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190話 「学園の過去と未来と今の話 その1」

前回までのお話

1歳9か月になった主人公をメイド達が語り合った。

「私お姫様の役をするね! カフェさんは隣の国のお姫様で、モドコさんが隣の国の隣にある国のお姫様役ー!」

「えぐ~?」

「メンテはね……。そうだー、近所の赤ちゃん役ね!」

「んぐぅ」



 ここは子供部屋。みんなでアーネの言った役になりきるごっこ遊びをしていた。



「私は何役ですか~?」

「ミスネさんはねー。どうしようかなあ……」

「うらぎりもの」←メンテ

「じゃあ裏切り者でー!」

「う、裏切り者って何ですか?! 私も姫とかじゃないんですか??」

「それはメンテに聞いて―!」

「あのお、メンテくん? 裏切り者って何役ですか?」

「うらぎりもの。きええええええ!!」

「ひえええっ?!」



 普段は誰に対してもニコニコ笑うのに、ミスネに対してはその愛くるしい表情を見せないメンテ。何も知らない人から見れば、子供が警戒して機嫌が悪くなっているだけに見えるだろう。だがおっぱいを卒業させるという話を聞いたあの日からずっとこうなのだ。無駄に記憶力が良いとメイド達を恐れさせていた。



「メンテくん、その言葉をどこで覚えたんですか? この屋敷だと心当たりがありすぎて誰か分からないので教えてくれませんか? 執事さんですか? それともメンテくんのお父さんですかね~?」

「にゃにゃもやう。にゃにゃー!」

「……あれれ~? メンテくん、私の話聞いてます? おーい、メンテくん??」

「にゃあ?」



 すると1匹の猫がメンテに近づいて来た。何? 呼んだー? という風に。



「にゃにゃはー、うらぎりものゆるさにゃい(裏切り者を許さない)」

「えっと……、メンテくん?」

「うらぎりもの、ちぬしかない(死ぬしかない)」

「え、今何て言ったのかなあメンテくん? ……あれぇ? 何でこっちを指差すんですか??」

「にゃあ」「にゃい」「にゃう」

「あれえ?!」



 1匹だけだった猫が2匹、3匹と徐々に増えていく。おかしいなあと思ったミスネがドアの方向を振り向くと、どんどん猫が子供部屋に集まって来ていた。その全ての猫がミスネの近くに寄り、じぃーっとミスネを睨みつける。着々と裏切り者を処罰する準備が進んでいった。



「ひぃいいいいい?! なんかですかこの状況? 私まだ何もやってませんよね?! 誰か助けてくださーい!!」

「これおいしいねー!」←アーネ

「私の国の名物ですの」←カフェ

「本当においしいです。もっと食べたいなあ~」←モドコ

「えぐえぐ」

「あら、あなたも食べたいの? 赤ちゃんこっちおいでー」

「えぐぅ~」

「だ、だだだだ誰もこっち見てない?! 私の話聞いてくださいよぉおおおお?!」



 全員役になりきっているので誰もミスネを気にしていない。というか関わりたくないのである。



「にゃ」バシッ

「ひっ?!」

「にゃ!」「にゃお!」バシバシッ!

「ひぃいいいいいい?!」



 ミスネに攻撃を開始する猫達。1匹、また1匹と攻撃する猫が増えていく。ここに集まった猫達は皆賢いので裏切り者を殺す役になりきっているのだ。ゆえに全く問題ない。



「「「「「しゃああああああ!」」」」」バシバシバシッ!!

「ひえええええええええええええええええ?! 裏切り者じゃないですからやめてくださいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。そ、そそそそうだ。私メンテくん大好きだから何でも協力しますからあああああ」



 猫にボコボコにされるミスネ。だが私は裏切らない宣言をするとあら不思議。急に猫が攻撃を止め、メンテが救いの手を伸ばした。なんて計画的な動きだとツッコんではいけないぞ!



「……みちゅねはうらぎらない?」

「もちろんですよ~」

「ママは~?」

「後でお手伝いしますね!」

「はーい! みちゅねもあちょぼー」

「た、助かりました~」



 メンテがママの名を呼ぶときは基本的におっぱいのときだけである。メンテの機嫌が戻ったのか久々に名前を呼ばれたミスネは、ほっとするのであった。しかし……。



「ミスネさん、()()を忘れたのですか……?」←カフェ

「裏切りだよ……」←モドコ

「えっ?」



 カフェの言うあれとは、メンテのおっぱいを卒業させる仕事のことである。依頼主はメンテの母親ことレディーだ。



「ミスネさん何か裏切ったのー??」←アーネ

「ええ、彼女はとんでもない裏切り者ですよアーネ様。裏切り者の話は聞いてはなりません」←カフェ

「本当に裏切り者になっちゃいました」←モドコ

「えへへ、そうなんだー。ミスネは裏切り者なんだねー!」

「ち、違いますよ! 役です。そう、そういう役なんですよ。も~う、みんなして冗談はやめてくださいよ~」

「……みちゅね? うらぎうの?」

「「「「「しゃあああああああああああああ」」」」」←猫

「ひいいいいいいっ?! も、もちろん私が裏切るわけないじゃないですか~。だから後ろの猫に牙をしまうように頼ん欲しいなあ~。メンテくん。ね? 本当にお願いします。色々手伝いますから」

