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183話 「ぱい・ストーリー3」

前回までのお話

親譲りの才能があるかもしれない。

 子供部屋にて。



「ママー!」

「なあに?」

「どこか行きたーい!」

「どこかって……。アーネはどこに行きたいの?」

「おっぱい」←?!

「ここよりおっきーい町!」

「この町より大きい? 王都かしら。何かしたいことがあるの?」

「おっぱい」←?!

「うん! 『おっぱい』で遊びたいの。そこで『おっぱい』でね。……もー! さっきからメンテうるさーい!!」

「そうよメンテちゃん。邪魔だからあっちに行きなさい」

「うえええええええええん!」



 いつものおっぱいタイムでうるさくなるメンテ。話を遮るおじゃま虫である。



「ただいまー。おや? メンテが泣いているぞ」

「あら、おかえりなさい。いつもの()()だから気にしなくていいわよ。ってパパすごい汚れよ?!」

「お? 本当だな。はっはっは! 今日は仕事に集中してたから全然気づかなかったよ」

「夕食の前にお風呂に入った方がいいわね。メンテちゃんも一緒にお風呂に入るのよ? 汚い子にはおっぱいあげません。しっかり洗ってお湯につかるのよ、分かった?」

「えぐぅ……」

「よし、行くぞメンテ!」



 ダンディに連れられ、しぶしぶお風呂場に向かうメンテ。子供部屋から廊下に出るとアニーキーに出会う。



「アニーキー! 一緒にお風呂に入るぞ!」

「うわ、びっくりした。父さんどうしたの?」

「メンテの風呂を手伝ってくれ! 今機嫌があまりよくなくてな」

「うわあ、ぱいぱい言ってるね……」



 さらに歩くと、玄関からタクシーとその部下が入ってくるところであった。



「おお、タクシー。丁度良いところに。今から息子たちと風呂に入るんだが、この通りメンテの機嫌が悪いんだ。もしかすると暴れるかもしれないからタクシーは風呂場の前で待機していてくれ!」

「ほほっ。かしこまりました」

「よし、お前らは全員風呂だ! 私が体を洗っている間はメンテの相手をしてくれ!」

「「「「「「「イエッサー」」」」」」」



「これはなんの騒ぎですか?」

「お、クックか。今時間があるか?」

「今日の午後は休みなんで空いてますよ」

「よし、お前も風呂に来てメンテの相手をしてくれ!」



「え? ここで何かあるんですか?」

「よし、お前も風呂に来るんだ!」



「……にゃあ?」

「よし、そこの猫も一緒に風呂だ! そことあそこにいる猫達も全部連れてくるんだ!」

「「「「「「「イエッサー」」」」」」」



 こうして風呂場までの道のりでどんどん人が増えていった。男と猫の大行進である。



「はっはっは! これだけ人が集まればメンテも悲しむことはないな!」

「そうだね。でも俺はちょっと心配かも……」

「アニーキーの坊ちゃん、心配しすぎですよ。俺らに任せてくださいよ」

「おう、みんなで一緒に遊ぼうぜ」

「おっちゃんたちがついてるぞ~!」

「「「「「「「「「「ざわざわ(笑)」」」」」」」」」」



 これだけの人数がいれば赤ちゃん1人の相手ぐらい楽勝だ。このときはみんなそう思っていた。



 ◆



「終わったぞ~! じゃあパパは髭を剃るから二人とも先に入っていてくれ。髭が痛いとメンテが嫌がるからな。みんなもアニーキーのサポートを頼む」

「「「「「「「イエッサー!」」」」」」」

「わかった。先にお湯に入って来るね」

「ぱい」スタスタ

「ちょ、ちょっとメンテどこ行くの?! 勝手に出ようとしないでよ。お風呂につからない子にはおっぱいはありませんって母さん言ってたでしょ?」

「……ぱい」



 素直にアニーキーの言うことを聞くメンテ。おっぱいのためなら何でもする可愛い男の子なのだ。


 2人がお湯につかると使用人たちも一緒に入っていった。この家の風呂は同時に20人ぐらい同時に入れる広い浴槽がある。床とお湯の位置がほとんど同じタイプのお風呂だ。メンテや猫が溺れないようにお湯の中に台が置いてあったりする。



「アニーキーの坊ちゃんも大変だなあ。なんなら俺のおっぱいでも飲むか? なんてな。へへへへへっ!」

「「「「「「あはははは」」」」」」



 クックの発言に笑いが起きた。忘れている方もいるかもしれないので説明すると、この男の名前はクック。このナンス家で副料理長をしているおじさんである。いつもなら軽く受け流すメンテだが、今はタイミングが最悪であった。



