなかった。



「はあ、はあ……」



 それはついに人間に追いついた。それは物陰に潜む人間を探すことを楽しんでいた。人間はもう終わりだ、こんな仕事受けるんじゃなかったと後悔した。そのときである。




「にゃ~ん」




 それは小さな黒い子猫に出会った。



「にゃ?」

「……」

「ぉぱぃ」




 シュッ。




 子猫から血が噴き出した。



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