「……裏切り者ですか。メンテ様は実に素晴らしいネーミングセンスの持ち主ですね」

「本当にそうですね。ミスネさんはとんでもない裏切り者です」

「ひいいいいいいいいい?! どっちを選んでも私に命はない?!!!!」

「えへへー。なんか分からないけど裏切り者ー! ミスネの裏切り者ー!」

「違います、私は裏切り者じゃないですううううう!!」



 しばらくメンテによる裏切り者探しが続いたという。今日もレディーおよびメイド達とメンテの戦いは続く。



 ◆



「どう? すごいでしょ。アーネのそれは何? しょぼくない??」

「全然しょぼくないもん!」

「でも俺の水魔法より小さいじゃんか」

「もっと大きくなるもん!」

「じゃあやってみてよ」

「お兄ちゃんより大きいのつくるもん!!」



 ここはナンス家の庭。アニーキーがよく魔法の練習をしている場所である。今日はここでアニーキーとアーネが二人で水魔法の特訓をしていた。



「ほら俺の魔法を見て見なよ。まずは水魔法を使って水を作り、空中に浮かべるんだ。そのままの状態でこうしてこうキュッとやれば四角い形にもなるんだよ」

「やっー!」

「ぷぷっ、全然出来てないね。もっと繊細な魔力のコントロールが必要だよ。アーネにはまだ早いんじゃないの? そんな小さい魔法じゃ植物の水やりも出来ないよ」

「もおおおおおおおー!」



 アニーキーがやたら自慢してくるので怒るアーネ。するとアーネにスイッチが入った。アーネの水魔法にどんどん魔力が注がれていく。




 グオッ、グググググググググ。ボコンッ!!



「うおっ?!」

「出来たー! えへへ、お兄ちゃんのより大きいでしょ? お兄ちゃんの水小っちゃーい」



 アーネが作り出した水は、不定形な形をしてふにゃふにゃしている。が、とてつもなくでかい。まるで風呂の水ごと全部浮かせたかのような大きさで、大人がひとり余裕で入れるサイズである。アニーキーの作り出した手のひらサイズの水とは比べ物にならない。



「すごっ……」

「え? 何ー?」

「分かった分かった、僕の負けだよ。アーネの方が大きいよ」

「えへへ、すごいでしょ~?」

「本当すごいよ。……ん? さっきよりも大きくなってない??」



 アーネの作り出した水がどんどん膨れ上がっていく。先程まで風呂の水が浮いたかの大きさだったのに今では車と同じようなサイズである。



「ちょ、危ないって。そんな大きくしたら制御出来なくなるよ」

「え? まだ全然小さいよ」

「いやいや、大きいって?!」

「もっと大きくないと誰も驚かないよ。まだまだ足りないよー」

「俺驚いてるんだけど?!」

「もっと大きくしよーっと」

「俺の話聞いてる?! ……あ、暴走してるのか」



 アーネの”暴走”。それはアーネの持つ魔力に多大な影響を与える。すなわち魔力の暴走である!



「ちょ、危ないって?! それ絶対俺に向けないでよ!!」

「分かったー。じゃあ、あっちに人がいるからあの人に放つね!」

「何言ってんの?!」



 魔力や身体が暴走して大変なことになるのはよくある話。なんだ、それなら普通の暴走じゃんと思うだろう。だがこのナンス家の暴走スキルは、普通の暴走とは違う。思考にとんでもない影響を与えるのが本質である。ただでさえ危険な程に膨れ上がって魔力を使い、頭もおかしくなったらどうなるのか。その答えはこうである。



「えいやっー!」

「うわあ?! 本当にやっちゃったよ?!! 危ないから避けてー!」



 バギィーン! ドゴッゴゴゴゴゴ!!!!



「ふう……」

「ふうじゃないよ?! どうすんの、あそこにいたってことはきっとうちのお客さんだよ。そういえば今日誰か来るって言ってたような。……あれ? 直撃したけど普通に立ってるね。良かった生きてて。それどころかこっちは大丈夫だって手を振ってるよ。魔法で防いだのかな? 誰か知らないけどあのお客さんすごいや!」

「うん。早く燃やさなきゃ。ブルーフレイム!」

「何で?!」



 ブホオォオオオオオオオオオオオオ!