「ちょ、今はダメだってクックさん?! あまり刺激しないでよ」

「そうだぜ。メンテくんはまだ幼いんだからさ」

「へへへ、冗談だよ冗談。……ん?」



「…………ぱあ゛?」



「「「「「「――――?!」」」」」」



 ブチ切れるメンテ。赤ちゃんが出してはいけない殺気を放ちながら睨みつけていた。もう完全にアウトである。あ、やべ……と静まり返った。



「うわあ……。メンテめっちゃ怒ってるじゃん。見てよあの顔、怖すぎるよ。どうすんのクックさん??」

「お、おう。ごめんよさっきのは冗談だから……」

「えぐらああああああああっ!!」

「ぐべっ?!」



 謝りに近づいたクックの顔面に右ストレートを放つメンテ。見る人には分かるプロの一撃。たくみに体を動かし、腰の入った動きで強烈な一撃を叩き込む。



「きえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」

「ちょ?! 危ないから出すよ」



 クックに襲い掛かろうとするメンテの動きをとめ、浴槽から無理矢理引きずり出すアニーキー。メンテが溺れないようにと移動させたのだが、その間ずっと暴れまくって大変であった。お湯から出てもメンテの怒りは収まらない。おっぱいを馬鹿にした奴は、彼の敵なのだ!



「ぱいぱいらぁあああああっ!!」

「うわっ、危ないってば。もうお風呂出るよ」

「きえええええええええええ!!!!」

「うわあ……。全然メンテの怒りが収まってないよ。誰か助けてー!」

「アニーキー様、今行きます!」

「ぱい、ぱぱぱい。ほわちゅあああああああああああああ!」

「え、はやっ?! うおっ」バシャーン!

「嘘でしょ?!」



 アニーキーを助けに来た使用人に襲い掛かるメンテ。身軽なフットワークで相手の攻撃を回避しつつ急接近し、芸術的な回し蹴りで浴槽の中に叩き落す。いつもフラフラ歩いてこけないか心配だと大人をひやひやさせる赤ちゃんとは思えないような動きである。



「ぱいぱいぱいぱいぱいぱいぱいぱい、にゃああああああああああああ!!!」

『にゃああああああああああああ!』

「おげっ?!」



 さらに浴槽の中からメンテに接近した人を殴りまくる。殴れば殴るほど威力もキレも増していく。ひるんだところに猫達が体当たりをかまして突き落とす。気が付けば浴槽の周りに大量の猫集まっており、メンテと連携した動きをしている。もう完全に戦闘モードに移行していたのである。もはや誰もメンテに近づけない。おっぱいを馬鹿にされた奴をぶっ殺す。メンテは完全に暴走していた。



「うわあ?! なんだか猫の様子もおかしぞ? 父さん助けてー!」

「ん? どうしたアニーキー?」

「メンテがおっぱいで暴れ始めたんだ!」

「そうか。急いでママのところに行かないとな。おい、タクシー! ……ん?」



 ドドドオッ!!!


『にゃあああああああああああああ!』



「な、なんだこれは??!」

「ええええ?! タクシーさんじゃなくて猫がいっぱい来た?! ってこれ何匹いるの?!!」



 風呂場に大量の猫達が突入してきた。そう、メンテが怒ったときに猫を呼び寄せたのだ。そして、軍隊のような統率のとれた動きでメンテに近づいて行った。明らかに何かがおかしい。



「ほほっ。何事ですかな?」

「おお、タクシー。いったい何が起きているんだ?」

「先程数匹の猫が風呂場から飛び出して来ましてな。しばらくすると家中の猫達がここに集まってきたのです。きっと仲間を呼んだのでしょう」

「なぜここに集まったんだ??」

「メンテが猫を呼んできたんじゃない? さっきからおっぱいで暴れてるしさ」

「おお、それはありえるな」

「ほほっ。さすがアニーキー様です。洞察力が素晴らしい」

「そう? ……いやいや、それより早くメンテを止めようよ!」



 猫が集まった理由に納得するアニーキーとダンディとタクシーの3人。3人がメンテから少し目を離しているうちに事態は大きく進展していた。なんと使用人たちが全員浴槽の中に叩き落とされていたのである。普段のメンテとは思えない凶暴さだ。さらに猫達が浴槽の周りを囲んで使用人達は出られない。爪を立てて威嚇しているのだ。裸だから引っ掻かれるとすごく痛いであろう。そんな状況の中、メンテがある1人をご指名する。



