173話 「猫の縄張り その2」
「到着~!」
僕は猫の姿で町にやってきました。久しぶりですねえ。
「ずいぶん町の姿が変わったね!」
「ずっと人間達が瓦礫を片付けていたわよ。最近は住む場所を作り始めてるわね」
「へえ。大変だね」
どうやら復旧作業は順調のようですね。まあ僕の関係者が破壊したんだけどさ。全てはギルドが悪いと父とタクシーが言っていたのでギルドのせいにしておきます。
「一直線にギルド行こうかなあと思ったけど町の様子も見て見たいなあ。寄り道しながらギルドに向かおうっと」
「そういえばしばらく来てなかったのよね? メンテの知らない道も増えてるわよ」
「あ、僕そういうの知りたいの」ニコニコ
「あら可愛い顔」
こうして僕は町をぶらぶら散歩しながらギルドに向かうことにしました。
◆
僕のお家からナンスのお店までは、大きい道をただ真っ直ぐ歩いているだけで着きます。ただの一本道なのですよ。ギルドはナンスのお店の近くにあるし迷うことはないんだよねえ。
「ここらへんはまだ何もないね」
「人間はもっと建物がいっぱいあるところから作業してるの」
「まあ町の中心から離れてるからしょうがないかな」
僕のお家から出て町に向かう道には、建物がいっぱいあったような覚えがありますね。ですが今はほとんど更地です。更地の奥の方にはゴミの山みたいなのが見えますが、あれ僕の関係者がやったような気がするのでスルーします。
「あ。あそこになんかあるよ!」ダダダッ
何もない場所に看板を発見しました。気になった物を見つけたら走り出しちゃう僕です。
「……へえ。ここ冒険者が使う訓練場なんだって! 初心者歓迎。ここで訓練をして一流の冒険者になろうって書いてあるよ」
「へえ。そうなの?」
「うん。ここが更地なのはそういうことだね。この看板には地図も書いてあるよ。どうやらあっちの土が盛り上がったところは、山の訓練に使ってるみたいだよ。そっかあ、この辺りは全部そうなんだ。だから何もなかったんだよ!」
「私はここは縄張りだと人間がアピールしてるのかと思ったわ。メンテはこれの意味が分かるのね」
「すごいでしょ? アーネが文字の勉強してるから僕も一緒に勉強してるんだ。だから読めたんだよ!」
「メンテは勉強熱心なのね」
「でしょ~?」
ここは勉強頑張ったんだよとアピールをします。本当は勉強してなくても読めるんだけどね。理由は知らないけどこの世界に来てから文字にあまり困ってなかったりします。意味の知らない単語が出てきたときは困りますがね。主に魔法が関連してることとかさ。
「ん、あそこに集まってるのは瓦礫だよね? もしかして町中のやつをここに集めてるのかな?」
「これは昼の話だけど、よく瓦礫に魔法を使って撤去してるのを見るわね(まあメンテの魔法と比べたらしょぼいけど)」
「へえ。それは魔法の訓練の一環かもしれないよ。だとしたら今ここに壁とか柵があると邪魔になるね。だから本当に何もないんだろうね。そのうち境界線が引かれるんだろうけどさ」
というわけでお店までの1本道の片方は更地なのでした。町が元通りになったら訓練をしている冒険者を見ることが出来るでしょう。ちょっと楽しみが増えましたね。
「えっ、あんたらそこで何してるのよ?! この場所は私が先に見つけたのよ。後から来ておいてここは私の縄張り主張するつもりね? ここはあの親子にガツンと言ってやるわ!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
「にゃ、急に穴が?! にゃああああああ?!」
「……ん? 今何か聞こえなかったかしら?」
「え? 何が?」
「いや。私の気のせいみたいね」
「えへへ。なんかここを見てると魔法で遊びたくなっちゃったな。また今度シロ先生遊ぼうね!」
「え?! あー、また今度ね。でも私も都合があるかもしれないの。そのときは他の猫達に伝えておくから遊んでくれると思うわよ」←あまりメンテの魔法で遊びたくないシロ先生
「じゃあ約束だよ」
◆
「おいお前ら。なに俺の縄張りに……」
バチゴオオオオォーーーーーーーーーーーーーーン!
「にゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ?!」
「……にゃ~」
「ん? どうしたのメンテ?」
「ちょっと耳元に虫がいたからびっくりしちゃった」
「あらそう」
僕は耳が良いので遠くの音まで聞こえちゃうんですよね。しっぽで振り払っておきました。
「こっちは何か建物が出来てるね。あそこもう誰か住んでるのかな?」
「多分そうだと思うわよ」
ここは訓練所を大きい道で挟んだ反対側。こっち側には建物が出来ていました。1本道の片側は訓練所、半分は今まで通り何らかの建物が出来るようです。宿とか住居とかね。イメージ図は下に。
| |店 宿
| | 宿
訓練所 |道|店 住居
| |店 住居
| |店 住居
「道沿いにはお店がいっぱいだね。奥の方に住宅街でもあるのかな?」
「ここは最近出来たのよ」
「そうみたいだね」
町の中心に近づいていくと人の気配がしてきました。
町の中心の方のお店は、小さなお店舗がいっぱい連なっています。いわゆる商店街をイメージしてください。なお町の中心から少し離れると1件まるごとお店といった大きな建物が増えてきますね。郊外に行くとでっかいショッピングモールとか店があるでしょ? あんな感じです。この異世界でも日本と似たようなことはあるのですねえ。
「ここって前はお店なかったよね? それにあそこ道あったっけ?」
「よく気づいたわね。大きな道は変わらないけど、小さな道は日々変化してるのよ。最近猫達はみんな探索してるわよ」
「へえ、面白そう。じゃあちょっとここを歩いてもいい?」
「いいわよ」
と新しく出来たお店エリアの横道や裏道を通り抜ける僕とシロ先生です。
「ん~。思ったよりも何も出来てないんだね」
「夜は人間もいないわね。おかげで歩きやすいの」
で、何かあるかなと思ったけど未完成の建物の方が多かったです。ただ散歩して見回っていたただけですね。
「……ん?」
「どうしたの?」
「いや、この建物何で出来てるのかなって」
今僕の目の前にある未完成の建物の話なのですが、近くに資材が置いてあります。木材とか鉄? みたいな金属がね。そこに目が行っちゃいました。何かおかしいんだよなあ。
「なんだこれ?」
こんなむき出しに資材置いたら錆びるんじゃね? と思って近づくと何かが見えました。ここに空気の膜? のようなものがあるのです。違和感があると思ったのはこれのことかもしれません。
「……えい!」
僕はしっぽを伸ばして軽く突きます。するとしっぽが押し返されました。柔らかい空気のような何かがここにあるようです。
……なるほど。そういうことか。この世界にブルーシートみたいな物がないなと思ったんですよ。これはその代わりになる魔法ってことなんだね! そりゃあどこに行ってもむき出しで資材が置いてあるわけですよ。何か変だなあと思ってました。これは魔法? それとも魔道具の力なのかな? まあどっちでもいいけどすごくない? 前世の世界とは違う進化をして来たんだって思えるもん。
おお、なんか急に異世界感を出してきましたね!
「ぐふふ……」ニヤニヤ
「どうしたの?」
「いやあ、この世界って面白いね」
「そう?(何か初めて見た物があったのかしら?)」
なんだか楽しくなってきましたねえ。もしかすると建物の方にも僕の知らない仕組みがあるのかもしれませんね。僕はしっぽを伸ばして少し強めに突いてみます。これぐらい大丈夫でしょう。
「え~い!」ドゴォオオオオオオオオン!
「にゃああああああ?! メンテ何してるの?!!!!!」
「……あれれ~?」
「あれれじゃないわよ?!」
普通に建物の壁を破壊してしまいました。しっぽサイズの丸~い穴が空いちゃったよ。なるほど、壁は普通なんだね。特別な魔法がかかってたりしないんだなあ。ここ数日雨降ってないし何も対策してなかったのかも。
「んわっ?! なんだ~?」
「誰か来たわよ?! メンテがあんな大きな音を出すからよ!」
「あ、猫結界使うの忘れてた。てへっ」
おっと。これは致命的なミスですね。興奮しすぎて周囲のことを見ていませんでした。今度から気を付けましょう。僕とシロ先生は物陰に隠れます。
「んお~? 誰もいないなあ。何か落ちたのか~? ひゃひゃひゃ~。おげえっぷ」
「……気付いたのは一人だけかな?」
「そうみたいね」
「なんかあの人酔っぱらってるね。剣持ってるし冒険者かな? ……猫みねうち!」
ドサッ
「ちょ?!!」
「いやあ丁度良かったよ。これで安心だ。猫結界!」
僕は猫結界を使います。これで新たに音は漏れないでしょう。次にこの酔っ払い冒険者をしっぽでグルグル巻きにします。そのまま僕は穴の空いた壁に近づいて行き、この穴に冒険者を壁に勢いよく突っ込ませます。頭からだと痛いのでお尻からね。僕優しいでしょ?
「証拠隠滅!」ドゴォオオオオオオオオーーーーーーーン!
「ごへっええ?!」←酔っ払い
「にゃあああ?!!!!」←シロ先生
冒険者は壁に突っ込んだら動かなくなりました。ぴったりと壁の間に挟まっていますね。白目を向いていますが息はあります。
よし、そのまま放置だ!
全ては僕に近づいた冒険者が悪いのです。文句はギルドに言ってください。冒険者がやらかせばギルドが悪い。つまり全てギルドのせいってことです。これで父とタクシーの教えを守れました。
「これで朝には酔っぱらったバカがやらかしたと思うよ。じゃあ今度はあっち行こー!」
「……やっぱりとんでもない子なのよ」