 アーネの放つ青い炎。普段の状態であれば指先に小さな火が出て、鼻息で消えてしまうぐらい弱弱しい火の魔法だ。だが暴走中の青い炎は火炎放射器のような威力である。その炎は水のような流れでお客さんの周囲を囲み込んだ。



「うわあああ、お客さんさっきまで平気そうだったのにめっちゃ慌ててるじゃん?! アーネ、魔法ストッープ!」

「分かったー。混ざれ、ブルースチーム!!」

「えええっ?! 今のアーネって遠距離のコントロールも出来ちゃうの?!」



 お客さんの周囲では水と炎が合体し、水蒸気となる。熱さでごほごほっという声がするがそんなの無視してアーネは次の行動に移る。



「くらえー、ブルーなんとか波ッー!!!!」

「うわあああああ?!」



 ヒュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!



 アーネの前方に放たれる青い衝撃波。それは周囲に突風を巻き起こし、お客さんを水蒸気ごと吹き飛ばす。ついでにアーネの近くにいたアニーキーも一緒に吹き飛ばした。



「うう、いったいなあ……。もう何てことするんだよ!!」

「これで大丈夫だねー!」

「全然大丈夫じゃないんだけど?! 何であんなことしたのさ!」

「あのお客さん私の水魔法で濡れちゃったから乾かしたのー」

「今の流れそういうこと?!」



 アーネの暴走。


 魔力が暴走して制御出来ないではなく、逆に極限状態まで魔力を引き上げ完全にコントロールしてしまう。魔力が暴走しているようで全然暴走していない。さらに頭が良くなりすぎて何を考えているのか誰にも分からなくなる。


 魔力が暴走するだけかあ。結構普通のスキルだなと思ったあなた、それは間違いである。ナンス家の人間が普通なわけがないのだ!


 一度暴走を始めると魔法で何もかも粉砕し、目的を遂行するまで止まらない。己の魔法で何でもこなし、己の実力のみで強引に突破する暴走こそアーネ・ナンス! 魔道具や猫、他人の力をアホみたいに借りることなど一切しない。単体で完結。ナンス家の中ではシンプルで一番厄介な”暴走”のスキル持ちかもしれない。


 なお発動条件は謎が多いそのため、有効な対策法や知識暴走といった名称はまだない。暴走させないということこそが安全。そんな暴走少女である。



「あ、お客さん起き上がったよー」

「本当だね。こっちは大丈夫。問題ないって言って手を振ってるね。俺たちも謝らなくちゃね。ごめんなさーい!」

「ごめんなさーい! まだ魔法は続くからねー!」

「え?」

「倒れるまで遊んでもらうのー。どうせ勝手に防ぐから死なないよ?」

「いいアーネ? 本当はお客さんにそんなことしたらダメなんだよ。でも面白そうだから俺も混ぜてよ。ところでさっきの魔法なんだけど何で青色ばっかりなの?」

「私ね、今ブルーが好きなのー」

「それで魔法に色を付けるなんて面白い発想したね。アニーキーサンダー!」

「あ、ずるーい! アーネブルーサンダー!」



 ズドーン、バリバリーッ!!!!



 こうしてお客さんを暴走兄弟が襲ったという。





 その頃。屋敷の中では。



「メンテちゃん、準備出来ましたか?」

「はーい。こえもちゅる」

「よだれかけね。いいわよメンテちゃん。こっちの方がより赤ちゃんっぽく見えるわ」

「まんまあ。あえは?」

「そうそう。おもちゃも忘れちゃダメよね」

「はーい!」



 お客様が来るときや外出するときは赤ちゃん感を増すような恰好をさせられるメンテ。赤ちゃんが商談中にいると相手によっては場がなごむ。それを利用して交渉を有利に進めるレディーの策略なのだ。誰からも甘やかされたいメンテも積極的に参加するのであった。とてもWin-Winな関係である。


 その様子を見ていた周囲の人は、その恰好をすることが正しいと勘違いしているメンテの姿を面白がっていた。ゆえにメンテのあざとい行動がバレることはなかったという。この主人公、恐ろしい天然パワーの持ち主なのだ!



「奥様。例のお客様がいらっしゃったようです」

「あらもうそんな時間?」

「えぐぅ?」

「あら、メンテちゃん気になるのね。今日は学園から先生が来るのよ」

「ちぇんちぇい~?」



誤字報告ありがとうございます。


続きは明日にでも

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