「ぱい」指プイ

「え?! お、俺」

「ぱいぱい」コクコク

「……ごくり(何かしたっけ?)」



 メンテに近づく使用人。この後どうなるんだ? と怯えていた。その不安が使用人たちに感染していく。いったい何が始まるのだろうか。



「ぱーい」←ニコニコ笑顔

「……え?」

「ぱいぱい」←手を差し出す赤ちゃん

「あ、はい。え?」



 メンテはご指名した使用人の手を取り、お湯の中から出していった。そして、使用人にバイバイするメンテ。いつも通りの笑顔が可愛いらしい普通の赤ちゃんであった。



「はっはっは! 機嫌は悪くないじゃないか。アニーキーの思い過ごしだったな」

「ほほっ。そのようですな」

「え? おかしいなあ。さっきまでクックさんを殴ってたのに」

「……何か私がやれることはありますかね?」←メンテにご指名された使用人

「よし、あとは私達に任せろ。だからゆっくり休んでいてくれ!」

「――ありがとうございます!」



 何も問題はないと自信満々なダンディ。使用人への面倒見が良いため評価はさらに高くなったとか。


 しかし、この後メンテの様子が激変する。遠くから見ても分かる程ぷるぷると震えだし、とても言葉には出来ないような形相をする。メンテの背景から怒りの炎が見えるレベルで。それはもちろん幻覚であるが、その姿はまさに悪魔そのもの。悪魔になったデビルメンテが動き出す。



「きええええええええええええええええええええ!!!」



「な、なんだ?! 急に怒り出したぞ?」

「そのようですな。あれほど怒り狂うメンテ様を見たことはありませんぞ」

「――あ、思い出した! 今風呂から出た人はメンテを(かば)った人だ」

「庇う? アニーキー、それはなんの話だ?」

「さっきメンテはクックにおっぱいを馬鹿にされたんだ。そのときあの人だけメンテを庇ってたのを思い出したよ」

「ほほっ。つまり彼が怒りの対象ではないと判断なされたのでしょうな」

「はっはっは、なるほど」

「メンテって物覚えよくなったんだね。成長したね」

「「「……こわっ?!」」」



 メンテの記憶力の良さに驚く3人。なお大きな声でしゃべっているので浴槽の中にいる使用人たちにも丸聞こえであった。使用人およびクックは心当たりがあるので何も言い返せない。まさかこんなに怒るなんて予想外である。



「あれ? メンテが何か持ってるよ?」

「そうだな。何か分からないがばら撒いているようだ。タクシー、あれは何か分かるか?」

「ほほっ、あれは”魔法の粉”ですぞ」

「「魔法の粉?」」

「先程猫達がここに持って来ましたな。アニーキーの部屋に行った猫達が持っていましたぞ」

「待って待って、なんでタクシーさん俺の部屋にあるって知ってるの?」

「ほほっ。私が部屋のドアを開けましたので」

「いやいや、止めてよ?! あの猫達、勝手に盗んでるから!」



 メンテが足元に魔法の粉をばら撒く。すると床が乾燥していった。これはナンス家の魔道具の1つ、水分を吸収する力を持った粉である。役目を終えると粉は空気中に消えていくので雨の日に便利である。お値段は高めだが大ヒット商品だ。



「なるほど。確かにあれは魔法の粉だ。だがなぜメンテが使い方を知っているんだ?」

「ああ、昨日俺の部屋でメンテに水魔法を見せたんだよ。それで部屋が濡れちゃったからメンテに魔法の粉の力はこうやって使うんだって見せたよ」

「ほほっ、メンテ様はアニーキー様の真似をしたくなったのでしょうな」

「メンテってだいぶ頭良くなってきたよね」

「はっはっは、そうだな。しっかり周りを見て学んでいるようだ」



 メンテの成長に喜ぶ3人。ここだけほのぼのとした雰囲気が流れるが、メンテと使用人のいる浴槽側は地獄。しばらくするとメンテの足元が完全に乾いた状態になった。すると外から足音が響いてきた。猫の大群の第2派である。




 ドドドッドドオドッドドッ!!! 


『にゃああああああああああああああああああああああああああ!』




「うお!? また猫が増えたぞ」

「うわああああ。これ絶対あれだよ。今日俺の部屋で寝るとか言い出すよ」

「ほほっ、さすがにここまで集まると異常ですな。……おや?」

「あ、猫が何か持ってる! メンテに何か渡してるよ」

「ん~? ここからだとよく見えないな。タクシー!」

「お任せください」



「にゃあ(持ってきました)」

「ぱい(ご苦労)」

「きええええええええええええええええええええ!!!!」ポイポイッ

「痛い痛い。メンテの坊ちゃん許してくれー!」←クック



 猫に渡された物をお湯の中にポイポイ投げ入れるメンテ。なおクックにぶつけるときだけは百発百中。とんでもないコントロールである。彼を敵に回してはいけないのだ!



「タクシー見えたか?」

「ほほっ、分かりましたぞ! あれは雷の力を持った宝石、護衛用のエレキストーンですな。威力が高い対魔物用の」



 バチバチバチバチィ!


「「「「「「「「「「ぎぃやああああああ!!」」」」」」」」」」



「うわあああ?! あれはヤバいって。みんな死んじゃうよ!?」

「きええええええええええええええええええええええええ!!」ポイポイ

「はっはっは、あれを持ってきたのか。あの猫達は賢いな」

「ほほっ、メンテ様は自分が感電しないように魔法の粉を使ったのでしょうな。使い方をよく理解されているみたいですぞ!」

「二人とも関心してないで止めてよ?!」

「「「「「「「「「「ぎぃやああああああ!!」」」」」」」」」」



 使用人たちが感電して叫んでいるとき、風呂の外から誰かがやって来た。先程メンテを庇った使用人である。慌てて現れた彼は3人に報告をする。



「大変です! ね、猫が店の物を盗んでどこかに逃げたとの連絡が!!」



「「「……」」」

「あ、あの……。もしかしてあれですかね??」←メンテを庇った人

「多分あれだな。そういえば最近メンテが店に猫を連れて来ているから場所を覚えていたのだろう」

「ほほっ、どこから持ってきたのかと思っていましたがお店でしたか」

「へえ、猫達が店から持ってきたんだ。ああやってメンテが使うために……」

「「「「……こわっ?!」」」」



 メンテが猫に指示して持って来させたのか、それとも猫が勝手に判断して持ってきたのか。赤ちゃんはアホみたいにキレて叫んでいるだけなので何ともいえないのだ。ただこの4人は、あそこに近づきたくない思いは一致していた。見守るのが最善である。



「きええええええええええええええええ!!」ポイポイッ

「「「「「「「「「「ぎぃやああああああ!!」」」」」」」」」」



「……まだ怒っているな。収まるまで待った方が良さそうだ」

「そのようですな。今のうちに猫が何を盗んだのか聞いてきてください。何を持っているのか分からないと対策が出来ませんので」

「イエッサー!」ササッ

「おっぱいを馬鹿にしただけでこんなことになるなんて……。というか何でメンテはあれ使えるの? まだ魔法使えないのに??」

「これはママが言ってたが、メンテはおっぱいタイム中に魔力がぼふっと何回も出ているらしい。最近は回数が増えたからそろそろ魔法を使えそうだとか言ってたぞ」

「今は怒りのあまり無意識に魔力が溢れ出ているのでしょう。感情で魔力が溢れ出すという話はよく聞きますぞ」

「へえ、メンテって怒ると魔力が増えるタイプなんだね。だから魔道具を使えるんだ」

「はっはっは。そうかもしれんぞ」

「ほほっ。絶対に敵に回したくありませんな」

「「「あはははは!」」」



 それから護衛用のエレキストーンがなくなるまでお湯に投げまくるメンテ。怒りのあまり魔力が全然尽きないうえに投げる勢いが強くなっていく。3人がまだ続くの? とドン引きしているとモクモクと煙が風呂場に充満してきた。



「げほげほ。父さん、タクシーさん、なんか臭くない?」

「匂いだけじゃなく目も染みてきたな。……はっ、まさか?! タクシー!」

「こ、これは魔物よけスプレーの匂いですぞ。間違いありません」

「やっぱりか……」「魔物よけスプレー?!」



 魔物よけスプレー。それは強力な刺激臭で魔物を撃退する護衛グッズである。これもナンスのお店で販売中である。



「魔物よけスプレーと同じ成分の匂いがする宝石があるんだ。さっきのエレキストーンと同様に護衛用に改造したやつだな。これをメンテがお湯の中に投げたんだろうな」

「うわあ、お湯から煙がいっぱい出てきたよ?! 何個投げ込んだんだろ?」

「むむっ?! なぜあれを……」

「どうしたタクシー?」

「メンテ様が結界の魔道具を持っていますぞ!」

「「えっ?!」」



 メンテが魔道具を発動すると、浴槽を囲むように結界が発動した。お湯の中から発生する煙が結界内に充満する。使用人たちは暴れるが脱出することはできない。下は水で息が出来ず、上は息をするだけで苦しむ。これぞまさに地獄そのもの。結界の中では使用人たちが阿鼻叫喚していた。



「うわあ……。あれえぐくない!?」

「はっはっは。いつもえぐえぐ言ってるからえぐだな! でもあのような使い方をするとはメンテもなかなかやるな。自身を守るように作った魔道具なんだが……」

「容赦ないところに才能を感じますぞ!」

「いやいや、今そこ褒めるとこなの?! 確かにすごいけどさ」



 3人で相手を閉じ込めて動けなくする使い方もいいなと話している中、また足音が響いてきた。猫の大群の第3派である。




 ドドドッドドオドッドドドドドドドドッドッ!!! 


『にゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!』




「うおお?!」←ダンディ

「また増えたんだけど?!」←アニーキー

「ほほっ。どんどん増えますなあ。確実に50匹以上いますぞ」←タクシー



 そして例のごとく、猫達は何かを持っていた。メンテは猫から()()()を受け取ると、結界の周りに魔法の粉を振りまくように猫に指示を出す。猫達が結界の周りを乾燥させると、その上にメンテは先程受け取ったある物を置いていく。


 さらにある物を結界の周りに等間隔に配置するんだと猫に伝え、猫とメンテは一緒にある物をどんどん配置していく。こうして結界の周りにある物がいっぱい並んだのだ。これぞメンテと猫の共同作業である!



「あれどうなってるの?! めっちゃ気になるんだけど!」

「はっはっは、どうやって意思疎通しているのか分からんな。でもメンテが何かをしたことは間違いあるまい。普通の猫はあんなことしないからな」

「ほほっ、猫を自在に操るとはさすがですな。上に立つ者はこうでなくては」



 3人がのんきに話をしていると例のメンテを庇った人がやって来た。



「失礼します。猫達が盗んだものが判明しました。護衛用の宝石、結界の魔道具、あとは火薬です! しかも火薬は店の在庫まるごと全部です!」

「「「――火薬?!」」」



「ぱいぱい(じゃあ点火するからみんな離れて。5秒後に爆発するから)」ポイッ

『にゃあ!』

「ぱい(全力で逃げるよ。背中乗せて)」

『にゃ?!』

「ぱいっと(ぽちっとな)」



 メンテが火の力を持つ宝石に魔力を込める。先程から護衛用の宝石を投げまくって何秒後に効果が出るか確認していたのだ。非常に恐ろしい赤ちゃんである。


 ブチ切れているようで頭の中は至って冷静。これがナンス家特有のスキル”暴走”の真の恐ろしさ。あらゆる経験や状況から最適な未来を導き、障害をものともせず突き進む。むしろ邪魔があればあるほど研ぎ澄まされ、常人の思考を超えていく。だから暴走したら止めることは不可能に近い。今のメンテは無双状態なのだ!


 メンテが火の力を持つ宝石を火薬の上に投げて約1秒後、浴槽を囲んだ結界が崩れていく。2秒後には結界が完全に消滅。3秒後にメンテは使用人と火薬が同時に入るような絶妙なサイズの結界を起動する。4秒後に結界が完成し、使用人たちを再度閉じ込める。


 そして、5秒後。




 ドゥボバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!




 風呂場の床が完全に崩壊した。浴槽はもはや存在しない。そして威力が強すぎたのか結界の上部が割れ、もれた爆音と爆風で風呂場の天井をぶち抜いた。まさかおっぱいを馬鹿にしただけでここまで被害が大きくなるなんて誰が予想出来たであろうか。


 メンテと猫達は風呂場を脱出したので無傷。アニーキー、ダンディ、タクシー、メンテを庇った人の4人もタクシーの防御魔法で無事であった。なお結界に閉じ込められていた使用人達も意識はないが全員無事であった。



「どうすんのこれ……」

「ママ、早くメンテにおっぱいをあげてくれ。もう私達じゃ抑えるのは無理だ」

「ほほっ、卒業はまだまだ先になりそうですな」

「あれが1歳……」



 やりたい放題暴れたメンテにぼうぜんと立ちすくむ男達であった。そして……。



「ちょっと今の音は何なの?! タクシー! そこにいるんでしょ!!」←キッサ

「メンテちゃんが裸で泣きついて来たわよ! パパはそこで何をやってるの?! あとこの猫の数はどういうことかも説明して!」←レディー

「なぜ何十人もいるのに誰一人としてメンテ様の面倒を見れないのですか? 早く出て来てください。出てこないなら突入しますよ?」←カフェ


「「ヒエッ?!」」←ダンディとタクシー

「説教始まるね……」←アニーキー

「メンテ様の味方をして良かったあ……」←メンテを庇った人



 この後、男達はキッサにすんご~い長いお説教をされたという。ぱいストーリー。それはメンテの暴走に振り回される人々の苦悩の物語。



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